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第2章 魔帝と仔猫と栗鼠と
スクワール
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『舞奈、無事かい!?』
通信機からボーマン博士の声があふれ返る。
『アジトを破棄して撤退する! リンボ基地で落ち合うよ!』
『な、何だぁ!? 何がおこったぁぁぁ!?』
釈尊からゴートマンの悲鳴。
衝撃とともに、カリバーンを拘束していた腕がゆるむ。
「ボーマン! どんな魔法を使ったんだ?」
『こんなこともあろうかと、このあたりの廃ビルに爆薬を仕こんでおいたのさ』
「さっすがリーダー! 命拾いしたよ」
言って笑う。
だが脚部を破損した3号機で逃げ切ることは不可能だろう。
機体を捨て、立ちこめる粉塵を利用して下水道に逃げ込むのが精一杯だ。
舞奈はコンソールパネルを操作してPKドライブのリミッターを解除する。
――バイバイ、マスター
パネルの隅に刻まれた『RAITO』の文字が悲しげに光る。
「……畜生、何してるのか気づいてるってのか」
口元を歪める。
それでもレバーを動かし、目盛りいっぱいまで出力を上昇させる。
PKドライブは出力が200%を超えると自壊・爆発する。
幸いにも【猫】も釈尊も舞奈に構う余裕はないらしい。
何せ周囲一帯の廃ビルが崩れて瓦礫の雨を降らせているのだ。
だから開けたハッチから身をひるがえし、粉塵が舞い散るアスファルトに着地する。
瓦礫の雨から頭をかばいつつ、視界の隅に丸い蓋を見つけて駆け寄る。
重い鉄の蓋をこじ開ける。
襲いくる巨大なコンクリート片を避けるようにマンホールへ身をすべらせる。
そして次の瞬間、舞奈が消えたマンホールの穴を閃光が白く塗りつぶした。
PKドライブ自壊による大爆発だ。
舞奈はふり返り、マンホールの入口から差しこむ放電混じりの閃光を見やる。
「……バーンと1号機によろしくな、RAITO君」
ひとりごち、激戦の跡に背を向けて走りだす。
廃水が流れる汚い地下道を走って、走って、走った後にリンボ基地に辿り着く。
先ほどまでいたアジトに近い、整備工場を兼ねたレジスタンスの拠点だ。
そして廃屋を改装したアジトより多少は堅牢そうなコンクリート造りの広間で、
「無事かい、舞奈!?」
白衣の女性が舞奈を出迎えた。
ボーマン博士だ。
非戦闘員のリンボ基地への撤退はほぼ成功したらしい。
「おかげさまでな。……すまないボーマン。カリバーン2機と、バーンがやられた」
「相手が悪いよ。2号機に、仲間が3人帰ってきただけでも御の字さ」
「そっか。でも、この後はどうするんだ?」
舞奈は状況を報告する
声色に珍しく不安が滲む。
傍若無人な舞奈の態度も、貫禄ある母のようなボーマンの前ではなりを潜める。
本来なら舞奈は母親の胸で震えていてもおかしくない年齢だ。
「今までのゲリラ狩りとは規模が違う。ここが嗅ぎつけられるのも時間の問題だ」
言い募る。
特機を操る魔術師と妖術師を相手に、2号機と、この基地で修理中だという4号機だけではとうてい太刀打ちできない。
さらに敵には増援が加わるであろう。
機体の性能も物量も、何もかもが違いすぎる。
1年前から、あるいは21年前から数多の戦場で生き抜いてきた舞奈だからわかる。
この戦いには絶対に勝てない。だが……
「……驚きゃしないさ。そろそろだと思ってたんだ」
舞奈以上に状況を理解しているはずのボーマンは、落ち着いた声色で答える。
とりたて動じることもない。
諦観している様子でもないのが不可解だと思った。
そんな彼女は、
「来な。あんたに見せたいものがある」
舞奈に背を向けて歩き出す。
慌てて舞奈も後を追う。
そして2人は、元は地下街だったらしいリンボ基地の通路を並んで歩く。
「10年前、魔帝を名乗る魔術師が突如としてあらわれた」
ボーマンはひとりごちるように語りかける。
「魔帝は恐るべき魔力で破壊の雨を降らせ、都市という都市を焼き払った」
「ああ」
「大地は斬り刻まれ、空は電磁波まじりの異常気象で荒れ狂い、従来兵器は動くことすらままならなくなった」
「……その話なら何度も聞いたよ」
舞奈は口元を歪める。
舞奈がいない20年の間に、魔帝を名乗る何者かが世界を滅ぼし、支配していた。
魔帝は盟約によって他の魔術師たちを放逐し、超巨大な結界で空を覆った。
この国は政治や軍事の中枢を破壊され、他国からの支援すら断たれ事実上滅亡した。
さらに魔帝は、地球外の技術によって作られた装脚艇で生存者を狩り始めた。
そして今、レジスタンスは装脚艇を駆り、魔帝に抵抗を続けている。
「魔帝に力を与えたのは、宇宙からもたらされたモノリスだ。魔帝はモノリスに記録されていたデータを解析して魔術を極めた」
ボーマンは言葉を続ける。
苦しげに。
舞奈の知らぬ何かの罪を告白するかのように。
「同時に、宇宙戦争で使用された惑星降下用の機動兵器を再現した」
「そいつが装脚艇って訳か」
「そうさ。魔帝が再現した装脚艇は2種類に分けられる」
「種類……だと?」
続く話に首をかしげる。
舞奈が知る鉄の巨人は、レジスタンスのカリバーンと魔帝軍のソードマンだ。
それ以外になかった。
例外は先ほど相対したばかりの【猫】と釈尊だけだ。
だから情報の続きを求めてボーマンを見上げる。
「ひとつはモノリスのデータをそのまま再現した復刻機。あんたたちがさっき戦ったランドオッタ――【猫】のことだ」
「そうかい」
「もうひとつは量産機。宇宙のそれより遥かに劣る地球の技術力で量産するために、機体性能をぎりぎりまで下げた廉価品だ。カリバーンやソードマン、釈尊がそうだ」
「……そりゃどうも」
口元を歪める。
その粗悪な廉価品を力だと信じて散った仲間を、敵方の廉価品に屠られた仲間を何人も知っている。バーンもそのひとりだ。
だがボーマンは舞奈の心情など素知らぬ様子で言葉を続ける。
「魔帝はアヴァロン地点に兵器工場と神社を兼ねた魔砦を建造し、量産機ソードマンを量産、そいつを乗っ取ったこの国の組織に与えて魔帝軍に仕立て上げた」
「なるほどな」
ひとりごちるように答える。
舞奈は、魔帝軍の前身は【機関】なのだと思う。
ほぼ全ての兵士が異能力を用い、実戦経験が足りていないからだ。
ふと口元に乾いた笑みが浮かぶ。
魔帝は【機関】が成しえなかった偉業を成し遂げたと気づいたからだ。
この1年間、レジスタンスのメンバーとして渡り歩いた廃墟のどこにも怪異はいなかった。廃墟だらけの世界なんて、彼らにとっては絶好の繁殖場所なのに。
おそらく魔帝が消し去ったのだろう。人や街や、青い空といっしょに。
「わたしは魔帝の元から失敬したモノリスのデータを元に、量産機カリバーンを開発した。そして魔帝に対抗する組織を結成した」
「そいつがレジスタンスか」
「そういうことさ。レジスタンスは善戦し、魔帝を討つべく第1次攻撃部隊を編成するに至った。だが、その結果は相手の力の強大さを見せつけられただけだった」
「……そういう話だな」
「そして1年前に結成された第2次攻撃部隊は魔帝の防御を突破し、魔砦への進入に成功した。だが攻撃部隊は全滅し、同行したわたしも命からがら逃げ延びた。いや……」
ボーマンは言葉を切る。
サングラスのせいで表情こそ見えないが、口元は悔しげに歪む。
「……仲間を盾にして、別の仲間に手を引かれて逃げ帰った」
「そういう言い方、やめてやれよ」
舞奈も口元を歪める。
ふと通路の片隅で寝転んでいた痩せた野良猫が、興味なさげにこちらを見やる。
人が滅びかけた21年後の世界でも、猫は何食わぬ顔で生きている。
猫は思い悩まない。
戦争もしない。
生まれて、食って、寝て、やがて仔を産んで死ぬ。
そんな埃のような生き方が、舞奈はどこかうらやましいと思った。
「そいつらだって、女に泣き言を言わせるために命張ったわけじゃないだろ?」
舞奈はボーマンを見上げる。
目線の上でゆれる豊満な胸を見やり、舞奈は口元をゆるませる。
子供の舞奈が大人のボーマンと目を合わせようとすると、自然にそうなる。
「あんたはレジスタンスにとって必要な存在だ。この1年で、あんた自身がそれを証明してきた。それに……」
言いよどんだ先を、ボーマンが続ける。
「ああ、第2次攻撃部隊は魔砦付近の廃墟で子供を保護した」
言いつつ側の舞奈を見やり、少しだけ口元に笑みを浮かべる。
それが、事故にあって20年後に跳ばされた舞奈だった。
レジスタンスの一員となった舞奈は、すぐさま頭角をあらわした。
仕事人として異能力の使い手と戦い続けた舞奈の経験は、何度も仲間を救った。
「そして、あんたの持ってた『涙石』も、魔砦攻略の切り札になった」
「あの石ころがか?」
問い返しつつ、21年前の最後の仕事で泥人間が持っていた宝石のことを思い出す。
ジャケットのポケットに入れっぱなしになっていた宝石は、当然ながら21年後の世界でもポケットに入っていた。だからボーマンに譲って調べてもらっていたのだ。
涙石という呼称も彼女がつけたものだ。
単に呼び名がないと不便だからという理由である。
だが舞奈は彼女の名づけのセンスに少しばかりロマンチストみを感じていた。
「何の役にたったんだ? ネックレスにしたらあんたに似合いそうだと思うんだが」
魔砦攻略の目途が立ったのは朗報だ。
だが、あんな石が何の役に立ったのかは見当もつかない。
だから首を傾げつつも、大人の女性の顔から胸の谷間へ視線を移し、
「やっぱ、イヤリングのが良いかな」
ひとりごちる。
たぶん、ネックレスだと谷間に埋まって見えなくなる。
「人が真面目な話をしてる間じゅう、あんたはそれかい」
そんな舞奈をボーマンは冷ややかに見下ろす。だが、
「見ればわかるさ」
口元にニヤリと笑みを浮かべる。
そして舞奈を連れてボーマンが向かった先。
そこは地下街を流用したらしい急造のハンガーだった。
「お、我らレジスタンスの英雄がお出ましじゃ!!」
ハンガーの入口で老人が出迎える。|
六角レンチを手にし、油汚れにまみれた作業着を着こんだん口ひげの老人。
装脚艇のメンテナンスを仕切るサコミズ主任だ。
「誰だそれ? 爺さん、呑みすぎで別の女と間違えたのか?」
「……まあ、いい。それよりあれを見とくれ」
老人が指さした壁際には、見慣れた都市迷彩の装脚艇が並んでいた。
1体は、砲塔から駆動部がはみ出したカリバーン2号機。
右腕をもぎ取られた他にも、先ほどの戦闘で深刻なダメージを被っている。
とても出撃できる状態ではない。
2号機の隣には、おそらく修理が終わったのであろう4号機。
緑色の頭のカリバーンは各部に追加の装甲が取り付けられた堅牢な機体だ。
加えて低反動砲すら防ぐ【装甲硬化】の異能力を持つ。
だが、それらはこの際、どうでもよかった。
なぜなら2機の量産機の側に並んでいたのは……
「……!? なんでこいつが、こんなところにあるんだよ?」
流石の舞奈も思わず目を剥く。
視線の先には、鮮やかなワインレッドの機体。
隣のカリバーンと比べてひと回り小さい、砲塔と一体化した流線型の車体。
しゃがみこむように折りたたまれた華奢な脚に、小ぶりな腕。
そして砲塔の上部には小動物じみた頭。
それはまるで、先ほどの戦いで魔術師が用いていた【猫】だった。
異なるのはカラーリング。加えてかかとについた巨大な車輪と、げっ歯類を髣髴させる頭部、そして車体の後ろに生えた巨大な尻尾。
舞奈には、それは巨大な栗鼠に見えた。
先ほどのボーマンの説明を信じるならば、目前の機体は復刻機。
量産機と違って宇宙戦争の技術を完全に再現した、唯一無二の特別な装脚艇。
そんな鋼鉄の栗鼠を舞奈と並んで見やりながらボーマンは、
「あんたが持ってた涙石は、どうやら魔力を蓄える性質があるらしい。そいつのおかげで試作型のヴリル・ドライブが完成したのさ」
口元に不敵な笑みを浮かべてみせる。
「そしてワシらは、魔帝に対抗すべく復刻機の製造に着手した」
「それで出来上がったのがこいつって訳か」
「うむ、そうじゃ」
サコミズもまた髭もじゃの口元に笑みを浮かべる。
「じゃあ魔砦攻略の切り札ってのは……」
「こいつのことじゃよ」
「なにせ復刻機のパワーもスピードも量産機とはケタが違う。まるで大人と子供さ」
「レジスタンスの精鋭がそいつを駆って、魔砦に乗りこんで魔帝を倒すんじゃよ」
問いにサコミズとボーマンが交互に答える。
「そりゃすごい。で、そいつに乗りこむ英雄役は誰がやるんだ?」
軽口に、ボーマンは不敵に笑って舞奈を見返す。
サコミズも、何をあたりまえのことをとでも言いたげな表情で舞奈を見やる。
「いや、ちょっと待ってくれ」
「こいつに積まれとるヴリル・ドライブは、出力だけならPKドライブ遥かに凌駕する代りにフィードバックも異能力もないのさ」
「そんな暴れ牛みたいな代物を扱えるのは嬢ちゃんだけじゃ」
思わず引いた舞奈だが、またしても2人がかりでやりこめられる。
「さらっと言うなよ、爺さん。そんなバケモノみたいな機体を、フィードバックなしでまともに動かせってのか? カリバーンをちょっと借りるのとは訳が違うだろ」
「やり方は、わたしがみっちり教えこんだろ?」
「そりゃあそうなんだがなあ……」
とどめはボーマンの一言だった。
舞奈はフィードバックによる機体との同調がほとんどできない。
だから挙動を手動で微調整する術を学んだ。
というか、叩きこまれた。
彼女の酷いスパルタを乗り越え、フィードバックなしで装脚艇を乗りこなす秘術を修めたのは、カリバーンの開発に携わった技術者たちを除けば舞奈ただひとりだ。
舞奈は最高の戦闘センスに最高の操縦技術を兼ね備えた、無二の存在になっていた。
「――それに、他に適任者なんていないよ。さっきだって、ソードマンを5機も墜としてたじゃないか。しかも1機は生身で」
松葉杖をつきながら、やわらかな茶髪の少年が現れた。
「スプラ! 無事だったのか」
「おかげさまでね」
少年はニッコリと笑う。
その背後に、眼鏡をかけた細面が立つ。
「ピアース。その、バーンのこと、すまない……」
「おまえのせいじゃないだろ。僕だって力が及ばなかった」
ピアースはぎこちなく笑う。
1号機【火霊武器】を駆る熱血漢のバーンと、2号機【氷霊武器】を駆る冷静沈着なピアースは、互いの背中を預け合うパートナーだった。
スプラとトルソが、かつて舞奈と明日香がそうだったように。
だがそれも、バーンが釈尊に焼かれるまでのことだ。
「……おまえにできなかったんなら、たぶん誰にもできなかったんだ」
細面は自嘲げに笑う。
憎悪と後悔と無力感がまぜこぜになった、どうしようもない笑み。
彼は喪失を受け入れてなどいない。
ただ、その事実を覆す方法がないことを理解しているだけだ。
それでも眼鏡の青年は、こわばった空気をほぐすように笑う。
「ところで博士、新型の名前は決まったんですか?」
「エクスカリバーってのはどうかな? 僕らのカリバーンに合わせてさ」
「いや……」
スプラの提案に、だが舞奈は眉を寄せる。
21年前に儚く散った2つの部隊の名前が脳裏をよぎったからだ。
ロンギヌス。グングニル。
「スマン、それも槍の名前だろ? あたし、そういう名前と相性悪くて……」
「……エクスカリバーは剣じゃよ」
サコミズがぼそりとつっこんだ。
途端、せっかくほぐれかけた空気がバカを囲む微妙な雰囲気へと変わる。
「……似たようなもんだろ」
ふてくされた舞奈は口をとがらせる。
ふと、これと同じような会話を21年前にもしたな、と思った。
無意識に黒髪の少女の横顔を脳裏に思い描き、あわてて頭を振る。
釈尊との戦闘で追いつめられて過去に思いを馳せた先ほどから、何かと昔を思い出している気がする。
だが、そんな舞奈の様子を傷ついたと勘違いしてか、ボーマンは明るい声色で、
「それじゃあさ、スクワールってのはどうだい? モノリスに記述されてたこいつの機種名なんだ」
「……そいつはバットかトンカチの名前か?」
「栗鼠だよ。リス。ほら、木に登ってドングリを食べる、小さい動物のことさ」
「いや、リスが何なのかくらい知ってるよ」
舞奈はむくれた表情を作ってみせる。
そして、ふと最後に栗鼠を見たのはいつだったかと思いを巡らす。
ボーマンの豊かな胸を見やり、21年前のあの日に園香の下着に描かれていたキャラクターが栗鼠だったことに思い当たる。
――園香って、そういうの好きなのか? リスとか、ネズミとか、ハムスターとか
――あのね、マイちゃん、こういうの笑うかもしれないけど
――ちっちゃい動物のシャツ着てたら、少しくらい小さくなるかなって思って……
――やっぱり変かな?
――変じゃないさ。けど勿体無いな。こんなに立派おっぱいなのに
――ひゃんっ。もうぅ、マイちゃんったら
思わず口元に微笑が浮かぶ。
1年の間、(自分以外の)女の下着ともご無沙汰だった。
そういう名前の機体に乗るのも悪くない。
「……いいんじゃないか、それ。可愛くってさ」
舞奈は笑う。
仕事人の志門舞奈は、過去を思って悩むような繊細な奴だったか?
そうじゃない。
能天気に女の尻を追いかける、傍若無人なバカだった。
そんな無責任さを、明日香にいつも責められていた。
なら今でもそれでいい。
今は、それでいい。
「じゃ、決まりだね」
ボーマンが言った。
途端、爆音とともに天井がゆれた。
一泊遅れて、緊急事態を伝えるサイレンが鳴りひびく。
「破壊の雨か。魔帝軍の奴ら、とうとうここを嗅ぎつけたみたいだな」
舞奈は口元に不敵な笑みを浮かべる。
「爺さん、出られるか?」
「いつでもOKじゃ。ワシらのスクワールの初陣、期待しとるぞ!」
「まかせときな! ……あ、そうそう。こいつは空を飛べるのか?」
「本格的な飛行にはトゥーレ基地で組み立て中の大型ブースターが必要じゃが……」
問いにサコミズは少し考えてから、
「そのままでも推進装置をふかせて高くジャンプするくらいなら可能じゃ」
「へへっ、そりゃありがたい!」
答える。
舞奈は口元に笑みを浮かべると、鋼鉄の栗鼠に向かって走り出す。
先ほど戦った【猫】には少女が乗っていた。
同じ高さまで飛ぶことができれば、何か楽しい状況に持ちこめるかもしれない。
女の尻を追いかけるバカとしては、なんとも心躍るシチュエーションではないか!
――――――――――――――――――――
予告
腐肉に群がるハイエナの如く群れ成し迫る異能の巨人。
立ち向かうはレジスタンスの希望を背負った、たった1機の鉄騎兵。
英雄の御旗を引っ提げて、今ここに反撃の狼煙が上がる。
次回『初陣』
奪われた怒り。
失った痛み。
戦場の熱気を軽薄な笑みに隠して栗鼠は1匹の猫と踊る。
通信機からボーマン博士の声があふれ返る。
『アジトを破棄して撤退する! リンボ基地で落ち合うよ!』
『な、何だぁ!? 何がおこったぁぁぁ!?』
釈尊からゴートマンの悲鳴。
衝撃とともに、カリバーンを拘束していた腕がゆるむ。
「ボーマン! どんな魔法を使ったんだ?」
『こんなこともあろうかと、このあたりの廃ビルに爆薬を仕こんでおいたのさ』
「さっすがリーダー! 命拾いしたよ」
言って笑う。
だが脚部を破損した3号機で逃げ切ることは不可能だろう。
機体を捨て、立ちこめる粉塵を利用して下水道に逃げ込むのが精一杯だ。
舞奈はコンソールパネルを操作してPKドライブのリミッターを解除する。
――バイバイ、マスター
パネルの隅に刻まれた『RAITO』の文字が悲しげに光る。
「……畜生、何してるのか気づいてるってのか」
口元を歪める。
それでもレバーを動かし、目盛りいっぱいまで出力を上昇させる。
PKドライブは出力が200%を超えると自壊・爆発する。
幸いにも【猫】も釈尊も舞奈に構う余裕はないらしい。
何せ周囲一帯の廃ビルが崩れて瓦礫の雨を降らせているのだ。
だから開けたハッチから身をひるがえし、粉塵が舞い散るアスファルトに着地する。
瓦礫の雨から頭をかばいつつ、視界の隅に丸い蓋を見つけて駆け寄る。
重い鉄の蓋をこじ開ける。
襲いくる巨大なコンクリート片を避けるようにマンホールへ身をすべらせる。
そして次の瞬間、舞奈が消えたマンホールの穴を閃光が白く塗りつぶした。
PKドライブ自壊による大爆発だ。
舞奈はふり返り、マンホールの入口から差しこむ放電混じりの閃光を見やる。
「……バーンと1号機によろしくな、RAITO君」
ひとりごち、激戦の跡に背を向けて走りだす。
廃水が流れる汚い地下道を走って、走って、走った後にリンボ基地に辿り着く。
先ほどまでいたアジトに近い、整備工場を兼ねたレジスタンスの拠点だ。
そして廃屋を改装したアジトより多少は堅牢そうなコンクリート造りの広間で、
「無事かい、舞奈!?」
白衣の女性が舞奈を出迎えた。
ボーマン博士だ。
非戦闘員のリンボ基地への撤退はほぼ成功したらしい。
「おかげさまでな。……すまないボーマン。カリバーン2機と、バーンがやられた」
「相手が悪いよ。2号機に、仲間が3人帰ってきただけでも御の字さ」
「そっか。でも、この後はどうするんだ?」
舞奈は状況を報告する
声色に珍しく不安が滲む。
傍若無人な舞奈の態度も、貫禄ある母のようなボーマンの前ではなりを潜める。
本来なら舞奈は母親の胸で震えていてもおかしくない年齢だ。
「今までのゲリラ狩りとは規模が違う。ここが嗅ぎつけられるのも時間の問題だ」
言い募る。
特機を操る魔術師と妖術師を相手に、2号機と、この基地で修理中だという4号機だけではとうてい太刀打ちできない。
さらに敵には増援が加わるであろう。
機体の性能も物量も、何もかもが違いすぎる。
1年前から、あるいは21年前から数多の戦場で生き抜いてきた舞奈だからわかる。
この戦いには絶対に勝てない。だが……
「……驚きゃしないさ。そろそろだと思ってたんだ」
舞奈以上に状況を理解しているはずのボーマンは、落ち着いた声色で答える。
とりたて動じることもない。
諦観している様子でもないのが不可解だと思った。
そんな彼女は、
「来な。あんたに見せたいものがある」
舞奈に背を向けて歩き出す。
慌てて舞奈も後を追う。
そして2人は、元は地下街だったらしいリンボ基地の通路を並んで歩く。
「10年前、魔帝を名乗る魔術師が突如としてあらわれた」
ボーマンはひとりごちるように語りかける。
「魔帝は恐るべき魔力で破壊の雨を降らせ、都市という都市を焼き払った」
「ああ」
「大地は斬り刻まれ、空は電磁波まじりの異常気象で荒れ狂い、従来兵器は動くことすらままならなくなった」
「……その話なら何度も聞いたよ」
舞奈は口元を歪める。
舞奈がいない20年の間に、魔帝を名乗る何者かが世界を滅ぼし、支配していた。
魔帝は盟約によって他の魔術師たちを放逐し、超巨大な結界で空を覆った。
この国は政治や軍事の中枢を破壊され、他国からの支援すら断たれ事実上滅亡した。
さらに魔帝は、地球外の技術によって作られた装脚艇で生存者を狩り始めた。
そして今、レジスタンスは装脚艇を駆り、魔帝に抵抗を続けている。
「魔帝に力を与えたのは、宇宙からもたらされたモノリスだ。魔帝はモノリスに記録されていたデータを解析して魔術を極めた」
ボーマンは言葉を続ける。
苦しげに。
舞奈の知らぬ何かの罪を告白するかのように。
「同時に、宇宙戦争で使用された惑星降下用の機動兵器を再現した」
「そいつが装脚艇って訳か」
「そうさ。魔帝が再現した装脚艇は2種類に分けられる」
「種類……だと?」
続く話に首をかしげる。
舞奈が知る鉄の巨人は、レジスタンスのカリバーンと魔帝軍のソードマンだ。
それ以外になかった。
例外は先ほど相対したばかりの【猫】と釈尊だけだ。
だから情報の続きを求めてボーマンを見上げる。
「ひとつはモノリスのデータをそのまま再現した復刻機。あんたたちがさっき戦ったランドオッタ――【猫】のことだ」
「そうかい」
「もうひとつは量産機。宇宙のそれより遥かに劣る地球の技術力で量産するために、機体性能をぎりぎりまで下げた廉価品だ。カリバーンやソードマン、釈尊がそうだ」
「……そりゃどうも」
口元を歪める。
その粗悪な廉価品を力だと信じて散った仲間を、敵方の廉価品に屠られた仲間を何人も知っている。バーンもそのひとりだ。
だがボーマンは舞奈の心情など素知らぬ様子で言葉を続ける。
「魔帝はアヴァロン地点に兵器工場と神社を兼ねた魔砦を建造し、量産機ソードマンを量産、そいつを乗っ取ったこの国の組織に与えて魔帝軍に仕立て上げた」
「なるほどな」
ひとりごちるように答える。
舞奈は、魔帝軍の前身は【機関】なのだと思う。
ほぼ全ての兵士が異能力を用い、実戦経験が足りていないからだ。
ふと口元に乾いた笑みが浮かぶ。
魔帝は【機関】が成しえなかった偉業を成し遂げたと気づいたからだ。
この1年間、レジスタンスのメンバーとして渡り歩いた廃墟のどこにも怪異はいなかった。廃墟だらけの世界なんて、彼らにとっては絶好の繁殖場所なのに。
おそらく魔帝が消し去ったのだろう。人や街や、青い空といっしょに。
「わたしは魔帝の元から失敬したモノリスのデータを元に、量産機カリバーンを開発した。そして魔帝に対抗する組織を結成した」
「そいつがレジスタンスか」
「そういうことさ。レジスタンスは善戦し、魔帝を討つべく第1次攻撃部隊を編成するに至った。だが、その結果は相手の力の強大さを見せつけられただけだった」
「……そういう話だな」
「そして1年前に結成された第2次攻撃部隊は魔帝の防御を突破し、魔砦への進入に成功した。だが攻撃部隊は全滅し、同行したわたしも命からがら逃げ延びた。いや……」
ボーマンは言葉を切る。
サングラスのせいで表情こそ見えないが、口元は悔しげに歪む。
「……仲間を盾にして、別の仲間に手を引かれて逃げ帰った」
「そういう言い方、やめてやれよ」
舞奈も口元を歪める。
ふと通路の片隅で寝転んでいた痩せた野良猫が、興味なさげにこちらを見やる。
人が滅びかけた21年後の世界でも、猫は何食わぬ顔で生きている。
猫は思い悩まない。
戦争もしない。
生まれて、食って、寝て、やがて仔を産んで死ぬ。
そんな埃のような生き方が、舞奈はどこかうらやましいと思った。
「そいつらだって、女に泣き言を言わせるために命張ったわけじゃないだろ?」
舞奈はボーマンを見上げる。
目線の上でゆれる豊満な胸を見やり、舞奈は口元をゆるませる。
子供の舞奈が大人のボーマンと目を合わせようとすると、自然にそうなる。
「あんたはレジスタンスにとって必要な存在だ。この1年で、あんた自身がそれを証明してきた。それに……」
言いよどんだ先を、ボーマンが続ける。
「ああ、第2次攻撃部隊は魔砦付近の廃墟で子供を保護した」
言いつつ側の舞奈を見やり、少しだけ口元に笑みを浮かべる。
それが、事故にあって20年後に跳ばされた舞奈だった。
レジスタンスの一員となった舞奈は、すぐさま頭角をあらわした。
仕事人として異能力の使い手と戦い続けた舞奈の経験は、何度も仲間を救った。
「そして、あんたの持ってた『涙石』も、魔砦攻略の切り札になった」
「あの石ころがか?」
問い返しつつ、21年前の最後の仕事で泥人間が持っていた宝石のことを思い出す。
ジャケットのポケットに入れっぱなしになっていた宝石は、当然ながら21年後の世界でもポケットに入っていた。だからボーマンに譲って調べてもらっていたのだ。
涙石という呼称も彼女がつけたものだ。
単に呼び名がないと不便だからという理由である。
だが舞奈は彼女の名づけのセンスに少しばかりロマンチストみを感じていた。
「何の役にたったんだ? ネックレスにしたらあんたに似合いそうだと思うんだが」
魔砦攻略の目途が立ったのは朗報だ。
だが、あんな石が何の役に立ったのかは見当もつかない。
だから首を傾げつつも、大人の女性の顔から胸の谷間へ視線を移し、
「やっぱ、イヤリングのが良いかな」
ひとりごちる。
たぶん、ネックレスだと谷間に埋まって見えなくなる。
「人が真面目な話をしてる間じゅう、あんたはそれかい」
そんな舞奈をボーマンは冷ややかに見下ろす。だが、
「見ればわかるさ」
口元にニヤリと笑みを浮かべる。
そして舞奈を連れてボーマンが向かった先。
そこは地下街を流用したらしい急造のハンガーだった。
「お、我らレジスタンスの英雄がお出ましじゃ!!」
ハンガーの入口で老人が出迎える。|
六角レンチを手にし、油汚れにまみれた作業着を着こんだん口ひげの老人。
装脚艇のメンテナンスを仕切るサコミズ主任だ。
「誰だそれ? 爺さん、呑みすぎで別の女と間違えたのか?」
「……まあ、いい。それよりあれを見とくれ」
老人が指さした壁際には、見慣れた都市迷彩の装脚艇が並んでいた。
1体は、砲塔から駆動部がはみ出したカリバーン2号機。
右腕をもぎ取られた他にも、先ほどの戦闘で深刻なダメージを被っている。
とても出撃できる状態ではない。
2号機の隣には、おそらく修理が終わったのであろう4号機。
緑色の頭のカリバーンは各部に追加の装甲が取り付けられた堅牢な機体だ。
加えて低反動砲すら防ぐ【装甲硬化】の異能力を持つ。
だが、それらはこの際、どうでもよかった。
なぜなら2機の量産機の側に並んでいたのは……
「……!? なんでこいつが、こんなところにあるんだよ?」
流石の舞奈も思わず目を剥く。
視線の先には、鮮やかなワインレッドの機体。
隣のカリバーンと比べてひと回り小さい、砲塔と一体化した流線型の車体。
しゃがみこむように折りたたまれた華奢な脚に、小ぶりな腕。
そして砲塔の上部には小動物じみた頭。
それはまるで、先ほどの戦いで魔術師が用いていた【猫】だった。
異なるのはカラーリング。加えてかかとについた巨大な車輪と、げっ歯類を髣髴させる頭部、そして車体の後ろに生えた巨大な尻尾。
舞奈には、それは巨大な栗鼠に見えた。
先ほどのボーマンの説明を信じるならば、目前の機体は復刻機。
量産機と違って宇宙戦争の技術を完全に再現した、唯一無二の特別な装脚艇。
そんな鋼鉄の栗鼠を舞奈と並んで見やりながらボーマンは、
「あんたが持ってた涙石は、どうやら魔力を蓄える性質があるらしい。そいつのおかげで試作型のヴリル・ドライブが完成したのさ」
口元に不敵な笑みを浮かべてみせる。
「そしてワシらは、魔帝に対抗すべく復刻機の製造に着手した」
「それで出来上がったのがこいつって訳か」
「うむ、そうじゃ」
サコミズもまた髭もじゃの口元に笑みを浮かべる。
「じゃあ魔砦攻略の切り札ってのは……」
「こいつのことじゃよ」
「なにせ復刻機のパワーもスピードも量産機とはケタが違う。まるで大人と子供さ」
「レジスタンスの精鋭がそいつを駆って、魔砦に乗りこんで魔帝を倒すんじゃよ」
問いにサコミズとボーマンが交互に答える。
「そりゃすごい。で、そいつに乗りこむ英雄役は誰がやるんだ?」
軽口に、ボーマンは不敵に笑って舞奈を見返す。
サコミズも、何をあたりまえのことをとでも言いたげな表情で舞奈を見やる。
「いや、ちょっと待ってくれ」
「こいつに積まれとるヴリル・ドライブは、出力だけならPKドライブ遥かに凌駕する代りにフィードバックも異能力もないのさ」
「そんな暴れ牛みたいな代物を扱えるのは嬢ちゃんだけじゃ」
思わず引いた舞奈だが、またしても2人がかりでやりこめられる。
「さらっと言うなよ、爺さん。そんなバケモノみたいな機体を、フィードバックなしでまともに動かせってのか? カリバーンをちょっと借りるのとは訳が違うだろ」
「やり方は、わたしがみっちり教えこんだろ?」
「そりゃあそうなんだがなあ……」
とどめはボーマンの一言だった。
舞奈はフィードバックによる機体との同調がほとんどできない。
だから挙動を手動で微調整する術を学んだ。
というか、叩きこまれた。
彼女の酷いスパルタを乗り越え、フィードバックなしで装脚艇を乗りこなす秘術を修めたのは、カリバーンの開発に携わった技術者たちを除けば舞奈ただひとりだ。
舞奈は最高の戦闘センスに最高の操縦技術を兼ね備えた、無二の存在になっていた。
「――それに、他に適任者なんていないよ。さっきだって、ソードマンを5機も墜としてたじゃないか。しかも1機は生身で」
松葉杖をつきながら、やわらかな茶髪の少年が現れた。
「スプラ! 無事だったのか」
「おかげさまでね」
少年はニッコリと笑う。
その背後に、眼鏡をかけた細面が立つ。
「ピアース。その、バーンのこと、すまない……」
「おまえのせいじゃないだろ。僕だって力が及ばなかった」
ピアースはぎこちなく笑う。
1号機【火霊武器】を駆る熱血漢のバーンと、2号機【氷霊武器】を駆る冷静沈着なピアースは、互いの背中を預け合うパートナーだった。
スプラとトルソが、かつて舞奈と明日香がそうだったように。
だがそれも、バーンが釈尊に焼かれるまでのことだ。
「……おまえにできなかったんなら、たぶん誰にもできなかったんだ」
細面は自嘲げに笑う。
憎悪と後悔と無力感がまぜこぜになった、どうしようもない笑み。
彼は喪失を受け入れてなどいない。
ただ、その事実を覆す方法がないことを理解しているだけだ。
それでも眼鏡の青年は、こわばった空気をほぐすように笑う。
「ところで博士、新型の名前は決まったんですか?」
「エクスカリバーってのはどうかな? 僕らのカリバーンに合わせてさ」
「いや……」
スプラの提案に、だが舞奈は眉を寄せる。
21年前に儚く散った2つの部隊の名前が脳裏をよぎったからだ。
ロンギヌス。グングニル。
「スマン、それも槍の名前だろ? あたし、そういう名前と相性悪くて……」
「……エクスカリバーは剣じゃよ」
サコミズがぼそりとつっこんだ。
途端、せっかくほぐれかけた空気がバカを囲む微妙な雰囲気へと変わる。
「……似たようなもんだろ」
ふてくされた舞奈は口をとがらせる。
ふと、これと同じような会話を21年前にもしたな、と思った。
無意識に黒髪の少女の横顔を脳裏に思い描き、あわてて頭を振る。
釈尊との戦闘で追いつめられて過去に思いを馳せた先ほどから、何かと昔を思い出している気がする。
だが、そんな舞奈の様子を傷ついたと勘違いしてか、ボーマンは明るい声色で、
「それじゃあさ、スクワールってのはどうだい? モノリスに記述されてたこいつの機種名なんだ」
「……そいつはバットかトンカチの名前か?」
「栗鼠だよ。リス。ほら、木に登ってドングリを食べる、小さい動物のことさ」
「いや、リスが何なのかくらい知ってるよ」
舞奈はむくれた表情を作ってみせる。
そして、ふと最後に栗鼠を見たのはいつだったかと思いを巡らす。
ボーマンの豊かな胸を見やり、21年前のあの日に園香の下着に描かれていたキャラクターが栗鼠だったことに思い当たる。
――園香って、そういうの好きなのか? リスとか、ネズミとか、ハムスターとか
――あのね、マイちゃん、こういうの笑うかもしれないけど
――ちっちゃい動物のシャツ着てたら、少しくらい小さくなるかなって思って……
――やっぱり変かな?
――変じゃないさ。けど勿体無いな。こんなに立派おっぱいなのに
――ひゃんっ。もうぅ、マイちゃんったら
思わず口元に微笑が浮かぶ。
1年の間、(自分以外の)女の下着ともご無沙汰だった。
そういう名前の機体に乗るのも悪くない。
「……いいんじゃないか、それ。可愛くってさ」
舞奈は笑う。
仕事人の志門舞奈は、過去を思って悩むような繊細な奴だったか?
そうじゃない。
能天気に女の尻を追いかける、傍若無人なバカだった。
そんな無責任さを、明日香にいつも責められていた。
なら今でもそれでいい。
今は、それでいい。
「じゃ、決まりだね」
ボーマンが言った。
途端、爆音とともに天井がゆれた。
一泊遅れて、緊急事態を伝えるサイレンが鳴りひびく。
「破壊の雨か。魔帝軍の奴ら、とうとうここを嗅ぎつけたみたいだな」
舞奈は口元に不敵な笑みを浮かべる。
「爺さん、出られるか?」
「いつでもOKじゃ。ワシらのスクワールの初陣、期待しとるぞ!」
「まかせときな! ……あ、そうそう。こいつは空を飛べるのか?」
「本格的な飛行にはトゥーレ基地で組み立て中の大型ブースターが必要じゃが……」
問いにサコミズは少し考えてから、
「そのままでも推進装置をふかせて高くジャンプするくらいなら可能じゃ」
「へへっ、そりゃありがたい!」
答える。
舞奈は口元に笑みを浮かべると、鋼鉄の栗鼠に向かって走り出す。
先ほど戦った【猫】には少女が乗っていた。
同じ高さまで飛ぶことができれば、何か楽しい状況に持ちこめるかもしれない。
女の尻を追いかけるバカとしては、なんとも心躍るシチュエーションではないか!
――――――――――――――――――――
予告
腐肉に群がるハイエナの如く群れ成し迫る異能の巨人。
立ち向かうはレジスタンスの希望を背負った、たった1機の鉄騎兵。
英雄の御旗を引っ提げて、今ここに反撃の狼煙が上がる。
次回『初陣』
奪われた怒り。
失った痛み。
戦場の熱気を軽薄な笑みに隠して栗鼠は1匹の猫と踊る。
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