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変身ヒーローと魔王の息子
ネムスギアの生存本能
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薄れゆく意識の中で、キャノンギアのマスクの中に周囲の映像が送られてくる。
とは言っても、ネムスギアがここまでのダメージを受けるのは初めてだから、その映像も鮮明ではなかった。
「兄ちゃん! しっかりしろよ! 片腕をオレのためにくれたときだって、大丈夫だったじゃないか!」
アスルが泣きながら俺の体を支えていた。
「俺をここまで追い詰めたのはお前らが初めてだ。伝説の勇者たちはその力量を測るために一度交戦を試みたが、まさか人間と魔物や魔族がここまでの力を持っているとはな。俺が封印されている間に、人間も力を付けたのか。いや、確かこの人間は異世界の人間だったか……」
魔王の魔力は最初に見たときよりも半分ほど減っていた。
俺たちの攻撃が無意味ではなかったことは間違いないが、それでも倒すには至らなかっった。
「まあいい。多少予定は狂ったが、まとめて殺してやろう」
魔王が呪文を唱えようとしたら、ヨミが立ち上がって魔王の前に立った。
その足下には何か小瓶が転がっている。
あれは確か、アイレーリスの魔法道具屋でおまけにもらった特別製とか言う魔法聖霊薬じゃ……。
「許しません……。お前は、私の大切な人を傷つけた……」
「何……? 魔物が、人間を守るというのか……?」
ヨミの魔力が限界を超えている。
それが道具の効果なのか、それともヨミの力なのかは判断できなかった。
「ダーククロースアーマー!」
「ディストラクションアビス!」
一瞬の攻防は、魔王の攻撃が届くよりも前にヨミの蹴りが炸裂した。
ヨミはチラリと俺を見ると、そのまま魔王に向かって行く。
俺を戦いに巻き込まないように気を遣ったのだ。
「誰か! 兄ちゃんに回復魔法を使ってくれ!」
アスルが叫ぶと、キャリーやルトヴィナ、レグルスや勇者たちが集まってきた。
「ルトヴィナさん」
「……これほどのダメージでは、私の回復魔法ではあまり……」
キャリーが泣きそうな目で訴えるが、ルトヴィナは唇を噛んだ。
「カーラ、伝説の杖の魔法ならリザレクションが使えるはずだろう」
レグルスがカーラに聞くが、カーラは困ったような表情をさせた。
「ちょっと、こんな時だって言うのに連合国の代表者には回復魔法を使えないなんて言うんじゃないわよね!? 誰のためにアキラが戦ったと思ってるの!?」
キャリーがカーラの胸元を掴んで揺さぶった。
「……ご、ごめんなさい……。そうじゃないのよ。魔王が怖いと思ったときから、伝説の杖が、私に力を貸してくれないの……」
力なくそう言って落ち込んだカーラにキャリーはそれ以上何を言わなかった。
「アイレーリスに戻れば……」
「飛翔船をここに……」
「せめて、それまでの間は私が何とか……」
段々、誰がしゃべってるのかわからなくなってくる。
意識が混濁して、このまま死ぬのか……。
死――。
これが、死ぬと言うこと。
ネムスギアは人間の細胞と同じように死と再生を繰り返す。
だから、個々のナノマシンにとってそれは当たり前のこと。
エネルギーを失ったナノマシンは制御装置を通ることで新たなエネルギーを与えられて活動を再開させる。
魔物や魔族を助けるときに細胞とナノマシンを分け与えたが、その時はAIの計算の下で肉体の維持を前提として行われたものだった。
ネムスギアを展開するためのエネルギーを、生命の維持に使うことで失われた細胞やナノマシンを再生するための時間を確保した。
すでにネムスギアを展開している状態で、失われた細胞やナノマシンを再生するエネルギーを捻出できるのか。
恐怖――。
AIの計算では、不可能だった。
戦いのために使われたエネルギーが多すぎる。
このままではナノマシンで失われた肉体の細胞を代替することは出来ない。
肉体が維持できなければ、それと共に活動している制御装置もいずれ止まる。
それはネムスギアというシステムの完全停止を意味していた。
『肉体の損傷率が限界を超えました。生き残るためにシステムを強制展開させます』
AIがいつもより感情のこもっていない声で冷静に告げた。
何をするつもりなのか。
『起動コードを自動認証しました。ネムスギア、サバイバルギアフォーム、展開します』
名前は聞いたことがあるような気がした。
だが、その姿を見たことはなかった。
その前にデモンを倒してしまったから。
俺の意思とは無関係に俺が立ち上がる。
「あ、アキラ……その、姿は……?」
キャリーが唖然としている。
ルトヴィナや周りのみんなも同じような表情だった。
俺は黒を基調とした鎧に全身が覆われていたが、手を動かすことも足を動かすことも出来ない。
見ることだけ。
失われたはずの左腕は再生していた。
痛みも感じていないから脇腹もたぶん再生しているのだろう。
「混乱しないでください。今、彰の体を動かしているのは私です」
俺の口を使ってネムスギアのAIがしゃべった。
『どういうことだ』
「周囲にあるエネルギー全てを取り込んでナノマシンを一時的に増殖させました。私は死にたくない。そのために彰の身体機能をナノマシンによる制御に変えさせてもらいました」
『ネムスギアが俺の体を使うのか』
「生き残るにはあれを排除するしかありません。ナノマシンの力を制御したままではあれは倒せない。数分で決着を付けます。彰はただ見ていてください」
そう言うと、俺の体は地面を蹴った。
ヨミと魔王が戦っているところへ一足飛びで近づく。
「あ、アキラ!?」
ヨミも俺を見て驚いていた。
「戦って大丈夫なのですか?」
「はっきり言いましょう。今のあなたは魔王に最も近いと言えますが、足手まといです。退いてください」
俺の言葉は脳内にしか届かない。
今までのAIとは関係が逆だった。
だから、俺がヨミの言葉に声を返すことはできなかった。
「……声は、アキラのようですけど……あなたは何者ですか?」
「説明している時間はありません。退かないならば眠っていただきます」
「え……」
『お、おいおい』
まるでファイトギアの時のように一瞬で間合いを詰めてヨミの首の辺りを手刀で突いた。
ヨミは声を上げることも出来ずにその場に崩れ落ちる。
俺は――というか俺の体を使っているネムスギアがヨミの体を支えてその場に寝かせた。
……ややこしい。
「……お前は、この世界の人間ではないと言っていたな……」
「ええ、そうですよ」
「なぜ、魔力を持っている。先ほどまでのお前には魔力はなかったはずだ」
「この世界に存在するエネルギーを全てナノマシンで取り込み、私を動かすためのエネルギーへ変換させているからでしょう。魔力の分析はすでに終えています。魔力そのものをこの世界のもののように使うことは出来ませんが、人間のエネルギーをナノマシンのエネルギーに変換するよりは簡単ですよ」
『だったら、最初からそうしてくれれば良かったんじゃ……』
「彰。これはあくまで緊急処置だと思ってください。説明は魔王を排除して安全が確保できてからにします」
ネムスギアはピシャリとそう言って、それ以上の会話を拒んだ。
俺の体がエネルギーに満ちていることは感じている。
サバイバルギアの能力がどういうものなのかはわからないが、絶対に負けないだろうという確信もある。
それなのに、ネムスギアは焦っていた。
「俺を、排除するだと?」
高速で俺が移動する。
これはやはり、ファイトギアの力。
だが、俺の右手にはマテリアルソードが握られている。
「スペシャルチャージアタック ファイナルスラッシュ」
いきなり必殺技を繰り出した。
魔王の肩から体まで袈裟懸けに斬る。
「グアアア!!」
魔王の体の半分まで斬ったところで剣が止まった。
そして、何だろう。
妙な映像が頭に浮かぶ。
【魔王が左手で魔法を放つ。
体を捻ってそれを躱すが、その時にはすでに魔王の体が再生していて、マテリアルソードが使えない。
その隙を狙うかのように右手からも魔法を撃つ。
ガードをするがネムスギアの一部が破壊されて、魔王と距離を取ることを余儀なくされる】
今の映像は何だ?
「ディストラクションアビス!」
魔王がまるで映像の再生のように左手で魔法を放つ。
体を捻って躱す。
と言うことはすでにマテリアルソードは使えない。
俺の手はもう剣を持ってはいなかった。
その代わりに拳に光が宿る。
これは、まさか――。
「スペシャルチャージアタック、スターライトストライク!」
魔王の体が再生し、右手がこちらに向けられる前に右の拳が魔王の胴体を貫く。
「か、カハッ……馬鹿な……なぜ……」
それは俺も聞きたかった。
そしてまた、妙な映像が見える。
【魔王が攻撃を食らったまま俺の首に手を伸ばす。
魔王の胴体から腕を引き抜いて、それを殴りつけて躱そうとするが、逆に手が掴まれる。
そのまま膝蹴りからの回し蹴りを繰り出す。
どちらも避けることが出来ずにまともに喰らい、ネムスギアの一部にひびが入る】
魔王が俺の首に手を伸ばすより前に、腕を引き抜いた。
これはまるで、予知能力じゃないか。
魔王の行動が手に取るようにわかる。
次の瞬間、すでにバスターキャノンが現れていて、砲口が魔王の体に密着していた。
「スペシャルチャージショット、マキシマムエナジーバスター!」
エネルギーは三発分が装填されて即座に魔王をビームの放射に包み込む。
大地が削り取られ、闘技場の外壁がビームによって吹き飛ぶ。
魔王は射線上に倒れていた。
全身ボロボロで胴体の一部がえぐり取られていた。
「く……こんな、事が……」
魔王はそれでも立ち上がるが見るからに魔力が減っていた。
すでに体の再生が追いつかなくなってきている。
こっちはあれだけエネルギーを使っているのに一向に減る気配がない。
それよりも、どんどんナノマシンが活性化してるような気がする。
【魔王はジリジリと後退し、遂に空へ飛び去る】
魔王がこちらの様子を窺っているときには、バスターキャノンは空に向けられていた。
魔王が逃げようとして空へ飛ぶと同時にトリガーを引く。
飛び上がった瞬間を放射されたビームが撃ち抜いた。
ほんの少し予測がずれたのか、ビームは魔王の体を掠めただけだった。
それでも闘技場の向こうへ落ちてくる。
武器を解除して落ちる魔王の姿を追う。
「兄ちゃん!!」
アスルの声が聞こえてきたが、振り返ることはなかった。
俺の体はもう俺には動かせない。
町の中を人間に紛れて逃げる魔王を追う。
散発的に魔法を撃って足止めをしようとしてくるが、その前に未来を予測する映像が見えてくるので当たるわけがなかった。
だが、魔王の逃げ足は速かった。
こちらの身体能力はファイトギアと同じくらいなのに、距離が中々詰められない。
ダーククロースアーマーを使っているようではなさそうだが、何か身体強化の魔法を使っている。
やがて帝国の首都を抜ける。
荒野を駆け、森を抜ける。
もはや自分が世界のどこにいるかもよくわからない。
ただただ、逃げる魔王を追いかけるマシンになったような気分だった。
逃げ切ることが不可能だと悟ったのか、魔王が足を止めて振り返った。
「ハァ……ハァ……どうしても、この俺と決着を付けるつもりらしいな」
「あなたの生存は私の命を脅かすと認識しました。私が生き残るためには、排除するしかない」
「で、伝説の勇者でもない人間にここまで追い詰められるとは。お前は我が魔族にとって危険な存在だ。差し違えてでも殺す!」
俺はバスターキャノンを構えていた。
「オーバーチャージショット! マキシマムエナジーバスター!」
すでに三発使っているはずなのに、十発分のエネルギーが装填される。
「闇の神の名において、我が命ずる! 全てを原初へ還せ!」
魔王がこちらに両手を向けて構える。その手の先に魔力が集まっているのが見えた。
ナノマシンが太陽のエネルギー、酸素のエネルギー、さらにこの世界の自然に宿る魔力の全てのエネルギーを取り込んでいく。
砲身からエネルギーが溢れる。今にも爆発してしまいそうなエネルギーをナノマシンが増殖することで抑え込んでいた。
「ディストラクションカオス!!」
魔王の両手が爆発したように見えた。
巨大な闇の波動が向かってくる。
俺がトリガーを引くと、それすらもまるごと飲み込むほどのエネルギーのビームが放射される。
発射されたエネルギーの反動が強すぎて、体が後ろに引っ張られていく。
「ああああああああ!!」
ネムスギアが思わず声を出すほど踏ん張るが、それでも抑えることはできなかった。
ビームが爆発を起こす。
ネムスギアのセンサーとカメラが、爆発の中で体がバラバラに吹き飛び粉々になっていく魔王の姿を捉えていた。
バスターキャノンがビームを撃ち尽くして砲口から煙が上がる。
魔王のいた辺りは地表が大きく変型するほど大地が削り取られていた。
ネムスギアは魔王が死んだことを確認するために近づく。
そこには、六角形のシンプルなクリスタルだけが落ちていた。
あれだけの攻撃だったのにもかかわらず、クリスタルは消失しなかった。
それだけ魔王が強かったのだと改めてそう思った。
「時間ギリギリと言ったところでしょうか。これ以上は彰の脳が危険でした」
『何を言ってる』
「説明したいところですが、まずはシステムを強制解除します」
ネムスギアがそう言った次の瞬間、俺の意識は完全に途切れた。
とは言っても、ネムスギアがここまでのダメージを受けるのは初めてだから、その映像も鮮明ではなかった。
「兄ちゃん! しっかりしろよ! 片腕をオレのためにくれたときだって、大丈夫だったじゃないか!」
アスルが泣きながら俺の体を支えていた。
「俺をここまで追い詰めたのはお前らが初めてだ。伝説の勇者たちはその力量を測るために一度交戦を試みたが、まさか人間と魔物や魔族がここまでの力を持っているとはな。俺が封印されている間に、人間も力を付けたのか。いや、確かこの人間は異世界の人間だったか……」
魔王の魔力は最初に見たときよりも半分ほど減っていた。
俺たちの攻撃が無意味ではなかったことは間違いないが、それでも倒すには至らなかっった。
「まあいい。多少予定は狂ったが、まとめて殺してやろう」
魔王が呪文を唱えようとしたら、ヨミが立ち上がって魔王の前に立った。
その足下には何か小瓶が転がっている。
あれは確か、アイレーリスの魔法道具屋でおまけにもらった特別製とか言う魔法聖霊薬じゃ……。
「許しません……。お前は、私の大切な人を傷つけた……」
「何……? 魔物が、人間を守るというのか……?」
ヨミの魔力が限界を超えている。
それが道具の効果なのか、それともヨミの力なのかは判断できなかった。
「ダーククロースアーマー!」
「ディストラクションアビス!」
一瞬の攻防は、魔王の攻撃が届くよりも前にヨミの蹴りが炸裂した。
ヨミはチラリと俺を見ると、そのまま魔王に向かって行く。
俺を戦いに巻き込まないように気を遣ったのだ。
「誰か! 兄ちゃんに回復魔法を使ってくれ!」
アスルが叫ぶと、キャリーやルトヴィナ、レグルスや勇者たちが集まってきた。
「ルトヴィナさん」
「……これほどのダメージでは、私の回復魔法ではあまり……」
キャリーが泣きそうな目で訴えるが、ルトヴィナは唇を噛んだ。
「カーラ、伝説の杖の魔法ならリザレクションが使えるはずだろう」
レグルスがカーラに聞くが、カーラは困ったような表情をさせた。
「ちょっと、こんな時だって言うのに連合国の代表者には回復魔法を使えないなんて言うんじゃないわよね!? 誰のためにアキラが戦ったと思ってるの!?」
キャリーがカーラの胸元を掴んで揺さぶった。
「……ご、ごめんなさい……。そうじゃないのよ。魔王が怖いと思ったときから、伝説の杖が、私に力を貸してくれないの……」
力なくそう言って落ち込んだカーラにキャリーはそれ以上何を言わなかった。
「アイレーリスに戻れば……」
「飛翔船をここに……」
「せめて、それまでの間は私が何とか……」
段々、誰がしゃべってるのかわからなくなってくる。
意識が混濁して、このまま死ぬのか……。
死――。
これが、死ぬと言うこと。
ネムスギアは人間の細胞と同じように死と再生を繰り返す。
だから、個々のナノマシンにとってそれは当たり前のこと。
エネルギーを失ったナノマシンは制御装置を通ることで新たなエネルギーを与えられて活動を再開させる。
魔物や魔族を助けるときに細胞とナノマシンを分け与えたが、その時はAIの計算の下で肉体の維持を前提として行われたものだった。
ネムスギアを展開するためのエネルギーを、生命の維持に使うことで失われた細胞やナノマシンを再生するための時間を確保した。
すでにネムスギアを展開している状態で、失われた細胞やナノマシンを再生するエネルギーを捻出できるのか。
恐怖――。
AIの計算では、不可能だった。
戦いのために使われたエネルギーが多すぎる。
このままではナノマシンで失われた肉体の細胞を代替することは出来ない。
肉体が維持できなければ、それと共に活動している制御装置もいずれ止まる。
それはネムスギアというシステムの完全停止を意味していた。
『肉体の損傷率が限界を超えました。生き残るためにシステムを強制展開させます』
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何をするつもりなのか。
『起動コードを自動認証しました。ネムスギア、サバイバルギアフォーム、展開します』
名前は聞いたことがあるような気がした。
だが、その姿を見たことはなかった。
その前にデモンを倒してしまったから。
俺の意思とは無関係に俺が立ち上がる。
「あ、アキラ……その、姿は……?」
キャリーが唖然としている。
ルトヴィナや周りのみんなも同じような表情だった。
俺は黒を基調とした鎧に全身が覆われていたが、手を動かすことも足を動かすことも出来ない。
見ることだけ。
失われたはずの左腕は再生していた。
痛みも感じていないから脇腹もたぶん再生しているのだろう。
「混乱しないでください。今、彰の体を動かしているのは私です」
俺の口を使ってネムスギアのAIがしゃべった。
『どういうことだ』
「周囲にあるエネルギー全てを取り込んでナノマシンを一時的に増殖させました。私は死にたくない。そのために彰の身体機能をナノマシンによる制御に変えさせてもらいました」
『ネムスギアが俺の体を使うのか』
「生き残るにはあれを排除するしかありません。ナノマシンの力を制御したままではあれは倒せない。数分で決着を付けます。彰はただ見ていてください」
そう言うと、俺の体は地面を蹴った。
ヨミと魔王が戦っているところへ一足飛びで近づく。
「あ、アキラ!?」
ヨミも俺を見て驚いていた。
「戦って大丈夫なのですか?」
「はっきり言いましょう。今のあなたは魔王に最も近いと言えますが、足手まといです。退いてください」
俺の言葉は脳内にしか届かない。
今までのAIとは関係が逆だった。
だから、俺がヨミの言葉に声を返すことはできなかった。
「……声は、アキラのようですけど……あなたは何者ですか?」
「説明している時間はありません。退かないならば眠っていただきます」
「え……」
『お、おいおい』
まるでファイトギアの時のように一瞬で間合いを詰めてヨミの首の辺りを手刀で突いた。
ヨミは声を上げることも出来ずにその場に崩れ落ちる。
俺は――というか俺の体を使っているネムスギアがヨミの体を支えてその場に寝かせた。
……ややこしい。
「……お前は、この世界の人間ではないと言っていたな……」
「ええ、そうですよ」
「なぜ、魔力を持っている。先ほどまでのお前には魔力はなかったはずだ」
「この世界に存在するエネルギーを全てナノマシンで取り込み、私を動かすためのエネルギーへ変換させているからでしょう。魔力の分析はすでに終えています。魔力そのものをこの世界のもののように使うことは出来ませんが、人間のエネルギーをナノマシンのエネルギーに変換するよりは簡単ですよ」
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ネムスギアはピシャリとそう言って、それ以上の会話を拒んだ。
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サバイバルギアの能力がどういうものなのかはわからないが、絶対に負けないだろうという確信もある。
それなのに、ネムスギアは焦っていた。
「俺を、排除するだと?」
高速で俺が移動する。
これはやはり、ファイトギアの力。
だが、俺の右手にはマテリアルソードが握られている。
「スペシャルチャージアタック ファイナルスラッシュ」
いきなり必殺技を繰り出した。
魔王の肩から体まで袈裟懸けに斬る。
「グアアア!!」
魔王の体の半分まで斬ったところで剣が止まった。
そして、何だろう。
妙な映像が頭に浮かぶ。
【魔王が左手で魔法を放つ。
体を捻ってそれを躱すが、その時にはすでに魔王の体が再生していて、マテリアルソードが使えない。
その隙を狙うかのように右手からも魔法を撃つ。
ガードをするがネムスギアの一部が破壊されて、魔王と距離を取ることを余儀なくされる】
今の映像は何だ?
「ディストラクションアビス!」
魔王がまるで映像の再生のように左手で魔法を放つ。
体を捻って躱す。
と言うことはすでにマテリアルソードは使えない。
俺の手はもう剣を持ってはいなかった。
その代わりに拳に光が宿る。
これは、まさか――。
「スペシャルチャージアタック、スターライトストライク!」
魔王の体が再生し、右手がこちらに向けられる前に右の拳が魔王の胴体を貫く。
「か、カハッ……馬鹿な……なぜ……」
それは俺も聞きたかった。
そしてまた、妙な映像が見える。
【魔王が攻撃を食らったまま俺の首に手を伸ばす。
魔王の胴体から腕を引き抜いて、それを殴りつけて躱そうとするが、逆に手が掴まれる。
そのまま膝蹴りからの回し蹴りを繰り出す。
どちらも避けることが出来ずにまともに喰らい、ネムスギアの一部にひびが入る】
魔王が俺の首に手を伸ばすより前に、腕を引き抜いた。
これはまるで、予知能力じゃないか。
魔王の行動が手に取るようにわかる。
次の瞬間、すでにバスターキャノンが現れていて、砲口が魔王の体に密着していた。
「スペシャルチャージショット、マキシマムエナジーバスター!」
エネルギーは三発分が装填されて即座に魔王をビームの放射に包み込む。
大地が削り取られ、闘技場の外壁がビームによって吹き飛ぶ。
魔王は射線上に倒れていた。
全身ボロボロで胴体の一部がえぐり取られていた。
「く……こんな、事が……」
魔王はそれでも立ち上がるが見るからに魔力が減っていた。
すでに体の再生が追いつかなくなってきている。
こっちはあれだけエネルギーを使っているのに一向に減る気配がない。
それよりも、どんどんナノマシンが活性化してるような気がする。
【魔王はジリジリと後退し、遂に空へ飛び去る】
魔王がこちらの様子を窺っているときには、バスターキャノンは空に向けられていた。
魔王が逃げようとして空へ飛ぶと同時にトリガーを引く。
飛び上がった瞬間を放射されたビームが撃ち抜いた。
ほんの少し予測がずれたのか、ビームは魔王の体を掠めただけだった。
それでも闘技場の向こうへ落ちてくる。
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「で、伝説の勇者でもない人間にここまで追い詰められるとは。お前は我が魔族にとって危険な存在だ。差し違えてでも殺す!」
俺はバスターキャノンを構えていた。
「オーバーチャージショット! マキシマムエナジーバスター!」
すでに三発使っているはずなのに、十発分のエネルギーが装填される。
「闇の神の名において、我が命ずる! 全てを原初へ還せ!」
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ナノマシンが太陽のエネルギー、酸素のエネルギー、さらにこの世界の自然に宿る魔力の全てのエネルギーを取り込んでいく。
砲身からエネルギーが溢れる。今にも爆発してしまいそうなエネルギーをナノマシンが増殖することで抑え込んでいた。
「ディストラクションカオス!!」
魔王の両手が爆発したように見えた。
巨大な闇の波動が向かってくる。
俺がトリガーを引くと、それすらもまるごと飲み込むほどのエネルギーのビームが放射される。
発射されたエネルギーの反動が強すぎて、体が後ろに引っ張られていく。
「ああああああああ!!」
ネムスギアが思わず声を出すほど踏ん張るが、それでも抑えることはできなかった。
ビームが爆発を起こす。
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バスターキャノンがビームを撃ち尽くして砲口から煙が上がる。
魔王のいた辺りは地表が大きく変型するほど大地が削り取られていた。
ネムスギアは魔王が死んだことを確認するために近づく。
そこには、六角形のシンプルなクリスタルだけが落ちていた。
あれだけの攻撃だったのにもかかわらず、クリスタルは消失しなかった。
それだけ魔王が強かったのだと改めてそう思った。
「時間ギリギリと言ったところでしょうか。これ以上は彰の脳が危険でした」
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過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
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