きざみちゃん

よん

文字の大きさ
5 / 32
時辰儀きざみとゆかいな仲間たち

時辰儀きざみと賊

しおりを挟む
「それでは僭越ながら、ワシの方から米齢時まいれいじに関する説明をさせてもらうかの」

 お母様に化けた砂翁がIカップのお胸を揺らせつつ、あたしの前に立つ。

「ちょいとお待ちになって。説明は望むところですが、その前に見た目がお母様なのに爺さん口調のギャップは何とかならないの? どちらかに統一なさいな」
「口調はこのままで勘弁ですぢゃ。ならば、元の姿に……」
「更にお待ちになって! やはりそのままでいいわ。お母様のお胸は目の保養になるもの。爺さん口調はまだ我慢できます」
「では、きざみお嬢様の仰せのままに。……お持ちの懐中時計ですが、そこの数字は本来、お嬢様に流れるべき時間ですぢゃ」

 ビンゴだわ。
 きざみ、冴えてる。

「その単位は秒かしら?」
「その通り。なれど、それは"粒"にも変換できますぢゃ。今後、きざみお嬢様は懐中時計に刻まれた数字と同じだけの米齢時まいれいじを貯めればよろしい」

 ますます航空会社のシステムっぽくなってきた。

「米という漢字は"メートル"の意味を持ち、ここでは"メートル毎秒毎秒"が適用されますぢゃ」
「……どうして"毎秒"を繰り返すのです?」
「加速度の単位がm/s²ですからな。2乗を『どうして?』と訊かれましても、ワシは物理学者ではないので何とも……」

 それはご尤も。
 でも、ここにきて加速度が登場する時点で、きざみはチンプンカンプン。
 時間の流れが物理と密接に関係してるせいかしら?

「わかりやすく申し上げると、1粒=4851.6923秒に換算されますぢゃ」
「ちっともわかりやすくありません。とどのつまり、それが何なのです? はっきり仰いな」
「要するに、米齢時まいれいじを貯めるということは、それだけのごはん粒を食べればよいですぢゃ」

 え、たったそれだけ?
 ごはんを食べるだけで、お母様のようなお胸が手に入るってこと?

「何だ、楽勝ではありませんか。その米齢時まいれいじも基本、通常のお米と何ら変わらないのでしょう?」
「味覚はそのようですぢゃ。かくいうワシも食したことはなく、聞いた話でしか存じませんがのう。で、その米齢時まいれいじを1膳食べれば、きざみお嬢様は1年分成長ができるという寸法ですぢゃ」
「1年分?」

 さよう、と頷く砂翁。

「茶碗1膳分の米は約6500粒ですぢゃ。即ち6500×4851.6923=31536000秒……これは1年を秒換算したもの。更に米齢時まいれいじを24膳平らげれば、懐中時計そこに刻まれた数字と同じになりましょう」
「それって素晴らしいわ! ごはんをお茶碗で24杯食べるだけで、あたしは妨げられた24年の成長を一気に取り戻せるのね! ほら、空腹丸! そんな風邪をこじらせた蟷螂とうろうみたいな顔をしてないで、さっさと米齢時まいれいじを炊飯するのです!」
「あんた、顔を真っ赤にして興奮してんじゃないよ。それがそう簡単にもいかないのさ」

 猫目……シモベの分際で、さっきから”あんた”呼ばわりを繰り返すとは随分といい度胸ね。
 ちなみに"度胸"とは、お胸をはかると書く。
 きざみは分別ある、お胸を忖度そんたくできる立派なアラサー。
 お胸のある相手の挑発に乗って、ここで逆上しないところが大人の証し。

「あら、そう? ならば、あたしにもわかるようちゃんと教えて頂戴」
「簡単じゃないけど、単純な話だよ」
「禅問答はおよしになって」
「そう睨みなさんな。あんたは重ねるべき己の時間を父親である時間の神によって止められた。だから、代わりにそれと同等の時間を補わなきゃなんないのさ」
「盗む……? それはまた野蛮な発想だこと」
「ところが、それしか方法がないから厄介なのさ。そして、あたい達はあんたのためにそれを遂行する精鋭なパーティなんだよ」

 ドヤ顔の猫目に対し、「ふぅん」と相槌を打つも納得いかない。

「それは誰によって編成されたのかしら?」
「愚問だね。大切な娘を案ずるあんたの父親だよ」
「では、あたしの成長を止めたのは?」
「何をわかりきったことを。そんなの決まってるじゃないか。それも、大切な娘を思うあんたの…………あれ???」
「あたしの疑問がおわかりいただけたようね」

 猫目だけじゃない。
 砂翁に空腹丸、「あっ!」と如何にも目から鱗が落ちたような表情。
 精鋭部隊の、今頃気づいたか。

 おのれ、お父様!
 諸悪の根源は全てあなたが若衆道を行ったことにあるのですよ!
 それなのに、どうしてこのあたしがあなたによって課せられた罰ゲームを受けなければならないのです?
 こんな愚蒙ぐもうな妖怪を家に放って一体全体、何がしたいの?

 とはいえ、Iカップを手に入れるため。
 この際、盗みでも放火でも厭わず何でもやってやろうじゃないの!

「よろしい。事態はおおむね飲み込めました。善は急げです。今すぐお米を盗みに参りましょう」
「米泥棒のどこが善だよ? それにさ、あんた簡単に米泥棒を働くみたいに考えてるようだけれど、米齢時まいれいじってのはでもでもないからな?」
「わかってます。時間を具現化したお米のことでしょう?」
「その時間を盗むってことは、標的ターゲットの寿命を奪うってことと同じ意味だから」

 え……!

 それは間接的な殺人と一緒では……


 なーんて、このあたしが躊躇するとでも?

「それがどうかして? お茶碗1杯程度の命なんて、普通に二重の意味で"いただきます"だわ」
「……ッ!?」

 一同、明らかにドン引きの様子。
 けれども、あたしには確固たる信念がある。

「常々、思っていたことよ。『この世は決して平等なんかじゃない、弱者がいるから勝ち組が生まれる』とね。勝ち組がいない世界なんて、それこそ草木一本も生えない暗黒の地。みんな、勝ち組になりたいから努力するし、少しでも自分より立場が弱い者を虐げることで、自分が勝ち組に含まれたような錯覚を覚えて生きているの。偽善者が何を唱えようとも、これこそが真理であり全人類の本能なのよ。『世界の秩序はこうした不公平によって保たれる』と言っても過言じゃないわ。……でもね、勝ち組にも弱者にも同じように与えられるものがあるの。それが何だかおわかり? そう、時間よ。残念ながら、誰にとっても1秒は1秒なの。これこそが時を司る神――お父様クロノスが犯した重大な過ちよ」

 あら、つい熱くなって語り過ぎてしまったわ。
 ドン引きを通り越し、妖怪達は硬直さえしてるもの。
 でも、ここまで喋ってしまったのでもう少しだけ。

「腐敗前に亡きお母様を引き取ってくださったお父様に1つ目の感謝、そして2つ目は、特別このあたしだけに"時間のひずみ"をプレゼントしてくれたことね。あたしはお父様によって成長を妨げられた……言うまでもなく、これは悪い方の歪み。そして良い方の歪みは、他人の寿命を吸収する能力を授けてくれたこと」

 この刹那せつな

 誰に教えられたわけでもない。
 たった今、あたしは人間から米齢時まいれいじを奪う異能スキルを感得したの。

 善は急げ。

 あたしにとって、このまごうことなき"善"でしかない。

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...