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変身ヒーローと異世界の国々
変身ヒーロー対魔王の器アスラフェル
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「最初に言っておく。手加減はしないからな。怪我をしても文句を言うなよ」
「言うわけねーじゃん。それよりも、オレだって本気でいくからな。ガッカリさせんなよ」
アイレーリス王都の南西の門から外へ出ると、広い草原が広がっている。
キャリーの話だと、ゆくゆくはこの辺りにも建物を立てて王都を広げる計画があるらしい。
とは言っても、まだ人間を襲うような魔物が出現するから、定期的にギルドへ魔物討伐の依頼が出されている。
もちろん、俺たちは今さらこの辺りに出没するような魔物の相手をするためにこんな所へ来たわけではない。
魔王の器と呼ばれる魔族――アスラフェルと戦う約束を果たすためにやってきた。
当然だが、城の敷地や王都で戦うわけには行かない。
せっかく復興が進んできているのに、それをぶち壊してしまったら英雄と呼ばれていても立場がなくなるというもの。
「アスラフェルくんったら、人間と戦争するのは反対なのに、どうしてアキラと戦おうとするんでしょうか。やっぱり、人間と仲良くする気がないのでしょうか……」
向かい合う俺たちの間で、ヨミが草原に腰を降ろしてブツクサ言っているのが風に乗って聞こえてきた。
たぶん、ヨミが心配しているような意味での戦いじゃないんだよ。
アスルからは殺意が欠片も感じられない。
一人の男として力を試したいだけなんだと思う。
あれくらいの男の子は、純粋に自分の力を知りたいときがあるものだ。
暴力を振るいたいってのとは違う意味で。
元気が有り余ってそれを発散する方法も知らないんだろう。
そして、それを押さえる方法も。
「準備はいいか?」
「ああ、兄ちゃんこそ。そのままでオレと戦うつもりか?」
そう言えば、クリスタルに生きたまま封印されていたときも、外の様子はわかっていたんだったな。
俺がどういう戦い方をするのも、ある程度は知っているってことだ。
「行くぞ――変身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』
マテリアルソードが現れたときには、すでにアスルは俺の間合いに入っていた。
刃の部分を盾にして右拳を弾き返す。
そう言えば、俺は逆にアスルの戦い方を知らなかった。
体勢を崩しながらも、右足で回し蹴りを繰り出す。
それをバックステップで躱すと、アスルは地面を蹴って追いかけてきた。
近接戦闘が主体なのか。
左の拳で軽くジャブを打ってきたと思ったら、右の拳を大きく振ってくる。
ジャブは剣でガードし、右のフックに合わせて攻撃を受け流した。
『チャージアタックスリー、レイストームスラッシュ!』
マテリアルソードの刃が輝き、振動する。
アスルは両手を地面に付けて、倒立するように両足による蹴りを突き出したが、俺はそれごと斬撃で叩き落とした。
「ぐあっ!!」
アスルが地面を転がる。
そのままさらに追撃をしようと二度斬撃の雨を降らせたが――。
大きく飛び上がってアスルは俺の攻撃の間合いから距離を取った。
さすがに無傷ではない。
足を多う布のズボンはボロボロで、露出した足からは血が滴っていた。
「……やめるか? その足じゃ、もうさっきまでの動きは無理だろ」
「兄ちゃん。オレが魔族だってこと、忘れてないか?」
『魔力の流れが足に向かって行きます』
AIが捉えたアスルの魔力。
それは見る見るうちにアスルの足を元に戻した。
治療魔法とは違うんだよな。魔物や魔族の再生能力って。
見た目は元に戻ったように見えるし、その部分の機能も元に戻っている。
ヨミが説明するには、生命力にダメージを負うのだとか。おまけに再生させるには魔力も使うから戦闘能力も下がるらしい。
「兄ちゃんこそ、そろそろ変わった方が良いと思うな。その鎧の攻撃はだいたいわかったよ」
アスルの姿が揺らいだ。
そう思ったときには、目の前に現れていた。
『右拳のストレートパンチが来ます!』
AIの警告でようやく何をしようとしているのか把握できたが、それでは当然ガードは間に合わない。
俺は何とか体を倒して右肩をアスルの拳に合わせた。
重い一撃に地面を滑るようにして後退りさせられた。
だからむしろ、追撃は避けられた。
今の攻撃は、ケルベロス並じゃないか?
「スピード勝負がしたいなら、付き合おう――変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ファイトギアフォーム、展開します』
「へへへ……行くよ!」
アスルは本当に楽しそうに向かってきた。
そのスピードは確かにケルベロスより上だった。
近接攻撃主体なのは変わらずだったが、少しだけスタイルが変わっていた。
直線的な拳による突き。
そして、その動きから流れるように蹴り技に移行する。
さっきまでがボクシングやキックボクシングのような動きだとしたら、今度は空手とか拳法のような型に似ている。
柔軟性が減ったが、鋭さは増していた。
ファイトギアだと、受け流すことも危険なように思えた。
とはいえ、さすがにまだその必要性があるほどではなかった。
十分見切ることが出来る。
気になることがあるとしたら、アスルはまだ魔法を使っていない。
もし、アスルがダーククロースアーマーを使って身体強化をしたならば、このファイトギアのスピードにも追いつけるんじゃないか?
汗を飛ばして突きと蹴りを繰り出すアスルが、何か力を隠して戦っているようにはとても思えないけど。
「クソ! マジで当たんねー! うおおおおおお!!」
焦りなのか単純なのか、息も整えずにがむしゃらに手を出すが、それじゃあ戦いにならない。
「ハア、ハア……」
ほら、急に力を込めて体を動かすから、余計な動きで呼吸が乱れた。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
俺としてはその隙を見逃す手はない。
燃えるように赤い拳が、アスルの顔面を捉えて打ち抜いた。
大きな手応えと同時に、アスルの体が吹っ飛んでいった。
さすがに、これで終わりか?
倒れたままピクリとも動かない。
まさか、死んだわけじゃないよな……。
魔族は死んだらクリスタルだけが残るわけだし。
「油断しない方が良いですよ。アスラフェルくんは、ここからがしつこいですから」
すでに一度戦っているヨミがそう言った。
アスルがよろよろと立ち上がる。
一見すると、その姿からは戦える余力が残ってるようには見えない。
だが、魔力が大きくなっているのを感じた。
いよいよ魔法を使うのか。
どんな魔法を使うつもりなのか、あまり見ている余裕はなさそうだ。
「闇の神と光の神の名において、オレが命ずる! 全部ぶっ壊せ! ダークプリズム!」
アスルを中心に、四方八方へ光と闇のエネルギーのようなものが溢れ出す。
大地を削り、空の雲を裁断する。
攻撃力は確かに高そうだ。
ただ……狙いを付けられないのか、わざわざ避ける必要もなさそうだ。
時折、顔の辺りを掠めそうになるので、首を少し捻る。
近づかなければどうということも……。
「え……おいおい、まさか」
「行くぜ、兄ちゃん。これがオレの全力だ!」
魔法を使ったまま向かってきた。
無論、あの素早さで。
さすがにやばい。
この魔法の特性上、アスルに近づかれると逃げ場がなくなる。
走って距離を取ろうとするが、アスルは魔法を放った反動を利用してさらにスピードを加速させた。
「はあ!」
アスルが右手を上に向かって払うと、その先から飛び出したエネルギーが大地を抉ってこっちに向かってくる。
『チャージアタックツー、マルチプルトリック!』
こちらも瞬間的に速度を爆発させる。
アスルが攻撃したのは、俺の残像だった。
「そっちが、本物か」
気配でも感じられるのか、すぐにアスルは俺のことを見つける。
「次は、逃がさねー!!」
跳び上がると同時に放出したエネルギーが爆発してアスルの体が俺に向かってくる。
「受け止めるしかないってことだな――変……身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、キャノンギアフォーム、展開します』
「これで、最後だ!!」
全身をバネにするように、放出するエネルギーごとアスルが体から突っ込んできた。
ドオンという大きな衝撃音が体を駆け巡る。
俺の足が少しだけ地面にめり込み、辺りの大地を吹き飛ばした。
土埃で周りがよく見えないが、キャノンギアのセンサーは魔力をほとんど使い果たして目の前で大の字になっているアスルをしっかり捉えていた。
『バスターキャノンを形成します』
大型の銃を両手で構え、アスルの頭に砲身を突き付ける。
「アキラ! それ以上は!」
ヨミが声を上げる。
「風の神の名において、我が命ずる! 一陣の風よ、全てを巻き込み吹き飛ばしなさい! ゲイルガスト!」
魔法の風によって、俺たちを包み込む土煙が全て吹き飛ばされた。
アスルはこの光景をその目で見る前に、すでに敗北を確信していたようだった。
やけにすっきりした表情で爽やかに笑っている。
「へへへ……やっぱり兄ちゃんはつえーな。さっきの攻撃は結構姉ちゃんを追い詰めたんだけどな……」
「いや、俺も結構危なかったぜ」
俺は倒れ込んだアスルと握手をして立ち上がらせた。
変身を解除して、アスルの頭を撫でようとしたら――。
「アキラ殿! これは一体何の騒ぎか!?」
「え!?」
聞き覚えのある怒鳴り声に、俺の体は硬直した。
そう言えば、風の魔法を使ったのって……。
アスルではないよな。勝負が決まった後に、土煙を払うだけの風の魔法を使うことに意味なんてないし。
もちろんヨミでもない。ヨミにはまだ闇の魔法しか使えなかったはずだ。
恐る恐る声の主を探すと、そこにはファルナと王国騎士団の部隊がいた。
ちなみに、王国騎士団は再編されて、騎士が三人と魔道士が二人を一つとした部隊に編成された。
それが二組、ファルナの後ろに控えている。
「王都の外で何者かが暴れていると報告があったから来てみれば……」
「いや、これはその……子供の遊びに付き合っただけっていうか」
「姉ちゃん。何か大人たちがめんどくせー話してっからオレたちはあっちに行こうぜ」
「え? アスラフェルくん、それはさすがに」
「ちょっと待て、アスルは当事者だろうが。しかも、お前の約束のために付き合ってんだぞ」
逃げようとするアスルの腕を掴む。すると、口を尖らせてとんでもないことを口走りやがった。
「え~~……だって、兄ちゃんがこの辺りなら暴れても大丈夫って」
「うわっ! 馬鹿」
アスルの失言を隠すように声を上げたが、
「ア・キ・ラ殿~!!」
怒気を含んだファルナの声は、俺の誤魔化しが無駄に終わったことを悟らせるには十分だった。
「あなた方には今すぐ城に来ていただきます!!」
「え~、めんどくせえ」
「アキラ殿、今その子は何と」
見下ろすファルナの瞳は、魔王の器であるアスルでさえ目を逸らすほど迫力に満ちていた。
まるで犯罪者のように前後を王国騎士団に挟まれて城まで俺たちは連行された。
謁見の間まで行くと、そこには当たり前のようにキャリーが玉座に座っている。
「……アキラ、あなたがなぜここに呼ばれたかわかってる?」
「いやそんなに目くじら立てて怒るようなことか? ちょっと町の外で子供と戯れただけじゃねえか」
「ふうん……戯れただけ、ねえ。ファルナ、あの場所には王国騎士団の部隊を一つ残してきたのよね」
「ああ、当たり前だ」
「それじゃあ、戯れに王国の土地がどうなったのか、よく観察しましょうか」
そう言ってキャリーが玉座の横にあった魔法水晶を使った。
そこに映し出されたのは、さっき俺とアスルが戦った場所。
元は草原だったが、今や見る影もないほど大地がえぐり取られてボコボコだった。
特に、アスルが最後に放った一撃は、ファイトギアの必殺技にも劣らぬほどの威力だったようで、大きなクレーターが出来ていた。
っていうか、あれだけ文句を言っていたのに、魔法水晶を生中継に使うことが当たり前になってきている。
「あのねえ、アキラ。あの場所は、王都を広げるために整備した場所であって、あなたたちの遊び場ではないのよ」
キャリーの口元は笑っているが、目が全然笑っていない。
これは本気で怒っている。
「申し訳ありませんでした」
こういう時はそれ以外の言葉を放つべきではない。
いやでも、反省していないわけじゃない。
だけどほら、人に被害があったわけじゃないし。
建物だって壊したわけじゃないし。
整備してる土地ならまた整備すれば良いじゃないか。
「……本当に反省してるのかしら」
……う。キャリーは俺のことを信用してくれているが、その弊害か俺の思っていることを見抜くようになってきたな。
「反省してるって。元に戻せばいいなら、整備を手伝うよ」
「魔法も使えないアキラが?」
痛いところを突いてきやがる。
土地の整備にも魔法が使われてるのか。
機械が発達してる世界なら、機械でできることなのに。
この世界じゃそういう意味で俺が役に立てることはなかった。
「じゃあ、どうすればいい」
「そうね……。それじゃ、数日以内に開かれる国際会議に出席しなさい」
「は?」
キャリーの顔から緊張感が取れていた。
「よかったわ。これで、話が進むわ」
「どういうことだよ」
「同盟国以外にも呼びかけてアイレーリスで会議を開きたいと提案したんだけど……先方がその会議にアキラを出席させることを条件にしてきたのよ」
「どうして俺が?」
「それは、やっぱり先方もアキラの活躍を見ていたからでしょ。だけど、この世界の国際会議なんて、冒険者であるアキラにはまったく関係のないことだし、こんなことをギルドに要請しても協力してくれるはずはないし、どうしようか考えていたのよね」
「見世物にされるのはさすがに嫌なんだが」
その結果、貴族連中から妙な疑いを持たれたことを忘れたわけじゃない。
「大丈夫よ、悪いようにはしないから。それに、私としては同盟国の輪を広げたいと思ってるのよ」
そう言ったキャリーの瞳は何だか希望に満ちた輝きをしていた。
アイレーリスの同盟国を増やすことは反対じゃない。
その方が妹の情報も早く手に入るかも知れないし。
そして、きっとこの世界のためにも。
「わかったよ。キャリーのためにピエロにでもなってやるよ」
今の俺には断るという選択肢は存在しない。
半ばやけくそ気味に言い放った。
「クラース。さっそく各国に連絡を押して頂戴。我がアイレーリス王国の英雄の出席を取りつけたって」
「はい、畏まりました」
それだけ言うと、クラースは謁見の間から姿を消した。
「日程が決まったら伝えるから、大人しく客間にいて頂戴」
最後にもう一度だけ含みのある言い方をして、俺たちを一睨みしてからキャリーも謁見の間を後にした。
「言うわけねーじゃん。それよりも、オレだって本気でいくからな。ガッカリさせんなよ」
アイレーリス王都の南西の門から外へ出ると、広い草原が広がっている。
キャリーの話だと、ゆくゆくはこの辺りにも建物を立てて王都を広げる計画があるらしい。
とは言っても、まだ人間を襲うような魔物が出現するから、定期的にギルドへ魔物討伐の依頼が出されている。
もちろん、俺たちは今さらこの辺りに出没するような魔物の相手をするためにこんな所へ来たわけではない。
魔王の器と呼ばれる魔族――アスラフェルと戦う約束を果たすためにやってきた。
当然だが、城の敷地や王都で戦うわけには行かない。
せっかく復興が進んできているのに、それをぶち壊してしまったら英雄と呼ばれていても立場がなくなるというもの。
「アスラフェルくんったら、人間と戦争するのは反対なのに、どうしてアキラと戦おうとするんでしょうか。やっぱり、人間と仲良くする気がないのでしょうか……」
向かい合う俺たちの間で、ヨミが草原に腰を降ろしてブツクサ言っているのが風に乗って聞こえてきた。
たぶん、ヨミが心配しているような意味での戦いじゃないんだよ。
アスルからは殺意が欠片も感じられない。
一人の男として力を試したいだけなんだと思う。
あれくらいの男の子は、純粋に自分の力を知りたいときがあるものだ。
暴力を振るいたいってのとは違う意味で。
元気が有り余ってそれを発散する方法も知らないんだろう。
そして、それを押さえる方法も。
「準備はいいか?」
「ああ、兄ちゃんこそ。そのままでオレと戦うつもりか?」
そう言えば、クリスタルに生きたまま封印されていたときも、外の様子はわかっていたんだったな。
俺がどういう戦い方をするのも、ある程度は知っているってことだ。
「行くぞ――変身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ソードギアフォーム、展開します』
マテリアルソードが現れたときには、すでにアスルは俺の間合いに入っていた。
刃の部分を盾にして右拳を弾き返す。
そう言えば、俺は逆にアスルの戦い方を知らなかった。
体勢を崩しながらも、右足で回し蹴りを繰り出す。
それをバックステップで躱すと、アスルは地面を蹴って追いかけてきた。
近接戦闘が主体なのか。
左の拳で軽くジャブを打ってきたと思ったら、右の拳を大きく振ってくる。
ジャブは剣でガードし、右のフックに合わせて攻撃を受け流した。
『チャージアタックスリー、レイストームスラッシュ!』
マテリアルソードの刃が輝き、振動する。
アスルは両手を地面に付けて、倒立するように両足による蹴りを突き出したが、俺はそれごと斬撃で叩き落とした。
「ぐあっ!!」
アスルが地面を転がる。
そのままさらに追撃をしようと二度斬撃の雨を降らせたが――。
大きく飛び上がってアスルは俺の攻撃の間合いから距離を取った。
さすがに無傷ではない。
足を多う布のズボンはボロボロで、露出した足からは血が滴っていた。
「……やめるか? その足じゃ、もうさっきまでの動きは無理だろ」
「兄ちゃん。オレが魔族だってこと、忘れてないか?」
『魔力の流れが足に向かって行きます』
AIが捉えたアスルの魔力。
それは見る見るうちにアスルの足を元に戻した。
治療魔法とは違うんだよな。魔物や魔族の再生能力って。
見た目は元に戻ったように見えるし、その部分の機能も元に戻っている。
ヨミが説明するには、生命力にダメージを負うのだとか。おまけに再生させるには魔力も使うから戦闘能力も下がるらしい。
「兄ちゃんこそ、そろそろ変わった方が良いと思うな。その鎧の攻撃はだいたいわかったよ」
アスルの姿が揺らいだ。
そう思ったときには、目の前に現れていた。
『右拳のストレートパンチが来ます!』
AIの警告でようやく何をしようとしているのか把握できたが、それでは当然ガードは間に合わない。
俺は何とか体を倒して右肩をアスルの拳に合わせた。
重い一撃に地面を滑るようにして後退りさせられた。
だからむしろ、追撃は避けられた。
今の攻撃は、ケルベロス並じゃないか?
「スピード勝負がしたいなら、付き合おう――変身!」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、ファイトギアフォーム、展開します』
「へへへ……行くよ!」
アスルは本当に楽しそうに向かってきた。
そのスピードは確かにケルベロスより上だった。
近接攻撃主体なのは変わらずだったが、少しだけスタイルが変わっていた。
直線的な拳による突き。
そして、その動きから流れるように蹴り技に移行する。
さっきまでがボクシングやキックボクシングのような動きだとしたら、今度は空手とか拳法のような型に似ている。
柔軟性が減ったが、鋭さは増していた。
ファイトギアだと、受け流すことも危険なように思えた。
とはいえ、さすがにまだその必要性があるほどではなかった。
十分見切ることが出来る。
気になることがあるとしたら、アスルはまだ魔法を使っていない。
もし、アスルがダーククロースアーマーを使って身体強化をしたならば、このファイトギアのスピードにも追いつけるんじゃないか?
汗を飛ばして突きと蹴りを繰り出すアスルが、何か力を隠して戦っているようにはとても思えないけど。
「クソ! マジで当たんねー! うおおおおおお!!」
焦りなのか単純なのか、息も整えずにがむしゃらに手を出すが、それじゃあ戦いにならない。
「ハア、ハア……」
ほら、急に力を込めて体を動かすから、余計な動きで呼吸が乱れた。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
俺としてはその隙を見逃す手はない。
燃えるように赤い拳が、アスルの顔面を捉えて打ち抜いた。
大きな手応えと同時に、アスルの体が吹っ飛んでいった。
さすがに、これで終わりか?
倒れたままピクリとも動かない。
まさか、死んだわけじゃないよな……。
魔族は死んだらクリスタルだけが残るわけだし。
「油断しない方が良いですよ。アスラフェルくんは、ここからがしつこいですから」
すでに一度戦っているヨミがそう言った。
アスルがよろよろと立ち上がる。
一見すると、その姿からは戦える余力が残ってるようには見えない。
だが、魔力が大きくなっているのを感じた。
いよいよ魔法を使うのか。
どんな魔法を使うつもりなのか、あまり見ている余裕はなさそうだ。
「闇の神と光の神の名において、オレが命ずる! 全部ぶっ壊せ! ダークプリズム!」
アスルを中心に、四方八方へ光と闇のエネルギーのようなものが溢れ出す。
大地を削り、空の雲を裁断する。
攻撃力は確かに高そうだ。
ただ……狙いを付けられないのか、わざわざ避ける必要もなさそうだ。
時折、顔の辺りを掠めそうになるので、首を少し捻る。
近づかなければどうということも……。
「え……おいおい、まさか」
「行くぜ、兄ちゃん。これがオレの全力だ!」
魔法を使ったまま向かってきた。
無論、あの素早さで。
さすがにやばい。
この魔法の特性上、アスルに近づかれると逃げ場がなくなる。
走って距離を取ろうとするが、アスルは魔法を放った反動を利用してさらにスピードを加速させた。
「はあ!」
アスルが右手を上に向かって払うと、その先から飛び出したエネルギーが大地を抉ってこっちに向かってくる。
『チャージアタックツー、マルチプルトリック!』
こちらも瞬間的に速度を爆発させる。
アスルが攻撃したのは、俺の残像だった。
「そっちが、本物か」
気配でも感じられるのか、すぐにアスルは俺のことを見つける。
「次は、逃がさねー!!」
跳び上がると同時に放出したエネルギーが爆発してアスルの体が俺に向かってくる。
「受け止めるしかないってことだな――変……身」
『起動コードを認証しました。ネムスギア、キャノンギアフォーム、展開します』
「これで、最後だ!!」
全身をバネにするように、放出するエネルギーごとアスルが体から突っ込んできた。
ドオンという大きな衝撃音が体を駆け巡る。
俺の足が少しだけ地面にめり込み、辺りの大地を吹き飛ばした。
土埃で周りがよく見えないが、キャノンギアのセンサーは魔力をほとんど使い果たして目の前で大の字になっているアスルをしっかり捉えていた。
『バスターキャノンを形成します』
大型の銃を両手で構え、アスルの頭に砲身を突き付ける。
「アキラ! それ以上は!」
ヨミが声を上げる。
「風の神の名において、我が命ずる! 一陣の風よ、全てを巻き込み吹き飛ばしなさい! ゲイルガスト!」
魔法の風によって、俺たちを包み込む土煙が全て吹き飛ばされた。
アスルはこの光景をその目で見る前に、すでに敗北を確信していたようだった。
やけにすっきりした表情で爽やかに笑っている。
「へへへ……やっぱり兄ちゃんはつえーな。さっきの攻撃は結構姉ちゃんを追い詰めたんだけどな……」
「いや、俺も結構危なかったぜ」
俺は倒れ込んだアスルと握手をして立ち上がらせた。
変身を解除して、アスルの頭を撫でようとしたら――。
「アキラ殿! これは一体何の騒ぎか!?」
「え!?」
聞き覚えのある怒鳴り声に、俺の体は硬直した。
そう言えば、風の魔法を使ったのって……。
アスルではないよな。勝負が決まった後に、土煙を払うだけの風の魔法を使うことに意味なんてないし。
もちろんヨミでもない。ヨミにはまだ闇の魔法しか使えなかったはずだ。
恐る恐る声の主を探すと、そこにはファルナと王国騎士団の部隊がいた。
ちなみに、王国騎士団は再編されて、騎士が三人と魔道士が二人を一つとした部隊に編成された。
それが二組、ファルナの後ろに控えている。
「王都の外で何者かが暴れていると報告があったから来てみれば……」
「いや、これはその……子供の遊びに付き合っただけっていうか」
「姉ちゃん。何か大人たちがめんどくせー話してっからオレたちはあっちに行こうぜ」
「え? アスラフェルくん、それはさすがに」
「ちょっと待て、アスルは当事者だろうが。しかも、お前の約束のために付き合ってんだぞ」
逃げようとするアスルの腕を掴む。すると、口を尖らせてとんでもないことを口走りやがった。
「え~~……だって、兄ちゃんがこの辺りなら暴れても大丈夫って」
「うわっ! 馬鹿」
アスルの失言を隠すように声を上げたが、
「ア・キ・ラ殿~!!」
怒気を含んだファルナの声は、俺の誤魔化しが無駄に終わったことを悟らせるには十分だった。
「あなた方には今すぐ城に来ていただきます!!」
「え~、めんどくせえ」
「アキラ殿、今その子は何と」
見下ろすファルナの瞳は、魔王の器であるアスルでさえ目を逸らすほど迫力に満ちていた。
まるで犯罪者のように前後を王国騎士団に挟まれて城まで俺たちは連行された。
謁見の間まで行くと、そこには当たり前のようにキャリーが玉座に座っている。
「……アキラ、あなたがなぜここに呼ばれたかわかってる?」
「いやそんなに目くじら立てて怒るようなことか? ちょっと町の外で子供と戯れただけじゃねえか」
「ふうん……戯れただけ、ねえ。ファルナ、あの場所には王国騎士団の部隊を一つ残してきたのよね」
「ああ、当たり前だ」
「それじゃあ、戯れに王国の土地がどうなったのか、よく観察しましょうか」
そう言ってキャリーが玉座の横にあった魔法水晶を使った。
そこに映し出されたのは、さっき俺とアスルが戦った場所。
元は草原だったが、今や見る影もないほど大地がえぐり取られてボコボコだった。
特に、アスルが最後に放った一撃は、ファイトギアの必殺技にも劣らぬほどの威力だったようで、大きなクレーターが出来ていた。
っていうか、あれだけ文句を言っていたのに、魔法水晶を生中継に使うことが当たり前になってきている。
「あのねえ、アキラ。あの場所は、王都を広げるために整備した場所であって、あなたたちの遊び場ではないのよ」
キャリーの口元は笑っているが、目が全然笑っていない。
これは本気で怒っている。
「申し訳ありませんでした」
こういう時はそれ以外の言葉を放つべきではない。
いやでも、反省していないわけじゃない。
だけどほら、人に被害があったわけじゃないし。
建物だって壊したわけじゃないし。
整備してる土地ならまた整備すれば良いじゃないか。
「……本当に反省してるのかしら」
……う。キャリーは俺のことを信用してくれているが、その弊害か俺の思っていることを見抜くようになってきたな。
「反省してるって。元に戻せばいいなら、整備を手伝うよ」
「魔法も使えないアキラが?」
痛いところを突いてきやがる。
土地の整備にも魔法が使われてるのか。
機械が発達してる世界なら、機械でできることなのに。
この世界じゃそういう意味で俺が役に立てることはなかった。
「じゃあ、どうすればいい」
「そうね……。それじゃ、数日以内に開かれる国際会議に出席しなさい」
「は?」
キャリーの顔から緊張感が取れていた。
「よかったわ。これで、話が進むわ」
「どういうことだよ」
「同盟国以外にも呼びかけてアイレーリスで会議を開きたいと提案したんだけど……先方がその会議にアキラを出席させることを条件にしてきたのよ」
「どうして俺が?」
「それは、やっぱり先方もアキラの活躍を見ていたからでしょ。だけど、この世界の国際会議なんて、冒険者であるアキラにはまったく関係のないことだし、こんなことをギルドに要請しても協力してくれるはずはないし、どうしようか考えていたのよね」
「見世物にされるのはさすがに嫌なんだが」
その結果、貴族連中から妙な疑いを持たれたことを忘れたわけじゃない。
「大丈夫よ、悪いようにはしないから。それに、私としては同盟国の輪を広げたいと思ってるのよ」
そう言ったキャリーの瞳は何だか希望に満ちた輝きをしていた。
アイレーリスの同盟国を増やすことは反対じゃない。
その方が妹の情報も早く手に入るかも知れないし。
そして、きっとこの世界のためにも。
「わかったよ。キャリーのためにピエロにでもなってやるよ」
今の俺には断るという選択肢は存在しない。
半ばやけくそ気味に言い放った。
「クラース。さっそく各国に連絡を押して頂戴。我がアイレーリス王国の英雄の出席を取りつけたって」
「はい、畏まりました」
それだけ言うと、クラースは謁見の間から姿を消した。
「日程が決まったら伝えるから、大人しく客間にいて頂戴」
最後にもう一度だけ含みのある言い方をして、俺たちを一睨みしてからキャリーも謁見の間を後にした。
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昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
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ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
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突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
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追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
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掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
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王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
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追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
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【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
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