【完結】Ω嫌いのαが好きなのに、Ωになってしまったβの話

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)

文字の大きさ
13 / 19
2.Ω嫌いのαと、Ωになりたくないβ編

2-6:Ω嫌いのαと、Ωになりたくないβ編6

しおりを挟む
 相談員は文字がびっしり記載された書類を差し出し、確認するよう促してくる。
 明らかに読ませる気のない文章量だが、俺は意を決して目を通し始めた。

 ……しかし焦りから内容は頭に入らず、視線を往復させるだけになってしまう。

「これ、一度持ち帰って考えてもいいですか。今日決めるのは難しそうです」
「では予約が半年後となりますが、構いませんでしょうか」

 ここで決めるのが怖くなって保留の提案をしても、明確な引き留めはしてこない。
 だが時間を理由に足元を見られ、選択肢を奪われる。

「は、半年後? いやでも、困ってる人は集中するか……」
「そうですね。β対象の相談所は希少ですから、間近の予約は難しくなります」

 階級社会に関する機関はほぼΩ対象、次点でα、βはほとんど存在しない。
 まして俺のように転換した人は、そのどれにも当て嵌まらない。

「今日決めたら、いつ治験をしていただけますか」
「本日ですね。ちょうどキャンセルが出た分を、うちで押さえております」

 にこりと愛想よく笑う相談員に、俺の中で期待と恐怖が入り交じる。
 手放しで信頼することもできないが、他に宛がないのも事実。

(正直怪しい。けど政府が認可してるところは、どこも満杯だ)

 俺は震える手でペンを握り、必要事項と同意書の記入を進めていく。
 そして最後の確認欄にサインを書き込み、相談員に手渡した。

「……分かりました。同意したので、治験をお願いします」

 乱れた筆跡で書いた書類を押し返すと、相談員は丁寧に中身を確認する。
 そして紙の角を揃えた後に立ち上がり、茶菓子を用意し始めた。

「ありがとうございます。では薬が届くまで、こちらに掛けてお待ちください」

 緻密な細工が輝くグラスを俺の前に置き、相談員は部屋から出ていく。
 残された俺は途端に緊張の糸が切れて、ぐったりと椅子にもたれ掛かった。

(申し訳ないけど、お茶は飲まないでおこう。けどこの部屋、甘い匂いがするな)

 未だに警戒心は残っているから、俺は手をつけずに紅茶の水面を見つめる。
 けどグラスから漂うものとは違う匂いが、徐々に部屋を埋め尽くしていた。

(これアロマか? でも疲れが溜まってるのかな、まぶたが重く――)

 急激に襲う睡魔に耐え切れず、俺は意識を取り戻そうと部屋の外に出ようとする。
 しかし扉には鍵が掛かっており、閉じ込められたと気づいた瞬間に意識を失った。



 湿った水音や甲高い声がうるさくて瞼を開くと、毒々しい色の照明が目に入った。
 俺は個室のベッドに拘束具で繋がれ、煽情的な下着を身に着けている。

(どこ、ここ。蛍光色のネオンが光ってるし、変な音楽が響いてうるさい)
「あぁ、お目覚めになられましたか。もうすぐお客様がいらっしゃいますからね」

 相談員は俺の覚醒に気づくと、首輪の紐を隣にいた黒服に預けて近づいてくる。
 紐の先を視線で追うと、そこには泣き腫らした目の少年が震えていた。

(うわ、どこだか分かった。最悪だ)

 その後ろには情欲を隠そうともしないαが、下卑た笑みで少年を眺めている。
 彼の手は少年の腰を撫でまわし、その体を暴きたくて堪らないようだった。

「……風俗街の中か、この場所。それに体が動かないんだけど、俺になにしたの」
「契約通り、薬を処方させていただきました。これから治験を開始いたします」

 部屋を区切るカーテンが閉められ、相談員が俺のいるベッドに乗り上げてくる。
 そして俺の肌に手を滑らせながら、αのフェロモンを振り撒いてきた。

「どう考えても、治療する場所じゃないでしょ。離してよ! ……ん、あっ!?」

 俺の文句は嬌声に変わり、触れられた場所から甘い痺れが広がっていく。
 心は間違いなく拒絶しているのに、体は本能に屈服しかけていた。

(体が熱い。でも発情期と近い症状だけど、なんか変だ)

 目の前の男に惹きつけられると同時に、激しい嫌悪感も感じて吐き気がする。
 翻弄される感覚だけではなく、相手への反抗心も湧き上がって頭が混乱した。

「αとΩの因子が体内でせめぎ合ってますね。両方の誘惑フェロモンが出ている」
「……じゃあ俺、この状態で客を取らされるんだ。珍獣扱いで」

 先程の少年を見れば嫌でも理解する、あの相談所は風俗店と繋がっていた。
 俺は客寄せの餌にされ、不特定多数の相手と交わらされるのだろう。

「契約書通りの内容となっております、先ほど同意すると記載したでしょう?」
(細かい字で書かれてたんだな。あの時は焦って、確認できなかったけど)

 とはいえ疑わしい場所だと察しはついていたし、最終的に決断したのは自分だ。
 全ての責任が俺にあるとは思わないが、結末は受け入れるしかない。

「存外、大人しいものですね。もっと泣きわめくかと思いましたが」
「怪しいのは最初から分かってたし、半分自殺みたいなものだったから」

 相談所は俺にとって最後の希望で、もう足掻く気力も残されていなかった。
 それにこの場を乗り越えたところで、未来が開けるとは到底思えない。

(βに戻れないなら、もうどうでもいい。会社を惑わすΩは、就職も絶望的だし)

 社会的地位が高い者は大体がαで、彼らを守るべくΩは不採用になることが多い。
 その為に身持ちを崩す者が多いことも、β時代に他人事として聞いていた。

(それにいくら籠理さんだって、風俗に関わった俺を欲しがるとは思えない)

 弄られた体が愛されると思えるほど、楽観的な思考は持っていない。
 経緯がどうであれ、穢されることには違いないのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

αが離してくれない

雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。 Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。 でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。 これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!

BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!

ファントムペイン

粒豆
BL
事故で手足を失ってから、恋人・夜鷹は人が変わってしまった。 理不尽に怒鳴り、暴言を吐くようになった。 主人公の燕は、そんな夜鷹と共に暮らし、世話を焼く。 手足を失い、攻撃的になった夜鷹の世話をするのは決して楽ではなかった…… 手足を失った恋人との生活。鬱系BL。 ※四肢欠損などの特殊な表現を含みます。

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

処理中です...