真実(まこと)の愛

佐倉 蘭

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Chapter 2

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   麻琴はそう言われて思わず肩をすくめた。
   どうやら「現実逃避」してしまったのはバレバレみたいだ。

「あの……松波先生……わたし……」
   麻琴が言いかけると、
Sorry.悪いけど
   松波から遮られた。

「“I’ve cared about you indeed,but…〈確かにあなたのことは大事には思ってるけど、でも…〉”っていう返事だったら……まだ、きみの口からは聞きたくないんだ」

   松波が麻琴をぐっ、と見る。半端ない目力だった。

「それに『昇進して働く環境が変わったからしばらくは仕事に専念したい』ときみが言いたいのであれば、それは僕の想定内だよ」

——うっ。

「ちょうど間のいいことに、非常勤とはいえ僕はきみの会社の産業医になったんだ。きみの仕事についても状況が把握しやすくなったし、今まで以上に会えるようになるのは間違いないよ。だから、僕たちはきっと、もっとずっと親密な関係になれるはずだと、期待してるんだけどね」

——ううっ。

「だから、そういうことを『理由』にはしないでよ?」

——うううっ、図星だわ。

   まさしく、麻琴はそれを「理由」にして断ろうとしていた。

——まぁ、わたしは彼のようなBBC English英国の標準語ではないから“I care about you so much,but…〈あなたのことはすっごく大事には思ってるわ、でも…〉”って言い方にはなるとは思うけど。

   麻琴はそんなふうにまた意識を外に飛ばして、「現実逃避」してしまいそうになる。


「だからさ、もうしばらく僕がきみを待つことを許してくれないか?」

   しかしそんな思いも、怖いくらい真剣に自分を見つめる松波の視線を感じると、たちまちのうちに「現実」に引き戻される。

「……と言っても、来年で四〇になるからねぇ。別に、三〇歳寸前でロンドンへ留学して『婚期』ってヤツに乗り遅れたことを後悔してるわけじゃないけどね。でも、できればもうそろそろ、生涯をともにする相手と……とは思ってるんだよね」

   松波はタリ◯ンドグラスの縁を、節のしっかりした長い中指ですーっとなぞる。

「松波先生でしたら、わたしなんかよりもいくらでもふさわしい方がいらっしゃるじゃありませんか」
   
   松波のような容姿端麗で、しかも医師を生業なりわいとするハイスペックな男と「生涯をともに」したい女なんて、この人が属する「世界」には掃いて捨てるほどいるに違いない。

——そうよ。なにも、わたしなど相手にしなくても、生まれ育った「環境」の似通った人と、生涯をともにした方が絶対にいい。
 
「まさか……僕の家のことを気にしてない?」

   麻琴はボ◯モアのグラスに目を落とす。


「麻琴さんには、ちゃんと話したよね?僕が『あの家』を継ぐことは絶対にない、って。ロンドンへ逃げるようにして渡ったのも、そのためだって」

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