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1「私はマリだけどなにか?」
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1「私はマリだけどなにか?」
ここは北海道小樽市。港が一望出来る閑静な住宅地。
市内の高校に通う女子生徒がいた。名は山田マリ十七歳。
マリには変わった性格とそれを助長する才能がある。
書道部の顧問はマリに対し、うまく理屈で説明できない何かを感じていた。
マリが廊下を歩いていると後ろから男性の声が「マリ、おはよう」担任兼書道部顧問の
花岡仁太三十一歳独身である。
マリは学生カバンを回しながら「先生おはようございます。ちゃんと朝飯食ったか?」
「お前ねぇ!先生はこう見えてもお前より年上。しかも担任の先生。
俺の言っている意味が解る?」
「だからどうしたの? 鼻をかじった先生」
「あのさっ、俺の名前を途中で切らないでくれるかな~なんか変に聞こえるんだけど」
「先生の気のせいだな・・・で、なに?」
「おう、そうだそうだ!今年入部した一年生の世話役を頼まれてくんない?」
「おい、ジッタ。人にものを頼むのにその『くんない・・・』
ってある?どんな教育受けたんだ?ったく」
「あっ!そうだな・・・先生が悪かった。忘れてくれ」
「一度男が発した言葉をそう簡単に撤回すんな」
「ご、ごめんなさい」
「わかればいい。で、なんで私なのさ?」
「お前三年生だろ?だからだよ。あたりまえだろ」
「ジッタ・・・去年の事もう忘れたの?私が指導したせいで三人も
退部したじゃない。まだ懲りないわけ?」
「あれはお前が歪な教え方をしたから一年生が勘違いして戸惑ったんだ」
「何が?」
「だって、お前ねぇ書道習いに来た一年生になんでピアノのレッスンするの?それと、あの山口早苗にお前の家の屋根のペンキ塗らせただろ?」
「だってあれはさ、強制じゃないって言ったもん。断ってもいんだよって」
「確かに言った。でもその後でなんつったか覚えているのか?」
「なんも言ってませんけど~~」
「あれ?その山口はお前が『私も一年の時は塗らされたの。まっ!書道部の伝統のようなもの…アハハ』って言ってたぞ。
この書道部のどこにそんな伝統があるんだ? お前、いったいどの先輩の家の屋根を塗らされたんだ? 名前を言ってみろ」
「先生、あのさっ!男が小さい事でがたがた言わないの…たく・・・わかった?」
「うん、分かった・・・うん??? なんで? 先生の立場がなんでマリより下な訳?」
「いいよわかったよ。了解。今年の一年生は、わたしが引き受けました。
それでいんでしょ・・・はい、お終い」
そして書道部に新入生の女子三人、男子一人が入部した。
マリが挨拶した。
「入学おめでとうございます。わたしは山田マリです。 一年間の短い付き合いになりますが宜しくお願いします。 分からないことがあったら聞いて下さい。 書道は習字と違って形にこだわりません。
味で勝負!リズムとフィーリングを大切に。 正解はありませんから感性で書いて下さい。 こう言うと怒られますが、顧問の鼻をかじった先生も字は下手くそです。 味専門です。 本人は宇宙からのバイオリズムがどうのこうのと言ってますがあの顔で宇宙は似合いません。 君たち一年生でも顔を見れば解ります。 宇宙というよりも水槽の中のクリオネが昼寝してる感じ。ではお楽しみに。 以上」
「山田先輩、ひとつ質問いいですか?」
「はい、どうぞ」
「この書道部は過去になにか賞を頂いた事があるんですか?」
「賞? …なんで?」
「全国競書大会とか大書道展とかに出品されないのですか?」
「あんた名前は?」
「泉谷です」
「そう、あんたはなんで書道部に入ったの?」
「書が好きで書を書きたいからです」
「うん、私も書が書きたいからここにいるの。別に全国競書大会とか興味ないの。私は大会に出品して賞を貰うために書いてないし、興味もありません。そういう大会に出たい人は勝手に出品して下さい。否定はしません。そういう形式にこだわる人は、こことは別に習字部でも作ると良いかもね。ここは書を競うのでなく書を楽しむところなの。他に質問は?」
「蘭島からきた蛯子です。マリ先輩の作品はどれですか?山田マリさんの名前が見あたらないのですが?」
蛯子は壁に貼っている数点の書を指して言った。
マリはブツブツ言いながら作品を机の中から取り出し「これが私の作品。どう?」
蛯子がジッと見て口を開いた「?私、これ分りません。これがそのリズムっていう作品ですよね?」
「お前ねっ!生意気言ったらぶっ飛ばすよ!」
「あっ、いや、すいません!つい・・・」
「ついなにさ? 続き言ってみな・・・」
蛯子は翌日から部に来なくなった。
数日後、花岡が「マリ、今朝方、蛯子っていう一年生が退部届け持ってきたけどなんか聞いてる?」
「私、なんにも聞いてません・・・」
「そうか、わかった・・・」
花岡は内心思った。「これって、退部一人目かな?」昨年のことが頭を過ぎった。
ここは書道部。
「今日はテーマがあるの。各々自由な発想で丸を書いて下さい」
「??丸ですか?」
「そう、丸よ丸」
「丸になんの意味があるんですか?」
「宇宙よ。各々の宇宙を書くの。よく禅宗のお坊さんが書いてるでしょ。お寺なんかの掛け軸にもあるやつ。あれよあれ・・・」
一年から三年までの部員十名が丸を描き始めた。
一年生の書を並べてマリが「見てごらん。単純な形だけど三人とも違うでしょ?丸には自分の内面が現われるのよ。こぢんまりした可愛い丸。こっちは大胆不敵な我が道を行くっていう丸。これは均整の取れたはみ出しのない几帳面な丸。 個々の性格が出るのよ。ねっ、面白いでしょ?たった丸ひとつが沢山のことを表現する。それが書の味なのよ」
「ところでマリ先輩のはどんな丸ですか?」
「私の見る?」
「はい!」一年生全員が返事をした。
「ほれ、これが私の」
「ぷっ!」全員が吹き出した。
半紙いっぱいに書いた丸は完全にはみ出していた。
「マリさん、 これはどう理解したらいんですか?」
「そうね、自分で言うのもなんだけど。協調性がない、融通が利かない、自分勝手ってとこかな?オイ馬鹿野郎!な訳あるか!大胆で壮大な宇宙だろ!」
全員笑いころげた。
「なによ!なんで笑うの?どこが、どこが可笑しいのよ?」
「マリ、自分でなに言ってるか分かってるの?」同級生の美智子だった。
「な~にが?なんで?」
「諸君、これが悪い見本だからね」
「は~い」全員、声を揃えた。
マリは思った「いつか必ず、こいつら力一杯しごいてやる!」
顧問の花岡先生が「みんないいか、そろそろ全国競書大会に出品する作品を何にするか考えておくように」
「花岡先生、ちょっとよろしいですか?」
「おう、 泉谷どうした?」
「全国競書大会の件なんですけど。入部した時にマリ先輩が『この書道部は書を楽しむところ。書を争うところではない。そういう大会は出ないから、出たい人は自分で申込みなっ!』って言ってたんですけど?」
「あいつ、今年もそんな事、一年生に言ったのか・・・まったく。それは、あいつが勝手に言ってる事なんだ、ライバルを減らす為に」
「ライバルを減らす為・・・えっ!そうなんですか?」
泉谷が作品を書いてるところにマリが入ってきた。
「泉谷、なにやってるの?」
「競書大会に出展する作品を考えてます」
「あっ、そっ。聞いた?」
「聞きました。マリ先輩ずるいです。私達一年生には大会は出ない。出たい人は勝手に出ればって。おまけに、ここは書を楽しむところって言ってましたよね?」
「いつ、だ~れが、そんなこと言ったのさ?」
泉谷は次の言葉を失った。この先輩は私の尊敬できない人間リストに加えておこうと思った。
「一年生聞いてくれる?そう言うことで今年から競書大会にうちの部も出品することになりました。自分の納得いく作品を書いてね。善し悪しは自分で決めないで、鼻をかじった先生か三年生に聞くように、分かった?」
「は~~ぃ」一年生は渋々返事をした。
下校途中マリはひとりで運河倉庫の陰を歩いていた。
後ろから女の声がした「おい、姉ちゃんチョット待てや」
マリが振り向いた「ん、なにか?」
同じ小樽市内の、もうひとつの高校の制服が目に入った。みるからにヤンキー風の3人組。
「あんた、チョット顔かせや」
「あんた誰?」
「関係ねぇ。ツラかしな」
「あいよ・・・」
3人は石造り倉庫と倉庫の陰にマリを連れ込んだ。
「何か私に用?」
マリが言い終わらないうちにひとりの女が、いきなりマリの足を蹴ってきた。その蹴りはマリの太ももにヒットした。
「痛えな!何すんだこら!」
「チョット金貸してくんねぇかな?」
「なんでだよ?」
「なんで?なこと関係ねえ、また痛い目にあいたいのか?」
「お前ら、私が誰かわかってやってんのか?」
「青葉高の山田だろ?」
「おう、私の事知っててやってんだ・・・ということは誰かに頼まれたね!」
髪を赤く染めた体格のいい女が「そんなの関係ねぇ」
「そんなの関係ねえてか?お前は小島よしおか?オッパピーてか?超古いんだけど、笑える」
女は、マリの顔面めがけて殴りかかってきた。瞬間、マリは左手でそれを払い、右手で女の腹へ拳で突きを入れた。女はそのまま唸り声を出してうずくまった。
「う~~~っ」
「さぁ次はだれだ?かかってこいや!」拳法の構えをした。
マリは中国拳法黒帯で全国大会入賞の腕前。
「顔面は勘弁してやるから好きなだけかかってきな。ちっ、面倒だ。どうせなら3人いっぺんにきな!その倒れてる奴は無理なようだけど」
残り2人もマリの勢いに腰が退けていた。
もうひとりの女が「あんた、なんかやってるの?」
「んなもん関係あるかい? さぁきな! 金が必要なんだろ?さぁ、かかってきな!私を倒してから金、持っていきな、
さっ来い!」
「もういい、帰んな。今日は許してやる」赤い髪の女が言った。
「はぁ?許してやるってか? おまえバッカじゃねえの?許して要らねえよ。とっととかかってきな!」
2人はもうひとりを抱えて過ぎ去ろうとした。
「おい待ちな!帰る前に誰に頼まれたか言ってみな」
「あんたんのとこの1年っぺで蛯子って知ってるかい?」
「蛯子?ああ何となく知ってるけど」
「その姉がうちの高校の3年なんだ。 そいつから話聞いて、それじゃあ私らがとっちめてやろうかっていうわけ。 頼まれた訳じゃないからね。姉やその妹には関係ねえから・・・」
マリは「分かったよ、じゃぁな」
3人は、うな垂れて歩き出した。
その時後ろからマリが「チョット待った。帰る前に私に金貸してくんない?」
小太り気味の女が「ちっ、いくらさ?」
「嘘だよ。あんた達そのままだと道歩いていてもしょぼくれてて格好つかないよ。私とそこの喫茶店でコーヒーでも飲まない?少し休んでいこうよ、どう?」
思わぬ言葉に3人は戸惑った。
「嫌かい?嫌ならいいけど」
4人は喫茶店に入った。
「そっちのあんた、腹は大丈夫かい?」
「えぇ?」瞬間その思わぬ気遣いにマリの優しさに触れたような気がした。
「あんた達、いつもあんな真似してるのかい?」
赤毛が「してねぇ~よ」
「そっかい。わたしを路地の陰に引き込む手順は馴れてたけどね」
3人は罰悪そうにマリから顔を背けた。
「その顔はやってるね。もうよしな、格好悪いじゃん、そんな事。今度私が見かけたら完璧に締め上げるから、分かった?」
「・・・・・」
「返事は?」
「はい・・・」三人は小声で言った。
威厳のある口調で「声が小さい!聞こえない!」
「はい!」
「しっかり聞いたからね、忘れるなよ」
マリが「チョット、トイレ行ってくる」と席を立った。
その間3人は小声で話し始めた。
マリが戻ってきた。
「あ~~スッキリした。出すもん出さねえと落ち着かないね」
赤毛の女が切り出した。
「マリさん、今、話し合ったんだけど、あたい達を弟子にしてくんない?」
「なんの?」
「マリさんの」
「なんで?」
「格好いいから」
「弟子ってことは何かを学びたいんだろ?だから何を?」
「なんでも」
「あのさっ、書道でも教える?」
3人はこけた。
こうしてマリの高校3年がはじまった。
END
ここは北海道小樽市。港が一望出来る閑静な住宅地。
市内の高校に通う女子生徒がいた。名は山田マリ十七歳。
マリには変わった性格とそれを助長する才能がある。
書道部の顧問はマリに対し、うまく理屈で説明できない何かを感じていた。
マリが廊下を歩いていると後ろから男性の声が「マリ、おはよう」担任兼書道部顧問の
花岡仁太三十一歳独身である。
マリは学生カバンを回しながら「先生おはようございます。ちゃんと朝飯食ったか?」
「お前ねぇ!先生はこう見えてもお前より年上。しかも担任の先生。
俺の言っている意味が解る?」
「だからどうしたの? 鼻をかじった先生」
「あのさっ、俺の名前を途中で切らないでくれるかな~なんか変に聞こえるんだけど」
「先生の気のせいだな・・・で、なに?」
「おう、そうだそうだ!今年入部した一年生の世話役を頼まれてくんない?」
「おい、ジッタ。人にものを頼むのにその『くんない・・・』
ってある?どんな教育受けたんだ?ったく」
「あっ!そうだな・・・先生が悪かった。忘れてくれ」
「一度男が発した言葉をそう簡単に撤回すんな」
「ご、ごめんなさい」
「わかればいい。で、なんで私なのさ?」
「お前三年生だろ?だからだよ。あたりまえだろ」
「ジッタ・・・去年の事もう忘れたの?私が指導したせいで三人も
退部したじゃない。まだ懲りないわけ?」
「あれはお前が歪な教え方をしたから一年生が勘違いして戸惑ったんだ」
「何が?」
「だって、お前ねぇ書道習いに来た一年生になんでピアノのレッスンするの?それと、あの山口早苗にお前の家の屋根のペンキ塗らせただろ?」
「だってあれはさ、強制じゃないって言ったもん。断ってもいんだよって」
「確かに言った。でもその後でなんつったか覚えているのか?」
「なんも言ってませんけど~~」
「あれ?その山口はお前が『私も一年の時は塗らされたの。まっ!書道部の伝統のようなもの…アハハ』って言ってたぞ。
この書道部のどこにそんな伝統があるんだ? お前、いったいどの先輩の家の屋根を塗らされたんだ? 名前を言ってみろ」
「先生、あのさっ!男が小さい事でがたがた言わないの…たく・・・わかった?」
「うん、分かった・・・うん??? なんで? 先生の立場がなんでマリより下な訳?」
「いいよわかったよ。了解。今年の一年生は、わたしが引き受けました。
それでいんでしょ・・・はい、お終い」
そして書道部に新入生の女子三人、男子一人が入部した。
マリが挨拶した。
「入学おめでとうございます。わたしは山田マリです。 一年間の短い付き合いになりますが宜しくお願いします。 分からないことがあったら聞いて下さい。 書道は習字と違って形にこだわりません。
味で勝負!リズムとフィーリングを大切に。 正解はありませんから感性で書いて下さい。 こう言うと怒られますが、顧問の鼻をかじった先生も字は下手くそです。 味専門です。 本人は宇宙からのバイオリズムがどうのこうのと言ってますがあの顔で宇宙は似合いません。 君たち一年生でも顔を見れば解ります。 宇宙というよりも水槽の中のクリオネが昼寝してる感じ。ではお楽しみに。 以上」
「山田先輩、ひとつ質問いいですか?」
「はい、どうぞ」
「この書道部は過去になにか賞を頂いた事があるんですか?」
「賞? …なんで?」
「全国競書大会とか大書道展とかに出品されないのですか?」
「あんた名前は?」
「泉谷です」
「そう、あんたはなんで書道部に入ったの?」
「書が好きで書を書きたいからです」
「うん、私も書が書きたいからここにいるの。別に全国競書大会とか興味ないの。私は大会に出品して賞を貰うために書いてないし、興味もありません。そういう大会に出たい人は勝手に出品して下さい。否定はしません。そういう形式にこだわる人は、こことは別に習字部でも作ると良いかもね。ここは書を競うのでなく書を楽しむところなの。他に質問は?」
「蘭島からきた蛯子です。マリ先輩の作品はどれですか?山田マリさんの名前が見あたらないのですが?」
蛯子は壁に貼っている数点の書を指して言った。
マリはブツブツ言いながら作品を机の中から取り出し「これが私の作品。どう?」
蛯子がジッと見て口を開いた「?私、これ分りません。これがそのリズムっていう作品ですよね?」
「お前ねっ!生意気言ったらぶっ飛ばすよ!」
「あっ、いや、すいません!つい・・・」
「ついなにさ? 続き言ってみな・・・」
蛯子は翌日から部に来なくなった。
数日後、花岡が「マリ、今朝方、蛯子っていう一年生が退部届け持ってきたけどなんか聞いてる?」
「私、なんにも聞いてません・・・」
「そうか、わかった・・・」
花岡は内心思った。「これって、退部一人目かな?」昨年のことが頭を過ぎった。
ここは書道部。
「今日はテーマがあるの。各々自由な発想で丸を書いて下さい」
「??丸ですか?」
「そう、丸よ丸」
「丸になんの意味があるんですか?」
「宇宙よ。各々の宇宙を書くの。よく禅宗のお坊さんが書いてるでしょ。お寺なんかの掛け軸にもあるやつ。あれよあれ・・・」
一年から三年までの部員十名が丸を描き始めた。
一年生の書を並べてマリが「見てごらん。単純な形だけど三人とも違うでしょ?丸には自分の内面が現われるのよ。こぢんまりした可愛い丸。こっちは大胆不敵な我が道を行くっていう丸。これは均整の取れたはみ出しのない几帳面な丸。 個々の性格が出るのよ。ねっ、面白いでしょ?たった丸ひとつが沢山のことを表現する。それが書の味なのよ」
「ところでマリ先輩のはどんな丸ですか?」
「私の見る?」
「はい!」一年生全員が返事をした。
「ほれ、これが私の」
「ぷっ!」全員が吹き出した。
半紙いっぱいに書いた丸は完全にはみ出していた。
「マリさん、 これはどう理解したらいんですか?」
「そうね、自分で言うのもなんだけど。協調性がない、融通が利かない、自分勝手ってとこかな?オイ馬鹿野郎!な訳あるか!大胆で壮大な宇宙だろ!」
全員笑いころげた。
「なによ!なんで笑うの?どこが、どこが可笑しいのよ?」
「マリ、自分でなに言ってるか分かってるの?」同級生の美智子だった。
「な~にが?なんで?」
「諸君、これが悪い見本だからね」
「は~い」全員、声を揃えた。
マリは思った「いつか必ず、こいつら力一杯しごいてやる!」
顧問の花岡先生が「みんないいか、そろそろ全国競書大会に出品する作品を何にするか考えておくように」
「花岡先生、ちょっとよろしいですか?」
「おう、 泉谷どうした?」
「全国競書大会の件なんですけど。入部した時にマリ先輩が『この書道部は書を楽しむところ。書を争うところではない。そういう大会は出ないから、出たい人は自分で申込みなっ!』って言ってたんですけど?」
「あいつ、今年もそんな事、一年生に言ったのか・・・まったく。それは、あいつが勝手に言ってる事なんだ、ライバルを減らす為に」
「ライバルを減らす為・・・えっ!そうなんですか?」
泉谷が作品を書いてるところにマリが入ってきた。
「泉谷、なにやってるの?」
「競書大会に出展する作品を考えてます」
「あっ、そっ。聞いた?」
「聞きました。マリ先輩ずるいです。私達一年生には大会は出ない。出たい人は勝手に出ればって。おまけに、ここは書を楽しむところって言ってましたよね?」
「いつ、だ~れが、そんなこと言ったのさ?」
泉谷は次の言葉を失った。この先輩は私の尊敬できない人間リストに加えておこうと思った。
「一年生聞いてくれる?そう言うことで今年から競書大会にうちの部も出品することになりました。自分の納得いく作品を書いてね。善し悪しは自分で決めないで、鼻をかじった先生か三年生に聞くように、分かった?」
「は~~ぃ」一年生は渋々返事をした。
下校途中マリはひとりで運河倉庫の陰を歩いていた。
後ろから女の声がした「おい、姉ちゃんチョット待てや」
マリが振り向いた「ん、なにか?」
同じ小樽市内の、もうひとつの高校の制服が目に入った。みるからにヤンキー風の3人組。
「あんた、チョット顔かせや」
「あんた誰?」
「関係ねぇ。ツラかしな」
「あいよ・・・」
3人は石造り倉庫と倉庫の陰にマリを連れ込んだ。
「何か私に用?」
マリが言い終わらないうちにひとりの女が、いきなりマリの足を蹴ってきた。その蹴りはマリの太ももにヒットした。
「痛えな!何すんだこら!」
「チョット金貸してくんねぇかな?」
「なんでだよ?」
「なんで?なこと関係ねえ、また痛い目にあいたいのか?」
「お前ら、私が誰かわかってやってんのか?」
「青葉高の山田だろ?」
「おう、私の事知っててやってんだ・・・ということは誰かに頼まれたね!」
髪を赤く染めた体格のいい女が「そんなの関係ねぇ」
「そんなの関係ねえてか?お前は小島よしおか?オッパピーてか?超古いんだけど、笑える」
女は、マリの顔面めがけて殴りかかってきた。瞬間、マリは左手でそれを払い、右手で女の腹へ拳で突きを入れた。女はそのまま唸り声を出してうずくまった。
「う~~~っ」
「さぁ次はだれだ?かかってこいや!」拳法の構えをした。
マリは中国拳法黒帯で全国大会入賞の腕前。
「顔面は勘弁してやるから好きなだけかかってきな。ちっ、面倒だ。どうせなら3人いっぺんにきな!その倒れてる奴は無理なようだけど」
残り2人もマリの勢いに腰が退けていた。
もうひとりの女が「あんた、なんかやってるの?」
「んなもん関係あるかい? さぁきな! 金が必要なんだろ?さぁ、かかってきな!私を倒してから金、持っていきな、
さっ来い!」
「もういい、帰んな。今日は許してやる」赤い髪の女が言った。
「はぁ?許してやるってか? おまえバッカじゃねえの?許して要らねえよ。とっととかかってきな!」
2人はもうひとりを抱えて過ぎ去ろうとした。
「おい待ちな!帰る前に誰に頼まれたか言ってみな」
「あんたんのとこの1年っぺで蛯子って知ってるかい?」
「蛯子?ああ何となく知ってるけど」
「その姉がうちの高校の3年なんだ。 そいつから話聞いて、それじゃあ私らがとっちめてやろうかっていうわけ。 頼まれた訳じゃないからね。姉やその妹には関係ねえから・・・」
マリは「分かったよ、じゃぁな」
3人は、うな垂れて歩き出した。
その時後ろからマリが「チョット待った。帰る前に私に金貸してくんない?」
小太り気味の女が「ちっ、いくらさ?」
「嘘だよ。あんた達そのままだと道歩いていてもしょぼくれてて格好つかないよ。私とそこの喫茶店でコーヒーでも飲まない?少し休んでいこうよ、どう?」
思わぬ言葉に3人は戸惑った。
「嫌かい?嫌ならいいけど」
4人は喫茶店に入った。
「そっちのあんた、腹は大丈夫かい?」
「えぇ?」瞬間その思わぬ気遣いにマリの優しさに触れたような気がした。
「あんた達、いつもあんな真似してるのかい?」
赤毛が「してねぇ~よ」
「そっかい。わたしを路地の陰に引き込む手順は馴れてたけどね」
3人は罰悪そうにマリから顔を背けた。
「その顔はやってるね。もうよしな、格好悪いじゃん、そんな事。今度私が見かけたら完璧に締め上げるから、分かった?」
「・・・・・」
「返事は?」
「はい・・・」三人は小声で言った。
威厳のある口調で「声が小さい!聞こえない!」
「はい!」
「しっかり聞いたからね、忘れるなよ」
マリが「チョット、トイレ行ってくる」と席を立った。
その間3人は小声で話し始めた。
マリが戻ってきた。
「あ~~スッキリした。出すもん出さねえと落ち着かないね」
赤毛の女が切り出した。
「マリさん、今、話し合ったんだけど、あたい達を弟子にしてくんない?」
「なんの?」
「マリさんの」
「なんで?」
「格好いいから」
「弟子ってことは何かを学びたいんだろ?だから何を?」
「なんでも」
「あのさっ、書道でも教える?」
3人はこけた。
こうしてマリの高校3年がはじまった。
END
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