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ポーリッジ、串焼き、オレンジジュース。
しおりを挟むここは、森を抜けてすぐの所にある村、ポーリッジ。
二人が目指す港町、ハグヴィスへ向かう馬車が休憩の為に留まる村で、このフィッチス王国の中でも特に賑わっている場所でもあります。
何せ、王都へ繋がる道の中で、唯一、ケモノやマモノの出現が少ない道でもあるのですから。
ハグヴィス、ポーリッジ、王都間は、この王国のライフライン。騎士による警護や、高額な報酬につられた冒険者が数多く訪れる為、常に一定の安全が確保されているのです。
「……案外、色々ありますね。私、驚いちゃいました」
そんなこの村に初めて訪れたリリーは、周囲をキョロキョロと見回しながら言いました。
村の雰囲気自体は他の田舎村と変わらないものの、置いてある品物や使っている家具を見れば、ここがどんなに裕福な村であるかが一目瞭然です。
村人と思わしき人々の格好は、まるで王都の上流階級のようにきらびやかで、おとなも子供も老人も、誰一人として汚れた格好はしていないのですから。
「そうでしょう? 小さな村ではあるけれど、港と王都を繋ぐ重要な中継地だから、それなりに裕福な村だし、結構充実しているのよね」
「確かに。村民の方々の服装もなかなか綺麗ですし、おしゃれですね」
キラキラと目を輝かせながら村を見回すリリーを横目に、
「ふふっ。この村の良いところは他にもあるわよ?」
ローズは道行く一人に声をかけました。
立派なお髭のおじさまです。
「ごきげんよう」
「やぁ!」
お互いに片手をあげるだけの、友達同士のようなフランクな挨拶でしたが、お互いに気にもとめていません。二人はそのまま握手を交わします。
「調子はどうだい、お嬢ちゃん!」
「すこぶる良いわ」
「それは良かった! この村には何のご用で?」
「旅の途中で寄ったのよ。良い場所があるって聞いてね」
「それは最善の選択だ。ポーリッジは良いところだよ。楽しんで!」
「ありがとう、じゃあね」
「ああ!」
そう言ってお髭のおじさまと別れたローズは、心の底から楽しそうな笑みを浮かべながら、リリーへウインクをして。
「……こんな感じで、結構陽気な人が多いのよ。だから、滞在していて楽しいし、基本よほど下手なことをしなければ、嫌な思いをすることは無いわね」
「ある意味、気安い感じなんですね」
「礼儀をもって、楽しく過ごしましょう」
「はいっ!」
主人と従者だった頃には絶対に見せなかった、それはもう素晴らしい笑顔を浮かべた二人は、村を散歩した後、小さな食堂へと入って行きました。
その食堂は、村全体の雰囲気から見れば随分と古めかしく、悪い言い方をしてしまえばあまり綺麗とは言えない外観でした。
しかし、お店の中から漂ってくる匂いは、この村で嗅いだどんな料理の匂いよりも素晴らしいもの。
お腹が空いていたこともあって、二人は蟻地獄に吸い込まれる蟻のように、ふらふらとお店の中へと吸い寄せられて行きました。
「いらっしゃい――って、さっきのお嬢ちゃん達じゃないか!」
出迎えてくれたのは、先程であったお髭のおじさまです。
おじさまはフリルのついた、可愛らしいエプロンを身に付け、カウンターの奥でこちらへ手を上げています。
「あら、ここはおじさまのお店だったのね?」
カウンター席にどっかりと腰かけたローズが問いました。
あまりにもワイルドなその姿は、誰がどう見ても数日前まで彼女が貴族であったなんて気付くことはないと言えるもの。
なにせ、リリーですら、目を真ん丸にして驚いているのですから。
「おうよ。ずーっと昔からやってるんだ。――それで、何にする?」
「そうね……リリー、貴女は?」
「ローズさまにお任せします!」
「……そう、ねえ」
リリーからの厚い信頼に、微妙なプレッシャーを覚えつつ、ローズは炭火で焼かれている串を指差して、
「ねえおじさま。これは何かしら?」
「豚の串焼きだよ。こっちは猪さ」
串焼きからは、脂の弾けるパチパチとした音や、肉汁が炭に落ちる音、炭火特有の食欲を煽るこうばしい香りが漂ってきます。
そんな串焼きに、二人は目が釘付けです。特に、最後に食べお肉が、あのステーキだったローズは、特に。
「おっ、おすすめは?」
「そりゃあ、豚――……と、言いたいところだが、脂が苦手なら猪だな。赤身が多くて、ちっと固いが旨いぞ!」
おじさまのそんな言葉を聞いて、ローズが迷う余地は、もうありませんでした。
「――それぞれ二本ずつ。合わせて四本頂くわ」
「毎度あり!」
◇
「では、頂きましょう、リリー」
「はい、ローズさま!」
「私たちの糧となる全ての存在に、心からの祈りを込めて」
「Amen」
「Mahlzeit」
そんな言葉を皮切りに、二人は勢いよく串焼きにかぶり付きました。
肉の繊維を噛み切るプチプチという感覚が、なんとも言えない心地よさ。噛む度にじゅわっとしみ出す肉汁が口に収まりきらず、少しだけ垂れています。
「ローズさま。この豚串、溢れ出る肉汁と程よい塩加減が、最っ高ですっ!!」
「この猪串も、噛めば噛むほど旨味が染み出してきて、とても美味よ。焼き加減、塩加減共に絶妙ね」
「これが食べられなくなるだなんて、少し悲しくなっちゃいます」
「ふふっ、そうね。でも、仕方がないわ。それが、私たちの運命なのだから」
そんな話をしていると、二人の目の前に、オレンジ色の粒々と液体がなみなみと入ったコップが置かれました。
「――あら? おじさま、これは?」
ローズが問うと、おじさまは頬を赤くしながら答えました。
「家の庭で取れたオレンジのジュースさ。俺の串焼きをこんなに誉めてもらったのは初めてだったからな。サービス、だよ」
それを聞いたローズとリリーは、お互いに顔を見合わせます。
「ありがとう、素敵なおじさま」
「ありがとうございますっ!」
「ははっ! 止せやい、照れるだろう!」
二人が再びこの地を踏むことは、この先、無いのかもしれません。
しかし、最後の最後に、このような素晴らしい人や料理に出会えたのは、辛く苦しいことばかりだった所を踏ん張り続けた、ごほうびなのだと。
ローズは串焼きに舌鼓をうちながら、そんなことを思ったのでした。
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