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変身ヒーローと魔界の覇権
限界の攻防
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地面を蹴ってヴィルギールが向かってくる。
魔力を取り込んだだけで、身体能力も上がるのか。
それまでとは動きの切れが違った。
しかし、その動きならファイトギアでもまだ対応できる。
ヴィルギールの攻撃はどれも素人のようだった。
力任せにパンチやキックを振り回すだけ。
当たればそれなりにダメージはありそうだが、避けるのは難しくない。
問題は――。
後どれくらいハイパーユニオンギアが使えるのか。
『一分半を切りました。早期決着を』
焦っているように聞こえるのは、俺がそう思っているからか。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
ヴィルギールが大きく振り回したパンチをスウェーで躱し、がら空きになったボディに燃え上がるような拳を叩き込む。
「ぐっ……!」
一瞬顔を歪めたが、構わず攻撃を繰り返してきた。
こいつ、防御力も上がっている。
ヴィルギールの攻撃はまったく当たらず、こちらの攻撃は面白いように当たるが、一歩も引かない。
逆にダメージを与えているはずの俺の方が徐々に下がっていくのがわかる。
必殺技を使えば、ダメージを負わせることは可能だと思うが、さすがのこいつもそう簡単には喰らってはくれないだろう。
ハイパーユニオンギアの特性としてエネルギーの供給は無限でも、必殺技を使えば一時的に減る。
さっきよりも大きいエネルギーを一度にぶつけるには、ヴィルギールに隙を作り、エネルギーを溜める必要があった。
ハイパーユニオンギアは良くも悪くも短期決戦に特化しすぎていた。
長く戦うためのものではない。
『マテリアルソード、バスターキャノンを形成します』
左手に現れた剣を振るう。
傷つけるためではなく、ヴィルギールのパンチを逸らすため。
『チャージショットワン、エレメントバスター!』
バランスを崩して倒れそうになった先には、バスターキヤノンの砲身が待っている。
発射された極太のビームに押され、そのままビームに引きずられるようにして後ろに大きく下がった。
足で踏ん張っていた跡が地面に残る。
ビームに全身を焼かれたはずなのに、ボロボロなのは服だけだった。
防御魔法ではない。
魔力による肉体の回復力が著しく高まっている。
魔王二人分の力も伊達ではないらしいな。
『感心している場合ではありません。残り一分を切りました』
「わかってるよ。だからこうして無理矢理距離を取ったんだろ」
マテリアルソードを捨ててバスターキャノンを両手で構える。
ロックオンも完了。
これでもうヴィルギールが俺のファイトギア並みのスピードで動いても躱すことは出来ない。
『オーバーチャージブレイク、スターライトバスター』
砲身そのものが輝き出す。
セットした砲弾のエネルギーが強すぎて溢れ出ている。
トリガーを引くとバスターキャノンの砲身から巨大な光の球が発射される。
大きなエネルギーを発した余波で、バスターキャノンを支えることも出来ず、まるで万歳をするかのように姿勢になった。
砲身の先は空を向いているが、光の球は流れ星のような尾を残しながらすでにヴィルギールに迫っていた。
光にも近い速さで放たれたその光の球を避ける方法は俺にすらない。
ヴィルギールは防御する間もなく、光の球が直撃して爆発した。
さっきの必殺技ですでに辺りの木々は薙ぎ倒されていたが、今度の爆発はさらに大きなエネルギーの余波を周囲に与える。
俺自身がその圧力に押された。
足を踏ん張って何とか耐えているが、ハイパーユニオンギアを使っていてもこれだけの影響があると言うことは、木々や大地はひとたまりもないだろう。
もちろん、それの直撃を受けたヴィルギールも無事では済まないはずだ。
大きなエネルギーをあまりインターバルを置かずに二回も使ったからか、あるいは破壊力の余波の影響か。
キャノンギアのセンサーはどれも正常に動いてはいなかった。
ヴィルギールがどうなっているのか、肉眼で確認しなければならない。
……あまり悠長に待ってはいられない。
そう思ったので、未だ土煙の上がっている着弾地点の中に入り込んだ。
そこにも巨大なクレータのような穴が出来ていた。
今回の方が破壊力は高かった。
深さも半径もさっきより大きい。
穴の底に、ヴィルギールが横たわっていた。
体はボロボロで魔力もほとんど残っていない。
これで良く体を維持できている。
『マテリアルソードを形成します』
さすがにもはや技をセットするエネルギーすら残ってはいない。
武器を形成するのが限界くらいだ。
『エネルギーの供給自体は無限ですが、効率的な供給はこのフォームにおける今後の課題ですね』
「仕方ないんじゃないか? 短期決戦で一撃必殺を目指すようなコンセプトなんだから。必殺技を二回も使うことは想定していなかった」
ヴィルギールの横に近づき、剣を構える。
「取り敢えず、これで主流派の魔王は一人片付いたな」
自分に言い聞かせるように剣を振り下ろすと、ヴィルギールの右手が動いて俺の剣を掴んだ。
「!?」
驚きのあまり声も出せない。
「……危なかった……奴の魔力を取り込んでいなければ、さすがに今の一撃は耐えられなかった……」
残りわずかだが、ヴィルギールの魔力は健在だった。
失われたのは、新たに取り込まれた魔王の分だけだ。
ヴィルギールは俺の剣を掴んだまま立ち上がる。
「どうやら、大技は連続で使えないようだな。なら、俺の勝ちだ」
不気味に微笑んだ。
「それは言いすぎだろ。お前の攻撃は俺には届かない。それに、今の攻撃で魔力を失ったお前にトドメを刺すのが難しいとは思えないが」
『あ、彰……要塞から魔族たちが……』
センサーに魔力の反応が映し出される。
俺が作った穴を取り囲むように集まってきていた。
平均的に魔物よりも魔力が高い。
こいつらも魔物のようにまたエサにするつもりなのか?
「ヴィルギール様! 御無事ですか!?」
その声はシャトラスの声だった。
煙が風で自然に晴れていく。
すると、穴の縁に立ってこちらを覗くシャトラスの姿が見えた。
「シャトラスよ。お前は本当に優秀な部下だ。少し下がっていろ。お前の魔力を取り込む気はない」
「はい」
「さあ、お前たちよ。俺の力になれることを喜べ!」
シャトラスを除き、ここに集まっていた十数人の魔族から魔力が流れてヴィルギールに集まっていく。
魔物の時は全て奪い取って殺してしまったが、さすがに魔族は一割くらいは残していた。
それでも魔王の魔力は半分近くまで回復している。
『彰! 時間が!』
俺は今の数秒で得たエネルギーを使う。
『チャージアタックワン、クレセントスラッシュ!』
刃が輝きエネルギーを発する。
そのまま弧を描くように剣を振るうと、剣を握っていたヴィルギールの指が切り落とされた。
「チッ!」
舌打ちをしながらも、ヴィルギールは次の攻撃を受け止めようとガードの姿勢を取る。
剣を両手で持ち、逆側へ薙ぎ払おうとしたところで――。
『高出力エネルギーの負荷に耐えられる限界時間に到達しました。変身を強制解除します』
感情のこもっていない機械的な音声で、AIが無情にもそれを告げた。
マテリアルソードもヴィルギールの胴体をほんの少し切ったところで消失する。
「……何のつもりだ? なぜ、元の姿に戻った?」
こいつらの常識では、ネムスギアのシステムは理解できなかったらしい。
それが不幸中の幸いだったのか。
俺が攻撃を止めた理由をわかっていなかった。
「今日はこれくらいにしておいてやる。次に会った時に決着を付けよう」
口から出任せを並べ立てて、ヴィルギールから離れようとした。
すると、奴は俺の肩に手を伸ばした。
「その必要はない。このままお前を殺す」
はったりと気付いているとかいないとか関係なく、ヴィルギールの瞳には覚悟が見えた。
こいつにとって敗北は死と同じなんだ。
だから、どちらかが死ぬまで戦うことを止めない。
変身できない今の俺に、こいつと戦う手段はない。
まさか、ここで死ぬのか?
ヴィルギールが空いた右手を握って拳を作る。
大きく振りかぶったそれは、生身でも十分見切れそうだった。
だが、喰らったら死ぬかも知れない恐怖心が俺の体を硬直させる。
ガードなんかしても無意味なのに、俺はとっさに両手で顔を守った。
ズシンという重い音が聞こえる。
それなのに、俺の両腕には何も衝撃がこない。
すでに意識すら刈り取られてしまったかというとそうでもない。
恐る恐る前を見たら、俺を守るように光と盾のようなものが現れていた。
「……これは……」
どこかで見たことがある。
防御魔法の一つだ。
「アキラー!!」
空から声と共に、ヨミが降りてきた。
ヨミはそのままヴィルギールの顔にキックを見舞う。
エネルギーを使い果たしたネムスギアのセンサーが気づけないのは仕方がないが、ヴィルギールもヨミが近づいていることに気がついていなかったのか。
思いきり顔面に直撃して、ヴィルギールの体が穴の壁にめり込んだ。
「大丈夫ですか!?」
ヨミはまたあの全身スーツに近い“ダーククロースアーマー”の魔法を使っていた。
この姿の方が強いのは確かだが、体のラインが丸見えで見ていて恥ずかしいんだよな。
あまり直視できずに目を逸らしながら答える。
「ヨミのお陰で助かった。マーシャにも感謝しないといけないな」
どうやって連絡できたのかはわからないが、この場にはマーシャもいる。
穴の上を見上げると、その縁にはやはりマーシャが立っていた。
この状況で防御魔法を的確に使えるのは、彼女しかいないと思った。
「お手柄なのは、アキラの車ですよ」
「あの車が何かしたのか?」
「凄まじい速度で魔王の城の中まで戻ってきたんです。中に乗っていたメリッサさんはぐったりしていましたが、マーシャさんからのメッセージを伝えてくれて……」
あの車が全速力で走ったとしたら、乗っていたメリッサがどれだけ大変な思いをしたのかは想像できる。
「それで助けに来てくれたってわけか」
「はい」
「派手な登場をしてくれたが、いつの間に空を飛ぶ魔法をマスターしたんだ?」
「魔王として覚醒した時に、今まで見た魔法の仕組みが全部わかってしまったというか……。全部が全部使えるわけではないんですが、飛行魔法についてはこのダーククロースアーマーと相性が良いみたいです。同時に使うことでさらなる高速移動が可能になりました」
これは、いよいよファイトギアの高速戦闘にもついてこれそうだな。
「そんなことより、アキラは下がってください。あの魔王はまだ戦うつもりのようです」
ヨミが俺の前に立ち、手で下がるように合図した。
ヨミが見ている方に目をやると、ヴィルギールはすでに壁から脱出して、手首や足首の関節を確かめながらこっちを睨んでいた。
「……お前が新たな魔王……ヨミか?」
「そうですけど、何でしょう」
「本当に人間と共生するつもりか?」
「それが私の夢です」
「人間なんて馬鹿で愚かで自分勝手で救いようのない残酷な生き物だぞ?」
「……確かに、そう言う人間もいるかも知れません。ですが、私が愛するアキラは違います。人間の中にも、私たちを理解して受け止めてくれる人もいます。あなたはなぜそこまで人間を憎むのですか?」
「決まっている。それが本来あるべき魔族の本能だからだ。その内貴様も天使に狙われる。魔王でも天使には勝てない。お前をクロード様に紹介するのはやめだ。どうせ天使に殺される。次に現れた魔王を我々の仲間に加えれば良い」
ヴィルギールは余裕のある笑みを浮かべていたが、一歩下がった。
さっき、俺に向けていたような殺意も感じない。
こいつ、逃げるつもりだ。
人間の俺とは戦う気だったのに、魔力を半分以上減らした状態で魔王と戦うのは嫌なのか。
あいつの覚悟は人間にだけ向けられている。
よほど人間が嫌いだと言うことか。
「ヨミ! そいつ、逃げるぞ!」
俺が叫ぶのとヴィルギールが穴から脱出したのはほとんど同時だった。
しかし、ヨミはヴィルギールの姿を目で追うだけで、攻撃を仕掛けることはなかった。
その場に残されたのは、ヴィルギールに魔力を吸収された魔族が十数人とシャトラスだけ。
「あなた方も、戦うつもりなら容赦はしません! 彼のように逃げるなら今回だけは見逃します! 次に人間を襲ったりした時は、覚悟してください!」
ヨミの叫び声に、集まっていた魔族たちはよろめきながらも這々の体で立ち去っていった。
パチパチと手を叩く音が響く。
一人残されたシャトラスが微笑みを浮かべながら穴の底まで滑り降りてきた。
「お見事です。ヴィルギールをあそこまで追い詰めるとは」
「どういうことか説明してもらえるか?」
「ええ、そのつもりでこの場に残ったのですから」
まるで悪気のない声で、しれっと言った。
「よくもそんなことが――」
ヨミが感情のままシャトラスの襟を掴もうとしたので、俺はヨミの腕を押さえて下ろすように合図を送る。
「こいつの扱いは、話を聞いてからでも良いだろ。目的を聞いても俺が納得できなかった時は、ヨミの好きにして良い」
「……はい……アキラがそう言うなら」
さすがにシャトラスも少しだけ冷や汗をかいていた。
魔王の殺気はそれだけでも、十分にダメージを与えられるものだと感じた。
魔力を取り込んだだけで、身体能力も上がるのか。
それまでとは動きの切れが違った。
しかし、その動きならファイトギアでもまだ対応できる。
ヴィルギールの攻撃はどれも素人のようだった。
力任せにパンチやキックを振り回すだけ。
当たればそれなりにダメージはありそうだが、避けるのは難しくない。
問題は――。
後どれくらいハイパーユニオンギアが使えるのか。
『一分半を切りました。早期決着を』
焦っているように聞こえるのは、俺がそう思っているからか。
『チャージアタックワン、メテオライトブロー!』
ヴィルギールが大きく振り回したパンチをスウェーで躱し、がら空きになったボディに燃え上がるような拳を叩き込む。
「ぐっ……!」
一瞬顔を歪めたが、構わず攻撃を繰り返してきた。
こいつ、防御力も上がっている。
ヴィルギールの攻撃はまったく当たらず、こちらの攻撃は面白いように当たるが、一歩も引かない。
逆にダメージを与えているはずの俺の方が徐々に下がっていくのがわかる。
必殺技を使えば、ダメージを負わせることは可能だと思うが、さすがのこいつもそう簡単には喰らってはくれないだろう。
ハイパーユニオンギアの特性としてエネルギーの供給は無限でも、必殺技を使えば一時的に減る。
さっきよりも大きいエネルギーを一度にぶつけるには、ヴィルギールに隙を作り、エネルギーを溜める必要があった。
ハイパーユニオンギアは良くも悪くも短期決戦に特化しすぎていた。
長く戦うためのものではない。
『マテリアルソード、バスターキャノンを形成します』
左手に現れた剣を振るう。
傷つけるためではなく、ヴィルギールのパンチを逸らすため。
『チャージショットワン、エレメントバスター!』
バランスを崩して倒れそうになった先には、バスターキヤノンの砲身が待っている。
発射された極太のビームに押され、そのままビームに引きずられるようにして後ろに大きく下がった。
足で踏ん張っていた跡が地面に残る。
ビームに全身を焼かれたはずなのに、ボロボロなのは服だけだった。
防御魔法ではない。
魔力による肉体の回復力が著しく高まっている。
魔王二人分の力も伊達ではないらしいな。
『感心している場合ではありません。残り一分を切りました』
「わかってるよ。だからこうして無理矢理距離を取ったんだろ」
マテリアルソードを捨ててバスターキャノンを両手で構える。
ロックオンも完了。
これでもうヴィルギールが俺のファイトギア並みのスピードで動いても躱すことは出来ない。
『オーバーチャージブレイク、スターライトバスター』
砲身そのものが輝き出す。
セットした砲弾のエネルギーが強すぎて溢れ出ている。
トリガーを引くとバスターキャノンの砲身から巨大な光の球が発射される。
大きなエネルギーを発した余波で、バスターキャノンを支えることも出来ず、まるで万歳をするかのように姿勢になった。
砲身の先は空を向いているが、光の球は流れ星のような尾を残しながらすでにヴィルギールに迫っていた。
光にも近い速さで放たれたその光の球を避ける方法は俺にすらない。
ヴィルギールは防御する間もなく、光の球が直撃して爆発した。
さっきの必殺技ですでに辺りの木々は薙ぎ倒されていたが、今度の爆発はさらに大きなエネルギーの余波を周囲に与える。
俺自身がその圧力に押された。
足を踏ん張って何とか耐えているが、ハイパーユニオンギアを使っていてもこれだけの影響があると言うことは、木々や大地はひとたまりもないだろう。
もちろん、それの直撃を受けたヴィルギールも無事では済まないはずだ。
大きなエネルギーをあまりインターバルを置かずに二回も使ったからか、あるいは破壊力の余波の影響か。
キャノンギアのセンサーはどれも正常に動いてはいなかった。
ヴィルギールがどうなっているのか、肉眼で確認しなければならない。
……あまり悠長に待ってはいられない。
そう思ったので、未だ土煙の上がっている着弾地点の中に入り込んだ。
そこにも巨大なクレータのような穴が出来ていた。
今回の方が破壊力は高かった。
深さも半径もさっきより大きい。
穴の底に、ヴィルギールが横たわっていた。
体はボロボロで魔力もほとんど残っていない。
これで良く体を維持できている。
『マテリアルソードを形成します』
さすがにもはや技をセットするエネルギーすら残ってはいない。
武器を形成するのが限界くらいだ。
『エネルギーの供給自体は無限ですが、効率的な供給はこのフォームにおける今後の課題ですね』
「仕方ないんじゃないか? 短期決戦で一撃必殺を目指すようなコンセプトなんだから。必殺技を二回も使うことは想定していなかった」
ヴィルギールの横に近づき、剣を構える。
「取り敢えず、これで主流派の魔王は一人片付いたな」
自分に言い聞かせるように剣を振り下ろすと、ヴィルギールの右手が動いて俺の剣を掴んだ。
「!?」
驚きのあまり声も出せない。
「……危なかった……奴の魔力を取り込んでいなければ、さすがに今の一撃は耐えられなかった……」
残りわずかだが、ヴィルギールの魔力は健在だった。
失われたのは、新たに取り込まれた魔王の分だけだ。
ヴィルギールは俺の剣を掴んだまま立ち上がる。
「どうやら、大技は連続で使えないようだな。なら、俺の勝ちだ」
不気味に微笑んだ。
「それは言いすぎだろ。お前の攻撃は俺には届かない。それに、今の攻撃で魔力を失ったお前にトドメを刺すのが難しいとは思えないが」
『あ、彰……要塞から魔族たちが……』
センサーに魔力の反応が映し出される。
俺が作った穴を取り囲むように集まってきていた。
平均的に魔物よりも魔力が高い。
こいつらも魔物のようにまたエサにするつもりなのか?
「ヴィルギール様! 御無事ですか!?」
その声はシャトラスの声だった。
煙が風で自然に晴れていく。
すると、穴の縁に立ってこちらを覗くシャトラスの姿が見えた。
「シャトラスよ。お前は本当に優秀な部下だ。少し下がっていろ。お前の魔力を取り込む気はない」
「はい」
「さあ、お前たちよ。俺の力になれることを喜べ!」
シャトラスを除き、ここに集まっていた十数人の魔族から魔力が流れてヴィルギールに集まっていく。
魔物の時は全て奪い取って殺してしまったが、さすがに魔族は一割くらいは残していた。
それでも魔王の魔力は半分近くまで回復している。
『彰! 時間が!』
俺は今の数秒で得たエネルギーを使う。
『チャージアタックワン、クレセントスラッシュ!』
刃が輝きエネルギーを発する。
そのまま弧を描くように剣を振るうと、剣を握っていたヴィルギールの指が切り落とされた。
「チッ!」
舌打ちをしながらも、ヴィルギールは次の攻撃を受け止めようとガードの姿勢を取る。
剣を両手で持ち、逆側へ薙ぎ払おうとしたところで――。
『高出力エネルギーの負荷に耐えられる限界時間に到達しました。変身を強制解除します』
感情のこもっていない機械的な音声で、AIが無情にもそれを告げた。
マテリアルソードもヴィルギールの胴体をほんの少し切ったところで消失する。
「……何のつもりだ? なぜ、元の姿に戻った?」
こいつらの常識では、ネムスギアのシステムは理解できなかったらしい。
それが不幸中の幸いだったのか。
俺が攻撃を止めた理由をわかっていなかった。
「今日はこれくらいにしておいてやる。次に会った時に決着を付けよう」
口から出任せを並べ立てて、ヴィルギールから離れようとした。
すると、奴は俺の肩に手を伸ばした。
「その必要はない。このままお前を殺す」
はったりと気付いているとかいないとか関係なく、ヴィルギールの瞳には覚悟が見えた。
こいつにとって敗北は死と同じなんだ。
だから、どちらかが死ぬまで戦うことを止めない。
変身できない今の俺に、こいつと戦う手段はない。
まさか、ここで死ぬのか?
ヴィルギールが空いた右手を握って拳を作る。
大きく振りかぶったそれは、生身でも十分見切れそうだった。
だが、喰らったら死ぬかも知れない恐怖心が俺の体を硬直させる。
ガードなんかしても無意味なのに、俺はとっさに両手で顔を守った。
ズシンという重い音が聞こえる。
それなのに、俺の両腕には何も衝撃がこない。
すでに意識すら刈り取られてしまったかというとそうでもない。
恐る恐る前を見たら、俺を守るように光と盾のようなものが現れていた。
「……これは……」
どこかで見たことがある。
防御魔法の一つだ。
「アキラー!!」
空から声と共に、ヨミが降りてきた。
ヨミはそのままヴィルギールの顔にキックを見舞う。
エネルギーを使い果たしたネムスギアのセンサーが気づけないのは仕方がないが、ヴィルギールもヨミが近づいていることに気がついていなかったのか。
思いきり顔面に直撃して、ヴィルギールの体が穴の壁にめり込んだ。
「大丈夫ですか!?」
ヨミはまたあの全身スーツに近い“ダーククロースアーマー”の魔法を使っていた。
この姿の方が強いのは確かだが、体のラインが丸見えで見ていて恥ずかしいんだよな。
あまり直視できずに目を逸らしながら答える。
「ヨミのお陰で助かった。マーシャにも感謝しないといけないな」
どうやって連絡できたのかはわからないが、この場にはマーシャもいる。
穴の上を見上げると、その縁にはやはりマーシャが立っていた。
この状況で防御魔法を的確に使えるのは、彼女しかいないと思った。
「お手柄なのは、アキラの車ですよ」
「あの車が何かしたのか?」
「凄まじい速度で魔王の城の中まで戻ってきたんです。中に乗っていたメリッサさんはぐったりしていましたが、マーシャさんからのメッセージを伝えてくれて……」
あの車が全速力で走ったとしたら、乗っていたメリッサがどれだけ大変な思いをしたのかは想像できる。
「それで助けに来てくれたってわけか」
「はい」
「派手な登場をしてくれたが、いつの間に空を飛ぶ魔法をマスターしたんだ?」
「魔王として覚醒した時に、今まで見た魔法の仕組みが全部わかってしまったというか……。全部が全部使えるわけではないんですが、飛行魔法についてはこのダーククロースアーマーと相性が良いみたいです。同時に使うことでさらなる高速移動が可能になりました」
これは、いよいよファイトギアの高速戦闘にもついてこれそうだな。
「そんなことより、アキラは下がってください。あの魔王はまだ戦うつもりのようです」
ヨミが俺の前に立ち、手で下がるように合図した。
ヨミが見ている方に目をやると、ヴィルギールはすでに壁から脱出して、手首や足首の関節を確かめながらこっちを睨んでいた。
「……お前が新たな魔王……ヨミか?」
「そうですけど、何でしょう」
「本当に人間と共生するつもりか?」
「それが私の夢です」
「人間なんて馬鹿で愚かで自分勝手で救いようのない残酷な生き物だぞ?」
「……確かに、そう言う人間もいるかも知れません。ですが、私が愛するアキラは違います。人間の中にも、私たちを理解して受け止めてくれる人もいます。あなたはなぜそこまで人間を憎むのですか?」
「決まっている。それが本来あるべき魔族の本能だからだ。その内貴様も天使に狙われる。魔王でも天使には勝てない。お前をクロード様に紹介するのはやめだ。どうせ天使に殺される。次に現れた魔王を我々の仲間に加えれば良い」
ヴィルギールは余裕のある笑みを浮かべていたが、一歩下がった。
さっき、俺に向けていたような殺意も感じない。
こいつ、逃げるつもりだ。
人間の俺とは戦う気だったのに、魔力を半分以上減らした状態で魔王と戦うのは嫌なのか。
あいつの覚悟は人間にだけ向けられている。
よほど人間が嫌いだと言うことか。
「ヨミ! そいつ、逃げるぞ!」
俺が叫ぶのとヴィルギールが穴から脱出したのはほとんど同時だった。
しかし、ヨミはヴィルギールの姿を目で追うだけで、攻撃を仕掛けることはなかった。
その場に残されたのは、ヴィルギールに魔力を吸収された魔族が十数人とシャトラスだけ。
「あなた方も、戦うつもりなら容赦はしません! 彼のように逃げるなら今回だけは見逃します! 次に人間を襲ったりした時は、覚悟してください!」
ヨミの叫び声に、集まっていた魔族たちはよろめきながらも這々の体で立ち去っていった。
パチパチと手を叩く音が響く。
一人残されたシャトラスが微笑みを浮かべながら穴の底まで滑り降りてきた。
「お見事です。ヴィルギールをあそこまで追い詰めるとは」
「どういうことか説明してもらえるか?」
「ええ、そのつもりでこの場に残ったのですから」
まるで悪気のない声で、しれっと言った。
「よくもそんなことが――」
ヨミが感情のままシャトラスの襟を掴もうとしたので、俺はヨミの腕を押さえて下ろすように合図を送る。
「こいつの扱いは、話を聞いてからでも良いだろ。目的を聞いても俺が納得できなかった時は、ヨミの好きにして良い」
「……はい……アキラがそう言うなら」
さすがにシャトラスも少しだけ冷や汗をかいていた。
魔王の殺気はそれだけでも、十分にダメージを与えられるものだと感じた。
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過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
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