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三つ子と大男2
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それに、よく見ればエイミより彼のほうがよっぽど弱っているようだ。
顔は青白いし、目の下には大きなくまができている。心なしか、頬もこけているような気がする。
「あの、もしかしたら具合が悪いんじゃないですか? 顔色が良くないですよ」
「いや、具合は悪くない。俺はすこぶる健康だ」
「そ、そうですか。なら、いいんですが」
そのとき、大男があくびをかみ殺したのをエイミは見逃さなかった。
「あっ!わかりました。夜泣きで寝不足なんですね? そういえば昨夜も泣き声が聞こえてましたし」
「いや、大丈夫だ。戦の最中など、何日も眠れないことなどよくあることで……」
「そういう非常時と一緒にしちゃダメですよ! 子供のいる生活は日常なんですから。はい、私が三人を見ておくので少し寝てください」
エイミは自分が抱っこしていたふたりをおろすと、とりあえずおもちゃを与えておく。そして、大男の抱っこしている子を奪うようにして抱き上げた。
すると、ちょうどその子が目を覚まし、エイミをじっと見つめた。
「か、可愛い! というか、よく見たらお顔がそっくり。三つ子ちゃんだったのねー」
三人は蜂蜜色の美しい巻き毛を持つ美形兄弟だった。
「いいなぁ。なんて、綺麗な髪!」
忌まわしい黒髪のエイミにとっては、美しい金髪は憧れそのものだ。
「というわけで、あちらのベッドで少し休んでくださいね。起こして欲しい時間があれば、言ってくださ……」
エイミは男を振り返ったが、彼はすでに柱に背中を預けて座りこんでいた。エイミが子供を預かったことで、気が抜けたのだろうか。
エイミは彼に近づき、傍らにしゃがみこむ。規則正しい寝息が聞こえてきた。
(あら、寝顔は意外と若々しい)
大男の寝顔は、なんだか、少し可愛らしかった。
「いくら私が腕力に自信があっても、あなたをベッドに運ぶのは無理ですよー」
エイミは小声で大男にささやいた。そして、ベッドから毛布を拝借してきて、彼にかけてやった。
「おつかれさまです」
エイミはにっこりと微笑んだ。
顔はものすごく、ものすごく怖いけど、こんなに疲れ果てるまで子供の相手をしてやったのだ。彼は優しい人間に違いない。
それに……エイミの黒髪を見て、眉をひそめなかった人は初めてじゃないだろうか。そんなささいなことが、エイミにはとても嬉しかった。
「さて、なにして遊ぼうか!」
エイミは今度は三つ子に向かって、笑いかける。こんなに小さな子を相手にするのは、久しぶりだ。楽しみなような怖いような……。
定番の『高い、高い』、部屋にあったなにやら高級そうなおもちゃ、そこらへんに転がっていた麻袋でネズミの人形を作ってやったり……全力で遊んで、遊びのネタが尽きる頃には三人ともずいぶんとエイミに慣れてくれた。
「キャーキャー」
「キャハハ」
明るい陽の差し込む部屋に、無邪気な子供の笑い声がいつまでも響いていた。
その光景は、かつてエイミが夢見ていたものだった。
(寝ている彼が私の夫で、この子達が私の子供だったらな)
「……なんてね」
エイミはほんの一瞬、そんな妄想をして、すぐに首を振った。
あたたかで幸せな家庭は、自分には手に入らないものなのだ。いつまでも追い求めていても、辛くなるばかりだ。
顔は青白いし、目の下には大きなくまができている。心なしか、頬もこけているような気がする。
「あの、もしかしたら具合が悪いんじゃないですか? 顔色が良くないですよ」
「いや、具合は悪くない。俺はすこぶる健康だ」
「そ、そうですか。なら、いいんですが」
そのとき、大男があくびをかみ殺したのをエイミは見逃さなかった。
「あっ!わかりました。夜泣きで寝不足なんですね? そういえば昨夜も泣き声が聞こえてましたし」
「いや、大丈夫だ。戦の最中など、何日も眠れないことなどよくあることで……」
「そういう非常時と一緒にしちゃダメですよ! 子供のいる生活は日常なんですから。はい、私が三人を見ておくので少し寝てください」
エイミは自分が抱っこしていたふたりをおろすと、とりあえずおもちゃを与えておく。そして、大男の抱っこしている子を奪うようにして抱き上げた。
すると、ちょうどその子が目を覚まし、エイミをじっと見つめた。
「か、可愛い! というか、よく見たらお顔がそっくり。三つ子ちゃんだったのねー」
三人は蜂蜜色の美しい巻き毛を持つ美形兄弟だった。
「いいなぁ。なんて、綺麗な髪!」
忌まわしい黒髪のエイミにとっては、美しい金髪は憧れそのものだ。
「というわけで、あちらのベッドで少し休んでくださいね。起こして欲しい時間があれば、言ってくださ……」
エイミは男を振り返ったが、彼はすでに柱に背中を預けて座りこんでいた。エイミが子供を預かったことで、気が抜けたのだろうか。
エイミは彼に近づき、傍らにしゃがみこむ。規則正しい寝息が聞こえてきた。
(あら、寝顔は意外と若々しい)
大男の寝顔は、なんだか、少し可愛らしかった。
「いくら私が腕力に自信があっても、あなたをベッドに運ぶのは無理ですよー」
エイミは小声で大男にささやいた。そして、ベッドから毛布を拝借してきて、彼にかけてやった。
「おつかれさまです」
エイミはにっこりと微笑んだ。
顔はものすごく、ものすごく怖いけど、こんなに疲れ果てるまで子供の相手をしてやったのだ。彼は優しい人間に違いない。
それに……エイミの黒髪を見て、眉をひそめなかった人は初めてじゃないだろうか。そんなささいなことが、エイミにはとても嬉しかった。
「さて、なにして遊ぼうか!」
エイミは今度は三つ子に向かって、笑いかける。こんなに小さな子を相手にするのは、久しぶりだ。楽しみなような怖いような……。
定番の『高い、高い』、部屋にあったなにやら高級そうなおもちゃ、そこらへんに転がっていた麻袋でネズミの人形を作ってやったり……全力で遊んで、遊びのネタが尽きる頃には三人ともずいぶんとエイミに慣れてくれた。
「キャーキャー」
「キャハハ」
明るい陽の差し込む部屋に、無邪気な子供の笑い声がいつまでも響いていた。
その光景は、かつてエイミが夢見ていたものだった。
(寝ている彼が私の夫で、この子達が私の子供だったらな)
「……なんてね」
エイミはほんの一瞬、そんな妄想をして、すぐに首を振った。
あたたかで幸せな家庭は、自分には手に入らないものなのだ。いつまでも追い求めていても、辛くなるばかりだ。
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