15 / 28
きみは運命の人
§ 6 ③
しおりを挟む「……ふうん、そうか。ほな、ややちゃんの『嘱託』の件も含めて、そのへんのことを同期の人事課長に聞いて、おれからも人事部長に掛け合ってやってもええけど……」
なぜか「和哉」がなんだか黒い笑みを浮かべている。
「なんですか?」
智史の今までの「経験」において、こんな表情の和哉には悪い予感しかない。
「一つ、『条件』がある」
和哉が黒い笑みを深めた。
「おまえがそれさえ受けてくれたら、喜んでやってやる。しかも、ややちゃんに……内緒で」
——稍に『内緒で』って?
「とにかく、突然すぎるのが気になるんや。おまえ、ややちゃんとの結婚までの経緯を全然しゃべらへんしな」
さすがの智史も返答に窮する。
「どうせ、腹黒いおまえのことや。なんか企んでるんとちゃうんか?ほんで、それをややちゃんには知られへん方が、都合がええねやろ?」
和哉は腕を組んで、どや?と智史を見る。智史の目に、怪訝な色が走った。
「そう身構えるな。おれは、おまえには『しあわせな結婚』をしてほしいだけや。せやから……」
そう言って、和哉は智史を見据えた。
「……おまえが『運命の相手に逢わせてあげます』のサイトに登録するのが、その条件や」
——やっぱり、この人は苦手だ。
「ややちゃんと結婚するのは、その『運命の相手』に逢うてからにしてくれ」
智史は観念した。
テーパードパンツのポケットから私用のスマホを取り出す。そして、無言のまましばらくタップやらフリックやらスワイプやらを繰り返した。
その後、そのスマホを、まるで黄門様の印籠のように和哉に向けてかざす。
ディスプレイには【登録が完了しました】と表示されていた。
和哉は満足げに深く肯いた。
「ところで……」
用事が終わったので、チェアから立ち上がった智史に、和哉がなおも声をかける。
「……まだ、なにか?」
智史はまだ座ったままの和哉を見る。だが、いつまでもこんなことをしていられない。
今、山口は外回りでMD課にはいないはずだが、いつ帰ってきて「八木」にまた雑用を押しつけるかしれやしないのだ。
一度は釘を刺してやったが、根っからの営業マンの彼はちょっとやそっとでは諦めない。
そういう山口の粘り強さを買って、智史は営業部から自分のチームにスカウトしてきたのだが……
「おまえ、美咲にチクろうとしていた『あのこと』ってなんや?」
和哉の問いかけに、智史は「は?」と片眉を上げる。
「この間からずーっと考えてるんやけど、さっぱりわからへんねや」
和哉の眉間には深ーくシワが寄っていた。
「そうですか。ほな……」
智史は片方の口角を上げる。
「おれが『運命の相手』とやらに逢えたときに、和哉さんに教えてあげますよ」
1
あなたにおすすめの小説
2月31日 ~少しずれている世界~
希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった
4年に一度やってくる2月29日の誕生日。
日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。
でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。
私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。
翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。
隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話
紫ゆかり
恋愛
オムニバス形式です。
理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。
大人の女性のストーリーです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ
月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。
泣くのも違う。怒るのも違う。
ただ静かに消えよう。
そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。
画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。
相手に気付かれた? 見られた?
「未練ある」って思われる!?
恐怖でブロックボタンを連打した夜。
カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる