きみは運命の人

佐倉 蘭

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きみは運命の人

§ 6 ③

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「……ふうん、そうか。ほな、ややちゃんの『嘱託』の件も含めて、そのへんのことを同期の人事課長に聞いて、おれからも人事部長に掛け合ってやってもええけど……」

   なぜか「和哉」がなんだか黒い笑みを浮かべている。

「なんですか?」

   智史の今までの「経験」において、こんな表情の和哉には悪い予感しかない。

「一つ、『条件』がある」

   和哉が黒い笑みを深めた。

「おまえがそれさえ受けてくれたら、喜んでやってやる。しかも、ややちゃんに……内緒で」

——稍に『内緒で』って?

「とにかく、突然すぎるのが気になるんや。おまえ、ややちゃんとの結婚までの経緯いきさつを全然しゃべらへんしな」

   さすがの智史も返答に窮する。

「どうせ、腹黒いおまえのことや。なんか企んでるんとちゃうんか?ほんで、それをややちゃんには知られへん方が、都合がええねやろ?」

   和哉は腕を組んで、どや?と智史を見る。智史の目に、怪訝な色が走った。

「そう身構えるな。おれは、おまえには『しあわせな結婚』をしてほしいだけや。せやから……」

   そう言って、和哉は智史を見据えた。

「……おまえが『運命の相手に逢わせてあげます』のサイトに登録するのが、その条件や」

——やっぱり、この人は苦手だ。

「ややちゃんと結婚するのは、その『運命の相手』にうてからにしてくれ」


   智史は観念した。

   テーパードパンツのポケットから私用のスマホを取り出す。そして、無言のまましばらくタップやらフリックやらスワイプやらを繰り返した。

   その後、そのスマホを、まるで黄門様の印籠のように和哉に向けてかざす。
   ディスプレイには【登録が完了しました】と表示されていた。

   和哉は満足げに深く肯いた。


「ところで……」

   用事が終わったので、チェアから立ち上がった智史に、和哉がなおも声をかける。

「……まだ、なにか?」
   智史はまだ座ったままの和哉を見る。だが、いつまでもこんなことをしていられない。

   今、山口は外回りでMD課にはいないはずだが、いつ帰ってきて「八木」にまた雑用を押しつけるかしれやしないのだ。

   一度は釘を刺してやったが、根っからの営業マンの彼はちょっとやそっとでは諦めない。
   そういう山口の粘り強さを買って、智史は営業部から自分のチームにスカウトしてきたのだが……

「おまえ、美咲にチクろうとしていた『あのこと』ってなんや?」

   和哉の問いかけに、智史は「は?」と片眉を上げる。

「この間からずーっと考えてるんやけど、さっぱりわからへんねや」
   和哉の眉間には深ーくシワが寄っていた。

「そうですか。ほな……」

   智史は片方の口角を上げる。

「おれが『運命の相手』とやらに逢えたときに、和哉さんに教えてあげますよ」

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