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Chapter 6
④
しおりを挟む明るめのブラウンの髪に、灰緑色の瞳。
日本人離れした顔立ちに一八五センチ以上ある長身から、どう見てもパリコレなどのモデルにしか見えないその男が、麻琴の隣の椅子にさもあたりまえのように腰を下ろした。
大きな窓を通して入ってくる日光の加減で、シャークスキンの布地が微妙な光沢を放っている。
イギリスはサヴィル・ロウ仕立ての、見るからに仕立ての良いチャコールグレーのスーツだ。
若かりし日オックスフォードで学びイギリス人の妻を娶った亡き祖父に倣って、彼はいつもスーツを誂えるときには、まったく同じデザインのものを一度に三着オーダーしていた。
「ど、どうしてこんなところに……?」
突然のことに、麻琴のハスキーヴォイスが上擦って掠れた。
いきなり、目の前の椅子に——しかも麻琴の隣に当然のように座ってきた見知らぬ男を見て、
「な、なんなんだ、あんた……?」
芝田も目を白黒させていた。
「申し遅れました」
そう言って、彼は内ポケットからカードケースを取り出した。英国王室御用達のホワイトハウスコ◯クスのものである。
「こういう者です」
そして、ケースからするりと名刺を一枚抜き出し、芝田へと渡す。
「『総合診療医、松波 恭介』……えっ、日本人?しかも、お医者様ですか?」
名刺を見た芝田が目を見開く。急に口調が丁寧になった。すっかり相手にマウントを獲られてしまったという証拠だ。
麻琴とはどこでどう知り合ったのかはさっぱりわからないが、広告業界に明るい芝田でも見たことがない顔だったから、てっきりCMや雑誌などの媒体のために海外から一時的に来日したモデルだとばかり思っていた。そのわりには流暢な日本語だな、とも。
「『東京湾岸病院』……あぁ、最近お台場にできた、最新式の設備が整った総合病院ですね?『総合診療科 診療部 部長』『KO大学医学部医学科 非常勤講師』『(株)ステーショナリーネット 非常勤産業医』……あっ、それで……」
麻琴の勤務する会社を目にして、ようやく芝田は腑に落ちた顔になった。
「なんだ、麻琴……医者の恋人がいるんだったら、早く言ってくれよ」
とたんに、気まずそうな表情になる。
口惜しいが——いや、口惜しいっていう言葉にすら、表せないほどだが……
目の前に並ぶ、バリキャリでゴージャス美人な麻琴と、容姿だけの男ではないハイスペックな松波は、だれがどう見てもお似合いの二人だった。
「麻琴……もしかして『婚約者』である僕のこと、彼に言ってなかったの?」
松波が麻琴の方に顔を向けて、じろり、と睨んだ。
——ちょ、ちょっと!先刻は『結婚を前提にしておつき合いしている者』って言ってらしたわよね?いつから『婚約者』に昇格したの⁉︎
「ま、松波先生……あのっ……」
「麻琴、ここは会社じゃないんだよ?僕のマンションで二人っきりになったときのように『恭介』って呼んでいいんだからね」
一転して蕩けるような笑顔に変わった松波が、麻琴の頭をぽんぽんとする。
——わ、わたしがいつ、あなたのマンションへ行きましたかっ⁉︎ あなたを『恭介』なんて、いつ呼びましたかっ⁉︎
——それに、いつの間にか、わたしを『麻琴』って呼び捨てにしてますよねっ⁉︎ しかも、なんだか連呼してますよねっ⁉︎
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