光のもとで1

葉野りるは

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19~20 Side 唯 01話

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「俺、お兄ちゃん通り越して保護者になった気分……」
 変な人についていかないとか携帯がつながるように、とか。ちょっと小さな子扱いしすぎたかな?
 そんなことを考えながらリィの姿を見送った。
 広報課に顔を出してから四十一階へ上がる。と、俺を待っているのはメンテナンス待ちのコンピュータールーム。
 コンピュータールームは機械には優しくても人体には優しくない。
 室温低いは湿度も微妙。この部屋の一切は、人体に合わせて調節されているわけじゃない。機械を守ることだけを考え特化した環境。
 ま、どこのコンピュータールームも似たり寄ったりだけどね。
 ここに入るのに防寒対策とマスクを装着するようになったのはリィの側にいるようになってから。
「ホントに変な子」
 リィはちょっと身体が弱くて純粋培養ってだけでほかはごくごく普通の子なのにね。
 俺の不摂生な生活を自主的に改めさせるなんて驚きだよ。
 秋斗さんは脅迫材料ぶら下げて俺を人の道に戻してくれた。リィはそういうの何もなく俺を動かした。
 さらには俺の上をいく不摂生人間の秋斗さんまで更生させちゃったんだから末恐ろしい。
 これって人間業なのかな? 実はリィって人類とは別の種族に属してたりするのかな?
 半分は真面目、もう半分はバカみたいなことを考えながら、かばんから自分のノートパソコンを取り出す。
 パソコンを起動させると、早速リィのGPSを受信した。
 加えて、ツールバーで点滅しているものを音声表示に切り替える。
 すると、時々ふ、と跳ぶリィの脈拍が聞こえてきた。
「よしよし、感度良好。とりあえず、駅までの一本道を歩き中ってところね」
 俺は衛生から拾った情報をウィンドウに表示させていた。
「それからっと……ちょーっと忍ばせていただきまーす」
 忍び込む相手は藤宮警備のリィ警護班。
 本社で現地班をサポートしている人たちの扱うデータ。
 メインコンピューターをいじっている都合上、情報関連なんでもござれ状態。
 ま、ここにいなかったとしてもインカムくらいは適当に傍受させてもらうし、本社勤務の収拾データも丸っといただきますけども。
 でも、メインコンピューターを経由してるとはいえ、ハッキングされていることに気づけないようじゃ本部の人間もまだ甘い。
 秋斗さん、本当にこの人選で大丈夫なわけ? もうちょっとできる人間充当してよ。
 たとえば俺とか俺とか俺とかさ……。
 あまりにも気づかないものだから、「ハッキングされてますよ」とアナグラムを相手方に送りつけてみた。すると、
『若槻さんですよね? 気づいていますよ。透明人間みたいな入り方をしてくる方はそうそういませんからね。秋斗様の練り直したプログラムです。ここに忍び込める方は若槻さんくらいなものでしょう』
 あらあら? なんだか複雑だけど、俺は認められていることになるのかな?
『それにしても、私たちも見くびられたものですね? メッセージはともかく、さりげなく名乗っていることを私たちが見過ごすとでも?』
 ……いいね。この短時間でひとつのアナグラムからふたつのものを解読している。
 ふたつのメッセージに気づけるところまでは当然のこととして、この短時間っていうのが気に入った。
 本社の人間とそんな応酬をしつつ、俺はリィのことを考えていた。
 さすがにさ、リィの警護班がまだ配置に付いていなかったら駅まで行くことは許可できなかった。
「狙われる」というのは、藤宮絡みのものもあるしそれ以外のものもある。
 つまり、そこらの飢えた野獣どもに狙われたとして、リィがそれをかわせるとは思えない。
 天性のぼけっぷりを発揮したところで野獣が面食らうのは一瞬だ。
 あとは力づくにでも連れていこうとするだろう。
 そうなったらたぶん、リィの男性恐怖症が全面に出る。
 やっぱりさ、そういうのからは守ってあげたいと思うわけだよ。
「この際、兄でも保護者でもなんでもいっか……」
 ホントはさ、誰か虫除けになりそうな人間と一緒に出かけてほしいんだけど……。
 あんちゃんとか俺、司っちや秋斗さん。周りを見回せばリィの買い物に付き合いたい野郎はゴロゴロいるわけだ。
 しかも、文句ないイケメン揃いでさ。
 なのに、リィときたら頼らないどころか避けてる始末だ。
 これ、なんなのかな?
 今のところ、秋斗さんアウト、司っちアウト。俺とあんちゃんだって数日前までは圏外チックだった。
 退院してきてからこちら、リィの態度は「おかしい」の一言に尽きる。
 秋斗さんとか司っちだけじゃない。家族すら遠ざけるような行動を取っていた。
 ねぇ、ひとりになって何をしようとしてるのさ。
 リィ、自分を追い込んで何をしようとしているの?
 その答えは近々聞かせてもらえると信じてる。
『対象、駅に到着。エスカレーターに乗りました』
『了解。エスカレーター上にて対象を確認』
 無線を聞きながら地図に目をやる。と、リィを示す赤い点は駅の上にあった。
 このとき、地図は藤倉駅周辺が見られる縮尺で表示してあった。
 リィのことを気にしつつ、俺はいつものペースでメンテナンス作業を進める。
 自分で言うのもなんだけど、俺って超ハイスペックな部下だと思う。
 つくづく秋斗さんやオーナーには俺のありがたみを噛みしめていただきたいものだ。
 そういえば、先日司っちを追い返しちゃったけど、そのことリィに言ってないなぁ……。

 それは金曜日の出来事――
 リィとあんちゃんが病院から帰ってくると、あんちゃんがリィについて話してくれた。
 あんちゃん自身も詳しいことは知らないようだったから深く突っ込むのはやめて、リィが心に決めているらしい「時期」を待つことにした。
 でも、ゴクンと呑み込むにはカクカクした部分が多い物体で、おとなしく喉を通り過ぎてはくれない代物。
 リィの口から聞けたなら、もうちょっと丸っこくて呑みやすかったのかな?
 そんなことを考えていたら、夕飯時にリィが自分から話してくれた。
 そしたら、喉に引っかかっていたカクカクした物体はしゅぅっ、と音を立てて角が蒸発。
 そんな変化を経て、無事に食道を通過してストンと胃に落ちた。
 俺も大概ずるいよなぁ……。
 避けられているのはわかっていたから、どうしたらリィの懐に忍び込めるか考えた。
 結果、俺は仕事の合間にリィの休んでたときの授業範囲をさらって教えられる程度に復習したわけで……。
 文系は苦手だけどやってできないわけじゃない。ただ、空で教えられないだけ。
 まだまだ若いとはいえ、高校生なんて身分だったのは五年も前のこと。
 普段使わない知識なんてよほどのことがない限り覚えてられるかっつーの。
 でもですね、お兄さん、これでも海新に首席入学してから卒業するまで首位落としたことないんデスヨ。
 やる気になれば藤宮の一年レベルくらいなんてことないっす。
 んなもん朝飯前です。仕事の片手間で十分です。
 ……そうでもしないとさ、本当にリィがどこかに行っちゃう気がしたんだ。
 なんだろうね?
 同じ家で寝食共にしてるのに、いきなり溝が深まる感じ。
 一瞬、夏の幸倉でのリィを思い出した。
 だから、ほかの誰を差し置いてでも、自分はリィの側に残ってやるぜ精神が働いちゃったっていうかさ……。
 秋斗さんは気の毒だと思う。
 貸したものを返してもらうときにまた会えると思っていただろうから。
 でも、そんなの知ったこっちゃない。
 司っちだって同じ。
 何ちんたらやってるのか知らないけど、君だってリィに避けられてるでしょ?
 両思いのはずなのに、ホント何やってんだか……。
 この際、このふたりのことはどうでもよかった。
 自分さえクリアできればそれでよかったんだ。
 だから、勉強を教えに来た司っちを追い返した。

 インターホンが鳴り、「誰かしら」と言ったのは碧さん。
 あんちゃんも不思議そうな顔をしたけど、俺はすぐにピンときた。
「あ、俺出ます。たぶん司っちだから」
 そう言って、ダイニングをあとにした。
 玄関を開けると案の定、司っちが立っていたわけで……。
「司っち、回れ右」
「は?」
「うん、とりあえず回れ右」
 俺は不服そうな顔をした司っちをゲストルームに入れることなくポーチの外、表の通路まで連れ出した。
「うっ、夜は寒いなぁ……」
 十一月半ばとはいえ、夜気はそれなり。
 Tシャツ一枚で出てきた俺がバカ決定。
「あなたに用はないんですが……」
 そのくらいわかってるってば……。
 君はリィに用があって来たんだよね?
「リィに用っていうか、勉強教えに来たんでしょ?」
 司っちは無言で頷く。
「それ、不要だから」
 司っちは怪訝そうに眉をひそめた。
「俺が教えるから不要。話は以上」
「……あなたに教えられるんですか?」
「失礼な子だねぇ……。唯さん、見かけどおり頭脳明晰よ?」
「…………」
「それに、司っちだって気づいてるんじゃないの?」
 司っちは視線のみで、「何を」と訊いてくる。
 たぶん、訊かれてる内容もわかっていてその態度。
 そういうところが君だよね……。でもさ――
「リィに避けられてるでしょ?」
 言葉にすることで現象は事象に変わる。
「秋斗さんのことも避けてるし、司っちのことも避けてる。下手したら家族すら遠ざけようとしてた」
 司っちは俺の言葉に目を瞠った。
「なん、で……」
「そんなのこっちが訊きたいよ。司っち何やってんのさ。寡黙が美徳だとでも思ってるわけ? 君の気持ちってさ、今言わないでいつ言うんだよ」
 タイミングを計ってるっていうのは今までなら頷けた。
 でも、今は違うだろ? 今が言い時だろ?
 余計なお節介してるなぁ、とは思う。
 でも、なんとなく言わずにはいられなかった。
 それに返ってきた言葉に俺は驚くことになるんだけど――
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