SANGA(神々の戦い)

當宮秀樹

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13山 河

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13山 河

 摩耶の一件が過ぎ、別人のようになった久慈は今までとは180度方向性が変わり、
日本の主要経済はもとより各界にその影響が出始めた。 

今の久慈は虚を廃し実を取ると言わんばかりに、見せかけの強者の政治や経済などは攻撃し、
庶民の目線での行動を取るようになった。 

その分、久慈への風当たりも強くなってくるのも世の常。

ある時、闇の指導者マーラとアンラが来日した。

マーラが「ミスター久慈、あなたは今更なにをなさろうとしてます? 築き上げてきた我らが地位を
根底から覆す行動はどうしたものですか?」 

「ミスター・マーラ、私は目覚めたんだ。この世に生誕してきた目的を。しかも若干20代の娘に
教えられた。 お二人さん・・・この久慈を青臭いと笑ってやって下され。
人間はどんなにつくろっても限度がある。

メッキはメッキでしかない、いつかは必ず剥げるもんです。それを認めるのが怖いから権力をかざし、
時には恫喝して自分を強くみせる。もうそんな世の中長くは続きません。

メッキはメッキです、無垢にはどうあがいてもなれない。 この年になって気が付きましわい・・・
これからは世の為になることを少し考え実行します・・・」 

マーラとアンラはお互い目配せをし黙って退席した。 

帰りの車で2人は「ミスター久慈も終わりましたね・・・」そう言い残し日本を後にした。 

久慈は日本とアジアで力のある影の実力者達に招集をかけた。 
東京の某ホテルで78名の人間が出席し集会は行われた。 

 「今日はお忙しい中集まっていただき、ありがとうございます。 
皆さんの耳にはいるのは時間の問題だと思いますので、真実が歪曲しないように私の口から
今までの経緯を述べさせて頂きます。 

この久慈健栄はアメリカのマーラと英国のアンラと決別いたしました。
理由はこの久慈が組織エレボスの脱退を申し出たのが理由・・・」

会場はどよめいた。 

「まあ、最後までお聞き下さい。私はこの年になるまでやりたい放題のことをやってきた。
がここに来て私は生き方を変えようと思い立った。

たぶん私の命は狙われる事にになるが、命ある限り社会への償いをしたいと考えております。

私は、しかめっ面で生きるより、笑顔で生きることを選んだのです。
たとえそれが短命に繋がっても私は後悔ありません。 

すぐに私の後継者は決まるでしょうが、これだけは解ってやって下さい。
 
世の中のあり方は既に変わってきている、これからは力でどうにもならない事が多くなる。
改心は早いに越したことはない。 それが久慈の言葉です。ありがとうございました・・・・」

久慈は頭を深々と下げた。

会場から野次が「爺さん勝手なもんだな、散々好きかってしやがって、何人の人間が泣いたと思うんだ。
最後はみなさんさよならかよ!」

「爺さん、あんたのおかげで今まで泣いてきた人間にどう詫びるんだい?スイマセンのひと言かい・・・
勝手だのう」 

久慈は罵声の飛び交う中会場を後にした。 

期を同じくして、アメリカのマーラから武闘派組織に指示が出された。 

「日本の久慈健栄を抹殺せよ!」

引退宣言の後、久慈は原宿の摩耶を訪ねていた。 退院後初めての再会であった。 

「摩耶ちゃん元気かね?」 

「久慈さんお久しぶりです」 

「今日は摩耶ちゃんと話しがしたくて、押しかけてきてしまったよ。
迷惑でなかったら食事でもつき合ってくれないかな?」

「あっ、はい!わかりました、あと5分待って下さいね。
ひとつ仕上げたら行きますね・・・」 

2人はレストランにいた。 

久慈が「摩耶ちゃん、その後身体の具合はどうですか?」 

「はい、天候が崩れたり雨の日は頭痛がしますけど、それ以外は身体の痺れも無くなりました・・・
快調です」 

「それは良かった、何かあったら相談して下さい。いい医者ならいくらでも紹介します・・・」 

「ありがとうございます。それと、もうそんなに気を遣わないで下さいね・・・
久慈さんのせいではありませんから」

久慈は久々に摩耶の笑顔に触れ穏やかな心を取り戻した。 

食後のコーヒーを飲みながら久慈が呟いた。

「私も引退を申し出てきましたよ。長年にわたり私のワンマンで運営し、まとめてきた組織でして、
辞めるときは散々罵倒されました。 当然と言えば当然なんだけどね。たぶん、その組織は黙って私を
辞めさせないでしょう。私は奴らの弱点を知りすぎてるしね」 

久慈の表情が濁った。 

「たぶん、こうして摩耶さんと食事をするのも最後かも知れない。
本当にありがとう・・・久慈も最後は人間に戻って死ねるよ・・・」 

「久慈さん、そんな寂しい話ししないで下さい。
これからこの国を変えて下さい」
 
久慈は黙って微笑んでいた。 

「ところで、今日はSANGAの皆さんへ私からのプレゼントを
持ってきたんだ。どうか受け取ってやってほしい」 

久慈はカバンから封筒を取り出した。 封筒の宛名はSANGA様と書かれていた。 

「・・・何ですかこれは?」 

「まあ、黙って開けて下さい」封筒の中身は小切手だった。 

額面は一億となっていた。 

「久慈さんこんなの受け取れませんよ」 

「摩耶さん、黙って久慈の話を聞いてくだい。これは汚い金でも何でもない・・・
私の持ってる多くの壺や絵画を売却したもの、これでSANGAの運営に使って欲しい。
そして人材を育成して欲しいのです。
SANGAはもう今までのように影で燻ってないで大きく羽ばたいてほしい。 

先日、代表のフウキさんと病院でお会いしましたが、あの方は悟りを開いた立派なお方だ・・・
SANGAの意識をもっと多く人に伝えて世の中を変えてほしい。
 
それには必ず事務局となる拠点が必要です。個人の駆け込み寺にもなるでしょう。そ
の為に使ってほしいのじゃ・・・」 

「でも私のいちぞんでは受け取れませんすみませんが・・・」

久慈の表情は真剣だった。 

「摩耶さん私には時間がないんです。さっき話したように抹殺指示が下れば、一週間以内
いや今日・明日にも実行されます。 
やり方は色々あるけれど自殺死、もしくは脳梗塞や心筋梗塞など死又は再起不能になるくらいの
致命的な障害が残るような方法を使います」 

「脳梗塞?」 

「そうです、仕掛け人が手のひらに隠し持っていてターゲットと握手など接触した時に、
その小さい針でちくりとやるんです。

瞬間薬が注入され、3日ぐらいすると脳に血栓がつまり重い脳梗塞になり事実上の人生は終わります。
病気ですから誰も不信感を持ちません。

このような事例は過去にも沢山あります。私は組織を抜けた人間・・・普通に人生を終われないんですよ。
 
それと、これは私から摩耶さんにこの度のお詫びと今後の活動に期待を込めて久慈の気持ちです・・・
解ってやってください」 

もうひとつの封筒を渡した。摩耶様と書いていた。 

「なんですか?」封筒の中身は三千万円の小切手だった。 

「久慈さん私本当に困ります」

摩耶は、これを受け取ると久慈がこの世から本当に消え去るような気がして受け取れなかった。

摩耶は涙が出て来た。心の中でフウキさん・・・サンガのトール様!・・・摩耶の心は泣いていた。

「摩耶さん、私はこの世で長年生きてきて泣かせた人の数は数え切れない、せめて最後は人の役に
立つ事をしたいと願っているが今云った事情で、もう私には時間がない。
だからバトンをあなたやSANGAに託したいのじゃ。

最期ぐらい活きた金を使わせて下さい。久慈健栄最後のお願いです。私の代わりに何とか世のために
活かして下され。 明日、朝一番で銀行から引き出して下さい。 

もう時間がない。これは私名義の口座でないけれど調べが進むと奴らはどんな手を使ってでも
口座を凍結させようとする・・・だから早いほういい・・・」

そう言い終えると久慈はレストランを出た。 

最後に摩耶に手を振ったのが摩耶が見た久慈の最後の姿だった。

摩耶はシバとフウキに相談し、翌朝一番でシバとアグニの3人が銀行から現金を引き出した。 

その数日後、久慈のいうように久慈名義の口座は国税局の指示で凍結された。久慈が脳梗塞で
倒れたのがその直後。 危篤の情報が流れ間もなく死の知らせが報道された。


 SANGAでは久慈の遺言どおりされ、EIKEN基金として処理されSANGAの運営に使われた。

EIKENとはKENEI 健栄 のフォログラム。

東京の渋谷にSANGAの拠点を移し、フウキも札幌の自宅と東京を行き来した。

摩耶は久慈の心を変える切っ掛けとなった詩をSANGA事務所の上座に飾ってもらうことにした。

野を駆けし我が山河
   今も青き我が心の山河
     京の都、比叡の山並み 
                EIKEN

と書かれた大きな書が飾られた。 

毎月8日を「SANGAの日」と定め、その日は一日中瞑想と一般の無料解放相談の日と定めた。
 
本当の意味は出資者、久慈健栄の亡くなった日が8日であった。 それを知るのはSANGAの7人。
全員胸の奥に封印した。

久慈の死後SANGAへの抵抗勢力は消え失せたがエレボスは声を潜めただけで消滅したわけではなかった。 

SANGAの事務所に出入りする人間も増え摩耶が常勤するようになった。
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