光のもとで1

葉野りるは

文字の大きさ
195 / 1,060
Side View Story 05

14 Side 海斗 01話

しおりを挟む
 あー、地獄……。
 あの部屋に戻ったらまた司のしごきを受けなくちゃいけないわけで……。
 飛鳥や桃華が言うように、司のおかげでいい成績はキープできている。が、近いうちに精神が崩壊しそうです……。
「マージーでっ。ペース速すぎだろっ!?」
 自分の頭と同じものが俺に備わってるとは思わないでいただきたい。
 通常五十分かけて解く問題を三十分で解けなんて鬼のようなこと、そこらの塾の先生でも言わないと思いたい……。
 一階のカフェラウンジの机に突っ伏し不服をつらつらと並べていると、コンシェルジュの葵くんがやってきた。
「あと少しでサンドイッチ出来上がるけど、もう少しかかるからコーヒー飲んで待っててね」
「葵くんが天使に見える……」
「それはそれは……。司様ってそんなに厳しいの?」
「厳しいも何も、なんか違う生き物だと思う……」
 そんな会話をしていれば、七倉さんがトレイにサンドイッチとコーラを載せてやってくる。
「うおぉぉぉぉ……俺の休憩もここまでか」
「ま、そのコーヒーを飲み終えるまではいいんじゃない?」
 そこへ、住人からのコールを知らせる音が鳴り響く。
 電話に出た葵くんが、「お伝えいたします」と言って受話器を置いた。
 俺に戻した視線が妙に哀れみを帯びたものだった。
「司様から。とっとと戻ってこいって……」
 俺は目の前にあるコーヒーをぐびぐびと飲み下し、嘘っ子涙を拭ってカフェを出た。

 カフェを出ると買い物帰りらしい栞ちゃんと出くわした。その隣に翠葉が並んでいて、「え?」と思う。
 翠葉の手にも荷物があった。ぱっと見、本屋の袋と洋服でも入っていそうな手提げ。
「あらあら、海斗くんたらもうお腹が空いたの?」
「育ち盛りですから!」
 持ち前の瞬発力で答えたものの、
「翠葉、その袋……。まさか買い物とか行ってた?」
 信じられない思いで尋ねると、
「うん。お洋服と写真集買ってきちゃった」
 それはそれは嬉しそうににこりと笑った。
「俺は司にしごかれていたというのに……」
 もうこれは道連れにするしかないでしょぉ……。
「今日も司先輩と一緒にお勉強?」
「そう。湊ちゃんところでやってる。あ、っていうか余裕なら教えてよ」
 軽く誘う要領で声をかけると、翠葉は何も疑わずに栞さんに顔を向けた。
「行ってきてもいいですか?」
「いいわよ。夕飯はみんな一緒だし」
 よし、トラップに翠葉引っ掛けたっと!

 意気揚々と湊ちゃんちのドアを開け司の待ち受ける部屋へと向かう。
「たっだいまー!」
「うるさい」
 部屋の主は不機嫌そうに振り返った。
「それ、とっとと食べて数学」
 言われて俺はむしゃむしゃとサンドイッチを頬張る。
「司、少ししたら翠葉が来る」
 司は無言のまま。
「あいつ、栞ちゃんと買い物行ってた。洋服と写真集買ってホクホクしてたから軽くこっちの地獄へ誘っておいた」
 司は、「ふーん……」と素っ気無く答えて、口端を少し上げた。
 うっし……これで、処刑執行役は俺じゃなくて司になる。
 そんなことをニヒニヒ考えていると、
「海斗、次の問題」
 と、目の前に鬼のような分量の問題を並べられ、
「ええええっ!? なんでまた数学なんだよっ。三回続けて数学やったじゃんっ」
「そういうことは一問も間違えずに解けるようになってから口にしろ」
「鬼ぃっ」
「なんとでも……」
 言って、司は背を向けた。
 最後の一口を口へ放り込むと、仕方なしにシャーペンを持ってプリントと対峙する。もちろん忘れずにストップウォッチも稼動させて。
 翠葉が来たのはそれから少し経ってからのことだった。

 インターホンが鳴ると司が席を立ち、翠葉を迎え入れた。
「昨日の状態見てるからわかってはいるけど、買い物に行ってたって?」
「はい。初めてのひとり行動でドキドキしました」
 どこか弾んだ声が聞こえてくる。司の言葉すら嫌みにならないって、どれだけ高性能なスルー機能を搭載してるんだか……。
「……テスト結果は全部見せてもらうから」
 その言葉の意味すら汲み取っていただけたのかは不明。
 翠葉が俺の目の前に座ると、
「海斗くん、何を教えればいいんだろう?」
 首を傾げる翠葉に何を言おうかと思っていると、先に司が口を開いた。
「翠は海斗の解いた問題の答え合わせ」
「答え合わせ?」
「回答はここにあるけど、自力でどうぞ」
 司がにこやかに笑って背を向けた。翠葉は問題用紙とセットになっている答案用紙を片手に交互に見る。
「あの計算用紙と筆記用具を貸してもらってもいいですか? ……あと赤ペンも」
 翠葉が言うと、すぐに司がそれらを用意した。
 俺が五回目の数学を解いている最中、
「終わり!」
 目の前で翠葉が大きく伸びをした。
 そして、
「さっきも電子音が鳴ったけど、なんの音?」
 音? なんのことかサッパリだ。
「さぁ?」
 俺が答えると、司が「五十四分二十八秒」と読み上げた。
「それ、なんのタイムですか?」
「翠がそのプリント三枚の答え合わせに要した時間」
「……なんでそんなことを」
「純粋にどれだけ計算が速いのかを知りたかっただけ」
 人の答え合わせで何やってんだよ、と思いつつ、翠葉の前にある計算用紙を見て不思議に思う。
 確かにさっき計算用紙を貸してほしいと言ったはずだ。けれども、用意された用紙は余白だらけだった。
「ちょっとそっちの計算用紙見せて」
 見せてもらったけど裏は完全な白紙。表にだって二問しか問題が解かれた形跡がない。
 嫌な予感にゾクゾクしながら、
「ねぇ、訊きたいんだけど……翠葉どこで計算してる?」
 翠葉は首を傾げて人差し指を頭に向けた。
「頭、じゃないの?」
 きょとんとした顔を向けられて唖然としたのは俺。息すら止めてしまいそうだった。
 そんな俺たちの会話を不思議に思ったのか、司が近くまできて翠葉が使った計算用紙を目にする。
「くっ……どうかしてる。ほとんど計算用紙使ってないし。これ、全部頭の中で答えまで出してるわけ?」
「……答え合わせだから途中式はいらないかと思って――間違えているものはちゃんと書きましたよ?」
 翠葉は自分が悪いことをしたのか、というような不安そうな表情になる。と、
「翠、そうじゃない。計算力が尋常じゃないって言いたいだけ。これには俺も勝てるか怪しいな」
 言いながら、司が嬉しそうに笑った。
 うぉ、貴重っ……。でも、俺、こいつらの中に混じれるとは思わないし、混じりたいとも思えねぇっ。
「司、これに張り合うのは問題外だと思うんだけど?」
 自己擁護を試みる。と、
「確かに……。海斗が一位の座を降りても、そこに翠が君臨するなら問題視せずにいてやる。ただ、漣に抜かれたときは覚悟しておけ」
 千里からのみ死守すればいいのね。とりあえず、目の前にいるこれは問題視しなくていいのね。
 そんなことに少し救われた気がしていた。
「今、私褒めてもらったことになるんでしょうか?」
 翠葉に訊かれて、
「そうだな……早いところ、人外扱い」
 司が答えると、翠葉は「ひどい」って顔で抗議した。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」 「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」 「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」 県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。 頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。 その名も『古羊姉妹』 本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。 ――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。 そして『その日』は突然やってきた。 ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。 助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。 何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった! ――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。 そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ! 意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。 士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。 こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。 が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。 彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。 ※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。 イラスト担当:さんさん

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...