世界を救った変身ヒーローだったのに、人類に危険視されて異世界へ追放されたのだが

天地海

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変身ヒーローと異世界の戦争 後編

二つの攻防

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「ねえ。ウェンリー様。残りの人間も食べたいわ」
「ああ、いいだろう」
 ウェンリーが縄に繋がれた二人の少女をミュウの前に連れて行こうとしたところで、キャリーが叫んだ。
「エリーネちゃん!」
「ブラストカッター!」
 すでに呪文を唱え終えていたエリーネが魔法を放つ。
 俺たちの背後から風が吹き抜ける。
 見えない真空の刃が狙うのは、恐らく少女たちの縄。
「無駄よ」
 ミュウが少女たちの前に立ち塞がった。
 真空の刃がミュウの体を襲うが、服に切れ目が入っただけだった。
「そんな!?」
「キャリー! エリーネ! 二人はあのウェンリーって男に集中しろ! ミュウは俺たちが何とかする」
 返事を待たずに俺はファイトギアフォームに変身した。
「闇の神の名において、我が命ずる! 闇の力をその身に纏い、破壊する力を与えよ! ダーククロースアーマー!」
 ヨミも闇の魔法を身に纏った。
「お前、それは私の……」
 ヨミの魔法に驚いている隙に少女に手を伸ばす。
 だが、ミュウは縄を引っ張って少女の一人を投げつけてきた。
 予測の出来ないミュウの行動に、俺は危うく少女を殴りつけそうになった手で受け止めた。
「アキラ!」
 ヨミの言葉で俺の意識は再びミュウを捉えるが――。
 すでにもう一人の少女の心臓は貫かれた後だった。
「お前!!」
「後の食事はあんたたちを片付けてからにするわ。そこで見ていて頂戴。誰もあんたなんか助けられないって言う絶望を味わってもらうから」
 ミュウは俺が抱き止めた少女にそう言う。
 少女は俺の胸の中で小さく震えていた。
「悪いが、少し離れていてくれ。あのクズ野郎を倒さなければならない」
「……お兄さん、ミュウ様を倒せるの?」
「大丈夫です。だって、アキラは世界を救った変身ヒーローですから」
 ヨミが笑顔で答えるが、そもそも俺が救った世界のことはヨミは知らない世界だけどな。
「……よくわからないけど、がんばって」
 少女はまだ震えていたが、自分の足で部屋の隅へ向かった。
「闇の神の名において、我が命ずる! 影よ、分散して私の手足になりなさい! エンティティアバター!」
 そうしている間に、ミュウは以前と同じ魔法を使った。
 ただ……あの時は四人だったが、六人に増えている。
「芸がないな。それじゃ、俺に勝てないってわからないのか?」
「言っておくけど、違うのは人数だけじゃないわよ」
 六人のうち、五人が俺に向かってきた。
 やっぱり戦法まで同じじゃないか。
 次にやることもだいたい予測できる。
「闇の神の名において、我が命ずる! 闇の力をその身に纏い、破壊する力を与えよ! ダーククロースアーマー!」
『チャージアタックツー、マルチプルトリック!』
 だったら、こっちも同じカウンターで倒すだけだ。
 影から生まれた六人のミュウを全て俺の視界に捉える。
 そこでようやく気がついた。
 六人目は待機していると思ったら、逃げた少女に向かっていた。
 ヨミが少女を助けようと、六人目のミュウを追う。

「火の神と雷の神の名において、我が命ずる! 雷撃よ、あの魔力を狙い撃ち、炸裂させよ! スパークフレア!」
 俺とミュウが戦っている横で、キャリーが魔法を放つ。
 雷が掌から現れ、まるで追尾式のミサイルのようにウェンリーめがけて向かって行く。
「地の神の名において、我が命ずる! 大地よ、その身で受け止め、俺を守れ! グランドウォール!」
 ウェンリーが床に手を置くと、床を突き破って人の高さの倍はある土の壁が現れた。
 雷はその壁に直撃し、爆発して吹き飛ばした。
「ほぉう。なかなかやるじゃないか」
 無傷でキャリーの魔法を防いだウェンリーは余裕の笑みを浮かべていた。
「そのセリフ、まだ早いんじゃない?」
「なに?」
「フリーズプレイス!」
 キャリーに隠れて呪文を唱えていたのか、エリーネが魔法を放つ。
 すると、ウェンリーを中心に床が氷に代わった。
「チッ! 火の神の名において、我が命ずる!」
「風の神の名において、我が命ずる!」
 ウェンリーとキャリーがほぼ同時に呪文を唱える。
「燃えさかる炎の波! ファイヤーブラスト!」
「一陣の風よ、全てを巻き込み吹き飛ばしなさい! ゲイルガスト!」
 風が一方向に向かって吹く。
 それ自体にはそれほど攻撃力はない。
 壺は倒されたが、調度品は微動だにしない。
 人間が直撃を受けても、せいぜい身動きが取れなくなるだけだろう。ただ――。
「し、しまっ……」
 ウェンリーは炎の魔法を放って氷の床を溶かしてキャリーたちも攻撃しようとしていた。
 炎は風に煽られ、勢いを増して風の吹く方向へ流れていく。
 つまり、炎の魔法を放ったウェンリーの所へ。
「くそっ」
 すぐに炎の魔法を中断させていたが、すでに辺りは炎に包まれていた。

 この建物は木造で出来ている。
 柱はもちろん、扉も襖だし。
 炎は部屋中に広がっていた。
 それでも、俺の視界からミュウが逃れることはない。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
「これで、終わりだ!」
 俺たちがほぼ同時に赤く輝く拳を突き出す。
 それは全てのミュウの体に直撃した、はずだった。
「確かに、破壊力のあるパンチだ。今の私でも、まともに喰らえば分身はまた消し飛んでいただろう」
 俺の拳をミュウの両手が受け止める。
 そして、その両手にはヨミが魔法の直撃を防いだときのように闇が纏わり付いていた。
『避けてください!』
 AIに指示されるまでもなく、俺の体は動いていた。
 ミュウが俺の手を掴んだまま、分身のミュウたちが飛びかかってきた。
 俺は掴まれた手を振り払い、飛び退った。
 そう言えば、六人目のミュウは?
 あいつは逃げた少女を追っていた。
 分身が今の攻撃で倒せなかったとなると、まさか。
「この子には、指一本触れさせません!」
 闇を纏った分身の一人と、ヨミが掴み合っていた。
「はあああああ!!」
 ヨミの気合いに呼応するかのように魔力が増大する。
 その力に押されて、六人目のミュウは投げ飛ばされた。
「チッ! こいつ、ただ私の魔法を真似しただけじゃないみたいね」
 ヨミはさらに追いかけて六人目のミュウを蹴り飛ばす。
「これで、倒れて!」
 全身を覆っていた闇が右足に集中する。
 六人目のミュウが立ち上がろうとするがそこにはすでにヨミが構えて待っていた。
 その場で大きく腰を回転させ、右の回し蹴りで薙ぎ払う。
 しかし、六人目のミュウは吹き飛ばされただけで、消えなかった。
 今のヨミの攻撃はほとんど必殺技のようなものだっただろう。
 肩で息をしていて、センサーを見なくても魔力を結構消費してしまったことがわかった。
 どうやら、個別の戦闘能力も以前より上になっているようだ。
『どうしますか?』
 俺の必殺技なら倒せるだろう。
『六人……いえ、本体を含めれば七体に必殺技ですか?』
 マルチプルトリックと組み合わせれば一気に片を付けられるはずだ。
『それは推奨できません。必殺技はエネルギーの集中に少し時間がかかります。あの技との組み合わせは相性が良くありません。それに、さすがに七回必殺技を使うというのも、エネルギー効率がよくありません』
 じゃあ、どうしろと。
『メテオライトブローでしたら、五十回くらい使っても問題ありませんよ』
 それってどういう……。
 変身中はAIに質問すること自体無意味なことだった。
 俺が思ったことはすでに把握していて、AIの作戦はすぐに理解できた。
『チャージアタックツー、マルチプルトリック!』
 俺は高速で動き、相手からは分身したように見えただろう。
「また同じ手なの? それはもう私たちには意味がないわよ」
「そうかな?」
 俺は一つの分身だけを視界に収めていた。
「!? まさか!!」
「正面からのパンチは受け止めたようだが、それ以外は受け止められるのか?」
「みんな、一カ所に集まって私たちを守りなさい!」
 俺の狙いにはすぐに気がついたようだが、立ち止まって構えている時点でそれは無意味な防御だった。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
 六人のミュウは互いに背を向けて防御の姿勢を取って、六方向に構えていた。
 俺はその隙間から一人のミュウだけを七つの方向から殴る。
 正面のパンチだけはダーククロースアーマーという魔法を集中させて防いだが、それ以外がミュウの体を貫いていた。
 ミュウが魔法で影から作り出した体の一つが消滅する。
「その魔法は、もう解除した方が良いんじゃないか?」
「く……。攻撃よ! そいつに攻撃される前に全員で攻撃しなさい!」
 馬鹿な奴だ。
 俺の攻撃を見切れなかった時点で、勝負は決まったというのに。

「くくくく……まさか、これで俺に勝ったと思ってるんじゃないだろうな? 女王様」
「逃げ場はないわよ。そのまま丸焦げにされたいの?」
「魔族の使う魔法について、お前は研究したことがあるか?」
「は? 急に何を」
「俺は魔族と関わって、あいつらの魔法技術も勉強したんだ」
「魔族の、魔法技術?」
 妙な感覚だった。
 俺のセンサーがウェンリーの魔力を感知していない。
「特に、ミュウは幻惑魔法に詳しくてな。人間の世界で正体を隠すために常時魔法を使って魔力を隠しているんだ」
 もしかして、それがセンサーをくぐり抜けたことの答えだったのか。
 だが、今はミュウの魔力を感知している。
 そもそも、ここへ来られたのはミュウの魔力を追うことが出来たからだ。
「それが、一体何だというの? まさか、この炎が幻惑だとでも」
「そうじゃない。幻惑なのは、この俺だ」
「きゃあ!」
 突然、エリーネの叫び声が聞こえた。
 センサーがエリーネの魔力とウェンリーの魔力を感知する。
 そして、炎の中にいたウェンリーの姿が揺らめいて霧のように消え失せた。
「エリーネちゃん!」
 エリーネが黒いロープのようなもので縛り上げられていた。
「おっと、動くなよ。動くとこのお嬢ちゃんの顔に傷が付いちゃうかもなあ」
 黒いロープのようなものはウェンリーの手から伸びていた。
「卑怯者!」
「ああ、いいな。女王に罵られるなんて、とても気持ちがよくなりそうだ」
 助けに行きたいが、こっちもこっちでミュウから離れるわけには行かない。
 分身を一つ倒すのに、技を二つも駆使しなければならない状況だ。
 集中力をこれ以上分散していられない。
 俺はヨミに目配せをしたが、ヨミは逃げた少女を守っている上、ミュウとの戦いで魔力を消耗していて、戦えそうにない。
「――ゲホッ!」
 ウェンリーが縛り上げたままのエリーネの腹を殴りつけた。
「おい、今魔法を使おうとしただろ。言っておくが、このロープはただのロープじゃない。闇の魔法の一つだ。さっきみたいに風の魔法を使って切ろうとしても無駄だが、俺に逆らうんじゃねえよ」
 エリーネの髪を乱暴に掴むと、
「や、やめなさい!」
 キャリーがそう言って手を上げた。
「それは、何のつもりかな?」
「降参だわ。私の負けよ。だから、エリーネちゃんを離しなさい」
「う~ん。どうしようかなぁ。よく見りゃ、この子もなかなか可愛いし。俺の愛人三号にしてもいいかなと思ってるんだよな」
「エリーネちゃんはまだ十一歳よ? そんな子供にまで手を出すつもりなの?」
「おいおい、俺の趣味にケチを付けられる立場だと思ってるのか?」
 まずいな。ここは一旦エリーネを助けるべきか。
「アキラ! あんたはその魔族を何とかしなさい! 私は、大丈夫だから!」
 キャリーと頭を覆う兜のようなマスク越しに目があった。
 その瞳はまだ、勝負を諦めていない。
「大丈夫? 何を考えているんだ? 何か武器でも持ってるのか? だったら、そうだな……この場で服を全部脱いでもらおうか」
「私に、裸になれというの?」
「ああ、それとも俺に裸にされたいか?」
「……わかったわ」
 そう言って、キャリーはマントを脱いだ。
「ほうほう。なかなかスタイルも良さそうだ。そんなマントで隠してるなんてもったいない」
「ところで、一つ教えておきたいことがあるのよ」
「何だ? あ、男性経験か? 安心しろ。俺は美しければそんな細かいことは気にしない。処女だろうがヤリマンビッチだろうが、やることは変わらないからな」
「そうじゃないの。この部屋に突入する前に魔法を使ったのよ」
「え……?」
「その魔法を待機させていたから、複合魔法も二つが限界だったのよね」
「何だと……? どんな魔法を使ったんだ」
「聞いたことくらいはあるでしょ? 複合戦略魔法って」
「お前、まさか!?」
「嘘だと思うなら外を見ると良いわ。全てを破壊する太陽のような光が降りてくるのが見えるから」
「火の神の名において、我が命ずる! 火炎の塊よ、爆破させろ! ファイヤーボール!」
 ウェンリーは天井に向けて両手で抱えられるくらいの炎の球を撃った。
 それは天井を突き破り、屋根をも吹き飛ばす。
 その穴から日の光が差し込んでくる。
 キャリーの言葉には俺も含めて全員が注目していた。
 複合戦略魔法という言葉の響きは、それだけ警戒させるほどの破壊力があった。
「……!? ただの太陽じゃ」
 俺のセンサーが空に魔力を感知できなかったのと同時に、ウェンリーもその事に気がついた。
 だが、ほんの数秒キャリーから目を離してしまったことが、ウェンリーの失態だった。
 脱いだマントをエリーネの体にかぶせる。
「ライトニングブレード!」
 すでに呪文は唱えていた。キャリーの手から雷が発生する。四方八方に向かおうとする雷が、まるで剣のように一つに集められていく。
「あなた、本当に自分以外の人の言葉を信用できないのね」
 そして、キャリーはそれをウェンリーの右腕に振り下ろした。
 バチバチと焦げる音と、肉と血の焼ける匂いが広がった。
「ぎゃああああああああ!!」
 斬り落とされた右前腕部分を左手で押さえるが、ボタボタと流れ出る血で床に血だまりが出来ていた。
 キャリーはエリーネをマントごと抱えてその場を離れる。

 ミュウの作りだした分身は残り三体。
 そいつらの身体能力は前回よりも高い。
 連携を取って攻撃するとパターンを読まれると学習したようで、デタラメに攻撃してくるが、そもそもファイトギアの動体視力と身体能力はこういう攻撃に対して相性がいい。
 だから、すでに動きは見切っている。
 分身たちの動きに隙はない。
 俺が速すぎるだけだ。
 立ち止まったその一瞬を逃さず。
『チャージアタックツー、マルチプルトリック!』
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
 二つの技の連続攻撃で一体ずつ確実に倒していく。
 残り二体。
 続け様に倒そうとしたら、分身が勝手に消えた。
 ファイトギアを使ってる俺が見失うことはない。
 ミュウは幻惑魔法を得意とするようだから、魔法で姿を隠したのかとも思ったが、ミュウの魔力は感知しているし、さっきまで分身たちに送っていた魔力の流れも消えていた。
「諦めるってことでいいのか?」
「……そうね、同じ手であなたを殺せるはずはなかったのね。それに、今の私でもまだあいつには勝てない」
『あいつ、とは誰のことでしょうか? 彰のことではないようですが』
 どうせ他の魔王とかいう奴だろ。
 そんなことよりも、今はミュウの処分が先だ。
「降参するのは構わないが、お前は人を殺しすぎた。反省したとしても生かしておくわけにはいかない。この場で確実にトドメを刺す」
 俺が構えを取ると、二人の間にウェンリーが割り込んできた。
「ミュウ! 俺の右腕が!! 助けてくれ!! あの女も同じように」
「うるさい」
「ガハッ!」
「な……」
 ミュウの行動に、さすがの俺も驚きを隠せなかった。
 すがりつこうとしたウェンリーの胸を貫いたのだ。
「ミ、ミュウ……な、なにを……」
「どう? 私に裏切られた気分は? 絶望した? 確認するまでもないわね。あなたはもうずっとこの世界を憎み絶望していたものね。さすがにメインディッシュの味は最高だわ。これで、私はさらなる強さを手に入れる」
 甲高い笑い声が部屋中に響き、心臓を喰われたウェンリーの体は血の海に沈んだ。
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