猫のアマテル 全十夜

當宮秀樹

文字の大きさ
8 / 11

第七夜「無法猫とユラユラ」

しおりを挟む
ヤング親方の悲惨な死のあと、港は静まりかえっていた。
次期、祝津の猫衆を治めるのはハマに決定した。 港には祝津の全猫が集合した。

ハマが「今日からわたしがニャン吉親方の後を引き継ぐことになった。 
いつ札幌の猫達が襲撃してくるかわからない。
だから周囲の異変には気を配ってください。 異変を感じた場合は自分だけで判断しないで、
必ず報告してください。 これからはカモメさんも協力して祝津を守っていきます。 
空からの目はとっても役に立つニャン。 そこでみんなにお願いがあります。 
みんなが食べる食事の中から新鮮な魚を少しでいいから、カモメさん達にも分けてほしいの。 
人間の手の届かない漁港の倉庫の上に置いてほしい……」

マユが「共存共栄ってやつね」

「そういうこと。 もう、二度とニャン吉親方のような目に遭うわせたくないの……一匹も」

こうしてハマが次期親方となった。


 アマテルはいつも岩の上から遠くを眺め、カモメたちと会話を楽しんでいた。 
ミミが岩の上にやってきた。

「アマテルはハマの言うことどう思うにゃ?」

「問題は襲撃を察知してからの対応ね」

「対応って……戦うか従うかってこと?」

「そう、阻止するということは戦うってこと。 共存を選択した場合、数の上で札幌猫が有利だから、
祝津は札幌猫が仕切ることになるよね」

「当然よね」

「戦った場合も向こうが絶対数多いから結果はしれてる」

「ニャ……また、アマテルが出て行って追い返すってなわけにいかないの?」

「無理ね、この前は不意だったから何とかなったけど、今度はそうはいかないよ」

「でも不思議なんだけど、なんでアマテルを見てみんな逃げてしまったの?」

「うん、あれは簡単、あの猫たちの今の自分の気持を見せてあげたの」

「どういうこと?」

「人間の使う鏡みたいなもの。 私を見た瞬間すごく怖い顔に写ったのよ。 
何故なら自分たちの負の心が、そのまま私の顔に反映されたからなの。 
つまり自分自身に怯えてしまったの……
逆に優しい目で私を見たらすごく優しい顔に見えるの。 
でも、今度は私の目を見ないでかかってくると思うよ、そしたら以前のようなわけにいかないの!」

「アマテルが何でそんなことできるの?」

「それは今度ゆっくり説明するニャ」

「今度はできないのかぁ……じゃあ私たちどうなるの?」

「わたしにもわからないニャ」

二匹は遠くに目をやった。


 そのころ札幌であの悪猫達の集会がなされていた。

ゲンが「前回はあのバケ猫が邪魔しに入った。 が、今度は問答無用一気にたたみかけるニャ。 
あいつの目は絶対に見るな。 悪魔が取り憑いてるかもしれニャイ。 いや、きっと取り憑いてる」

ゲンはなぜ仲間達や自分までが、一匹のメス猫ごときに尻込みしたのか理解できないでいた。 
未だ見たことのない恐ろしい形相の顔が目に浮かぶ。 まったく理解できない。 
不安をかき消すためにも、一気に押し込む方法を考えた。

その頃アマテルは無事に解決できる方法を岩の上で考えていた。

ミミが「ところではなし変わるけど、以前アマテルが留守していて祝津に戻った時のことなんだけどね」

「なに?」

「色内神社でユラユラがどうのって言ってなかった?」

「うん、覚えてるよ……うっ? ちょっと待って、そっか、そういう考えもあるか……ミミありがとう。 
いいヒントになった……わたしと付き合ってくれない! 面白いもの見せてあげる」

こうして二匹は色内神社に向かって歩き出した。 歩いている途中でユラユラのことや、
以前あったことを話して聞かせた。

「えっ、そんなことあったの? 全然覚えてないけどどうしてなの?」

「ミミの防衛本能が働いたのよ。 全然理解できないことが起きると頭がパニックになるの、
そして本能的に忘れ去ることを選んだのよ。 ミミは死は怖くない?」

「別に怖くないニャイけど」

「死は必ず来ること知ってるでしょ。 でも怖くないということは本能的に死を遠くに置いてるの。 
それが持って生まれた防衛本能なの。 だから怖くないの……解る? 
でも、ニャン吉親方が殺されたとき死に対してどう考えた?」

「怖かった」

「それは、死が近くに感じたからなの」

ミミは首を傾げながら「その防衛本能ってなに?」

「生きる力。 生命力と関係してるの」

「ふ~~ん、生命力か? わからないニャイ。 アマテルなんだかお母さんの死後変わったよね……」

「うん、大きく変わったよ、大きく……」

ミミはアマテルのことが遠い存在に感じた。 二匹は色内神社の鳥居の前に立った。

ミミが「なんか不思議と懐かしくかんじる……この感覚
なんだろう?」

アマテルは黙って微笑んだ。

ミミが「鳥居と札幌の襲撃となんか関係あるの?」

「うん、札幌の連中が小樽に攻め入ってきたら、事前にカモメさんから連絡が入るようになってるの。 
そしたら祝津の全猫がこの鳥居から避難できないかなって思ったの。 
カモメから連絡受けて半日の時間的猶予があれば、必ず避難できるの。 あとは潮の満ち引き次第」

「それって逃げるっていう意味?」

「そう、多勢に無勢で傷つくより避難した方がよくない?」

「なんでシッポ巻いて逃げるのよ」

「勝ち目がない戦をする気なの? 相手は無法者。 手段を選ばないの。 
それよりも一回避難して時間をかけてよい方法を練り直す。 それから戦っても遅くはない。 
本当は血は流したくない」

「アマテルの考えはわかった。 でもなんで鳥居に来たの?」

「むこうの世界を一度見せておかないと、かってに私たちが集団で乗り込んだら、
今度は向こうの猫集がパニックおこしちゃう」

二匹はユラユラから入ってむこうの世界の猫たちの了承を取ることに成功した。 
但し、滞在期間を三ヶ月にするという条件付だった。 
こうして、祝津に戻りハマと他の猫たちに報告した。

ジン平が「それって逃げるって事だろ……百年以上続く祝津猫のプライドが傷つくことになるミャ」

ミミが「絶対勝ち目がないのに戦うんですか? 雄猫が全滅したら祝津猫の血が途絶えてしまうかもしれません」

「だから、その思考が祝津猫が負けることを前提に考えてるんだ……!ミャ」

ミミは「だったら、他の方法を教えて下さい。 ハマ大将はどう思いますか?」

「う~ん、今の段階では多勢に無勢。 他に攻略を考えてる暇はないニャ。 
ここはミミとアマテルの案に同意した方が良さそうだニャン。 
向こうにいる間に体制を整えて期を待つ。 ここで祝津猫の血を絶やすわけにいかニャイな」

こうしてカモメに見張りをたのみ、まんじりとしない日を過ごすことになった。


 カモメが「お~い、アマテルさん札幌から三十匹近くの猫が小樽に入ったよ。 
あの早さだと一時間でここに着く」

「カモメさんありがとう。 必ず祝津に戻ってくるからね。
素性の悪い猫達に気をつけてくださいニャ」

こうして祝津の猫は別世界に避難することになった。 札幌猫は一時間後祝津に入った。

ヨモ猫のジョーが「ゲン大将、猫一匹おりません」

「きっと我々がくることを察知して、どこかに潜んでるかもしれんから油断するな。 
ここに五匹残って他の猫は徹底的に祝津のまわりを探せ。 見つけたらここに連れてこいニャ。
抵抗する猫はその場で噛み殺せ。 ここは今から我々のもの」

 その頃、祝津の猫達はユラユラを待って鳥居の前に待機していた。

潮が満ちてきた頃ユラユラが出現した。

アマテルが「みんな、このユラユラから入るのよ。 ミミの後について入って下さい。 
私は最後に入ります急いで下さい……」

ミミに従って順々に入った。 最後にアマテルが入ろうとした刹那。 
アマテルのシッポを噛んで、入る事を阻止する何者かがいた。 
アマテルが振り返るとそこにいたのは札幌猫のジョー。 すぐ数匹の札幌猫も現れた。

「お前、あんときの猫だな。 この前は世話になったな……
たっぷり仕返しさせてもらうニャ」

こうしてアマテルだけが取り残されてしまった。

「ゲン大将、一匹見つけました 。例の変な猫です」

「チッ、あれか! 一匹だけか? 他の猫はどうした?」

「それが……幽霊みたいに消えました?」

「消えた?幽霊?馬鹿かお前は、ジョーを呼べジョーを」

「もうすぐその猫を連れて戻ります」

そこにアマテルを連れてジョーが戻ってきた。

「ゲン大将ただいま帰りました」

アマテルに向かって「おう!お前か……」ゲンは目を合わせずに言った。

「私はアマテル。なぜこんなまねをする!」

「無用な問答はしニャい。俺たちはここに住むそれだけだ」

「ここは我々祝津猫が昔から住みついている場所。 住みたいのならそれなりの挨拶というものがある。 
あなた達のやってることは強奪よ!」

「何とでも言え。 今日からここは俺たちのもの」

「なぜ札幌を追われたかわかるの」

アマテルの言葉に取り囲んだ猫たちは、お互いの顔を見合わせた。

一匹のヨモ猫が、隣のネコに小さい声で「あの猫、どうして我々が札幌を追われたことわかるの? 
だれか言ったのかな……?」

側にいた猫が「しっ、聞こえるから黙ってなさい」

アマテルが「言ってあげましょうか」

「うるさい、お前には関係ない黙れ、黙れ」

「あなた達は最低の礼儀を知らないから、札幌の猫仲間から
厄介猫扱いされたの。 地方への制圧でもなんでもないの。そのことを知らない猫への体裁を考えたのよ。
そして追われた者同士が群れをなして、札幌から離れた場所に住もうということになった。 
それだけのこと。 あなたの統率力でここまで来たわけじゃない……
だからあなたはいつ自分が襲われるか解らない……心配で。 
しまいには一匹で安心して寝ることもできないの。 まだ言ってほしいの?」

ゲンはシッポの毛がだんだん逆立ってきた「うるせえ! おい誰かこのメス猫を噛み殺せ。 ジョーお前やれ」

ジョーは下を向いたまま動かない。

からだじゅう傷だらけのヨモ猫タマが「なら、ゲンさんあんたがやれば……」ゲンの力量を試すか、逆らってるような口調だった。

その言葉にいらついたゲンは威圧的に「タマ、今、何って言ったおい」

「もう一回聞きたい? 自分でやればって言ったんだ。 今度は聞こえたか? 
えっゲンさんよっ」完全に挑戦的だった。

「まあ、お前のことは後で話しつける。 ジョーはどうなんだ?」

「ゲンさんこの猫なんか、不気味なんですけど……」

前回祝津でアマテルを取り囲んだ数匹の猫は皆頷いた。

「なんだ、なんだ、お前らは、じゃあ俺がはなし……」

言い終わらぬうちにアマテルに飛びかかった。

その瞬間アマテルは姿を消していた。 そして音もなくゲンの後方に立っていた。 
まわりは、目の前でなにがおきてるのか見当がつかない。 
ただ瞬間的にアマテルがゲンの攻撃をすり抜け後ろに回っていたということだけは理解できた。

ハッキリ言って目で追うことができなかった。 後ろに回ったアマテルがゲンの耳に囁いた。

「あなたが私と戦うのは無理です。 勝ち目ありません。
これ以上争いは辞めましょう……」

ゲンはもう引けなくなっていた。 それを判断したアマテルは、次の矛先をもう一匹のメメに向けた。 
瞬間メメの後ろに回り込んだ。

メメがとっさに身を伏せ、アマテルの足に牙を向けた。 アマテルは間一髪でかわし、
また後ろにまわった。 そしてメメの首の付け根にアマテルが牙をかけた。

「これ以上やると食いちぎるわよ、どうする……」

すべてが一瞬の出来事だった。

三匹の猫が三つ巴になった。 不思議な静寂の中アマテルが「わたし争いは嫌い! 
あなた達がやるというなら相手になるけど。 もう解ったでしょ。 
あなた達は一度死んだのよ。私が手加減してあげたの……今のあなた達に私は倒せない」

メメが先にシッポを下げ。 そして、ゲンがシッポを下げ爪を引っ込めた。

「解っていただいたようね……さあ、どうします? 祝津猫の仲間に入るか。 
このまま札幌に退散する? 仲間になる場合はハチというボス猫の下になることが絶対条件」

ゲンのもくろみがすべて音を立てて崩れ落ちた。

「みんなと相談させてくれ……」

ゲンがみんなのもとに歩み寄り事情を説明した。 一部始終を見ていた仲間の猫は、
アマテルの迫力に圧倒され、そして従うことを全員一致で決定した。

「それで決まりね。じゃ私が祝津のみんなを呼んでくるからその辺で待ってて。 
潮の変わり目には戻るから」

ハチと仲間達に事情を説明してみんなの意見を仰いだ。

ハチが「アマテルに任せようと思う 。我々も祝津を離れるのは辛いし、戦うこともしたくない。 
双方が歩み寄って暮らすのが最善だと思う……」

意見はまとまった。 双方が歩み寄り、ひと月が経ち祝津漁港の猫たちは、前以上に活気づいた。 
猫が急に増えたため人間はたくさんの雑魚を与えてくれた。 餌の奪い合いは一度もなく。 
札幌猫も古くからここに住んでいた仲間ように無理なく溶け込んでいた。 
その光景を見ながらアマテルは祝津を離れる決意をした。

アマテルが「ミミ、わたし旅に出る」

「なんで?」

「何かが待ってるような気がするの。 今の段階では解らないけど、何かが私を待ってる気がする。 
みんなには黙って行くけどごめんね。 ミミも元気で……」

「アマテル、ありがとう。いつでも戻ってきてね。 あんたはここが故郷なんだから。 
祝津猫なんだから……」

ミミは胸が熱くなり、それ以上言葉が出てこなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...