世界を救った変身ヒーローだったのに、人類に危険視されて異世界へ追放されたのだが

天地海

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変身ヒーローと異世界の戦争 後編

飛翔船、発進!

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 食堂にはたくさんの兵士が集まって朝食を食べていた。
 俺たちも兵士たちの列に並んでお盆を持ち、カウンターで料理を受け取る。
 昨日、シャリオットが俺たちに部屋に料理を運ぶか打診してきたが、キャリーがそれを断った。
 そんなことに余計な時間を使わせたくないと言っていたが、女王にはこういう所で食事をする機会がないから、きっとあえてそうしたんだと思う。
 だから、周りも料理を渡したメイドもみんなキャリーのことには気がついていたが、女王だからといって特別扱いはしなかった。
 俺たちは揃って窓際の席に座る。
 すると、食堂が大きく騒めいた。
 無論、俺たちにではない。
 食堂の入り口にみんなが注目していたので、俺たちの視線も自然とそちらに向く。
 そこにはシャリオットとルトヴィナがいた。
 二人並んで兵士たちと同じようにお盆を持って料理を受け取る。
 そのまま優雅にこちらに向かってきた。
 食堂の一角は、同盟国のトップが一堂に会するという、ある意味凄い状況だった。
 これが王宮や、どこかの料亭なら違和感はないだろうが。
「……あのさ、何も二人までここで食事をする必要はなかったんじゃ」
「そうですよ。私がここで食事をしたかったのは、その……憧れがあっただけで」
 俺とキャリーがちょっとだけ抗議の意味を込めて言うが、二人ともまったく気にするそぶりすら見せない。
「私たちがここで食事をしてはいけないという理由には当たらないと思います」
「冷める前にいただきましょう」
「はい、いただきます」
 元気よく返事をしたのはヨミだけだった。
 さすがに周りの兵士たちも距離を置いている。
「俺たちも食べよう」
「そうね」
 これ以上兵士たちに余計な気を遣わせないようにするには、俺たちが朝食を終えてここから出て行くのが一番だ。
 朝食のメニューはパンとサラダとスープだけ。
 今日はたくさん動くことになるだろうが、さすがに朝から重いものを食べる気にはならない。
 これで十分だった。
 俺は丸いパンにナイフで切れ目を入れて、そこにバターを塗り込んでサラダを挟んだ。
 自作のサンドウィッチ。
 昨日もサラダを食べたが、ドレッシングが美味しかったのでやってみたいと思っていた。
 一口食べて、正解だったと思った。
「アキラ、行儀悪すぎじゃない?」
 キャリーは関係ありません見たいな表情をしていたが、エリーネが窘めるようにそう言った。
「そうか? 結構美味いぜ」
「そういうことを言ってるんじゃないでしょ」
「フフフッ……皆さんは、本当に仲がよろしいのね。少し羨ましいわ」
 ルトヴィナがスープを飲みながら、そう言った。
 少し野暮ったい瞳をさせていて、スプーンを口に運ぶ仕草が何とも色気に溢れている。
 エリーネがそれに少し見とれていて、俺への文句も止まってしまうほどだった。
「ルトヴィナは朝が弱いのか?」
「ちょっと! 失礼よ。ルトヴィナ女王陛下と呼びなさい!」
「あら? キャロラインさんは自分のことをあだ名で呼ばせているのに、私のことを呼び捨てにすることは許せないのかしら」
 流し目で見られたキャリーは少しだけ顔を赤くさせて口をつぐんだ。
「あなたは特別に私のことを好きに呼んでいいわ。その代わり、私もアキラくんと呼ばせていただきますわね」
「……わかった」
「それから、朝に弱いのは間違いないけど、今日はそれにもまして昨日徹夜で作業をしたから、まだ眠いのよ」
「それでもここで優雅に朝食を食べてるってことは、クリスタルの取り替え作業は終わったってことだよな」
「ええ、さすがに魔族のクリスタルね。魔力の純度も強度も比べものにならないわ。あれなら、どこまでも飛べるはずよ」
「ありがとう」
 これで、フレードリヒたちよりも王宮に着く。ファルナたちの救出も間に合う。
「あら、そう言うところは素直なのね」
「それ以外に言うべきことが見当たらないからな」
「キャロラインさんが、あなたを信用してる理由が少しわかったような気がしますわ」
「ゲホッゴホッ」
 キャリーとシャリオットが揃って食べ物を喉に詰まらせたように咳き込んだ。
「大丈夫か?」
「き、気にしないでください」
「そ、そうよ。大丈夫だから」
 水でももってきてやろうかと思ったら、二人ともリアクションまで同じようだった。
 俺は一足先に朝食を終えたので、シャリオットに改めて聞いた。
「出発はいつになる?」
「そうですね。飛翔船の起動に携わる魔道士たちの準備が整ってから、なので……一時間後……くらいでしょうか」
「これを飛ばすには、やっぱり魔道士がたくさん必要なのか?」
「今は試験飛行中なので、万全を期したいというだけの話です」
「私はその必要はないと説明しているのよ。でも、シャリオットさんは心配性ですから」
「必要ない?」
「ええ。この飛翔船のコンセプトは、飛行に人間の力を極力消費させずに移動することを目標にしているの。つまり、魔力をクリスタルに供給してしまえば、数日はそれで飛ぶことを想定していますわ」
「まるでガソリンだな」
「ガソリン? それは、何でしょう?」
 ……この二人に、俺の正体を明かすかどうかはこの段階では決められないか。
 キャリーが信用しているから同じように扱ってもいいと思うが、そもそもまだキャリーにだって言っていないことを先に教えるわけにもいかない。
「その話は、今回の件が片付いたら、いずれ」
「……約束。と言うことでよろしいのね」
「ああ、そう思ってもらって結構だ」
「アキラ、先に言っておくけどルトヴィナ女王陛下との約束は絶対よ。破ったりしたら、私の国との外交問題になるかも知れないんだからね」
 ルトヴィナはそばで話を聞いているのに否定も肯定もしない。
 それで、俺はすごい人と約束してしまったんだと実感させられた。
 これ以上ルトヴィナたちと話をしていると、余計な約束ばかりしてしまいそうだったので、俺はお盆をかたづけてそそくさと食堂を出た。

 それからきっちり一時間。
 俺たちは甲板に集まった。
 ちなみに、兵士たちは三階の部屋で待機している。
 甲板の後ろの部分。船室の入り口になっている部分はその上に操縦桿があった。
 船室へ続く扉の背後に回ると、緩やかな階段があり、操縦桿のスペースに着く。
 そこはもちろんそんなに人が集まるように設計されていない。
 そもそも操縦桿があり、そのスペースを囲う木の柵もある。
 俺は後ろから眺めるようにして説明を受けているヨミとキャリーとエリーネを見ているだけだった。
「先ほど、ルトヴィナさんも言っていましたが、飛翔船を飛ばすための魔力はすでにクリスタルに補充されています。ですから、操縦する人がそのために魔法を使う必要はありませんし、魔力も消費しません。魔法を使うときのように、思い描くだけで良いのです」
「魔法できっかけを与えるってことね」
「はい、原理的にはこの船に備え付けられている明かりやシャワーと同じです」
 つまりは、俺には絶対に扱えないってことだ。
「あの、だとしたらこれって一体何の意味があるんですか?」
 エリーネが操縦桿を指し示して訝しげな表情をさせた。
「何もないところに思い描くというのは、難しいんですよ。特に、飛行魔法は人間の世界では実用化されてこなかったので、こんなものが飛ぶはずがないという既成概念に囚われてしまう」
「そのための補助として操縦桿があると言うことなのね」
 キャリーの説明に、シャリオットはさらにつけ加えた。
「魔道士が杖や魔道書を使うときに似ています。スイッチの役割も果たします」
「あの、魔力があれば誰でも飛ばすことが出来るんですか?」
 ヨミだけ場違いな雰囲気で手を上げて聞く。
 まるで学校の授業のようだが、先生役のシャリオットもまんざらではないようだ。
「ええ、その通りです。ですから、どなたか飛ばしてみませんか?」
 と切り返してきた。
 キャリーとエリーネは、お互いに顔を見合わせてから首を振った。
「はい! それじゃあ、私やってみたいです」
「おいおい、本当に大丈夫なんだろうな?」
「そういう言い方はひどいと思います」
 ヨミが頬を膨らませる。これから真面目な作戦が待ってるっていうのに、その軽いノリが心配だというのがわかっていない。
「大丈夫ですよ。僕が補助します。まあ、ヨミさんの場合、その必要もないでしょうが」
「わかった。シャリオットのお墨付きなら任せる。じゃあ、俺は甲板にいるよ。さすがにここに何人もいても邪魔だろ」
 キャリーとエリーネも俺の意見に賛成し、ヨミとシャリオットを操縦桿に残して、俺たちは甲板に降りた。
「ヨミさん! がんばって!」
 エリーネがヨミを見上げながら、手を振って応援する。
「はい! 任せてください」
「それでは、行きましょう」
 一言二言シャリオットが説明し、ヨミは真剣な眼差しで操縦桿を握った。
 すぐに、飛翔船を淡い光が包み込む。防御魔法だ。
 そして、エレベーターに乗っているときのような感覚に襲われる。
 周りの景色が下に降りていく。つまり、この船全体が浮いている。
 俺は甲板の端の柵から身を乗り出した。
「うおっ……」
 思わず声が出てしまう。
 魔法だからか、エンジン音なんか聞こえない。
 静かに飛翔船は空中に浮き上がっていた。
 着陸……と言うか不時着した場所――つまりは金華国の王宮がどんどん小さくなっていく。
 雲と同じ高さになったところで一旦停止した。
「ヨミさん。アイレーリス王国の方向はあちらです」
 シャリオットが指を向けた方に、船が方向を変える。
 そして――。
 風を後ろから受けたわけでもないのに、白い帆が膨らみ、景色が一気に後ろへ流れる。

 異世界の空を大きな船が翔る。
 まさしく、飛翔船の名にふさわしい姿だった。

 飛行速度は結構なものらしい。AIが測定していたが、数字を示されても俺にはこの異世界の地図すらよくわかっていないから意味がなかった。
 はっきりしているのは、早くアイレーリスに戻れるってこと。
 それだけが重要なことだった。
『なぜ、飛翔船の周りに防御魔法が使われているのかわかりました』
 キャリーとエリーネは景色を見ていると酔いそうになると言って早々に甲板から部屋に戻ってしまった。
 甲板には操縦桿を握っているヨミと、それを補助するシャリオットと俺だけ。
 だから、実質俺一人で景色を眺めていたらAIに話しかけられた。
「聞いて欲しいのか? でも、飛行速度と同じであまり話し相手にはなってやれないと思うぞ」
『彰は気にならないのですか? これだけの飛行速度にもかかわらず、甲板にはそよ風くらいしか流れていません』
「そう言えば、そうだな……」
『この速度で飛んでいたら、普通はこんな所で呑気に景色なんて見られませんよ。空気抵抗や風や気圧がありますから』
「その辺りは俺たちの世界と同じなのか?」
『物理法則はそれほど違いはないのではありませんか?』
「魔法は物理法則の枠外だと思っていたが」
『……難しい問題です。今後の研究課題にしておきましょう』
「どうでもいいが、俺が寝ているときに体を勝手に使って学習しようとするなよ」
 さすがにそれをやられると睡眠を取っていないことと同じになる。
『彰の疲労は私たちの性能に影響しますから、そこはわきまえていますよ』
「そうだ。睡眠で思い出した。昨日寝ているときにまた妹からテレパシーでメッセージが送られてきた」
『は? 本当ですか? なぜそのようなことをこんな時に』
「ってことは、やっぱりAIでもテレパシーの信号を捉えることはできないんだな」
『未来さんの能力に関しては、私の力の及ばぬ世界にあります。ある意味、魔法よりも魔法的です』
 妹の未来には超能力が使える。
 デモンとの戦いでもその能力は生かされた。
 だが、その事を知っているのは俺とネムスギアと未来だけだ。
 未来の父親であり、俺を拾ってくれた博士ですら知らない。
 なぜなら、博士の死によって覚醒した能力だったから。
 今では魔力でさえ感知してしまうほどの学習能力の高いネムスギアのAIを持ってしても、未来の能力は解明できなかった。
 結局、俺がデモンを全て倒してしまったから、解明する必要もなくなったのだが。
 しかし、こうなるとわかっていたなら、デモンを倒しても調べておくべきだったんだな。
『それで、未来さんは何を?』
「いや、やっぱり電波の通りが悪い昔の携帯電話みたいで音が飛び飛びだったから何を伝えたかったのか……」
 危機とか。
 ネムスギアがどうとか。
 気をつけろとか。
 敵が、とか。
 あと、王?
 聞こえてきたキーワードを頭の中で反すうしてもよくわからない。
 AIにも分析してもらったが、やはり情報が少なすぎる。
『未来さんの予知能力はいつ能力が発揮されるかわからない、唯一不安定な能力でしたが、その的中率はほぼ百%でした。つまり、一つだけはっきりしていることは、これからの戦いは決して気が抜けないものになると言うことではないでしょうか』
「元々、気を抜くつもりはないさ。ミュウとの戦いは、俺にとっては前哨戦だ。キャリーの国を取り戻す。今までの戦いは全てこの時のためのものだったんだからな」

 アイレーリスまでの飛行時間は丸一日。
 さすがにその全部をヨミが操縦できるはずはない。
 途中でシャリオットやルトヴィナ。さらにはシャリオットの連れてきた魔道士たちが交代で飛ばした。
 俺は、ずっと甲板で景色を眺めながら筋トレしたり空を眺めながら横になったりしていた。
 そうしてさらに日が昇る頃に、見覚えのある城が見えてきた。
 さすがにその時にはキャリーとエリーネも甲板に出てきた。
「……本当に、たった一日で戻ってきたのね」
 キャリーの表情は形容しがたいものだった。
 感慨にふけっているのか、安心しているのか、それとも城から逃げなければならなかった嫌なことを思いだしているのか。
 もしかしたら、その全てなのかも知れない。
「あの、何か妙じゃないですか?」
 俺はキャリーのことが気になっていたので、城はあまり見ていなかった。
 キャリーも細かくは見ていなかったようで、最初に異変に気がついたのはエリーネだった。
「妙って、何が?」
「何か……煙のようなものが……」
 目を凝らすと、確かに煙が上がっている。
 それは、城だけじゃない。
 町のあちこちからだ。
 まさか、フレードリヒの方が先だったのか?
 ファルナの掴んだ情報が遅かったのだろうか。
 魔法水晶で連絡を取りたいが、あれは個人が持っているものではない。
 携帯電話のように気軽に呼び出せない。
 ……いや、ルトヴィナは魔法水晶の小型化に成功していて、常に携帯しているらしいが。
 今度量産できないか聞いてみるか。
 俺は甲板で同じように城を眺めていたルトヴィナに話しかけようとしたら、目の端を何かが横切った。
「え?」
『彰! 警告します! 複数の魔力反応が、飛翔船に近づいてきます!』
 AIの警告と、魔物の侵入はほとんど同時だった。
「こ、こいつは……ガーゴイル!?」
 シャリオットが眉根を寄せてそう言った。
 ガーゴイルと呼ばれた魔物は人間のような体に、ドラゴンのような翼を背負い、口は鳥で目は人間。頭は髪と羽毛に覆われていた。
「――変身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』
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