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Chapter 3
⑨
しおりを挟む美咲が、麻琴の右手の小指にあるフォークリングを目ざとく見つけた。
「あれ……麻琴ちゃん、そのピンキーリング、すっごくステキなんだけど、もしかしてプレゼント?」
「あっ、あたしも思った!ねぇ……もしかして、松波先生からとか?」
稍が鋭く切り込んでくる。
「この前、杉山くんのバーに二人で呑みに行ったときに、昇進祝い兼バースデイプレゼントってことでいただいたの」
麻琴は仕方なく肯いて「白状」した。
「その『遊色効果』の宝石は、麻琴ちゃんの誕生石のオパールだよね?ややちゃんも誕生石の真珠のピンキーしてるし、あたしも今度のクリスマスに和哉にねだって買ってもらっちゃおうかなぁー」
右手に誕生石のピンキーリングをつけるのは「お守り」になると言われている。
きっと、魚住なら愛妻のために喜んでプレゼントするだろう。すでにその左手薬指にしっかりと収まっているカルテ◯エのバレリーナのように。
「ねぇ、そのピンキー、どこのブランド?」
麻琴はJubileeの名を挙げた。美咲と稍が「おおーっ!」と、どよめく。
「久城 礼子のデザインってステキよねー」
稍がうっとりした口調で、専属のジュエリーデザイナーの名を挙げた。
「……決めたっ!あたしも、Jubileeで誕生石のピンキー見てみる」
美咲はその儚げな外見とは裏腹に、いつも決断が早かった。
「美咲さんの誕生石は?」
麻琴が尋ねると、
「アクアマリンなんだ」
美咲から返ってきた。
「Aqua」と「Marin」を表すこの宝石は、古くから船乗りたちが航海する際に「お守り」として持って行ったものだという。
また、陸で待つ女たちも「無事で還ってきてほしい」と願いを込めて持っていたという。
「和哉はほとんど泳げないから、海はもちろんプールにも行くことないんだけどね。水自体が苦手みたいで、すっごい烏の行水だしね」
美咲はこともなげに魚住部長の「唯一のコンプレックス」を暴露した。
「「えええぇーーっ⁉︎」」
麻琴と稍が一斉に叫んだ。
毎年六月に社長命令によって開かれる社内対抗バレーボール大会では、今年もステーショナリー部門のMD課が優勝した。
その立役者となった魚住と青山の息のぴったり合ったコンビネーションは、今では社内で伝説化している。(青山が部署を移ったため、来年からはもう見られないからだ。)
セッター青山が上げた正確無比なトスを、アタッカー魚住は相手コートへ自由自在に打ち込んだ。
一八〇センチの長身の上にジャンプ力もあるものだから、相手チームのブロックのさらに上から、叩きつけるようなスパイクを炸裂させていた。
女子社員たちの黄色い声援が、有◯スポーツセンターの体育館中に響いて、耳が痛いくらいだった。
——どう見ても、魚住さん、運動神経よかったよね?
「足も速いし、球技は得意だよ。学生時代はサッカー部だったらしいし」
美咲は今さらながらフォローを試みたが、
「でも……まさか、魚住部長が……カナヅチやったやなんて……ぶふっ」
稍はすっかり「笑いのツボ」に入ったようだ。肩をぷるぷる震わせて笑っている。いつの間にか、関西弁になっていた。
普段なら、それほど笑えるほどのことではないかもしれないが、いかんせん、かなりの酒量になっている。しかも、プレモルのあとは日本各地の地酒三昧だった。
「あたしは和哉とは逆に火が苦手ですっ!せやから、うちのキッチンはガスやなくてIHでないとあかんのですっ!それから、怖うてマッチも擦られへんから、もし一つだけしか無人島に持ち込めへんとしたら、自分の息子やなくてチャ◯カマンを連れて行くことを、ここに宣言しますっ!」
いきなり、美咲が謎の宣誓をした。つい先刻まで標準語だったのに、関西弁になっている。
すでに北から、青森の田◯・福島の飛◯喜・新潟の久◯田・石川の天◯舞・埼玉の神◯・三重の而◯・奈良の春◯・高知の司◯丹・山口の獺◯を二合ずつオーダーして「南下」した三人は、差しつ差されつで呑み干していた。
美咲に至っては、最初から日本酒オンリーである。
「さぁ、いよいよ関門海峡を越えて行くえっ!そしたら、九州上陸やーっ!」
稍が高々と拳を突き上げ、美咲が「よっしゃーっ!」と応じる。
この二人がこうなってしまうと、麻琴は生温かく見守ることしかできない。
すると、そのとき——
個室の襖が突然、すーっと開いた。
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