間違いだらけの久島くん

魔根喪部荼毘座右衛門

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一章.ブレイキングケイジ編

1.ここまで来ると嫉妬も起きない

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 授業は苦痛だ。

 何しろ50分間も、椅子に座っていなければならないから。せいぜい30分が自分の限界なのだ……僕は所謂『ADHD』とやらなのかもしれない。いや、ただ落ち着きがないだけだと思われる。

 僕が通うこの『県立波浜高校』は、平均的な普通科を擁する高校だ。進学校でもなければ、バカの集まる不良校でもない。特徴があるとするならば、私立並みに自由な校風だろうか?服装など、伊佐美くんみたい似着崩しても咎められない。

 頭いいやつも悪いやつも居るし、スポーツ得意な奴もパソコン弄ってる奴も居る。真面目な奴も不真面目な奴も居る、様々な人間が居る学校だ。

 僕は『不真面目なりに、なんとかしようとしている奴』である。むしろ高校受験の時に、中学の先生から『ランク落とせ』と言われるくらいには、この高校に入れるかも怪しい学力だったのだから。必死に食い下がってなんとか合格して入学できたが、落ちてたら僕は『不良の吹き溜まりな高校』に行くしかなかった。だから馬鹿なりに必死に頑張って合格できた。

 勉強しても、どうしても身につかないのが僕だった。だから成績はいつも赤点ギリギリ、内申点と課題で及第点のお目溢しを頂き、進級できたと言うしかない。

 そうして退屈で苦痛な午前授業を切り抜ければ、昼休みだ。今までは、1人で机で黙食したり、学食が当たり前だったけど今は違った。

「うおっ、サラダチキンとかタンパク質のグラム表記されてる惣菜パンに、プロテインジュース……相変わらずの筋肉メシだな久島……てか美味しいの?」
「美味しいから食べるんじゃない、強くなる為に食べるんだ……ごめんカッコつけた」
「キツイんじゃねーか、ちょっと端っこくれね?」

 体育館裏といえば一昔前、いやさらに昔になれば不良の溜まり場となるが、波浜高校ではここを溜まり場にする輩は居ないようで、僕と伊佐美くんの昼食会場その1になっていた。

 僕のコンビニタンパク質飯の、惣菜パンやらを見てカレーパン齧る伊佐美くんが、試したいと頼んできたので、僕は地理チキンビーンズパンの端をちぎって渡せば、彼はそれを放り込み、噛み締めて……なんとも言えない顔をした。

「あー……パサついてる、ちゃんと肉もあるしチリのほんのり辛さあるけど……甘い飲み物マストだわ」

 肉感あるし食べやすいが、こりゃ飲み物ないとキツいと彼はストロー刺した紙パックミルクティーを吸い上げた。うん、パサつきとプロテインってずっと解決しないのではないかと思われる。

「なぁ久島ぁ……」
「何、伊佐美くん?」

 そうして飯を食べ終えたら次の授業のチャイムまで、僕たちは他愛も無い談笑をするのが日課だった。

「俺も格闘技やったらモテるかな?」

 そんな彼より出された本日の命題がこちら。

『格闘技やったらモテるの?』である。

「僕はモテてないからなぁ……と言うか、BOFユースでの試合を見てたのキミくらいだし、モテたいの?」
「男だったら一度くらい思わねぇ?女の子にチヤホヤされてさ、酒池肉林のカーニバル、札束で尻を叩いてやるんだよ」
「キミの格闘家観、フロイド・メイウェザー・ジュニアで固定されてない?」

 伊佐美が手のひらを振るう様を見て、ボクシングのレジェンがSNSに乗せられた動画のような格闘家観に、僕は流石に待ったをかけた。流石に全員が全員そんな風になれるわけなかろうと、しかし……僕も尋ねられた身、自身が考える『格闘技はモテるか?』の問いへ、自分なりの答えを出してみた。

「んー……モテる格闘家ってさ?結局強いし、カリスマ性もあって、なにより顔がいいんだよね……それか惹きつける何かがあると言うか」
「つまり、モテる素養ある奴が、たまたま格闘技を選んで成功したってか?」
「うん、けど……運動や趣味として、ボディメイクのために格闘技をやるって言うのもあるよね、モテボディは作れるし」

 僕の出した結論。

『格闘技やったらモテる!じゃなくて、モテる素養持った奴が格闘技やってる!そして成功している!ただし、カッコいい肉体作りの選択肢にはなる』に、伊佐美くんは納得した。

「確かに、久島の身体すげぇもんな……いま制服だから隠れてるけど」
「けどモテないんだよねぇ……」
「え?久島にもそんな気があんの?」
「と言うか……あの試合をこの学校の誰か女子が見てくれてて……と言うのを……期待してた自分が……多少ある」

 正直に言えば、僕もその辺り気にしていた俗物である。だってめちゃくちゃ頑張って戦ったし、全国どころか世界にサブスクで放送されるってなれば、この学校の女子の誰かは見てるかなと、気づくかなと淡い気持ちはあった。

 そして見てたのは、伊佐美くんだけだった。まぁ、所詮前座のアマチュア試合だから仕方ない。格闘技の中継生放送を通しで見る人なんて余程のマニアだろうし、目当てはメインのプロの試合なのだから。

 現に、現地のさいたまスーパーアリーナでもまだ客はまばらな時の試合だったから。

「あ、そうなんだ……ちょっと安心したわ」
「何が?」

 僕の話に、伊佐美くんはなぜかそんな事を言うので、理由を尋ねてみた。

「いや、どう見ても久島って……ガチで格闘技突き詰めてますってオーラ出てっから、女なんていらねー、名誉も富もいらねー、最強になりてぇんだとばかりに」
「僕もそこまで枯れ果ててないって……」

 そうだ、僕だって人並みにはそんな気持ちがある。多分、おそらく……いやでも、女子に囲まれたいか?と言われたら違うなと思った、贅沢な話になるけど誰か1人くらいは、自分を好きになってくれる女の子が現れてほしいとは思う。仮に何人も女の子に囲まれたら僕は、対応できず吃って、萎縮して呆れられるのが見えてしまう。

 友達ができて、チヤホヤされたい気持ちもあるけど、今こうして伊佐美くんが話し相手になってくれるだけでも僕は楽しいし……その為に格闘技を始めて、今日まで続けてきたわけでも無いから。

「ただ、そうだね……やって良かった事はあるよ」
「何さ?」
「伊佐美くんと、話し相手になれた」

 モテるかは別に、今率直に格闘技をやってて良かった事は、高校生活初めての話し相手が出来たことだと言うと、伊佐美くんは固まった。

 ……あ、いかん、もしかしてそっちの意味で取られたか!?と、僕は慌てた。

「ご、ごめん!気持ち悪かったよね……」
「お!?いや違う違う、思ってねぇよ!?いや俺もさ、気兼ねしねぇ話し相手できて良かった思っとるし」

 絶対気を使われた、やらかしたと僕は自己嫌悪に苛まれた。

「んじゃあ退屈な午後の授業に行こうぜ久島ぁ」
「あ、うん」

 ほら、空気悪くなって立ち上がったじゃないか、コンビニ袋を引っ提げて僕も立ち上がり、体育館裏から2人で出て行く。すると、体育館近くの学食の方から楽しげな声が聞こえて、男女の集団が和気藹々と出てきた。

「見ろよ、酒池肉林の主人だぜ?楽しそーだよな相変わらず」

 正確には男1人に女4人のハーレム酒池肉林だった、それを見かけてしまって気分がさらに悪くなったと伊佐美くんが舌打ちする。

「人気者だよね、彼……」
「ああ、50万人の登録者持ってるYouTuberだからな、顔もよけりゃ頭もいい、中学は野球やってた元4番エース様だからな、モテ要素のオンパレードだ」

 嫉妬する伊佐美くんだが、僕も確かに羨ましくなるし気持ちは分かる。彼は人気者だ、その星に生まれた神様の子なんだろうなとすら感じる。

 そして彼も、僕と伊佐美くんと同じ2年2組でクラス委員長だ。

 名前は『秋山千才』

 おそらくは、この学校一番の『リア充』と言う存在である。
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