世界が壊れた夜、私は祈り踊る

紫咲

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第二話

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少女は走る。
走る。
必死に、体から滴る血に構わず、何かから逃げるように。
その顔には、絶望と諦めと悲しみが混ざっていた。

やがて少女は止まる。ある家を前にして。
その家に漂う"祝福"の気配に引き寄せられるように。招かれるように。
(ここなら、あの子と会えるかもしれない)
ほんの少しの希望を胸に歩みを進める。
しかし、少女は力尽きて気を失う。
その家の、玄関の前で。
「誰か…」

少女の耳に足音が届く。
もう、動く体力も残っていない少女はただ祈る。
「助けて…」
足音は止まる。
少女のそばで。
「え…」
足音の正体はこの家の持ち主の青年だった。
青年は自分の家の前で血を流して倒れる少女を目の前に、呆気にとられる。
しかし青年は気がつく。
その少女からかすかに感じられる《祝福》の気配に。
(助けなくては)
青年の心には助ける以外の選択肢がなかった。

「ふぅ…」
青年は客室に少女を運び込んだ。
ソファに寝かせ、どうしたものかと頭を働かせる。
(とりあえず手当か…)
青年には少女の服を脱がせることはできない。
服から出ている傷を手当していく。
(何があったらこんなことに…)
止血をし、ベットに運び、寝かせる。
少女はうなされていた。
涙が1筋、少女の目から流れる。
「ごめんなさい」
少女は呟く。気を失っても尚、無意識に。
「クレアツィオーネ様…」
少女が呟いたその名に、青年は反応する。
「へぇ…」
興味深く少女を見る。
先ほど少女が呟いた"クレアツィオーネ"という名はこの世界の創造神の名である。
しかし、人々は口を揃えてこう呼ぶ。"創造神様"と。"クレアツィオーネ様"と呼ぶ者は少数派である。
身分の高い聖職者か、《神の愛し子》と呼ばれるその名の通り神に愛された人間か、創造神クレアツィオーネの眷属である神達のみだ。
「聖職者か、愛し子か」
青年は呟く。少女を眺めながら。
「はたまた堕ちた神なのか」
少女はうなされたままだ。
涙を流しながら。
少女が涙を流すたび《祝福》の気配は濃くなっていく。
まるで、少女の傷を癒やすように。《祝福》は少女の体の周りに漂う。

気づいているのか、いないのか。
青年は携帯電話でメッセージを送る。

                光樹
          明日オレん家来て
詩音
わかった
律紀
はーい
由弦

悠真
OK
凱亜
好的 Hǎo de

全員からの返信を確認し、青年は笑う。
「はははっ。どうなるかねぇ」
そして青年も眠りに就いた。
明日を心待ちにしながら。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
好的→わかった
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