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GLJ(GREAT・LOLIBBA・JISHINGI)
きざみの学園デヴュー 1
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「にゃにゃあ(次は何処へ行くの)?」
黒毛がすっかり砂まみれになっている猫目、先行くあたしに早足で追いつきそう問うてきた。
「明確な場所はあたし自身にもわからない。それを導くのはあなたの役目よ」
「にゃあうにゃあうん(具体的に言ってくんないとわかんないね。保育園? それとも幼稚園?)」
「幼児教育ならさっきの公園で十分。次は義務教育の場よ。今すぐ最寄りの中学校へ案内なさい」
「ふぎゃにゃっ!?(どんだけ飛び級すんだよっ!?)」
「そんなに毛を逆立てる程でもなくってよ。繰り返すけれど、このあたしには時間がないのだから。何たって今日だけで、実年齢の29歳に相当する経験を積まなくてはいけないの」
「にゃっ(今日だけ)?」
「そうよ。あたしは時間との戦い、延いてはノルマとなる米齢時をこれ以上増やしてはならないのよ。猫目があんまりにも言うものだから、今日だけはこうしてお外に出てあげたんだから。……小学校なんてもどかしい。ついでに言わせてもらうならば、あなたとのこうした問答さえもが無駄なの。しのごの言うなら、本当に乳首を取ってしまうわよ?」
これで猫目は沈黙した。
そのまま無言で道行くあたし達は、どうってことのない平凡な公立中学校へ辿り着いた。
時間にして昼食前の4時間目ってとこかしらん。
校門前には【学校関係者以外立ち入り禁止】の看板が設置されてある。
無理もないわ。
物騒な世の中だものね。
けれども、これでもかとばかり肝心の校門は全開……。
凶悪犯がこの看板を見て「はい、そうですか」とおとなしく退散すると考えているのなら相当おめでたいわね、日本の教育機関は。
あたしは凶悪犯などでは勿論ないけれども、さりとてこんな看板なんぞでおめおめと引き下がる筈もなく。
堂々と足を踏み入れようとした時だった。
敵もさる者引っ搔く者。どこに隠れていたのか、白髪交じりの腰がひん曲がった用務員がギロリとあたしを睨んできたの。
……油断ならないわ。
でもね。
そんなことなど織り込み済みよ。
このきざみを甘く見ないで頂戴。
見た目は子供、頭脳は大人……ロリババアとして育ったこのハンデを今こそフルに活用させてもらうわ!
「行くのよ、猫目」
あたしがそう呟くと同時に、疾風の如く猫目が校門を通過し用務員の股の下をも潜り抜けていった。
あ、と声も発する間も与えず、これ見よがしにあたしは泣く。
「あ―――ん! あたしの猫ちゃんがぁ―――! 誰か捕まえてぇ―――!!!」
その誰かはオロオロするばかり。
まるで自分が泣かせてしまったかのように狼狽している。
「お、お嬢ちゃん……お願いだからここで泣かんでくれんかな? ワシが叱られちまうから」
恰も、泣くなら余所へ行けと言わんばかりの発言。
大方、ハロワを通じて雇われたクチね。
学校サイドとのパイプがその程度なら、こっちとしては好都合。
「おじちゃん、あたしの猫ちゃん捕まえてよぉ~! あたし、関係者じゃないからここから中に入れないもん!」
「そんなこと言われてもねえ。私も暇じゃないんで」
出た、露骨な迷惑顔。
あたしは泣き声を1オクターブ上げて、用務員の心を更に揺さぶりかける。
「わかったわかった! それじゃ特別に許可してあげるから、今から一緒に猫を捕まえよう!」
「――っ!? 入っていいのね?」
「いいよ。お嬢ちゃんの猫が捕まるまでなら」
うふふ、許可がもらえればこちらのものよ。
「じゃあ、おじさんは校庭に行ってここまで誘き出してくださる? あたし、ここで待ってるから」
「きっとだよ? くれぐれも校舎に入っちゃ駄目だからね?」
「うん」
してやったり。
そうして、おじさんは校庭へ。
嘘をついたあたしは悠然たる態度で校舎の中へとお邪魔する。
その校舎中が突然、騒がしくなった。
授業中、突如として校庭へ迷い込んだ猫とそれをゼエゼエ息を切らして追いかける一人の老いぼれ……馬鹿共にはちょうどいい目くらましだわ。
退屈な授業に飽き飽きしていた中学生にとって、これ以上の余興はないんじゃなくて?
黒毛がすっかり砂まみれになっている猫目、先行くあたしに早足で追いつきそう問うてきた。
「明確な場所はあたし自身にもわからない。それを導くのはあなたの役目よ」
「にゃあうにゃあうん(具体的に言ってくんないとわかんないね。保育園? それとも幼稚園?)」
「幼児教育ならさっきの公園で十分。次は義務教育の場よ。今すぐ最寄りの中学校へ案内なさい」
「ふぎゃにゃっ!?(どんだけ飛び級すんだよっ!?)」
「そんなに毛を逆立てる程でもなくってよ。繰り返すけれど、このあたしには時間がないのだから。何たって今日だけで、実年齢の29歳に相当する経験を積まなくてはいけないの」
「にゃっ(今日だけ)?」
「そうよ。あたしは時間との戦い、延いてはノルマとなる米齢時をこれ以上増やしてはならないのよ。猫目があんまりにも言うものだから、今日だけはこうしてお外に出てあげたんだから。……小学校なんてもどかしい。ついでに言わせてもらうならば、あなたとのこうした問答さえもが無駄なの。しのごの言うなら、本当に乳首を取ってしまうわよ?」
これで猫目は沈黙した。
そのまま無言で道行くあたし達は、どうってことのない平凡な公立中学校へ辿り着いた。
時間にして昼食前の4時間目ってとこかしらん。
校門前には【学校関係者以外立ち入り禁止】の看板が設置されてある。
無理もないわ。
物騒な世の中だものね。
けれども、これでもかとばかり肝心の校門は全開……。
凶悪犯がこの看板を見て「はい、そうですか」とおとなしく退散すると考えているのなら相当おめでたいわね、日本の教育機関は。
あたしは凶悪犯などでは勿論ないけれども、さりとてこんな看板なんぞでおめおめと引き下がる筈もなく。
堂々と足を踏み入れようとした時だった。
敵もさる者引っ搔く者。どこに隠れていたのか、白髪交じりの腰がひん曲がった用務員がギロリとあたしを睨んできたの。
……油断ならないわ。
でもね。
そんなことなど織り込み済みよ。
このきざみを甘く見ないで頂戴。
見た目は子供、頭脳は大人……ロリババアとして育ったこのハンデを今こそフルに活用させてもらうわ!
「行くのよ、猫目」
あたしがそう呟くと同時に、疾風の如く猫目が校門を通過し用務員の股の下をも潜り抜けていった。
あ、と声も発する間も与えず、これ見よがしにあたしは泣く。
「あ―――ん! あたしの猫ちゃんがぁ―――! 誰か捕まえてぇ―――!!!」
その誰かはオロオロするばかり。
まるで自分が泣かせてしまったかのように狼狽している。
「お、お嬢ちゃん……お願いだからここで泣かんでくれんかな? ワシが叱られちまうから」
恰も、泣くなら余所へ行けと言わんばかりの発言。
大方、ハロワを通じて雇われたクチね。
学校サイドとのパイプがその程度なら、こっちとしては好都合。
「おじちゃん、あたしの猫ちゃん捕まえてよぉ~! あたし、関係者じゃないからここから中に入れないもん!」
「そんなこと言われてもねえ。私も暇じゃないんで」
出た、露骨な迷惑顔。
あたしは泣き声を1オクターブ上げて、用務員の心を更に揺さぶりかける。
「わかったわかった! それじゃ特別に許可してあげるから、今から一緒に猫を捕まえよう!」
「――っ!? 入っていいのね?」
「いいよ。お嬢ちゃんの猫が捕まるまでなら」
うふふ、許可がもらえればこちらのものよ。
「じゃあ、おじさんは校庭に行ってここまで誘き出してくださる? あたし、ここで待ってるから」
「きっとだよ? くれぐれも校舎に入っちゃ駄目だからね?」
「うん」
してやったり。
そうして、おじさんは校庭へ。
嘘をついたあたしは悠然たる態度で校舎の中へとお邪魔する。
その校舎中が突然、騒がしくなった。
授業中、突如として校庭へ迷い込んだ猫とそれをゼエゼエ息を切らして追いかける一人の老いぼれ……馬鹿共にはちょうどいい目くらましだわ。
退屈な授業に飽き飽きしていた中学生にとって、これ以上の余興はないんじゃなくて?
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