追放令嬢はジャンクフードハンター!!

犬川猫助

文字の大きさ
4 / 5

ポーリッジ、串焼き、オレンジジュース。

しおりを挟む


 ここは、森を抜けてすぐの所にある村、ポーリッジ。
 二人が目指す港町、ハグヴィスへ向かう馬車が休憩の為に留まる村で、このフィッチス王国の中でも特に賑わっている場所でもあります。

 何せ、王都へ繋がる道の中で、唯一、ケモノやマモノの出現が少ない道でもあるのですから。

 ハグヴィス、ポーリッジ、王都間は、この王国のライフライン。騎士による警護や、高額な報酬につられた冒険者が数多く訪れる為、常に一定の安全が確保されているのです。

「……案外、色々ありますね。私、驚いちゃいました」

 そんなこの村に初めて訪れたリリーは、周囲をキョロキョロと見回しながら言いました。
 
 村の雰囲気自体は他の田舎村と変わらないものの、置いてある品物や使っている家具を見れば、ここがどんなに裕福な村であるかが一目瞭然です。
 村人と思わしき人々の格好は、まるで王都の上流階級のようにきらびやかで、おとなも子供も老人も、誰一人として汚れた格好はしていないのですから。 
 
「そうでしょう? 小さな村ではあるけれど、港と王都を繋ぐ重要な中継地だから、それなりに裕福な村だし、結構充実しているのよね」
「確かに。村民の方々の服装もなかなか綺麗ですし、おしゃれですね」

 キラキラと目を輝かせながら村を見回すリリーを横目に、
 
「ふふっ。この村の良いところは他にもあるわよ?」

 ローズは道行く一人に声をかけました。
 立派なお髭のおじさまです。

「ごきげんよう」 
「やぁ!」

 お互いに片手をあげるだけの、友達同士のようなフランクな挨拶でしたが、お互いに気にもとめていません。二人はそのまま握手を交わします。

「調子はどうだい、お嬢ちゃん!」 
「すこぶる良いわ」
「それは良かった! この村には何のご用で?」
「旅の途中で寄ったのよ。良い場所があるって聞いてね」
「それは最善の選択だ。ポーリッジは良いところだよ。楽しんで!」
「ありがとう、じゃあね」
「ああ!」

 そう言ってお髭のおじさまと別れたローズは、心の底から楽しそうな笑みを浮かべながら、リリーへウインクをして。
 
「……こんな感じで、結構陽気な人が多いのよ。だから、滞在していて楽しいし、基本よほど下手なことをしなければ、嫌な思いをすることは無いわね」
「ある意味、気安い感じなんですね」
「礼儀をもって、楽しく過ごしましょう」
「はいっ!」

 主人と従者だった頃には絶対に見せなかった、それはもう素晴らしい笑顔を浮かべた二人は、村を散歩した後、小さな食堂へと入って行きました。

 その食堂は、村全体の雰囲気から見れば随分と古めかしく、悪い言い方をしてしまえばあまり綺麗とは言えない外観でした。
 しかし、お店の中から漂ってくる匂いは、この村で嗅いだどんな料理の匂いよりも素晴らしいもの。

 お腹が空いていたこともあって、二人は蟻地獄に吸い込まれる蟻のように、ふらふらとお店の中へと吸い寄せられて行きました。

「いらっしゃい――って、さっきのお嬢ちゃん達じゃないか!」
 
 出迎えてくれたのは、先程であったお髭のおじさまです。
 おじさまはフリルのついた、可愛らしいエプロンを身に付け、カウンターの奥でこちらへ手を上げています。

「あら、ここはおじさまのお店だったのね?」

 カウンター席にどっかりと腰かけたローズが問いました。
 あまりにもワイルドなその姿は、誰がどう見ても数日前まで彼女が貴族であったなんて気付くことはないと言えるもの。

 なにせ、リリーですら、目を真ん丸にして驚いているのですから。
 
「おうよ。ずーっと昔からやってるんだ。――それで、何にする?」 
「そうね……リリー、貴女は?」
「ローズさまにお任せします!」
「……そう、ねえ」

 リリーからの厚い信頼に、微妙なプレッシャーを覚えつつ、ローズは炭火で焼かれている串を指差して、

「ねえおじさま。これは何かしら?」
「豚の串焼きだよ。こっちは猪さ」

 串焼きからは、脂の弾けるパチパチとした音や、肉汁が炭に落ちる音、炭火特有の食欲を煽るこうばしい香りが漂ってきます。

 そんな串焼きに、二人は目が釘付けです。特に、最後に食べお肉が、あのステーキだったローズは、特に。
 
「おっ、おすすめは?」
「そりゃあ、豚――……と、言いたいところだが、脂が苦手なら猪だな。赤身が多くて、ちっと固いが旨いぞ!」

 おじさまのそんな言葉を聞いて、ローズが迷う余地は、もうありませんでした。
 
「――それぞれ二本ずつ。合わせて四本頂くわ」
「毎度あり!」




 
「では、頂きましょう、リリー」
「はい、ローズさま!」

「私たちの糧となる全ての存在に、心からの祈りを込めて」

Amen感謝を
Mahlzeit頂きます
 

 そんな言葉を皮切りに、二人は勢いよく串焼きにかぶり付きました。
 肉の繊維を噛み切るプチプチという感覚が、なんとも言えない心地よさ。噛む度にじゅわっとしみ出す肉汁が口に収まりきらず、少しだけ垂れています。

「ローズさま。この豚串、溢れ出る肉汁と程よい塩加減が、最っ高ですっ!!」
「この猪串も、噛めば噛むほど旨味が染み出してきて、とても美味よ。焼き加減、塩加減共に絶妙ね」
「これが食べられなくなるだなんて、少し悲しくなっちゃいます」
「ふふっ、そうね。でも、仕方がないわ。それが、私たちの運命なのだから」

 そんな話をしていると、二人の目の前に、オレンジ色の粒々と液体がなみなみと入ったコップが置かれました。

「――あら? おじさま、これは?」

 ローズが問うと、おじさまは頬を赤くしながら答えました。

「家の庭で取れたオレンジのジュースさ。俺の串焼きをこんなに誉めてもらったのは初めてだったからな。サービス、だよ」

 それを聞いたローズとリリーは、お互いに顔を見合わせます。
 
「ありがとう、素敵なおじさま」
「ありがとうございますっ!」

「ははっ! 止せやい、照れるだろう!」


 二人が再びこの地を踏むことは、この先、無いのかもしれません。
 しかし、最後の最後に、このような素晴らしい人や料理に出会えたのは、辛く苦しいことばかりだった所を踏ん張り続けた、ごほうびなのだと。

 ローズは串焼きに舌鼓をうちながら、そんなことを思ったのでした。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...