それからの日々

佐倉 蘭

文字の大きさ
6 / 10
それからの日々

しおりを挟む

   洋史の妻は当時、大手百貨店で催事場の衣料品アパレル部門で買い付けバイヤーの仕事をしており、全国を飛び回っていた。

   中間管理職として部下を率いる身では、「子どもがいるから」という理由なんかでは定時に帰れないし、彼女自身もそんなことくらいで帰りたくなかった。

   部下の中には、自分よりも学歴の高い男性社員がいる。「だから、子どものいる女は……」とは、絶対に言われたくなかった。
   百貨店デパートは女性社員が圧倒的に多い職場だが、管理する側の役職のある人間は圧倒的に男なのだ。

   だが、男女雇用機会均等法が施行されて数年が経ち、百貨店内社内がようやく女が男と肩を並べられる仕事ができるかもしれない空気になってきた。

   幸いなことに、息子はもう小学生になっていた。

『おかあさんなぁ、忙しくて夕飯の時間に帰って来られへんのよ。おとうさんも、研究所に篭ったらなかなか帰って来はらへんし。せやから……悪いけど、ほか弁でも買って食べててくれへん?お金は渡しとくから』

   彼女は息子の前で手を合わせた。

『頼むわ……お願い、智史。「もう小学生」やねんから、できるやろ?』


   洋史の息子は、みどりの上の娘と同じ学年で同じクラスだった。
   母親同士が親しくしていたこともあって、二人は建売住宅の同じ並びに住む互いの家を、まるで我が家のように行き来していた。

   だが、みどりがリビングの奥のダイニングキッチンで夕飯の支度をしていると、
『……お邪魔しました』 
   そう言って、彼は家に帰ろうとした。

『さとくんっ、帰ったらあかんっ!』
   娘が、必死の形相で引き留めた。

『うちで一緒に晩ごはん食べよ?どうせ独りで食べるからって、またコンビニのおにぎりとかパンとかで済ませようって思っとうやろ?』

『智史くん……まさか、いつも晩ごはんにそんなん食べてるの?』

   びっくりしたみどりが、ボールの中で挽肉を捏ねていた手を止めて尋ねた。

『別に……なに食べても一緒やから』

   みどりは膨らんだお腹を撫でた。この秋に生まれる予定だ。
   医者から聞いたところによると、今度も女の子のようだ。


   目の前の子どもたち、どちらにとっても……

——「妹」になる。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...