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きみは運命の人
§ 7 ②
しおりを挟む智史は、親友がいる華丸百貨店でメジャーメイドしたスリーピースを着用していた。
自分の体型に合った型紙を選んでのオーダーとはいえ、エリザベス女王や歴代の英国首相も御用達の、ロンドンのサヴィル・ロウに店を構える老舗、ヘ◯リー・プールのものだ。
生地の方も同じく老舗のサヴィル・クリフ◯ードのもので、このスーツはそれらのダブルネームによって仕立てられた。
数あるダークグレー系のスーツの中でも、智史にとってこのスーツは「ここぞ」というときの「勝負服」である。
一応めでたい席なので、ポケットチーフはネクタイと同色の明るいミントグリーンにした。
——みっともない。
智史は「物色中」の山口を見て、顔を顰めた。彼はチームでは最年少ではあるが、もう三〇の声を聞くという年齢なのに。
しかし……こんなふうに智史の機嫌が超絶に悪いのには、ほかに理由があった。
——この大勢の中から、どうやっておれの「運命の相手」とやらを判れっちゅうねんっ⁉︎
和哉によると、『それが不思議なことに、逢うたら、すぐにわかる』ということなのだが……
和哉はもちろん、彼の親友の新田もそうであったらしい。
だが、たとえ、逢えたとしても……
その『相手』は——稍ではないのだ。
昨日、麻琴が改めて「八木」に尋ねたところ、『すいません、ちょっと用事があって……』と、答えたらしい。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
やがて、「獲物」を見つけたのか、山口の視線が定まった。
智史は見るともなしに、山口の視線の先を追った。
ミントグリーンのカクテルドレスを着た女に、山口の目が釘付けになっている。
セミロングのエキゾチックな黒髪。ヒールを履いて一七〇センチほどある身長。ぱっくり開いた背中からちらりと覗く「天使の羽」の肩甲骨に、きれいに筋肉のついたカモシカのような脚……確かに、いいオンナだった。
そのとき、後ろ姿だった彼女が振り向いた。
すると、「八木」ではない—— まさしく「稍」がそこにいた。
リムレスの眼鏡の奥にある智史の目が、めいっぱい見開かれた。
——やっと……「稍」に逢えた……
四月から毎日同じ職場で働いてきた「八木」とは違う「稍」が、とうとう姿を現したのだ。
おそらく、このパーティには「稍」として「出席」するため、「八木」の方は「欠席」するようにしたのであろう。
社内では血も涙もない冷血漢の鉄仮面だと揶揄される智史に、心の底から熱いものが込み上がってきた。
——おれの……『運命の相手』や。
智史には、わかった。
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