世界を救った変身ヒーローだったのに、人類に危険視されて異世界へ追放されたのだが

天地海

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変身ヒーローと魔王の息子

帝国の提案

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 カーラとジュリアスの怒号が飛ぶ。
 見かけによらず、相手が大統領でも言うべきことはちゃんと言うんだ、なんて他人事のように思った。
 もちろん、俺にも言いたいことはあるし、キャリーたちも同じだろう。
 ただ、とても口を挟める状況ではなかった。
 何しろ「大統領は国を捨てるつもりですか」やら「馬鹿なことを言うくらいなら黙っていてください」やら。
 他国のことでも聞いているこっちがハラハラしてしまうような言葉で罵倒されている。
 やがて言うことにも疲れたのか、二人とも肩で息をするだけになった。
 言われっぱなしの大統領はまるで意に介していなかった。
「飲み物はあるか? こいつらを落ち着かせたいんだが」
「え、ええ。でしたら私が用意しましょう」
 どこから出したのか、ルトヴィナはポットとガラスのコップをテーブルに置いた。
 コップには氷まで入っている。
「ほぅ。魔法をそのように使うとはな。どうやらルトヴィナ女王は魔法の研究者のようだ」
「間違いではありませんわね」
 そう言いながら紅茶を注いで全員の前にコップを置いた。
「遠慮なくいただく」
 そう言って最初に手を付けたのはレグルス大統領だった。
 この男、飲み物を毒味もさせないで口にするとは。
 仮にもケンカを売っている当事国が出したものなのに。
「うむ。これは美味いな。さすがは女王の入れたお茶だ」
「お褒めにあずかり光栄ですわ。私たちと同盟を結んでいただけるのなら、これくらいのものはいくらでも融通を利かせますよ」
 和平交渉の話はしないはずだったが、ルトヴィナは軽くその話を振った。
 たぶんレグルスの人となりと、俺を認めたことを受けての軌道修正だろうな。
 部下の二人に比べて、話しやすいし表も裏もなさそう。
 与しやすいと判断したのだろう。
 だが――。
「同盟の話ならすでに結論は出ている。俺たちは戦い以外での決着は望まない」
「……なぜですか? アキラのことを認めてくれるのなら、アキラと共に戦った私たちを認めることは出来ませんか?」
 キャリーが食い下がるが、レグルスはやはり何を言っても態度を変えることはなかった。
「俺が認めているのはアキラ殿個人の力だ。お前たちが彼の支配下に置かれているのなら、帝国としても彼を世界の代表として認める。だが、そうではないのだろう」
「そんな、無茶苦茶な話があるわけないでしょう。彼は冒険者なのよ。あなたはアキラを世界の王にしろと言うつもり?」
「王か、確かにその言葉の方が似合っているな。魔王も魔族の中で強い者が到達するものだという話だし、俺たちの世界の王も人間の中で最も強い者がなるべきではないのか?」
 頭の回転が速い理由がわかった。
 頭がいいのではなく、馬鹿なほどに自分の正義とやらを信じている。
 だから考える必要がないんだ。
 レグルスは大真面目にこの話をしている。
 こうなると裏も表もなく駆け引きとも関係ないからむしろ説得するのは無理だ。
 こんな脳まで力に支配されたような人間が、よく帝国のトップにいる。
 俺も個人的にはレグルスのことは嫌いじゃないが、厄介な人であるということは間違いなかった。
「いいか、人間と魔族の戦いは避けられない。その時に仲良しクラブで対抗などできるはずはない。力に対抗できるのは力だけだ。人間の世界を統一できるほどの力を持つものこそが魔族とも渡り合える」
 それが、帝国が世界へ戦争を仕掛ける理由ってことか。
 ようやく帝国が戦争を求める理由が納得できた。
 彼らはというか、レグルスは勝つために戦争を仕掛けているのではない。
 世界で一番強い者に世界を支配させるために戦争を仕掛ける。
 自分たちの勝ち負けにこだわりはないから、相手の戦力にかかわらず戦争を求めている。
 それはある意味、魔王になるために研鑽を続ける魔族に似ている。
 彼らは魔王を目指すことで強くなり、魔王はそれを退けることでさらなる力を得る。
 人間もその論理で魔族と対抗できると考えているのだ。
 まさに脳筋。
 レグルスの思考をそれ以外の言葉で表すことは出来なかった。
「それでは、私たちが手を取り合うには戦い以外には道はないと言うことですか?」
「強き者の下で一つになる気がないなら、戦ってわからせる以外にあるまい」
 これは、今後も和平交渉だけは意味がないだろう。
 俺がそう感じるほど、レグルスは頑なだった。
 クランスとはまた別の意味で強い信念を持って行動している。
 レグルスを説得するのは、それこそ戦って力を証明するしかない。
「そう言うわけだから、アキラ殿。我が国で大統領を目指さないか? 大統領になれば妹の捜索というのも思いのままだぞ」
「ちょっと待ちなさい! アキラを帝国に引き入れるつもり!?」
 さすがにキャリーが本気で抗議した。
 ここまで堂々と俺の力を引き抜こうとするとは思わなかったが、レグルスの中では正しい行動なんだろう。
 強い者が世界を統一するなら、それが誰であろうと構わないのか。
「その前に、俺が帝国に入ることを反対している人が目の前に二人もいるのに、どうやって帝国の大統領になれって言えるんだ? あんた以外の誰も俺のことを認めないだろ」
「ハッハッハッ! 認めるさ。帝国の大統領は戦いによって選ばれる。帝国では三年に一度全ての国民を対象にした闘技大会が行われる。棄権と推薦を認めているから全国民が戦うわけではないが、その大会で優勝したものが大統領として認められると言うことだ。我が国では大統領戦と呼んでいる」
「大統領戦って、選挙じゃなくて戦いで決まるのかよ」
「出身地は問わない。強き者が人間をまとめるなら誰でも構わないからな。だから、アキラ殿も大統領になれる」
 とんでもない制度の国だった。
 ってことは、レグルスもその戦いで優勝したってことか。
「レグルスも相当の実力者なんだな」
「自分で言うのも何だが、今の帝国には俺の地位を脅かすほどの人材がいない。俺は今四大会連続で制覇しているからな。アキラ殿なら、大統領戦も面白くなりそうだ」
 純粋に強い者を求める男の目だった。
 そうやって単純に考えられるのはある意味羨ましい限りだ。
「ちょっとアキラ。まさか、大統領に乗せられるつもりじゃないわよね」
「あのな、俺はキャリーが与えようとした貴族の地位も蹴ったんだぞ。大統領やら世界の王やらに興味はない」
「まあ、そうよね。ごめん、妹さんのことがあるから、なりふり構わず帝国に行くのかと思ったわ」
 妹を捜すためってことにはちょっと興味があったが、さすがにそれくらいの分別は付く。
 今まで俺のために協力してくれたキャリーたちを裏切ってまで自分の目的を優先する気はない。
「レグルス大統領。あんたの提案は面白いと思った部分もあるが、やっぱり俺は人の上に立つガラじゃない。悪いがそういう意味で帝国に入ることはできない」
「そうか……残念だ。では、交渉は決裂。宣戦布告と言うことでいいな」
「は!?」
 いきなり話が飛んだ。
 レグルス大統領の狙いがわから……いや、裏も表もないと考えればレグルス大統領は最初から一貫して戦って決着を付けることを求めている。
 この会談は魔王のことを調べるために求められただけ。
 それ以外の部分は、帝国にとっては全て決定事項だったんだ。
「待ってください。私たちは戦うつもりはありません。今回は和平交渉までするつもりもありません。ただ、アキラの妹の捜索に協力して欲しいだけで……」
 あ、まずい。
 キャリーはいつのまにかレグルスのペースに乗せられている。
 そんなことを言ったら次にレグルスが言うことは想像できる。
「では、やはり戦うしかあるまい。我々にはお前たちの言うことを聞く筋合いはない。情報が欲しければ、戦って奪うがいい」
 予想通り過ぎてわかりやすいのはいいが、こいつはある意味フレードリヒよりも厄介だ。
 キャリーも焦って失態を犯したことに気がついたのか、すぐには答えを返さずに考え込んでいた。
「まあ、そちらもここまで一貫して会談を求めてきたのだから、そう簡単に結論が出せないのもわかっている。だが、魔王が動き出した以上、人間の世界もいつまでも不安定なままではいられない」
「それって何か関連があるのか? あの魔王は伝説の剣に封印されていたし、それが解放されたのも偶然だと思うが」
「俺が危惧しているのはそれだけではない。連合国の一部の国も魔族に襲われたのだろう。我が国も魔族による被害はこのところ増えてきている」
 そう言えば、ダグルドルドのときのことは帝国に報告してあったっけ。
 おまけに、帝国は海を間に挟んではいるが、魔界と隣り合わせ。
 連合国よりも近い分、魔族とも関わることが多いということか。
「……魔界の結界に揺らぎが見られるという話ですね」
 ルトヴィナが話を補足するように説明を付け足した。
「その通り、結界が失われてからでは遅い。できる限り早く人間の世界を統一しておくべきだ。だが、連合国と帝国が全面戦争をするのは確かにあまり得策ではないとも言える」
 初めてレグルスが譲歩するような話をした。
 連合国の戦力も客観的に分析されている。
 認められていると言うよりは、帝国の分析力の高さを誇示しているようだが。
 レグルスの見立てでは全面戦争で一番得をするのは魔族だと言った。
 それには俺たちからも異論はない。
 問題は、その話を踏まえてレグルスが提案してきた内容だった。
「帝国と連合国で国の命運をかけた代表戦を行いたい」
「代表戦?」
 ルールは双方の国で選ばれた代表者を戦わせ、勝敗を決めるというもの。
 戦いにおける細かいルールは帝国の大統領戦に則って行う。
 少しだけ説明するならば、相手を全滅させるか降参させればいいと言うことだった。
「もちろん、国を懸けることになるわけだから、勝敗は戦争の勝敗と同じ意味を持つ」
 これなら、戦争のように多数の被害者を出さずに帝国の納得できる決着を付けられると言うことだった。
 俺もそんなに悪い提案じゃないと思った。
 どの道戦いが避けられないなら、もうそれで決着を付けてしまえばいい。
 連合国が負けて帝国の傘下になったところで、彼らは別に略奪するために世界を統一する気はない。
 あくまでも魔族との戦いに向けて人間の意志を統一させるためなら、キャリーたちの目的とそれほど違いはない。
 手段は真逆だけど。
「ちょっと待って。少し、考えさせてもらってもいい?」
 キャリーはシャリオットとルトヴィナを連れて部屋を出ようとした。
 俺もついていこうとしたら、その場に残るようにいわれた。
 王にしか決められない話か。
 そうなると、提案を呑むって方向に進むかもな。
 連合国の代表となると、ファルナ辺りが選ばれるだろうか。
 戦力的にはちょっと卑怯な気もするがキャリーも参加してもいいんじゃないか。
 その場合、複合戦略魔法一発で相手は全滅だろうが。
 あれを防ぐことのできる人間はそうはいないだろう。
「あ、そうだ。せっかくだから聞いておきたいんだけど、レグルスはギルドマスターのクランスと知り合いだったりするのか?」
「貴様、大統領が敬称で呼んでいるのに、呼び捨てにするつもりか?」
 厳しい視線でジュリアスが睨んできた。カーラも黙っているが視線は同じ。
「そう目くじらを立てるな。彼は我が国のものではないのだから、好きに呼んで構わない」
「はぁ……大統領がそうおっしゃるなら……」
 納得していないのは目を見ればわかるが、それ以上は言わなかった。
 何を言ったところでレグルスは意見を変えることはない。
 今までのやりとりを見ていてそう感じた。
 文句を言いたくなる部下の気持ちもわからなくはない。
「それで、クランスのことだったな。彼もアキラ殿のように修羅場をくぐっているようだったな。戦闘能力も高いが、まだ俺を脅かすほどではない。ただ、彼の構想も俺と似たところがあるし、そこは一目置いているが……詰めが甘い」
「クランスの構想って、ギルドに登録した冒険者が国の垣根を越えて協力関係を結ぶって話か?」
「いいや。彼の構想はギルドの仕事を通じて人間の戦力を引き上げ、階級の高いものが協力し合うことで階級の低い冒険者もまとまるだとか……」
 そんな話、聞いていない。
 だが、ギルドのシステムを考えれば確かにそうだ。
 強い冒険者は階級が上がる。
 それはまるで魔物や魔族に似ている。
 上級冒険者の中でも、より強い者が非公式に伝説級と呼ばれている辺り、魔王と通じるものもある。
 より強い者がギルドで上に行くってところが、レグルスと似た考えってことか。
 クランスとレグルスはお互いに理解する部分もある。
 結局必要なくなってしまったが、帝国の大統領ともアポイントメントが取れる関係だと言うことは証明されたと考えていい。
「アキラ殿、俺からも質問していいか?」
「俺に答えられることならな」
「魔族を倒した方法だ。諜報部隊によると、何やら未知の能力を使うようだが、話に聞くだけではよくわからんのだ」
「だ、大統領! それは国家機密ですから、そんなおいそれと口にされては困ります」
 国防担当のジュリアスが慌ててそう言った。
 気の毒だが、レグルスにそういうことを言うのは意味がないと思う。
「レグルス、さっきの言葉を返すようで悪いが、その情報を欲しがるなら妹の捜索に協力してもらうぞ」
「ハッハッハッ! これは一本取られたな。やはり、アキラ殿は是非とも我が国で大統領を目指してもらいたいものだ」
 こうやって話してると、気さくでいいおっさんなんだよな。
 仲間として協力できたら、楽しそうではある。
 妹のことも重要だけど、レグルスの人柄が俺の心を少しだけ揺さぶったことはキャリーたちには言えないな。
 それから少しして、キャリーたちは戻ってきた。
「結論は出たのかな?」
 楽しげにレグルスは言ったが、キャリーたちの表情は硬い。
「ええ。代表戦の話ですが、お断りします」
「……それでは、連合国は帝国との全面戦争を望むというのか?」
「いいえ。私たちはもう帝国に望むことはありません。わかり合えない国同士で協力しても魔族に対抗するなど不可能でしょう。ですから、お互い別々に魔族と戦いましょう。その戦いに生き残った人の国で人間の世界を再構築すればいい」
 和解でも宣戦布告でもない。
 相互不干渉。それがキャリーたちの出した結論だった。
 あれほど強く世界の協力体制を望んだキャリーにとってそれがどれだけ重い決断か。
 そして、そうなると妹のことが調査できなくなるってことだ。
「だから、アキラも好きにしていいわ。帝国で大統領を目指しても構わない。もし、本当に大統領になったら、その時こそ協力できないか話し合いましょう」
 ……それって、俺に帝国で大統領になれってことか?
 確かにそれなら堂々と帝国には入れるが、敵も増やすような気が……。
 いくら何でも丸投げしすぎだろう。
 でも、他に方法もないか。
「キャロライン女王。あなたは俺と同じくらい頑固なようだ。このようなマネはしたくなかったのだが、仕方ない。連合国の方には魔族に対抗するには世界の統一が必要だと認識してもらう必要がある。ジュリアス、飛行部隊を呼べ」
「はい」
 そういってジュリアスが取り出したのは、掌サイズの魔法水晶。
 俺がルトヴィナから買ったものと似ている。
 何やらボソボソと話をしたかと思ったら、おもむろにレグルスが砦の窓に近づいた。
「あれを見ろ。我々は宣戦布告に応じない国に手を出すことはなかったが、その気になれば世界を制覇することは難しくない」
 俺たちは窓から空を見た。
 そこには飛翔船が五つも浮かんでいる。
「ひ、飛翔船!? それも、あんなに……」
 シャリオットが声を上げた。
「なぜ、手を出さずにいるかわかるか? 雑魚を倒しても強くはなれないと我々自身がよくわかっているからだ。今のお前たちなら、倒すだけの価値はあると思っている。無論、そうなると魔族を利することになるが、このままバラバラに戦っても魔族に負けるのだから、代表戦に応じないのなら全面戦争でも構わない」
 飛翔船には兵士を積める。
 それが五隻もあったら、兵力の量と移動速度的に連合国には分が悪すぎる。
「な、なぜそこまで統一にこだわるのですか……」
 キャリーが言葉を絞り出すようにして聞いた。
「クランスのアドバイスを受けての俺の見立てになるが、これだけの戦力があっても魔族に勝てるという保証がないからだ」
 レグルスが圧倒的な戦力を誇示しても、勝敗の見通しが立てられないというのは、少なからずキャリーたちにショックを与えていた。
 だって、それでは連合国ではどう考えても魔族に勝てないってことだから。
 そして、まだ迷っているキャリーたちの心を後押しするように、レグスルは続けた。
「連合国の代表者には国籍は問わない。ギルドに募集をかけて冒険者を代表者に選んでも構わない」
 それはつまり、俺に参加しろといっていることと同然だった。
 結局、全てはレグルスの思った通りに事が運んでいるようだった。
 キャリーが代表戦を受けると決断をするのに、時間はかからなかった。
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