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一章 地獄の酒場
十話 新人への洗礼
しおりを挟む「なにって言われても……」
「なあ、登録証を見せてくれよ。そこに書いてあんだろ」
「え? 何が?」
「何がってことないだろう。冒険者ギルドに登録するとき、自分の職業を書くじゃねえか。剣士とか、僧侶とか、魔法使いとかよ。書いただろ?」
「確かに書きましたけど……」
「じゃあ、さっさと登録証を出せよ」
言われるがままに俺は先ほど貰った冒険者登録証を差し出した。
「叛逆者!? なんだよそれ……」
ヴァーギンが反応に困っていた。
「いや、読んで字のごとく、叛逆してる人のことですけど……」
「はあ、はあ。叛逆してる人な……。それでなにができんだよ」
「何がって蠕動運動ですかね」
「おお、良いじゃねえか。なんだか、知らねえけど、その蠕動運動ってやつを見せてくれよ」
ヴァーギンは嬉しそうに俺の肩を叩いた。
「え? 蠕動運動ですか……」
どうやらヴァーギンは蠕動運動という言葉を知らないらしい。なにか身体を使った奥義のように思っているが、実際は一連の消化器官を収縮させて、便を押し出すだけだ。それも俺の場合だと、嘆かわしいことに顔から出てくるのだ。
「なあ、良いじゃねえか! 見せてくれよ」
「…………できません」
正確には既にしている。この瞬間にも俺の体内で着々と蠕動運動は行われているはずだ。威張れることではないが……。
「あ? できねえってなんだよ。お前はそんなこと断れる身かよ」
「できないんですよ今は! 第一、俺はこの世界に来てから、何も食べてないんですよ!!」
俺が何を言おうと、ヴァーギンの目がいじめっ子の輝きを増していく。
「おお、それはすげえじゃねえか。しっかり飯を食わないとぶっ倒れちゃうようなモノスゲエ技なんだな? 良いじゃねえか。奢ってやるよ!! ささ、向こうでよ。一緒に食おうじゃねえか」
「ちょっとっ……」
俺はヴァーギンに肩を抱かれ、無理やり席につかされた。
「なあ、せっかくだしよ、飲み比べをやろうじゃねえか」
ヴァーギンが言った。
「飲み比べ……ですか」
「そうよ。俺はここにくる冒険者と仲良くなったらだな、まずは飲み比べをすることにしてるんだ。な? 飲み比べしようぜ」
カツアゲができないとみると、今度はアルハラか……。おおかた、こっちが酔いつぶれるまで強引にでも飲まそうということなのだろう。
「いや、ヴァーギンさんには勝てないっすよ……」
俺は言った。酒自体は嫌いではないが、他人を酔い潰すことに喜びを見出すような男と飲み比べができるほどではない。
「良いんだよ、こういうのは気持ちだから、な? おい、おっちゃん、ブドウ酒を二つ持ってきてくれ!」
ヴァーギンが厨房に向かって叫び、酒が運ばれてくる。
「おい!! 俺は今からこいつと飲み比べをするんだけどよ、俺に賭ける奴はいねえか!!」
酒場にいた屈強な男たちがぞろぞろと周りに集まってくる。
「いやあ、久しぶりだなあ。俺はこういう賭け事が好きなんだ。ヒヒヒッ」
最初に集まった海賊風の男を筆頭に、賭けに参加するものが次々と増えていく。男どもはニヤニヤと唇を歪ませている。
まったく、こいつら……。どうやっても新人に洗礼を浴びせなきゃ気が済まないようだ!!
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