偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

佐倉 蘭

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Chapter 1

再会 ④

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「よろしくね、渡辺わたなべ 麻琴です。プロダクトデザインなど商品開発の担当よ。遠慮しないで名字じゃなくて名前で呼んでね。みんなにそう呼んでもらってるから。年齢は聞かないでちょうだい。入社してもう一二年目よ。アラサーなんて言えない歳にさしかかってるの」

   麻琴は、ふふっ、と笑った。

「そんなの自分の方こそです。たぶん、渡辺さん……麻琴さんの一つ歳上です。八木 梢と申します。こちらこそ、よろしくお願いします」

   稍は先ほど山口にした、三〇度のお辞儀をした。

「あらっ、ずいぶん綺麗なお辞儀をするのねぇ」
   山口と違ってちゃんと見てくれた麻琴が、感心して言った。

   ちなみに、山口はもうこちらを完全に無視ってタブレットに専念している。

「前職がサービス業の会社だったので」
「あら、じゃあ、事務関係の書類なんかは苦手?」
「大丈夫です。新卒で入社して以来、ずっと事務職をやってましたんで」

「そうなんだ、よかった」
   麻琴はホッとした表情を見せた。

   それがまた、同性の稍の目から見てすら、愛らしい。綺麗なのにかわいらしい人だ。


   もう一人のメンバーもやってきた。

   生成りのコットンニットにベージュのチノパン姿のその人は、山口と同じくさわやかイケメン系ではあるが、年齢が少し上で、さらに左手薬指にプラチナのシンプルな指輪があるため、落ち着いて見える。

「サブリーダーの石井いしい 大貴ひろきです。このチームではできあがった商品の販促を担当してるんだ。どうぞ、よろしく」

「石井くんはこう見えて社長の従弟いとこでね、親会社の創業者一族よ」

「……どう『見えて』だよ」
   石井が麻琴をじろりと睨む。

   二人は同期入社の同い年だった。

「あ、でもね、このチームでは唯一の妻子持ちなのよ。入社一年目で、大学時代からつき合ってた一つ歳上のお金持ちのお嬢さまと結婚したの。十歳になる男の子がいるパパよ」
   いきなり「個人情報」がタダ漏れだ。

   石井が、少し癖のあるダークブラウンの髪をくしゃっと掻き上げて「麻琴ちゃん、おしゃべりだな」と呆れたように、はぁっ、とため息をつく。

「八木 梢です。よろしくお願いします」
   自己紹介も三人目になると、簡素になってきた。

——妻子持ちだし。

「……あとは、チームリーダーね。今、ミーティングルームで課長と打ち合わせしてるから、ちょうどいいわ。課長にも紹介してあげる。突撃しましょう」
   麻琴はこともなげに言った。


「えっ、いいのかな?」と思いつつも、稍は麻琴の後に続いてミーティングルームへ向かう。

   麻琴がコンコンコン、と三回ノックした。
   中から低音のよく響く声で「はい、どうぞ」と返事がある。

   麻琴は一切の躊躇なく、ドアを開けた。

魚住うおずみ課長、今日からうちのチームに配属された派遣さんです」

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