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レアスキルをゲット!

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「レオ、お前には失望した。クラスを授からないばかりか、魔法属性が大外れの土属性では生まれ持っての過大な魔法力も無意味……よって後継者として失格じゃ」

 俺は断崖絶壁の崖っぷちで手足を縛られて跪き、眼前で仁王立ちする祖父であり国王の男から辛辣な言葉を浴びせられていた。
 真夜中ではあるが周囲は月明りに照らされており視界は確保できた。だが、爺さんと兄上と飼い猫以外に生き物の気配は一切なく辺りは静寂そのものだ。

「この崖下はキーラ渓谷と呼ばれておってな、谷底には強力な魔獣が生息しておるから、落下すればお前の実力ではまず助からない」
「爺様、たとえ後継者になれずとも私には生きる権利がございます」
「黙れ!お前のような無能が我が血筋から生まれたと世間に知られれば恥さらしになるのだ」
「そんな……」

「爺様、早くその無能を突き落としてよ」

 兄上が薄気味悪い笑みを浮かべながら言った。

「そうだな、さらばじゃレオ」

 爺さんはそう言うと右手で俺の肩を押そうとしたが、俺は最期の悪足掻きで身を躱した。そして、爺さんの腰に収まった短剣の柄を噛み、鞘から抜き取って自ら奈落の底へと飛び込んだ。

「儂の宝が――」

 谷底へと落ちていく俺の耳に爺さんの嘆きが微かに聞こえた。この短剣は爺さんが肌身離さず持っていた物で一番大切にしていた。俺の最初で最後の爺さんへの反抗だ。

 爺さんは谷底には強い魔獣が生息しているから助からないと言っていたが、そもそも落下ダメージで絶命するから俺には関係ない。
 
 谷底へと落下しながら、これまでの人生が走馬灯のように脳裏を流れた。物心がついた頃から訓練と勉強漬けの日々で娯楽は一切なかった。次期国王を宿命づけられて過度なプレッシャーとも戦ってきた。それなのに、こんな最期を迎えるとは……

 俺は確かに谷底へと落ちたはずだがトランポリンのような弾力がある物体に落下の衝撃を吸収されて跳ね返ることで奇跡的に生き延びた。
 辺りを見渡すと、月明りが届かない谷底だが幸いにも緑色に発光する苔のようなもので視界が確保できた。ゴツゴツとした形が不揃いな岩石が地面に広がっており今にも魔獣が現れそうな気配だ。
 俺が両手両足を縛られている現状に変化はないから魔獣に倒されるのは時間の問題だ。
 諦めかけて目を閉じようとした時、レベルアップのファンファーレが頭の中でこだました。

俺は顎で左腕に刻まれた円状の術式をタップしてステータス画面を空中に投影した。

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・ダンジョン
【キーラ渓谷】 等級:B
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《ダンジョンと魔獣の等級は〈SSS・SS・S・A・B・C・D・E・F〉の9ランクであり、魔獣の等級は単純な強さではなくレア度なども含めた討伐難易度》

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・討伐
【孤高のスライム】 等級:SSS 種族値:80 個体値:6
          HP:0/30 MP:950/950
――無色透明なスライム。出現率が極めて低い魔獣であることから、もはや存在すら危ぶまれており遭遇できれば奇跡的。単独行動や暗がりを好む習性から一部の冒険者から、ぼっちスライム、陰キャスライム、などと揶揄されている。
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 俺を跳ね返した物体をよく確認すると孤高のスライムであり、短剣が突き刺さっていた。どうやら俺が落下したのが偶然にも孤高のスライムの真上であり、その勢いで刺さった爺さんの短剣が致命傷になったらしい。

 孤高のスライムは蜃気楼のように静かに消え去ると無色透明な魔石がその場に残された。俺は手のひらサイズの魔石を拾うと袋に閉まった。

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【レオ・グリフォン】 魔法属性:土 クラス:陰キャ 年齢:14
〈基本ステータス〉 
 Lv :70
 HP :340/340
 MP :720/720
 魔法力:840
 攻撃力:430
 防御力:350
 回避力:390
〈スキルポイント〉
・土魔法の神髄:70/100
・存在感の消失:70/100
・マイナス思考:70/100
〈土魔法〉獲得したスキル一覧
砂弾さだん ・砂塵壁さじんへき ・砂塵暴風さじんぼうふう ・砂漠津波さばくつなみ ・砂塵竜巻さじんたつまき ・砂漠地獄さばくじごく ・砂塵時代さじんじだい
〈陰キャ〉獲得したスキル一覧
無断欠席エスケープ ・学級閉鎖クローズ ・白昼正夢デイドリーム
〈所持金〉0G
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 俺は自分の目を疑った。レベルは一つ上げるだけでも大変であり14歳まで最大限の努力をしてきた俺でもLv7だった。それがまさかのLv70だ。
 いや、それよりも驚くべきはクラスを授かっている。どうやら孤高のスライムが保有していたクラスが幸運にも俺に受け継がれたみたいだ。
 更に、土魔法では砂のスキルを獲得している。砂のスキルを発現する者は極僅かだとされている。
 
 大幅なレベルアップのおかげで魔法とクラスのスキルをたくさん手に入れた。一つずつ確認すると手足の錠を外せそうなスキルを見つけた。

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〈土魔法・砂塵時代〉 消費MP:140 MP:580/720
 効果:手で触れた物体を砂に変化させる。
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 俺が〈砂塵時代〉を発動すると瞬く間に鉄の手錠が砂となり、晴れて自由の身となれた。
 そして、もう一つ現状で使えそうなのが〈無断欠席エスケープ〉だ。この危険なダンジョンを攻略するには適している。

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無断欠席エスケープ〉 消費MP:30 MP:550/720
 効果:発動者の存在感を消せるスキル。発動時間は魔法力の高さに比例する。
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無断欠席エスケープ〉を発動したが感覚的には何も変化が感じられなかった。
 俺が緑色に発光する苔が生えた砂利道を歩きだすと岩陰から魔獣が現れた。

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【ブロンズベア】 等級 :D 種族値:68 個体値:38
         HP :120/120 MP :90/90
 ――全身が銅色の毛皮に覆われた熊の魔獣。
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《種族値+個体値の合計値が魔獣の強さの目安》

 俺はすぐさま臨戦態勢に入ったがブロンズベアは俺に攻撃してこないどころか見向きもしない。

 これが〈無断欠席エスケープ〉の力か……無駄な戦闘を避けられて便利そうだな。
 
 渓谷ダンジョンは基本的に一本道だから〈無断欠席エスケープ〉の効果で魔獣との会敵を避けられれば前方へと進むことは容易い。
 俺は道中で希少な素材をいくつか採取した。これまでの猛勉強のおかげで図鑑に載っている素材の目利きはできる。
 順調に歩みを進めていくと、荘厳な門の前へと辿り着いた。基本的には門の中でダンジョンの支配者が待ち構えている場合が多い。

 俺が門に近づいていくと自動でゆっくりと開いた。内部に足を踏み入れると沼地になっており足下が少しばかりぬかるんでいた。中央にある大きな沼は淀んでおり底が見えない。俺が沼に近づいていくと沼の中から魔獣が現れた。
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