世界を救った変身ヒーローだったのに、人類に危険視されて異世界へ追放されたのだが

天地海

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変身ヒーローと異世界の国々

グライオフ王国とメリディア王国

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「あら、ギデオルト国王陛下の金魚のフンも一緒にいたのですか? 小物過ぎて私の視界には入りませんでしたわ」
「な、何だと……貴様……」
「貴様? 国家の政務を担う大臣ともあろう者が、他国の女王に対して使う言葉ですか?」
「我らを金魚のフンだと愚弄したのは貴様の方が先だろう!」
「あらあら、と言うことはご自分たちが金魚のフンであるとお認めになると言うことですのね」
「馬鹿にしおって……」
 魔法水晶越しにケンカするのは止めてもらいたいんだが、それを持っているヨミがいたたまれないような表情をしている。
 さすがにレスコバーもどう間に入ったらいいものか困っている様子だった。
 相手が女王じゃ、下手なことは言えないだろうし。
「アキラくん。グライオフの方々は非協力的なようですから、我が国にいらしてください。こちらに魔族が来たら共に迎え撃ちましょう」
「おいおい、それはつまりグライオフの人間が襲われても構わないってことか?」
「そちらの大臣が協力はいらないとおっしゃってますわ」
 俺も確かにこいつらにはムカついてるけど、チラリとユッカを見る。
 馬鹿な側近たちのせいで、国民が犠牲になるのを黙って見てるってわけにもいかないだろ。
 そのユッカの視線はギデオルトに注がれていた。
 何かもの言いたげだが、諦めてもいるような表情。
「……まあ、アキラくんがそれで非情な決断をするような男だったら、私も興味は持たないのですけど」
「試すような言葉には聞こえなかったけどな」
「私が聞きたいのはギデオルト国王陛下の気持ちです。いつまで黙っているおつもりですか?」
「わ、私ですか……?」
 急にオロオロし始めた。おまけに口調まで変わっている。
 キャリーのように王としての威厳を表すためにあえてそうしたというわけではなさそうだ。
 何しろ、今の姿の方が自信なさげで情けない雰囲気だった。
 ……もしかして、ギデオルトってものすごい内弁慶なんじゃ……。
 そう言えば、国際会議の席上でも常に扇子で顔を隠していたし、人見知りも激しそうだった。
 俺たちに対して強い態度でいられたのは、ここがギデオルトの城だからか。
 ルトヴィナが相手だと同じ条件でも立場が違うから内弁慶は発揮できないってことだろう。
「レ、レスコバーはどう思う?」
「私はもちろん――」
「レスコバーさんを頼らないでください。私はギデオルト国王陛下の決断が聞きたいのです」
「う……」
 ギデオルトはいよいよ追い詰められたような表情をしていた。
「国王陛下お断りください。メリディアの力を借りるくらいなら、多少被害が出ても我々だけで対処するべきです」
「そうです。あのような女に借りを作るなど……後でどのような要求をされるかわかったものではありませんぞ」
 助け船を出すと言うより、側近たちは自分たちのことしか考えていないようだ。
 この場にはユッカという国民もいるのに、被害が出てもいいと言うなど、大臣失格だろ。
「お黙りなさい! あなた方に意見は求めておりません!」
「見てください、この女は男を立てることを知りません。だからこのような年になってもまだ結婚相手が決まらないのです」
「そうだ。行き遅れのヒステリーに構うとろくなことになりません」
 さすがにそれはいいすぎだろ。
 ルトヴィナの表情が怒っているように見えないことが、逆に怖いんだけど。
「アキラくん。やはり、一度私の国へ来ていただけませんか?」
「グライオフを放っておくってことか?」
 冷静にしているように見えたが、やっぱり怒ってるのか。
 まあ、大臣たちの発言はそれも当然だと言わざるを得ないが。
「いいえ、飛翔船なら一日もかからずに私の城とグライオフの城を往復できます」
「……往復?」
「ギデオルト国王陛下。お目にかかってお話ししましょう。正式に会談を申し入れます」
「国王陛下と会談だと!?」
「お断りください! 何を企んでいるのか、わかったものじゃない!」
 当たり前だが、側近たちはそう言った。
「さ、アキラくん。私を迎えに来てください」
「え? あの、まだ会談を受け入れるか結論が出ていないみたいだけど」
「構いませんわ」
 ルトヴィナは一方的にそう告げると魔法水晶が暗くなった。
 これじゃ、こっちの意見がどうあっても迎えに行かなければ俺が後で何を言われるか。
 約束のこともあるし、行かないという選択肢はなかった。
「ユッカはここに残っていてくれ。すぐに戻る」
「いいえ、私も一緒に行きます。メリディアの女王陛下に、国民の一人として協力をお願いしたいので」
 ここで待っていてもそれは可能だと思うが、こいつらと一緒の部屋にいたくないのかも知れないな。
 俺たちは結局、全員で飛翔船に乗ってルトヴィナの城へ向かった。
 メリディアの城は確かにグライオフの城から近かった。
 飛翔船で四時間くらい。
 この距離なら馬でも半日もあれば着くだろう。
 メリディアの王都は城を中心に円を描くように広がっていた。
 城の形は、丁度“山”という漢字を彷彿とさせる。
 中央に高い塔のようなものがあり、そこから左右に広がっていて両サイドにも真ん中よりも低めの塔がくっついたよう。
 白を基調としていて、屋根の部分が青い円錐になっていた。
 城の敷地を囲むように堀が掘られているのだが、底が見えるほど透き通った水が流れている。
 まるで水の上に浮かぶ城のように見えた。
 俺たちは揃って甲板から見とれるように城を眺めていたら、ヨミの持っている魔法水晶が緊急の連絡音を鳴らした。
「はい、どちら様でしょうか?」
 ヨミが慌てて答えると、そこにはルトヴィナの姿が映されていた。
「アキラくん、そこにいますか?」
「ああ、飛翔船を町の外に止めるから安心してくれ」
「そうではありません。もう少し城に近づけませんか?」
「城に? 危なくないか?」
「アーヴィンさんの操縦技術なら、問題ありません。城の中央に横付けしていただけると助かります」
 ルトヴィナはまたしても一方的に連絡を切ってしまった。
 これじゃ無視するわけにもいかない。
「……アーヴィン、聞いていたか?」
「はい、城の中央に横付けですね」
 すでに真剣そのものの表情で飛翔船はゆっくり言われた場所へ高度を下げていた。
 そして、中央の塔の辺りまでいくと、バルコニーにルトヴィナの姿が見えた。
「さすがはアーヴィンさん上出来ですわ」
 バルコニーと飛翔船の甲板の間は三メートルくらい。
 ルトヴィナの声も届く距離だった。
 これなら何か木の板でも渡せばすぐに乗り込めるだろうが……。
 そう思っていたら、ルトヴィナがバルコニーに足をかけ始めた。しかも、何やら大きな袋を担いでいる。
「ルトヴィナ!?」
 止める間もなくバルコニーから外に出てくる。
 ……が、空中を散歩でもするかのように優雅な足取りでこちらに向かってきた。
「お待たせしました」
「いや、今空中を歩いた? 空を飛ぶ魔法は人間の間じゃ実用化されていないはずじゃ……」
「飛翔船の技術の応用ですわ。このように、クリスタルに空を飛ぶための魔力を補充しておけば、少しくらいは空中を移動できます」
 そう言って差し出されたクリスタルからはすでに輝きが失われていた。
「もっとも、これもまだ試作段階ですけど。このように数メートルで効果が失われてしまいます。ただ、これがあればヨミさんの能力に頼らなくても、この飛翔船から飛び降りても無傷で着地できますわ」
 俺が戦うときのことを想定しているようだが、魔法道具じゃ使うには魔力が必要だ。
 結局の所もう一人誰か必要だ。
 まあ、少なくともヨミが魔物であるとバレるリスクが減ることは良しとしておくべきか。
「あ、あの! ルトヴィナ女王陛下!」
 意を決したようにユッカが話しかけた。
「……アキラくん、この子は?」
「グライオフの国民。偶然泊まった宿屋でメイドをしていたんだが、家族が被害に遭った」
「そう……それはお悔やみ申し上げます……」
「あ、ありがとうございます。それでその、私はどうしてもルトヴィナ女王陛下に直接お願いしたいことがありまして」
「何でしょう」
「私の国の国王は引きこもりの魔法オタクで、側近も馬鹿な人ばっかりですが、国民を助ける手伝いをしていただきたいのです。あの人たちに任せていたら、罪のない国民が犠牲になるだけです」
「……王というものは、それを支える国民があって成り立ちます。あなた方国民がそのような王と側近の存在を許しているということを忘れてはいけません」
 ルトヴィナは優しく語りかけたが、その内容はとても厳しい話だった。
「……はい、私たちにも責任があると言うことは、わかっています」
「王を否定しろと言うつもりはありませんわ。ですが、王やその側近が間違えたときは、国民がそれを指摘しなければなりません。それがよりよい王国へと導くことになるのです」
「……私は、お願いする相手を間違えていたのですね」
「わかっているなら、それでいいのです。本来であるならばそうするべきですが、今回に限っては緊急ですからユッカさんの行動も間違いではなかったと思いますよ。この短期間にあの方たちが国民の意見を聞いて考えを改めるなど、難しいでしょうし」
 それは同感だ。そんなのを待っていたら魔族に滅ぼされる。
 話がまとまったところで、俺はルトヴィナが持ち込んだ布の袋が気になった。
 まるでサンタクロースが担いでいるような大きな袋にいっぱい何かが詰め込まれている。
「そっちの袋の中身は何だ?」
「あら、おかしなことを言いますね。もちろん、魔族をおびき寄せるためのエサですわ」
「魔法水晶で言っていた作戦のことか、でもあれはグライオフの……特に国王の側近たちが拒絶していた気がしたが」
「ですから、私が直接交渉するのです。もちろん、首を縦に振らせるために」
 ものすごい自信だった。
 ルトヴィナの中ではすでにグライオフと協力して魔族に対処することは決まっているようだった。
 俺たちはまた四時間かけてグライオフの城まで戻った。
 城の入り口ではやはりレスコバーが出迎える。
「ルトヴィナ女王陛下、本日はお忙しい中――」
「レスコバーさん。申し訳ありませんが挨拶は抜きにしましょう。今は一刻を争うときのはずですわ」
「うむ。しかし、一言だけ謝らせていただきたい。我が国の大臣たちが失礼なことを言ってしまって、申し訳なかった」
「レスコバーさんが謝ることではありませんわ。ギデオルト国王陛下はまだあのような者たちとのしがらみが断ち切れていないのですね」
「皆、国王陛下が子供の頃から付き合いのあるものたちばかりですから……無能だとわかっていても、そう簡単には改革できないのですよ。アイレーリスのようなことにならないか、恐れてもいますし。これ以上は話が長くなります。ご案内しましょう」
 一口に王国と言っても、いろいろあるんだと考えさせられた。
 ギデオルトも側近たちが厄介な奴らだとわかってはいるってことか。
 だからといって、俺の中でギデオルトの評価が変わったわけではないが。
 俺たちがレスコバーに案内されたのは会議室ではなかった。
 城の最上階。つまりは謁見の間だった。
 ギデオルトは玉座の前で直立不動の姿勢で緊張しているように見受けられる。
 そこから伸びているカーペットに沿うように側近たちが整列していたが、腕組みをしたり足を前に出したりしていて態度が悪かった。
 ルトヴィナはそんな小さなことには構わずに、ギデオルトの前に出る。
「ギデオルト国王陛下、単刀直入に言います。我が国と協力して魔族を退治します。異論があるのなら私を納得させてください」
 真っ直ぐな瞳を向けられたギデオルトは、言葉に詰まっていた。
 すると、側近たちが声を上げる。
「何と傲慢な」
「これがメリディアのやり方か」
「国王陛下、女が支配する国と共に行動するなどありえません。即刻退去させてください。それとも、この場で捕らえますか? 女王が我らの手の内にあるならば、メリディアも手は出せまい」
 そろそろ殴ってでもあのうるさい口を閉じさせてやろうかと思ったが、ルトヴィナはまったく気にしていなかった。
 いや、ルトヴィナの目にはたぶんあいつらの存在は入っていない。
「ギデオルト国王陛下、あなたのお気持ちを聞くために伺ったのです。キャロラインさんやシャリオットくんを実際に見て、思ったことがあるのでしょう?」
 その視線は一貫してギデオルトにだけ向けられていた。
「……ど、どうしてそれを……」
「私はあなた方よりも年上ですし、国内の権力争いも経験していますから。過去に戦争をしたホルクレストと協力関係を築くことに反対する重鎮の意見を抑えるのはさすがに少しは苦労しました」
「そのようなことが……」
 ギデオルトも驚いていたが、俺も似たような表情をしていたと思う。
 いつも冷静で優雅な姿ばかり見せているから、とてもそんな争いごととは関係ないように思っていた。
 キャリーよりも貫禄があるのは、年齢のせいだけではなかったと言うことか。
「一体どうやってそれを解決させたのです」
「私の直属の部下が不穏な動きを入手してくれたので、泳がせたのですよ。そして、あえて隙を見せたら刺客を送ってくれたので、そいつを捕らえて証言させました。お陰で簡単に処分できました」
「こ、殺したのか?」
 あまりにしれっと言うものだから、つい口を挟んでしまった。
「いいえ。その方のお父様も先々代の王から仕えてくれた方でしたから、さすがにそこまでは。ただ、地方の領主として穏やかな晩年を過ごしていただくように配慮いたしましたわ」
 背筋が凍るほどの微笑み。
 たぶん、地方に飛ばして軟禁状態にしたってことか。
 いつの間にか、ギデオルトの側近たちの声が聞こえなくなっていた。
 見ると、皆揃って青い顔をさせている。
 ルトヴィナはグライオフに来るときにその身一つでやってきた。
 急いでいたからと言うのもあるだろうが、普通に考えたら警備させるための兵士を連れてくる。
 そういう意味ではルトヴィナは無防備で隙だらけだった。
 だが、その姿を晒していると言うことが、ルトヴィナの罠かも知れないと暗示させていた。
 今の彼女に手を出せば、手ひどい反撃を受けることになると側近たちは理解したのだろう。
 グライオフの支配層には、戦うような勇気などないというのは本当のようだ。
 話を聞いただけでびびっているようでは、ルトヴィナの敵ではないだろう。
 ああ、だから彼女の眼中にはなかったのか。
「ギデオルト国王陛下、決断が遅れればそれだけ国民に被害が及ぶ可能性が高まります。今ここで私たちの国と協力するかご決断ください」
 ギデオルトはそこでやっと扇子を仕舞ってルトヴィナに向かい合った。
 俺もようやく彼の素顔をマジマジと見つめる。
 年は二十代後半から三十代前半くらい。童顔で優しげな瞳。全体的に白い肌をしていて儚げで病的な印象すら受ける。
 髪は黒く、さらさらな坊ちゃん刈り。
 背は百七十くらいはあるだろうか。見るからに体重は少なそう。痩せていて線が細い。
 少しだけ眉をつり上げてルトヴィナを真っ直ぐ見つめていた。
 興奮しているのか、頬が赤くなっているように見えた。
「……わ、わかりました。メリディアと協力して魔族の対処にあたります」
「ギデオルト国王陛下……」
 レスコバーの瞳が少し潤んでいる。
 だが、ルトヴィナは真剣な表情のままでまだ何か足りないと訴えていた。
「ギデオルト国王陛下。私に言われたから受け入れるのではなく、あなたのお気持ちが知りたいと言ったはずですわ」
「……私の、気持ち……?」
「ええ、それを教えていただきたいのです。あなたが心から正直になって選択したことが私の心と共有できるのであれば、例え誰があなたの敵になったとしてもご協力いたします。きっと、アキラくんも」
「え? 俺?」
 ルトヴィナの交渉技術はダグルドルドの大統領と同じくらいしたたかだった。
 これはつまり、側近たちに対する牽制と言うより、ほとんど警告……いや、宣戦布告と取られても仕方ないくらいの言い方だ。
 ギデオルトが側近たちにとって気に食わない選択をしたとしても、反発したらルトヴィナや俺を敵に回すことになる。
 フレードリヒ辺りじゃ挑発に乗るだろうが、この国の側近たちにそれだけの気概があるとは思えない。
 取り敢えずは大人しくしているだろう。
「わ、私は……国民を魔族の手から救いたい。ルトヴィナ女王陛下、アキラ殿。国民を救うために協力していただけないか?」
「喜んで協力いたしましょう。ね、アキラくん」
 ルトヴィナはやっと満足したように微笑み、思いきりウィンクをして俺に返事を求める。
「俺は一応最初からそのつもりだからな。そこのそいつらが何を言おうと、人間に害をなす魔族を放っておくことは出来ない」
 俺が側近たちを見ると、彼らは一斉に目を背けていた。
 そして、ルトヴィナはキョトンとした顔で言う。
「あら? アキラくん、その辺りにどなたかいらっしゃるのかしら? ごめんなさい。近頃、年のせいか小さいものを見ることができなくて、老眼鏡でも持ってきた方がよかったかしら」
 ……これは、散々悪口を言われたこと、マジで怒ってるな。
 ギデオルトの側近たちは縮こまるように身を寄せていた。
「そ、そうか。それじゃ、誰もいなかったってことにしておいた方が良いかな」
 と笑いかけることくらいしか出来なかった。
 ギデオルトとレスコバーも同じような表情をさせていた。
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