三遠法の軌跡

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三遠法の軌跡

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三遠法の軌跡


山に三遠あり。
山の下より山嶺を仰ぎ見たるを高遠と言う。
山の前より山の後を窺いたるを深遠と言う。
近き山より遠き山を望みたるを平遠と言う。
(北宋画家・郭熙かくき林泉高致りんせんこうち』による)



2015・春 東京
 京王線調布駅は最近地下駅になった。長年近隣を悩ませていたいわゆる「開かずの踏切」は一気に解消され、地上は南口と北口を挟んで、広場のようになった。
 南口の階段を上ってくると、右には市民会館とそれに付属した公園があり、左にはパチンコ屋が並んでいて、バスのロータリーを囲むように建っている。最近になってパチンコ屋の並びに、高層マンションが建てられた。南口の景色は一変したかと思うとそうでもない。駅からまっすぐ伸びて品川通りに直角に当たる道は健在で、道沿いの店舗は入れ替わりもあったが、古い店もそこここに残っている。
 十八年変わらない、私の通勤路だ。駅からだいたい十分ほどで、品川通り沿いにある私の職場に着く。ここまで来ると旧道だから、だいぶ年季の入った店舗も見える。かくいう我が社のあるビルも、築十八年だから古株に当たる。
 五階建てのそのビルは地主夫婦がオフィスビルとして建てたもので、当のご夫婦は最上階全フロアを自宅にしている。四階から下のテナントは時代を反映してか、不動産屋と建築事務所が次々に入った。私の勤務先「ミズタ設計」は三階東側の奥に、建設当初から事務所を構えている。
 社長の水田は大手建築会社に勤めた後三十二才で独立、今の事務所を始めた。その時部下だった私は引き抜かれて、ここへ移った。始業当初は社長と私、それに経理事務担当の東隆谷とうりゅうだに女史の三人だけだったが、大手の頃に培った人脈が生きて、仕事が途切れることはなかった。社長の実家は岩手の造り酒屋で、情に厚い社長の人柄は、人脈を更に広げた。
 うちにはもうひとつ特長があって、最初に引く図面は必ず手書きと言うことになっている。造り酒屋の家で育った社長は、手作りのものをお客様に提示するのが、最も誠意ある対応だと信じていた。私もそれには全く異論がなく、だからこそ私は手書きの図面に関しては、誰にも負けないという自負を持っていた。
 経営も軌道に乗り、これまでのように中型マンションだけという訳にも行かなくなったので、五年目に新たな人材を募った。その内、東金くんは店舗設計も手がけたこともある人で、「手作り図面派」の社長や私に賛同してくれた。
 他にも何人か入社したが、やめる者も少なくなかった。CADなどを使えば作業効率も図面の仕上がりも一様に向上することが分かっている。敢えて手書きで、という社長の方針は、やや遅れた感覚に思えたかも知れない。それでも、このやり方がイイ、と言って下さる顧客の方は多かった。
 今や従業員七名の事務所で、社長の水田と私、それに東金が設計主任を担当し、図面を書いた。それを元に入社五年目の三浦、星野と、二年目の笹塚がモデリング(模型)を作っていく。二度の産休を経て現場復帰した東隆谷女史は、経理事務は勿論、産休中に図面の書き方を覚えたらしく、いまでは笹塚くんよりよほど綺麗な図面を書く。
 今回のクライアントである佐古田様は市内に土地を持つ大地主のご夫婦で、たまのホームパーティーには社長と私が招かれるほど懇意にしていた。軽井沢に別荘を建てるとのことで、その設計をウチに任せたいというのである。一戸建てのご依頼は久し振りで、何より上得意様のご依頼だったから、私も皆も張り切っていた。
 三十平米程の事務所は、各自に製図台と机をあてがっても充分な広さだった。社長の机は一番奥の東側、それに向かい合うように私と東金の机があり、その後ろにそれぞれ二つずつ机が並ぶ。大声を出さなくても、誰でも聞こえる距離だ。
 社長からの呼び出しも、皆の耳に届いていたはずだ。ただその声に、幾らかのわだかまりを感じたのは、付き合いの長い私だけだったろう。
 「佐古田様がね。君のパースが、立体に見えないと言うんだ」
 「え?」
 事務所内が一瞬静まり返った。
 明後日のプレゼンに向けて、先方に前もって渡していた図面は四種類あった。各階の内部を上から見た平面図、建物を真正面から見た立面図、敷地と建物の配置を上から見た配置図、それに透視図法を使って、建物を実際に見るように描いた透視図(パース)である。
 「君には直接言いづらかったようでね。私のところに連絡が来たよ」
 「何か失礼でもありましたか?」
 「いや、パースの事だけで、後はそのままと言うことだったよ」
 「……」
 「まあ、長くやってりゃこういうこともあるさ。今回に限り、CADを使ってみよう。時間もないしな」
 「申し訳ありません」
 気にするな、と社長が手を振ってみせる。もちろん内心では気付いているが、皆の手前はっきりは言わない。社長には知らせてあったが、他の皆には教えていない。
 考えたくはないが、心当たりがあった。

 目の異常に気づいたのは、三ヶ月前である。左眼の視界が、まるで濡れたガラスを通したかのように歪んで見え始めた。初めは年のせいで眼鏡が合わなくなったと思っていた。あるときシャワーを浴びた後で、鏡に映る自分の姿を見て、裸眼でも歪みがあるのに気づいた。すぐに眼科にかかった。
網膜静脈閉塞症もうまくじょうみゃくへいそくしょう。眼球内の血管が閉塞してうっ血し、網膜上に浮腫が起きているという。放置すれば緑内障を引き起こしたりするが、今は治療法が幾つかあるらしい。
 「注射してみましょうか」
 白目の部分に直接薬剤を送り込むので、効果が高いという。
 「ただ、完全に元に戻るというのはないかも知れませんよ」
 どきっ、とするようなことを最後に言う。
 眼球に注射、というのは考えただけでもぞっとしたが、実際にやってみると、ちょっとした拷問である。瞬きをしないように固定され、麻酔を打たれて眼に針を刺す。針の痛みより、眼が動かせないのが辛い。
 打った当初はてきめんに効果が現れるが、三週間ほどでまた歪みが現れた。人にもよるが、二、三回の注射で完治する人と、一年やっても治らない人がいるらしい。じっさい、私はもう四度打っている。
 四十六にもなって、みっともないとは思うが、この注射だけは幾らやっても馴れない。

 今年二年目の笹塚は、CADとなると俄然乗り気になる。駄目出しが出た私のパースを元に、PC画面上にみるみる家の形が整っていく。私が後ろから色々注文を付けると、簡単にクリアしていく。
 作業効率や仕上がりの面から見て、CADがどれだけ手書きに勝るかは承知している。ただ、自分の手で描いた図面は、お客様に提案するときの思い入れが違う。こうしてマウス一つで動く画面を見ていても、どうも居心地が悪くて、ホンモノの感じがしない。私の考えが古いのか。若い笹塚は、随分楽しそうにPCに向かっているけれど。例えば全編CGのアニメなんかを見ても、あのあり得ないほどスムーズで無駄のない、無機的な動きを見ていると、居たたまれない気分になる。
 「何が気にくわなかったんだろうね、佐古田さんは」
 社長がいつのまにか後ろに回っていた。
 どうやら社長も同じ思いだったらしい。CADの図面ではなく、私の描いたパースを見ている。見劣りはない、というか、描いた本人からすると、私のパースのほうが正確で美しい、と思う。ポーチへ続く小径から、玄関ドアを中心に、二点透視法で描いた私のパース。
 「まあ、お得意様からの注文なんだから、逆らう訳にもいかんしな」
 慰めるように社長が言う。その間にも図面は完璧に近づいていく。
 画面を見ている内に、左の視界がまた歪んでいるのに気付く。目をぎゅっと閉じてまた開くと、前の席で振り向いた星野由香里と眼が合った。心配ないよ、と笑ってみせる。由香里の笑顔が返ってくる。
 何も話していないが、由香里は気付いているのだろう。
 ああ、またあの注射か。私の目はほんとうに治るのだろうか。


1890・春・パリ
 ……吹奏楽器が高らかに鳴って、歓声がわっと上がる。ばたばたと踊り子の足音。
 茹でたオマール海老の匂い。揚げたポテトの匂い。馬糞混じりの土の匂い。嬌声。脂粉。煙草。アブサント。
 ぼんやり顔を上げる。目線が低い。並ぶ白いペチコートの尻。もうカドリール(カンカン踊り)が始まる。
 あれ?僕は何処に居る?ここは花の都。パリのモンマルトル。クリシー大通りのダンスホール、『ムーラン・ルージュ紅い風車』の片隅。いつもの僕の指定席。
 珍しく酔いが回って、ここでうたた寝しちまったみたいだ。テーブルの上のスケッチに、酒と涎でシミが付いている。
 僕?僕はアンリ。アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック。
 背中越しに、斜め上からの視線を感じる。子供の頃の怪我で、足の長さが人の半分しかない僕には、そこから見られるのが一番嫌いだ。どうやら僕のスケッチを覗いてるらしい。ここに来る客には、たまに無遠慮な奴もいる。ひと言言ってやろうと振り向いた。
 「お目覚めかい、アンリの旦那」
 シャルル・ジドレル。ここの支配人。僕の知る限り、世界で一番タキシードが似合わない男だ。
 僕は伯爵家の出だから、上流階級の人間はよく見ている。礼服は着る人の氏素性を語る。この男の、ひくひく動く太い眉毛は、正装に反比例してこの男の、利に聡い本性を現している。   
 でも僕は、この男を嫌いじゃない。
 彼が気に入ってくれた僕のサーカスの絵は、『ムーラン・ルージュ』に入ってすぐの通路に飾ってある。
 「壜が空だぜ」
 テーブルの上のアブサントが空っぽだ。
 ジドレルは給仕に指を鳴らして、新しい壜を持って来させる。
 踊り子が一斉に足を上げて、また歓声が上がる。左から、
モーム・カカうんち娘グリーユ・デグー下水口モーム・フロマージュチーズ娘、あばずれのニニ。みんないい尻だ。
 でも、いちばんのお気に入りは…スケッチに目をやる。ラ・グーリュ大喰らい…ルイーズの、丸くて、軽くて、いやらしい、大きなお尻だ。
 「そいつは、ラ・グーリュかい、旦那?」
 「さすがは支配人だねえ。わかるのかい?」
 「旦那の絵が上手いのさ」
 僕の絵が上手いって?誰かもそんなことを言っていたな。ああそうだ、ヴィンセントだ。『なあ、トゥールーズ。僕の絵は上手いか?』って…
 「ここには絵描きもたくさん来るがね。
尻で踊り子を描き分ける御仁は、旦那の他にいないね」
 「僕からすると、わからない方が不思議だよ。みんな違うからね」
 「そういうものかい」
 ジドレルがスケッチを覗き込む。じっと見ていたジドレルが唐突に言った。
 「ねえ、旦那。旦那はリトグラフをやって見る気はないかね」
 「何だって?」
 「いや、旦那の絵を見てたら不意にそんな感じがしたんだ。ポスターにしたらさぞ面白かろうってね。まああくまで素人の考えだけどね」  
 リトグラフ。石版印刷か。楽譜とかレストランのメニューとか、ポスターなんかで使う印刷技術だ。
 「よしてくれよ。画家と印刷屋は違うよ。だいいち、何年も修業がいるんだろう」
 「ただの思いつきさ。興味がないならいいんだが」
 興味がないことはない。油絵の他に、本の挿絵もやってみたい気がしている。リトグラフの技術があれば、それも叶うかも知れない。
 「余計な口出しだったかな」
 「そうだな。少々気に障るね」
 「悪かった。次第によっちゃ、こっちで費用ももつつもりだったが…忘れてくれ」
 そうなると話は違う。
 ジドレルは黙って僕のスケッチを見ている。僕もスケッチを見る。尻を突き出したラ・グーリュの絵。それからもう一度、ジドレルの顔を見た。
 どうも話がうますぎる。
 「僕に何をやらせる気だい、ジドレル?
新しいポスターでも作れってのかい?あのシェレのポスターで充分だろう」
 ジドレルは肩をすくめて見せた。二年前の『ムーラン・ルージュ』開店の時、ジドレルはポスター画家のジュール・シェレにポスターを依頼して評判をとった。紅い風車とかわいい女の絵。かわいくて、清楚で、毒気のない女の子。
 僕はもう一度、スケッチを見る。ははあ、読めたぞ。
 「ルイーズだな?自分の絵をポスターにしてくれって、あんたに頼んだんだろう?」
 ジドレルは黙ってにやにやしている。
 「シェレ先生のポスターにケチをつけるなんてできないものな」
 「まあ…察してくれよ。トップダンサーの頼みとあっちゃ、無碍むげにするわけにも行かないからな」
 ジドレルが僕のカップにアブサントを注ぐ。
 「けど俺もさ。頼むんなら旦那がいいって思ってたんだ」
 ジドレルの指が、スケッチのラ・グーリュの尻を撫でる。
 「このケツだよ!誰がこんなケツ描けるんだよ!ラ・グーリュだって同じ気持ちだ」
 僕はカップを指で弄ぶ。
 「少し時間をくれよ」
 「ああ。いい返事を待ってる」
 ジドレルが立ち上がる。僕はぐいっとアブサントを煽いだ。
 その時心が決まった。
 「ジドレル!」
 ジドレルの足が止まる。
 「何を描いても構わないかい?」
 「街中に貼り出せるもんならな」
 「そいつは保証できないな」
 ジドレルがにやりと笑う。
 「期待してるぜ」
 ジドレルは奥に消えていく。丁度四人のカドリールが終わって、入れ違いに骨なしヴァランタンと、ラ・グーリュが出てくる。店内がわぁっと沸いて、ラ・グーリュが投げキッスを振りまく。
 かちっ、と目が合う。ルイーズが僕に向けて、キスをふっ、と飛ばしてみせる。
 僕もふっ、とキスを返す。
 楽団がテンポの速い曲を奏で始め、二人の姿がゆらゆらと動き始めた。それを見ながら僕はぼんやり考えている。
 リトグラフか。そういえばいつか、ヴィンセントが見せてくれた日本の絵も版画だった。版画に縁でもあるのだろうか。
 ヴィンセントは、なんて言うだろうか。


1856・春 江戸
 ……風がひんやりと襟元を抜ける。水の匂い。ひと雨来るな。
 顔を上げた。紫陽花を植えた中庭が、湿気でどんより曇っている。おいおい、洗濯物が干しっぱなしだぞ。
 「へっくしょい!」
 やれやれ。還暦祝いに頭を丸めて、毎日剃るのも漸く馴れたが、頭の寒いのだけは敵わぬ。畳に転がる丸頭巾を手繰り寄せて、被ろうとした、途端にまた、
 「うおっふ!」
 ぱらぱらぱら、と下絵帖に唾が飛ぶ。それを合図にしたように、表でもぱらぱらぱら、大粒の雨。
 「お安。おうい、お安」
 縁側から庭に飛び出した女房のお安が、慌ただしく洗濯物を取り込み始めた。お安も四十一か。少し肥えたか。いや、まだまだ。いい尻だ。
 何だ。俺は何処に居る?
 知れたことさ。日本橋南、大鋸町おおがまち南鞘町みなみさやちょうの間、中橋狩野新道なかばしかのうしんみちにある俺の屋敷。
 ここは花の都、お江戸のど真ん中だ。
 「お前さん。うたた寝なんかしてると、風邪ひきますよ」
 苦笑いが出た。漸く春めいてきたとは言うものの、雨など降ればまだ肌寒い。頭巾の頭を軽く撫でる。
 玄関先に人の止まる気配がして、聞き覚えのある声がした。急な雨に少々上ずっている。
 「ごめんくださいやし。立斎りゅうさい先生」
立斎?そうか、頭を剃った序でに、画号も変えたんだった。
 立斎りゅうさい広重ひろしげ。今の俺の名だ。
 「魚栄うおえいさんかい。はいったはいった」
 「やあ、おかみさんすみません…全く急に降ってきやしたねえ」
 中庭から玄関に回ったお安から手拭いを受け取って、からだを拭き拭き魚屋栄吉うおやえいきちが入ってくる。今度の揃物を出す版元だ。四十がらみの浅黒いいい男だが、煙草の脂だらけの歯を隠そうともせず、いつも笑い顔でいる。
 魚栄が上がってくる様子がないので、作業場から玄関を覗く。おや、今度はお安の濡れ髪を拭こうとしてやがる。お安の方も満更ではなさそうだ。三和土たたきで笑いながらお互いの体を拭いている。全く、地物じもの(素人)好みはこれだ。
 こっちの目線に気づいた。
 「や、これはとんだところを」
 「ちゃんと拭いて来なよ。絵に雫でも落とされたら堪らぬ」
 俺は唾の雫が付いた帳面をそっと閉じる。
 「へえ、ごもっとも…お邪魔致します」
 魚栄はのっそりと部屋に入ってくる。建端タッパが高いので、鴨居をくぐるようだ。
襖をそっと閉めて、改めて作業場を見渡す。
 「おひとりで?」
 ああと返事をして、丸座布団を投げてよこすと、勝手知ったる何とやらで、とんと腰を下ろす。下絵を選ぶときは弟子たちを挟まず、いつも一人で選ぶのを、魚栄は承知している。書見台には開いたままの『江戸名所図会ずえ』。畳の上にも下絵帖が広げたままだ。
 魚栄が少し口ごもる。
 「江戸名所の揃物の件かい」
 こちらが水を向ける。
 「へい。今少し、頃合いを見る方が宜しいかと」
 「うーん…」
 と唸って、俺は頭巾を外して頭を撫でた。
 「俺は、今だからこそやるべきだと思うがね」
 「その心意気は、見習いてえが…例の、黒船騒ぎのほとぼりが、冷めねえ内のこの地震だ。本所深川はまだ焼け野原だし、浅草のお救い小屋だって満杯だ」
 大砲を備えた外国船七隻が江戸湾に現れたのは二年前、安政元年正月。度重なる外国船の襲来は、市中を騒然とさせ、公儀の弱腰が更なる不安を煽った。流言飛語りゅうげんひごが飛び交い、江戸が今にも火の海になるような風聞も立って、逃げ出す者も出始めた。
 その騒ぎが、ようやく落ち着きを見せ始めた矢先の安政二年十月、今度は江戸を大地震が襲ったのである。
 俺の住む日本橋界隈は幾つか倒壊した家屋が出たばかりで、たいした被害もなかったが、下町の方は壊滅的だった。あれから四月よつきになるが、世間では地震除けのなまず絵が流行り、俺も散々描かされた。だが、
 「いつまでも鯰絵だけで絵師が食っていける訳でもあるめえ。ここはひとつ、江戸の名所を錦絵に仕立てて、江戸っ子を奮い立たしてやりてえのよ」
 「そりゃああっしだってやりてえが…当節はお上が厳しくてね。先生だってご存じでしょ。お咎めを食らった版元は、一軒や二軒じゃねえんですぜ」
 「それあ無届の瓦版やら、殊更に不安を煽るような実録ものだろう。公儀だって闇雲に差し止め食らわしてる訳でもあるめえよ」
 俺は『江戸名所図会』を取り上げて言った。
 「どうだい。ここに出てる江戸の名所を、錦絵にして売ってみねえか」
 魚栄が珍しく歯を出さずに考えている。右手が顎の髭剃り跡を撫でる。
 俺は坊主頭をぽんと叩いて言った。
 「俺が頭を剃った決意の程を、お前さん知らぬ訳でもねえだろう。こいつは立斎広重、畢生ひっせいの揃物にするつもりだよ」
 俺は魚栄を見据えて言った。魚栄も黙って見返す。
 「当世名所絵の大家にそこまで言われちゃ、あっしも引き下がれませんな」
 脂だらけの歯が覗く。
 「ようがす。お上の御認可が下りるよう骨折ってみまさあ」
 「そうこなくっちゃ」
 襖が開いて、お辰が茶を持ってきた。襖の向こうで、頃合いを見計らってきたのだろう。この娘はまだ数えで十にしかならないのに、そういうところがある。
 「お辰ちゃん。綺麗になったねえ」
 脂だらけの歯が茶を飲みながら声をかける。見透かされたようではっとした。養女に引き取って四年になるが、たまにこちらがどぎまぎするような艶っぽさを見せる。
 お辰は恥ずかしそうに笑みを浮かべて去る。襖を閉めた拍子に、挟まった袖の袂が、すす、と音を立てて消える。
 「魚栄さん。地物好みも大概になさいよ」
 「いやあ先生の前だが…あれゃあ三、四年もすると、匂い立つような蕾になりますねえ」
 「これだ。商売女は苦手なくせに、素人となると見境がないねあんたは」
 「これも商売柄です。世間にはそういうのが好きな方も大勢」
 ひひひひ、と魚栄が笑う。こいつは笑うと声が裏返る。どうやらこいつがこっそり春本を出しているって噂は本当のようだ。
 しかしそれなら、俺に春画の依頼があっても良さそうなものだが…
 「先生に春画?それはないですよ、勿体ない」
 勿体ないとは何だ。俺だって春画は描ける。葛飾の爺は七十過ぎても描いてたんだ。
 「まあ、それはそうと先生、問題は彫師と摺師の手配だ。主だったところはみんな焼け出されたって聞いてますぜ」
 「そこは、版元のお前さんに骨折ってもらいてえんだ。この仕事は、彫鉄兄弟に頼みてえ」
 彫師鉄次、通称彫鉄ほりてつは浅草馬道で三代続く彫師の家柄だ。弟の小鉄は摺師をやっている。
 「彫鉄ですか」
 「鉄次の方はもう四十三だろう。そろそろ花道をこさえてやってもいいんじゃねえか」
 彫師も摺師も、職人としての寿命は短い。どんなに腕がよくても、四十を過ぎると仕事に艶がなくなってくる。鉄次はよくやっている方だが、全盛期ほどの勢いはない。
 「先生がそこまでお考えなら、あっしの口挟むところじゃねえ。ようがす。請け合いましょう」
 「ありがとうよ。それから、紙は越前、大奉書おおぼうしょの大判、縦使いだ」
 「へい、大奉書の…縦使いですかい?役者絵じゃあねえんですぜ」
 「前々から思案してたんだがね。絵双紙屋じゃ、大奉書の大判縦使いを、平置きして店先に置くだろう」
 「そらあ役者絵とか美人画てえのは、みんな縦長ですからねえ。それが一番売れやすし」
 「そこに名所絵を置いてみてえのよ」
 「…はあ。そりゃあ話は面白いが…どうかなあ。でえち、縦長の名所絵なんて聞いたこともねえや」
 魚栄は半信半疑だ。無理もないが、俺にはちゃあんと考えがある。あの葛飾の卍老人北斎も考えつかなかったことが。


1890・初夏 パリ
 『なあ、トゥールーズ。僕の絵は上手いか?』
 ヴィンセントの声が聞こえた気がして、僕はまどろみから覚めた。またアトリエで寝込んでしまった。窓から月明かりが差し込んでいる。もう、真夜中過ぎだろう。
 床にルイーズの素描が散らばっている。片足を上げたルイーズ。しゃがんだルイーズ。骨なしヴァランタンとペアのルイーズ。うーん。そそられないな。もう少し描いてみるか。素描エスキス素描エスキス素描エスキスだ。
 懐かしいな。ボナ先生の口癖だ。『素描、素描、素描!』あのしかめ面、笑いがこみ上げる。
 あの先生は僕の絵が嫌いだった。描くのが早すぎると言っては叱られた。周りの生徒が構図に悩んでいるうちに、僕は三つ目を描いていた。どんなに上手く描けても、ボナ先生は僕の絵を褒めなかった。
 そのうちにボナ先生は画塾をたたんでしまったので、コルモン先生の画塾に移ったけれど、僕は物足りなかった。『上手いねえ。君は何を描いても、上手いねえ』…褒められるばかりなのも、考えものだ。だいたいコルモンの親爺は誰でも褒める。
 でも、そのお陰で画塾の雰囲気はよかった。みんなボナ先生の時よりうちとけていた。あんまり楽しかったんで、みんなで呑みに行くのに忙しくて、画塾はほぼ欠席してた。
 ああ、あの頃は楽しかったな。僕がシャンソン歌手のブリュアン仕込みの冗談を言うと、みんな大笑いだ。ヴィンセントはあのとき一度も笑わなかったけれど、僕のフランス語がわからなかったのか。みんながデッサンをしてる間も、ひとり黙々と油絵を描いてたっけ。
 初めてヴィンセントが声をかけてきたとき、僕は彼に気づかなかった。僕はいつも、素描を描いては床に落としていたから、誰かが拾って見るなんてことは気にしなかった。
 「君の絵は、上手いね」
 周りが一斉にこっちを見た。みんな、ヴィンセントの声を初めて聞いたのだ。たどたどしいフランス語。ボナ先生の口移しの言葉だった。
 「ありがとう。ええと…」
 「ヴィンセントだ。ヴィンセント・ファン・ゴッホ」
 「僕はアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック。アンリと呼んでくれ」
 彼はもごもごと僕の名前を復唱すると、
 「…トゥールーズ。僕の絵を見てくれないか?」
 あれからずっと、彼は僕をトゥールーズと呼んだ。あの時の彼の油絵は、よく覚えていない。確かちょっと、きつい評価を上げたように思う。
 逆にそれが、僕と彼との垣根を取り払ってくれた。
 酒場は好きではないようだった。誘うと三度に一度は尾いてくるのだが、大抵は店の隅でちびちびやっている。そこでそのままアトリエに呼ぶと、拙いフランス語でよく喋る。ことに日本の絵となると、話が止まらない。
 「サムーライという騎士シュバリエが守っている国なんだ。ショーグンて呼ばれる最高位の騎士から、低い身分の者まで、節度があって奥床しい。国中が整然としていて、色彩に溢れた町並みが続いてるんだ」
 行ったこともないのに、見てきたように言う。彼の弟テオが画商で、絵と一緒に又聞きの噂話まで仕入れてくる。
 「日本の版画なら見たことがある。絵の具屋のタンギー爺さんを知ってるだろう。よく仕入れてくるんだ。ほら、これ」
 僕は最近手に入れた、キモノを着た女の絵を見せる。
 「これは…ウタマーロだね。トゥールーズ、ホックサイを見たことがあるか」
 「アンリでいいよ。ホックサイは知らないな」
 「是非君に見せたいな。君の絵に似てる気がするんだ。動くんだよ、君の絵みたいに」

 クローゼル通りへ出る坂を、息を切らせて上っていくと、タンギー爺さんの店がある。モンマルトルは大好きだが、坂の多いのには閉口する。足の短い僕には相当にきつい。石畳に、僕の杖が乾いた音を立てる。
 「いらっしゃい、アンリ。よくきたね」
 僕専用に足を短く切った椅子を勧めてくれる。僕が腰を下ろすと、すかさずレモン水が出る。喉を鳴らせて僕が呑むのを、タンギーはにこにこして見ている。歯が煙草の脂で茶色く見える。
 「今日は、空いてるね」
 「まだ早いさ。パリの絵描きはみんな夜更かしだよ。お前こそ珍しいじゃないか、まだ昼過ぎだよ」
 僕はレモン水のおかわりを貰う。
 「日本の版画が見たいんだ。ホックサイの」
 「ホックサイね。あるよ、ウタマーロも」
 タンギーは店の奥に入っていく。
 いつもなら二、三人顔見知りの絵描きがいるのだが、今日は僕一人だ。確かに、みんな遅くまで呑んでるから、まだ寝てるのかもな。
 紙の束を持ってタンギーが出てくる。
 「これがホックサイ。これと、これも」
 一枚目。ああ、これなら見たことがある。大波にもまれる小舟と、遠くに二等辺三角形の綺麗な山が見える。波の描き方がダ・ヴィンチのようだと誰かが言っていた。こんな端正な形の山は見たことがない。少なくとも、フランスでは。
 二枚目。これも山。たぶん同じ山だ。赤いから、夕方の山だ。下の方に黒い影がかかっていて、その中に白く、ひび割れみたいな線が見える。これは、雷か?それにしても美しい形の山だ。神聖ささえ感じる。
 三枚目。風雨の中の山道。急いで上る人、駆け下りる人。地面は斜めに左上がり、雨は右から斜めに降る。水煙にいぶる、深い森の強弱。風と雨と足音が聞こえてくる。これもホックサイなのか?
 「ホックサイだよ。それからこれが、ウタマーロ」
 見て、ウッ、と声が出る。好色そのものの爺が、まだ幼い処女を陵辱している。生え揃っていない陰毛、つぼみのままの陰部。対照的に、醜悪に屹立した男の陰茎。あらがうか細い手、押さえつける太い腕。欲望むき出しの眼、耐える唇。
 「凄いね。これはウタマーロかい?」
 「ウタマーロだよ。見ればわかるだろう」
 見てもわからないな。そもそもウタマーロって何だ?
 「これは、売らないよ」
 タンギーがウタマーロの絵を取り上げて、ひひひひ、と笑う。このひとは笑うと裏声になる。誰かと一緒だ。…あれ?誰だ?
 「あ、そうそう」
 タンギーは何か思い出したらしく、急に奥に引っ込むと、小さな冊子を持ってきた。
 「これもホックサイだよ」
 手にしているのは糸で綴じた本。表紙に大きく日本の文字が書いてある。開いてみる。素描集である。取っ組み合う裸の男たち。赤ん坊を背負って歌う小女。犬、猫、馬。それらが素早い筆の運びで、しかも正確に書いてある。一瞬の動きを、一瞬で捉えて描く。この線の軽やかさ、無駄のなさ。敬愛するドガ先生も一瞬を捉えたが、ここには線のみによる美しさがある。これが、ホックサイか。
 「爺さん。この本、売ってくれないか?」
 「他ならぬあんたの頼みだ。よし、と言いたいところだが…こいつばかりは売れないねえ。実は、他の連中にも見せてるんだが、みんな欲しいと言うんだ。なるべくいろんな人に見せたいから、しばらくはわしの預かりだよ」
 「ヴィンセントも見たかい?」
 「ああ、ずいぶん時間を掛けて読んでたねえ」
 やっぱり。ヴィンセントが見せたいと言っていたのはこれか。
 「じゃあ、しばらく借りる、というのはどう?」
 「それなら、構わんよ」

 いけない。あの本、まだ借りっぱなしだった。タンギー爺さん、怒るだろうな。
 僕は腰を上げて、あの本を探し始める。
 何処に置いたか、こんなに散らかし放題のアトリエじゃ、見当も付かない。しかもこんな、月明かりの下じゃ…
 僕は諦めて、窓から月を見上げる。大きな丸い月。フランス語で月は女性名詞だが、まさに全裸の女だ。
 『月は ひとしほものうげに、
   今宵、夢見る。
 小蒲団クッションを八重に重ねて、
   その上に臥したる美女の、
 無心の軽き手を触れて
   ふたつの乳房のふくらみを、
 まどろむ前に 愛撫する
   幽艶なる姿さながら…』
 ボードレールだ。


2015・夏 東京
 くそ!
 思わずペンを叩き付けそうになって、辛うじて堪えた。
 「ちょっと一服してきます」
 オフィスチェアの背に掛けたジャケットを引き抜くように取って、事務所を出る。ドアまで歩く間、由香里の視線を感じた。
 五階建てのオフィスビルの屋上は共有の喫煙スペースになっていて、スタンド灰皿が二つ設置されている。休憩時間にはまだ間があるせいか、誰もいない。私は胸ポケットをまさぐって煙草とライターを取り出すと、火を点ける。
 見えない。火が上手く点かない。煙草を咥え直して、やっと火が点いた。視線を感じて振り返る。
 水田社長だった。
 「一本、いいか」
 私は煙草を差し出して、火を点けてやる。
 「止めたんじゃなかったですか?」
 「ああ。止めたよ」
 ふー、とうまそうに煙を吐き出す。
 「辛そうだな」
 私は答えに詰まる。
 「悪いのか、かなり」
 悔しいが、認めない訳にはいかない。
 「良くないですね」
 「仕事に差し支えるほどか」
 作業の能率も精度も落ちていた。凡ミスが続いて、苛立ちが募るのがわかる。狭い職場だから、焦燥が周囲に伝染して、現場が重苦しい空気になっている。
 「佐古田様の件は、最後までやらせて貰えませんか」
 「うん…」
 社長は言葉を濁して、まだだいぶ長い煙草を、灰皿でもみ消す。
 「まあ、無理するな」
 それだけ言って、社長は去る。私は二本目の煙草に火を点ける。今度は一度で点いた。
 「無理するな」?さっさとやめろってことか。いや、社長はそこまで冷たい人じゃない。単に私を気遣ってくれたのか。いずれにせよ、長く居座るつもりはない。会社のお荷物になるなんてご免だ。

 七回目の注射をした夜、由香里と会った。
 星野由香里とそういう関係になったのは、私の離婚が成立して五ヶ月が経った頃だった。もっとも、その前に半年も別居していたから、不倫という訳ではない。
 それでも、初めて由香里を抱いたとき、なんだか後ろめたい感じがあった。前の妻や、中学生の息子に対してではない。由香里から、処女のような甘酸っぱい香りがしたのだ。一回りも年下とは言え、彼女ももう三十だから、男を知らぬと言うこともないだろうに。
 それを疑いたくなるほど、由香里は幼く見えた。ちんまりと丸い鼻頭を中心に、少し離れ気味のつぶらな眼と、小さく厚みのある唇は、リスのような小動物を思わせる。
 細身の顎は首に隠れることはなく、緩やかな曲線で撫で肩の肩に続く。高校時代運動部だったお陰で、二の腕は余分な肉がない。
 両の乳房は慎ましく、かつ自己主張していた。適度に引き締まった腹と、やや物足りないくびれの下に、果実のような腰がある。硬いが、しなやかさのある、有機的な曲線の尻を、私は見るたびに美しいと思う。淡い叢を挟んだ両腿は少しく太いが、身長に見合った女性的な曲線を描いている。付き合い始めて二年、由香里のこの少女のような肉体を、私は変わらず愛し続けている。この、ほんのりとした優しい背徳感とともに。
 はじめて由香里を意識したのは、離婚協議中の頃だ。新規入社の彼女に、初めて図面を書かせることになったとき、覗き込んだ私の口から思わず言葉が出た。
 「綺麗な字だね」
 はっとして見返した彼女の丸い目を、いまだに覚えている。図面上に書く寸法などの数字は書き方が決まっていて、そんなに人による違いは出ないものだが、彼女は違った。見やすく、愛らしい文字が、整然と並んでいる。物事に真摯で、優しい彼女の人間性が出てるようで、私には好ましかった。私は社長に頼んで、東金君のサブだった彼女を、自分のサブにして貰った。
 後でわかったことだが、独身貴族の東金君から、何度かお誘いを受けていたという。あいつも懲りない。由香里の前任の佐久間君が辞めたのは、東金と別れるためだったと聞いている。
 ともあれ、私と由香里は行動を共にすることが増えた。見かけによらず、彼女は男臭い建築の現場にいても、気後れする様子はなかった。クライアントにも好評で、女性目線の指摘に気付かされることも多かった。元々接客は好きな方で、インテリアのセンスも良かった。
 付き合うようになっても、由香里は敬語をやめなかった。仕事場では勿論、二人きりの時も私に対しては敬語だった。抱き合うときだけ、普通に話した。
 「何を見てるの?」
 覗き込むように由香里が言う。私は由香里の、はだかの肩や腰をゆっくり撫でながら、自分の指先を見ていた。左眼が見えなくなったら、この慎ましく優しい凹凸を、立体的に見ることは叶わなくなるのだろうか。

 危ない!
 急ブレーキを踏んだ。
 左の脇道から、五十がらみの女性が乗った自転車が、平然と私の車の前を横切っていく。私はクラクションすら鳴らすのを忘れて茫然としていた。
 見えなかった。
 後続車が軽く警笛を鳴らす。私はのろのろと車を路肩に寄せた。一台、二台と後続車が過ぎていく。
 見えない訳ではなかった。ただ明らかに、反応が遅れた。
 眼科の先生によると、片眼でも運転する人はいるという。視野が狭まった分左右に首を動かし、またスピードも抑えめにすれば、出来ない事ではない。
しかし今の場合、急に飛び出してきた自転車にも問題があるにせよ、両眼なら見えていたはずの視界を、見落としていたのは事実なのだ。
 私はエンジンをかけ直すと、充分に注意しながら本道に戻る。交通量の少ない昼間で良かった。夜なら更に気付くのが遅れたろう。しばらくは運転は止めておこう。
 運転をしながら、ふと気付いた。左の視界に、歪みは見えなかった。ただ、視界の半分を、薄い、白い陰が覆っていた。
 これが、先生の言っていた後遺症なのか。それとも、何か別の原因なのか。


1856・夏 江戸
 「名所江戸百景」の売れ行きが思わしくないらしい。この春に改印を押した最初の五枚が店頭に出たが、どうも動きが鈍いようだ。さっき魚栄が来て言いにくそうに言っていた。いつもの脂だらけの歯もみせず、したたか煙草を吸っては、縁側を灰だらけにして帰って行った。
 気が落ち着かぬまま俺も表に出る。まだ陽も高い、少し歩いてみよう。日本橋を渡って通り沿いに神田の方へ歩き出す。五月ともなると、こんな上天気では暑い。魚栄のひと言が気にかかっていた。
 「先生。次からは横使いでいきやせんか」
 魚栄が及び腰なのも無理はない。人の眼は左右にある。景色を見ようとするとき、横に広がりを感じるのが自然だ。当然絵にするときは横長になる。
 今川橋を過ぎたところで絵双紙屋を見かける。思惑通り、役者絵に混じって、俺の名所絵が平積みされている。客の入りも悪くない。少し離れたところで立ち止まって、様子を窺ってみる。ほとんどの客は役者絵か美人画の方を見ていて、平台の名所絵には目もくれない。いや、見てはいるようだが手に取るまでいかない。
 誰かが手に取るまで見ていようと思ったが、埒が明かないのでまた歩き出す。縦絵にすれば目を引くだろう、ということではないらしい。
 何かが足りない。
 筋違御門前の八つ小路まで来て、息が切れた。やれやれ、と汗を拭きながら、駕籠屋を探す。昔は日本中歩いて、下絵を描いたものだったが。
 折良く通りかかった駕籠を捉まえる。
 「浅草寺まで」自然に口に出た。

 縦長の景色絵は、初めてではない。ついこの間最後の版が出た「六十余州名所図会」は全七十枚縦使いだ。その前の、天童藩てんどうはん御留守居役おるすいやくから依頼された肉筆画も、掛け軸になるよう縦使いで描いた。
 俺なりに工夫はしてきた積もりだ。天童藩に描いた肉筆画は、山水画を手本にしている。手前のものは大きくはっきりと下に描き、遠くになるにつれてぼんやりと小さく、上の方に描く。遠近の境は曖昧にした。
 「六十余州」では蘭画の手法を用いた。
 『その遠きこと数里に至れば、則ち眼力尽きて視ること能わず。以て一点を降すは画図の中心なり。』
 安永の頃の秋田藩主にして蘭画もよくした佐竹曙山 さたけしょざんの言葉だが、この「眼力の尽きる一点」すなわち消失点を画上に降すことで遠近の境を消すことが出来る。これを実践すると、見たままの写真しょううつしの景色が描ける。更に、実際には一緒に見えない山を加えたり、実物より大きい滝を描いたりした。
 我ながら渾身の作、と自負したが、思いのほか評判は高くなかった。「やっぱり名所絵は広重先生だあね」とは版元の越平こしへいのお世辞だ。「五十三次」以来、「描けて当たり前」くらいに、世間は思ってるのだろうか。縦使いで名所絵は無理、ということか。そういえば今度の「江戸名所」の版下絵を魚栄に見せたとき、ぽつりと言ってたな。
 「あア、こっち半分が、見たいねえ」
 俺の絵は、縦絵になっていないと言うことか…

 「旦那あ、着きやしたぜ」
 駕籠から下りて、唖然とした。あの地震以来、浅草には来ていなかったが、こんなことになっているとは。
 雷門は健在だったが、扉の蝶番ちょうつがいが外れている。風神像が倒れかかって、壁に穴を開けていた。提灯は落ちたままで、向こうに見える仁王門の瓦が剥げたように落ちている。五重塔が大きく傾き、門前から見るとひどく歪んで見えた。
 「旦那あ、おあしを」
 駕籠屋に言われて我に返った。金を支払い、改めて雷門に向かう。
 それでも、と思う。それでも、参詣の人は引きも切らぬ。あちこちに足場が組まれ、その下を多くの衆生しゅじょうが行き来している。誰ひとり、ここが元通りになるのを、信じて止まない。
 そうだ。ここに提灯があったのだ。そして皆を迎えるように、門は大きく開かれ、奥の仁王門と、五重塔とともに、天に向かって美しい平行線を成していた。
 それを描こう。提灯越しに、浅草寺の山門が並んだ絵を描こう。下絵などいらぬ。見たままを描けばいいのだ。
 俺が見た、ほんとうの江戸を。


1890・夏 パリ
 おかしくて仕方ない。ヴィンセントも笑いが止まらない。病床のテオも、テオの奥さんも、楽しそうに笑っている。
 タンギー爺さんの勘違いだった。要するに、タンギーは日本の美人の絵は全て「ウタマーロ」、他の絵は全部「ホックサイ」だと思っているようだ。
 テオは前々から貿易商とつながりのある画商だったから、日本の絵のことは詳しい。「ウタマーロ」も「ホックサイ」も画家の名前で、ほかに「クニヨシ」や「シャラク」がいるという。
 「じゃあ、これは?」
 僕はテオの持っていた一枚を指し示す。近景、中景、遠景と、三つの魚の吹き流しみたいなものが、風に揺れている。地表の街が低く見えるから、視点はかなり高い。
 更に遠くに、例の日本の神聖な山が見える。
 「ああ、これは…『イロシゲ』」
 「『イロシゲ』は僕も模写したな。二叉の梅の枝を描いたやつ、君に見せたっけ?」
 ヴィンセントが言う。そういえば枝振りの面白い絵を描いていたな。左右に何か描いてあったが、あれは日本語だったか。
 「それじゃあホックサイはいったいどれなんだい?」
 「タンギーの持ってた大浪の絵がそうだよ。それとあの素描の本も」
 そうか。あの細かい波の捉え方と、人の動きを一瞬で捉えた眼は同じものだ。だからヴィンセントは僕に、「ホックサイを見ろ」と言ったのか。
 「ヴィンセント。今度僕は、リトグラフをやってるんだ」
 「リトグラフ?石版に絵を彫って印刷するやつか」
 「彫るんじゃないよ。描いたものがそのまま印刷されるんだ」
 ヴィンセントは顎髭を撫でて黙ってしまった。
 「なんだい?」
 「君は絵をやめるのか?」
 「その逆だよ。僕はいろんな絵を描きたいんだ。本の挿絵とか、ポスターとか」
 「君がそんな、職人みたいな真似をするとは思わなかったね」
 「確かに技術はいるさ。いまノートルダム寺院の裏にあるアンクール印刷所でいろいろ教わっている。僕は筋がいいって言われたよ」
 「そうやって君は、芸術に背を向けるのか」
 「ヴィンセント、あれも立派な芸術だよ。そもそもイタリアルネサンスの頃は画家と職人の境がなかったんだぜ」
 「何枚も同じものが出来るなんて、芸術とは言えないね」
 テオが割って入る。
 「僕は面白いと思うな。アンリ、その話もっと聞かせてくれよ」
 「勿論。まず下絵を水彩で描いて…」
 ヴィンセントが遮った。
 「トゥールーズ。一緒にアルルに来ないか?」
 「えっ?」
 「アルルには太陽がある。ひまわりの畑も、石造りの家もある。色彩に溢れているんだ。光が七色を潜ませているのが見える。闇夜でさえ、蒼を湛えている。印刷ではあんな色は再現できない」
 「兄さん、無理を言わないでよ。アンリはモンマルトルでやることがあるんだ」
 テオに言われて、ヴィンセントは押し黙ってしまう。病気のテオを元気づけるために、わざわざアルルから帰ってきたのに、これでは却ってくたびれてしまう。僕は椅子からぽん、と下りて立ち上がった。
 「『こういう呪詛のろい、この冒涜、このなげき、
 この恍惚、この叫び、
   この涙、この讃歌テ・デウム
 これらは 数千の迷宮に
   反響してゆく一つのこだまだ。
 それは 死すべき人間のため
   神聖な一つの阿片あへんだ。

 それは 幾千の哨兵に
   繰り返される一つの叫びだ、
 幾千のメガフォンで
   送り継がれる命令だ。
 それは 幾千の城砦とりでの上に
   ともされた一つの燈台だ、
 大森林の中で 道に迷った
   猟師の挙げる呼び聲だ。

 何故なら それは、主よ、
   正に 人間の尊厳を
 われらが示すことを得た
   無上の証左あかしだからだ、
 世から世に流転して、
   御身の永遠の岸辺に
 消えていく この熱烈な嗚咽むせびなきこそは。』」
 ヴィンセントもテオも、テオの奥さんもきょとんとして、僕を見つめている。
 「驚いたかい?僕が思うに、これこそ芸術の神髄だよ。ボードレールの『悪の華』さ。子供の頃に全部覚えたんだ」
 僕は暗誦しながら、ふと昔を思いやる。僕がボードレールの『悪の華』を手に入れて、こっそり暗誦していたのを、父に見つかってひどく怒られたっけ。
 『こんなもの読んでいたら、人間が堕落する!』
 そう言って取り上げたときには、僕はもうほとんど暗記していた。
 父さん。あなたの息子は堕落しましたよ。芸術にうつつを抜かす穀潰しになりましたよ。

 テオを寝かしつけると、ヴィンセントはそのまま僕のアトリエまでついてきた。歩きながらも彼の口は止まらない。
 「パリの空をご覧よ!真っ暗闇じゃないか。それにこの匂い。げろと、下水と、犬の糞が混ざった匂いだ。きっと君の体にもよくない。アルルの空気は枯れ草の匂いがするんだ。空気が澄んでるから、遠近法の消失点まで見えるんだ。ええ、トゥールーズ、見たことがあるかい?」
 僕は何にも言わない。モンマルトルの坂を上るのに必死だ。
 「一度アルルに来ればわかる。あそこは画家の聖地だよ。そこいらじゅうに画題が満ち溢れてる。ゴーギャンもそう言っていた」
 確かにそうだろうな。でも、ゴーギャンはアルルを出た。更なる太陽を求めた。
 「ほんとうの色彩は、唯一無二のものだ。幾ら絵の具を重ねても、再現できるものじゃない。それでも僕らは、近い色を探すんだ。そんなことが、印刷なんかで出来るはずがないだろう」
 嘘だよ。君はアルルにいて、自画像ばかり描いてるじゃないか。画題に溢れてるなんて、嘘ばっかりだ。ああ、頼むから、少し黙っててくれ!
 「日本の絵を見たろう。あんな色は、印刷では出せないよ。あれはあの国でしか出せないんだ。フランス人なら、アルルの色彩を見ないと。こんな薄汚い街じゃなくて…」
 「うるさい!」
 堪忍袋の緒が切れた。アルルがどんなにいいか知らないが、僕のすることを全て否定されたら、我慢の限界だ。
 「僕は君とは違うんだ!げろと、犬の糞と、下水の匂いを描きたいんだ!いい加減にしてくれ!」
 僕は憤然として坂を上り続けた。怒りも手伝って息が切れる。げろと犬の糞と、下水の匂いで、むせそうだ。
 後ろでヴィンセントが立ち尽くしているのがわかる。僕は一心に坂を上り続けた。ヴィンセントが何か言った。怒りと、自分の息でよく聞こえない。坂がきつい。胸が苦しい。
 これだけははっきり聞こえた。
 「トゥールーズ!僕の絵は、上手いか?」
 無視して上り続けたが、息が切れて立ち止まった。僕は振り返って言った。
 「ヴィンセント!君の絵は…」
 ヴィンセントの姿は、そこになかった。

 アトリエに着いて、ランプに火を灯す。今夜は月が出ていない。部屋の中がぼうっと明るくなる。散らかし放題の僕のアトリエ。
 ソファに腰を下ろすと、正面に掛けた日本の掛け物に目が行く。タンギーから買ったものだ。ずいぶん前だ。猿が月に手を伸ばしてる絵だ。誰の絵かは知らない。買ったときは画題が面白かったのだが、今見るとあり得ないと思う。猿だって月に手が届かないことくらいわかるだろう。こんなのは絵の魔法アステュスだ。
 さっきテオから譲って貰った三枚の日本画を見る。
 一枚目。これはイロシゲ。橙色の門が開かれて、奥にある五重の塔と、日本の文字の形をした柱が、雪景色に覆われている。門の上には丸い大きなものが下がっている。
 何だろう、これは。日本の寺には、こんなものがかかってるのか。何より、門と、塔と、柱と、木々のもたらす平行線が美しい。
 二枚目。これはホックサイ。たなびく雲。一心に桶を作る職人。身の丈の倍くらいある大きな桶。その桶の向こう側に、あの神聖な山が見える。テオによると、フジサンというらしい。職人の手元まで神経の行き届いた、絵の上手さも目を引くが、なんと言っても丸い桶の向こう側に山を置いた絵作りの面白さだ。
 三枚目。これはイロシゲ。こいつにはどうも既視感がある。見たこともないはずの、江戸の風景。…江戸?江戸って何だ?
 改めて絵を見直す。左側に正確な透視図法で描かれた店先が軒を連ねている。真ん中の路上にはわらわらと行き交う往来の人。右側に大きく、馬の足と尻。よく見ると先には馬を引く人の足もある。ご丁寧に、馬の足許には馬糞が転がってる。
 あ。
 見たことあるはずだ。これは僕の目線だ。僕の目の高さで見た、馬の尻だ。
 窓から風が吹き込んで、床の素描が踊る。ルイーズのお尻。踊るヴァランタン。囲む雑踏。きらめく照明。ざわめき。煙草。アブサント。
 ムーラン・ルージュ。


2015・秋 東京
 佐古田様別邸の棟上げ式が終わって、社長とふたりで今後のことを話し合う。
 施工中の現場管理はサブに付いていた由香里に任せて、私はその補助に回る。移動時は車の運転はせず、必ず助手席。現場は安全が確認できるまで入らない。
 前のような正確な製図は無理だ。ただ、私の設計の腕を買ってくれているお客様もいる。基本的には現在の地位をそのまま残し、デスクワークとなる。製図作成などの細かい作業は由香里や東隆谷女史に任せる。
 考え得る限り最大の優遇措置だと思う。私は申し訳なくて堪らなかった。社長はまだ私を、人材として認めてくれている。
 「仕事が全く出来ん訳ではないだろう。左眼も治るかも知れんし。それにまだ和也君の養育費もあるだろう」
 返す言葉がない。社長は前の結婚の仲人である。小さく燻っていた、社長に対する後ろめたい気持ちが、頭をもたげる。
 「当面はこれで行く。それからな、あまり深刻になるな。君も辛いだろうし、みんなの士気にも関わる。星野君なんか、見てて可哀想だよ」
 確かに少し捉われ過ぎていたかも知れない。
 「気をつけます」
 「大事にしてやれよ。前の時みたいにならないように」
 「…知ってたんですか?」
 「今度のことではっきりとな。仕事に支障が出なければ何も言わんよ。むしろお前に取っちゃいいことだと思うよ。あの子もいい子だしな。なんにせよ、人間きちんと働かにゃあならん。よろしく頼むよ」

 「浮腫の方は再発していませんね。眼圧が少し高めですが、問題ないでしょう」
 眼底写真を見ながら眼科の医師が言う。であれば左の視界にある遮蔽物しゃへいぶつは何なのだろう。
 「一度脳外科の先生を紹介します。脳に腫瘍がある場合も考えられますので」
 CTスキャンを取って脳の状態を見るという。もしそうなら、脳の手術と言うことになるのだろうか。いかんいかん、また悪い考えに捉われ過ぎている。取り越し苦労は禁物だ。
 ただ、起きている間中、常に左の視界に影があるというのは、かなりのストレスを感じていた。変な頭痛もする。気にするな、と言われても、やはり考えてしまう。
 テレビを見ていても、音楽を聴いていても、それに集中できない。何時までも片眼が見えないという不安な気持ちだけがいや増してくる。むしろ、それならそれで馴れればいいとすら思うが、まだ私の左眼は諦めてはいない。


1857・晩春 江戸
 お辰を伴って上野の不忍池まで来た。花見の時分ではないが、暑くなる前に来ておきたかった。初夏の風は冷たくもなし、いい季節だ。
 のどかなものだ。見上げれば鳶が飛んでいるし、水端の草むらからは蛙の声がする。往来に人は多くないがそこそこ賑わっている。あの鳶から見たら、長谷川雪旦せったんの名所図絵みたいに見えるのだろう。ここは地震の被害は浅草ほどなかったようだ。
 浅草寺の名所絵は、評判が良かった。魚栄だけでなく、近所からも、「あれを見た」という者が多かった。お隣の御用絵師狩野かのう様からも直々にお褒めの言葉をいただいた。
 さあ、こうなると、次だ。俺は懐から、かねて用意の格子枠を出した。障子の枠だけを小判の大きさにしたもので、これを通して景色を見る。姿勢が動かないように注意しながら、四角い枠ごとに景色を紙に写し取ると、見たままの景色が描ける。
 佐竹曙山の蔵書の中に、西洋画家の絵の描き方を図解したものがあった。画家は、画題になる女を挟んで、障子の枠越しに女を見ている。画家の目は、立てられた棒の一点で固定され、その手元には格子が書かれた紙が置いてある。
 この図を見たときにはずいぶん感心したもので、早速建具屋に頼んで作って貰ったのが、この格子枠だ。
 こいつをこう、手をいっぱいに伸ばして、体はコウ屈んで、池の杭越しに見るってエと、「刷毛先の間から覗いて見ろ、不忍池が浮絵のようだワ…」と助六よろしく、景色が見えるってえ寸法…だがこいつはどうも面白くない。
 景色を見たままに書くってのは、それはそれで上手いと思うが、絵としては面白味に欠ける。かといって、北斎みたいにいじくり回せば嘘になる。あいつはだいたい上手すぎる。自分の手際に酔って、ありもしないものを描いている。
 それからこの縦の絵面だ。格子をこうやって縦にしてみても、魚栄の言ったように、 「コッチ半分が、見たいねえ」ということになる。目線の流れを、縦長に持って行かないと、縦絵として成り立たない。
 目線を縦に持っていく。山水画の描き方だ。真の山水の川谷は遠望してその勢を取り、近くからその質を看る。
北宋の画家郭熙かくきいわく、山水には三遠がある、という。すなわち、
 高遠は麓から頂上を見上げる仰視。
 平遠は山上から遠方を見晴らす水平視。
 深遠は頂上より更に上から、山の後ろまで見通す俯瞰視。
 この三遠を一幅に収めて、あたかも山中にあるが如し、と思わせるのが山水の心。
 そして、この視点の移動を、いかに縦の錦絵に生かすか。
 「お父っつぁん、疲れたの?」
 いけないいけない。杭の前で屈んだまんま考え込むなんて、周りがおかしな目で見てらあ。
 「何でもねえさ。なに持ってるんだい、お辰?」
 ひょい、と付き出した手のひらの上に、青蛙一匹。その手からぴょん、と跳ねて、杭の上に降りた。
 二人でそうっと覗き込むと、青蛙は辺りをぐるっと一望して、水音とともに水中に消えた。
 おい、青蛙。いまお前は何を見た?もう一度杭に目を近づけてみる。
 そうか。お前の見たのは池だけじゃない。空にある鳶と、杭の先も見たのだ。
 三遠は仰視、水平視、俯瞰視にあらず。
 蛙の目線である蛙瞰あ かん
 人の目線である水平瞰すいへいかん
 鳶の目線である鳥瞰ちょうかん
 われ蛙なり、鳶なり、また人なり。
 池を覗き込むお辰のお尻を、ぽん、と叩く。
 「きゃっ!いやだあ」
 硬くて、丸くて、いいお尻。魚栄じゃないが、お辰はいい女になるだろうよ。

 下谷広徳寺前から新寺町を抜けると、浅草馬道にある摺師小鉄の住居までは幾らもかからない。お辰を連れて歩いても、着いたときにはまだ八つ前だった。
 「ああ、先生。いらっしゃい」
 小鉄は仕事の手を止めて弟子たちに声を掛ける。
 「ちょうど八つ時だ。一服しようぜ」
 職人たちが一斉に、手拭いで汗をぬぐい始める。摺師は結構な力仕事だから、みんな汗だくだ。
 「悪いね。手を止めちまって」
 「ナニ、休むのも仕事の内さ。おい、誰か大家んとこで、お辰ちゃんに甘いもんでも買ってきてくんな」
 「あ、あたしも行く」
 弟子の丑蔵が出て行くのを、お辰がころころと追い掛けていく。ここにはしょっちゅう連れてくるから、弟子の職人たちとも顔なじみだ。「黒子ほくろのおじさん」とこへいくというと、お辰はよく尾いてくる。
 小鉄は俺を奥庭の縁側まで案内する。座ったところで、女房が冷や水を持ってきてくれる。
 「お、有難え」
 湯呑みをぐいっと煽る。左の小鼻に大きな黒子がひとつあって、そこから太い毛が二本伸びている。こいつもそんな年か。
 「先生。今度の『名所百』はてえした評判ですぜ。この三月に出した分、もう三杯目でさあ」
一杯が二百部だから、この一月で六百部摺ったことになる。
 「それあお前さんとこも大変だろう」
 「こんだけ評判になりゃ摺師冥利に尽きるってもんでさ。兄貴も言ってましたぜ、いい花道こさえて貰ったって」
 小鉄の兄鉄次は彫鉄と呼ばれ、若い内からその手業には定評があった。同じ彫師の家に生まれた小鉄は、弟子入りしてすぐ兄の才には及ばないと気づき、家を出て摺師の家に弟子入りしたのである。
 兄の神業のような彫りを、弟は愚直に愛でた。擂りの手落ちひとつで台無しになる微細な彫りを、小鉄は一度として見落とさなかった。だからこそ俺は、『名所江戸百景』をこの兄弟に任せたのだ。
 「ほかでもねえや。魚栄から先生の心意気を伺って、そらあ江戸っ子としちゃあ受けねえ訳あいかねえなって、兄貴と話してたんだ。ねえ先生」
 「そうかい。有り難うよ」
 「ここだけの話、俺達もいい年だ。どんだけ摺っても痩せねえのが、擂り粉木すりこぎと彫鉄の線なんてえ言われたもんだったが、今は四、五杯も摺るとフチが鈍りやがる。もっとも、それを見てる俺の眼もそろそろいけねえ」
 「……」
 「地震で焼け出されて、もうこれまでと覚悟してたとこで今度の話だ。彫鉄兄弟の最後の大仕事、しっかり見てておくんなせえよ」
 「そりゃあ心強い。よろしく頼むよ」
 振り返ると、お辰が立っている。また気を遣って、声を掛けなかったのか。いや、そうではない。後ろに回した手をぱっと前に出すと、手には小さな風車。ぺろっと舌を出す。
 「これ、お辰。いい年をして何だ」
 「ははは、丑の奴ねだられたな。どうだい、お辰ちゃんうちへお嫁にこねエか」
 「えーっ?誰の?」
 「誰でもいいぜ。よりどりみどりだ」
 くるくる笑ってお辰は作業場に戻る。あの子もいつか嫁に行くんだな。それまで俺は息災でいられるだろうか。


1890・夏 パリ
 …ああ、もう朝か。また泊まり込んでしまった。今日で五日、アトリエに帰っていない。ここの作業は面白すぎる。
 僕が長いすの上でもそもそと体を起こすと、印刷所のドアが開いた。
 「おや、また泊まり込みかい。無理すると体が持たないよ」
 コテル爺。このアンクール印刷所の主。当面の僕の師匠。白い口髭の下に、鼻くそみたいな黒子がある。
 「ものになるまで三年かかるって言ったのはコテル、あんただぜ。僕は今、寝る時間も惜しいくらいなんだ」
 「あんたはよくやってるよ。この調子ならあと数ヶ月ってところさ」
 「僕は今すぐにもやりたいな」
 ジドレルからは矢継ぎ早に催促が来る。どうやらムーラン・ルージュの経営から手を引くらしい。その前に、ポスターを出しておきたいようだ。
 「そう急かさんでもよかろう。まだ誰も来ていないんだし。朝食は取ったかね?」
 コテル爺は持参した紙袋からサンドイッチを取り出して僕に勧める。やあ、鶏のローストだ。こんなに空腹だったなんて初めて気付いた。
 コテル爺は鼻歌を歌いながら作業場の奥にある流しに向かって、お湯を沸かし始める。途中で僕が飲み干したアブサントの壜につまずいた。
 「ああっ、またこんなものを…いいか、作業場で酒など飲むな。他の連中に示しがつかん」
 僕はサンドイッチを頬張ったまま慌てて壜を片付ける。
 「ご免よ。酒がないと寝付けないんだ」
 「わしはここに泊まることだって許してはおらんのだぞ。せめて散らかしたら片付けとけ」
 僕は空壜を持って逃げるように印刷所を飛び出し、二軒向こうの酒屋の裏手に行く。どうも片付けや掃除ってのは、僕の一番苦手なところだ。
 帰ってくると、職人が二人来ていた。コテル爺の淹れるコーヒーの香りが広がっている。みんなでコーヒーを飲んでいる内にあと二人が来て、職人が揃った。
 僕はみんなに手順を説明する。ポスターの先達シェレは最初に水彩を描いた。僕はこの手間を省いて、直接石版石に油性インクで描く。黒の描線を最初に描いて、それに合わせて色を挿していく。紙面上の混色は避ける。当然基本色は試し刷りがいるから、手間もインクの消耗も大きいが、これが一番の近道だ。
 「僕は色はそんなにいらないと思うんだ。シェレのような淡い色は使わない。僕にアイデアがある」
 混色をせずに色を合わせるのは、スーラが「点描」という描き方で既に試みている。これを印刷に応用する。例えば、黄色の地色に青の粒々を散らすと、遠目に見ると緑になる。混色して色が鮮やかさを失うことがない。
 綺麗に粒々を散らすのに、一晩かけて色々試した。細かい網に、絵の具の付いたブラシをかけると、均一に粒が広がる。
 話を聞く職人たちの眼がキラキラしている。コテル爺が役割を即座に分担する。途端に印刷所全体が活気づく。
 インクの匂いが、コーヒーの香りに取って代わる。印刷機が重々しく動く。僕は描線をチェックし、色を職人と打ち合わせて、仕上がりを見る。ヴィンセント、ここに君がいたらなんと言うだろう。これも芸術だと、僕は思う。

 昼前に意外なお客様が来る。
 「ご機嫌よう。アンリはいらっしゃる?」
 真っ赤なコート。羽の付いた大きな帽子。手には差し入れのバスケット。ジャンヌ。ジャンヌ・アブリル。ムーラン・ルージュの新しい踊り子。男ばかりでむさ苦しい印刷所がぱっと華やいだ。
 白黒の印刷機と、薄汚れた印刷職人の間を、赤いジャンヌが、優雅な足取りで、僕に近づく。みんな仕事が手に付かない。コテル爺までが口を開けて、ジャンヌに見とれている。
 麗しの君。永遠の処女。蕾のままの娼婦。ルイーズは最近肥大した女性器のように肥えてしまったが、ジャンヌは汚れを知らない。それがカドリールで、ぱくっと足を開くのだから堪らない。ウタマーロの絵みたいだ。陵辱された処女。妖しくも優しい背徳。
 「シャルルからこちらに伺っていると聞きましたの。これは皆さんで」
 コテル爺が服に手をこすりつけると、恭しくバスケットを受け取る。ジャンヌは試し刷りの一枚を手に取ると、僕に言った。
 「これはルイーズね。素敵だわ。実物より綺麗みたい。アンリ、やっぱり貴方って天才ね」
 「うん。ありがとう」
 「ねえ、アンリ。今度はわたしを描いて下さらない?」
 職人たちが口笛を吹く。僕は一も二もなく承諾する。コテル爺、手元がお留守だよ。

それから先は大騒ぎだった。
 誰かがジャンヌに、ランチをご一緒しようと言い出した。でも、みんなの弁当と差し入れじゃ、ちょっと足らない。
 「ようし、それじゃ僕の料理をみんなにご馳走するよ。いいかい、コテル?」
 僕は職人を一人連れて、食材を買ってくる。印刷所にキッチンはないから、隣の民家の台所を借りて、自慢の料理の腕を振るう。その間に、みんなは印刷台の上にシーツを掛けて、即席のテーブルを作った。
 時間を掛けたくなかったので、肉や魚は軽くソテーして、スパイスで濃いめに味付けした。野菜はサラダか、軽く茹でるだけで、偽マヨネーズを添えた。急いで作ったつもりだったのに、僕らが料理を持って行くと、残っていたみんなはすっかり出来上がっていた。コテル爺が、ワインを買ってきてみんなに勧めたらしい。あんなに厳しく言ってたのに。
 僕がブリュアンのシャンソンを披露すると、みんなが声を合わせてくる。
♪十五で覚えた怠け癖、
 忘れられずに年を取り、
 眠りこけるが大好きで、
 働くなんぞは真っ平ご免。
 横にもしない縦のもの、
 警察だって、どこだって、
 夜ともなれば姉さんが、
 おいらのために客を引く。
 声を聞きつけて、近所から人が集まりだした。誰かが試し刷りの上にワインをこぼしたが、みんな酔っ払ってそれどころではなかった。ジャンヌも大笑いしながら、歌って踊った。さすがにカドリールまではしなかったけれど。こんなに楽しいランチは久し振りだ。

 今夜のショーの支度があると言ってジャンヌが帰るまで、ランチは続いた。
 もうすぐ陽が落ちる。宴の後の倦怠に、皆が浸っていた。船を漕いでる奴もいる。コテル爺が、のろのろと立ち上がっていった。
 「さあ、片付けよう。仕事は明日だ」
 マリオネットみたいな動きで、みんなが片付けを始めた。僕もゆるゆる腰を上げると、コテル爺が言った。
 「アンリ、今日は帰るんだ。たまにはベッドで体を休めんとな」
 「お前にゃご馳走になったからよ。後片付けは任せな」
 職人たちも僕を気遣ってくれている。
 「なあ、アンリ。わしは初めこの話を聞いたとき、断るつもりだったんだ。何年もかかって手に入れた手業を、ほんの数ヶ月で教えろなんてな。馬鹿にしてると思わねえか?」
 「そんなことはないよ。でも、無理を言って済まないと思ってる」
 「いや、あんたはよくやってるよ。わしら、本当はあんたが音を上げるだろうと踏んでたんだ。だがあんたは違ってた。わしらにゃあ思いもよらねえようなことまで、あんたはやってみせた。そうなるとな、わしら巴里っ子としちゃあ、受けねえ訳いかねえのよ」
 僕はぼんやり考えていた。誰かと同じだ。ええと…コテ…ツ?
 「あんたが本気なのは、みんなよく分かった。だけどな、休むのも仕事の内だ。今夜はゆっくり眠って、続きは明日だ。わかったな、アンリ」

 僕は大声でブリュアンのシャンソンを歌いながら、モンマルトルの坂を歩いて行った。オレンジ色の西日が深く差し込んで、家々の漆喰の白に、綺麗なコントラストを作り出している。ご覧よ、ヴィンセント。パリにだって色彩はあるよ。
 五日ぶりにアトリエに着く。ドアに手紙が挟まっている。いつ来たのか分からない。裏を返すと、テオからだ。また新しい日本の絵を手に入れたかな。鼻歌交じりに封を開けて、凍り付いた。
 ヴィンセントが、死んだ。


2015・冬 東京
 …目が覚めたら、白い部屋にいた。頭がぼんやりして、事態が呑み込めない。白衣の女性がいる。ここは…病院か?
 誰かが私の顔を覗き込む。逆光でよく見えないが、女のようだ。…琴絵?
 「あなた、聞こえる?脳梗塞ですって」
 ああそうだ。会社で急に目が回って倒れたんだ。駆け寄った由香里の、少女のような体臭が、薄れた記憶の中に残っている。
 体が重い。意識はあるが、また消え入りそうだ。病室を見回す。
 琴絵と、看護師が二人、点滴を繋いでいる。社長、よりによって別れた女房なんて呼ばなくてもいいのに。仲人だったから当然か。
 病室のドア際にもうひとりいる。男の子…和也か。背が伸びたな。
 一瞬、視界が緩んだのは、目が潤んだのか、意識が薄れたのか。わかる間もなく、また意識を失った。
 左眼は、相変わらず見えない。
 
 切れ切れの意識の中で、検査が続く。CTスキャン。MRI。採血。レントゲン。薄目を開けて、回らない頭で、何とか事態を把握しようとする。琴絵は最初に来たきりで、後は会社の誰かが現れる。大抵は経理の東隆谷女史で、社長を通して琴絵から、身の回りのことを引き継いだらしい。その間も左眼は一向に用をなさない。
 目を覚ますたびに、頭がはっきりしてくる。佐古田様の件が終わり、身辺整理をしている内に、突然倒れたのだ。救急車に乗せられて、病院に来るまでの記憶はない。
 右の手足に、麻痺が残っている。リハビリで徐々に恢復はするが、しばらくはステッキのお世話になるそうだ。なあに、杖をついて歩くのは馴れている。…ん?

 杖があればトイレにも行けるくらいになって、検査の結果を伝えられた。
 「左視野の視神経に障害が見られます。血栓による圧迫により視神経繊維の欠落が起きています。血栓は取り除きましたが視野の恢復は難しいでしょう」
 非常に稀なケースだが、網膜浮腫と同時期に脳梗塞が起きたため、発見が遅れたのだという。
 つまり、私の左眼は、見るのを止めてしまったのだ。

 退院の日は、抜けるように晴れたが、私には曇っているように感じた。単にサングラスを掛けているからと言うだけではない。片眼の視力を失うことで、眼に入る光量は約20%を失う。私は杖を付き、玄関までの廊下を歩く。自分の杖をつく音がこつ、こつ、と響く。鈍い音だ。やっぱりパリの石畳とは違う。…パリ?
 玄関に由香里が迎えに来ていた。変わらぬ笑顔。変わらぬ姿。私はまた、この子の体を抱くことが出来るのだろうか。
 家へと向かう電車の中で、ぼんやり外を見る。左眼欠落により私が失ったのは光20%、左の視野角40度。
 この外の景色のように運動していれば、運動視差が生まれ立体感覚は得られる。だが、左眼と右眼の視野の違いから生じる両眼視差は、今の私には感じられない。これは距離感を得るための最大要素を失ったことになる。勿論右眼は正常だから、日常生活に大きな支障はない。ただ、確かにあった世界の奥行きは感じられない。
 窓の向こうに景色が過ぎる。近いものは早く、遠いものは変わらない。途中のビルは、変形した六角形の、頂点の二角がぐるりと歪んで過ぎていく。近いもの、中程のもの、遠いものが、それぞれ書き割りのように、後ろへ向かって過ぎていく。
 物体はまるで平面の連続のようになって、距離感が正確につかめない。目の前を飛んでいく羽虫すら捉えられない。
 隣の席から由香里があめ玉を差し出す。包みを開こうとすると無理なく開いた。右側の麻痺の方はだいぶ恢復しているようだ。
 「あたし今日から泊まりますね」
何の躊躇ためらいもなく由香里が言った。

 杖なしで歩けるようになったので、会社に出社した。由香里は隠す様子もなく私に同伴した。社長に現状を説明し、しばらく休職する旨を説明する。みんなにも礼を言って、挨拶だけして帰る。東隆谷女史の励ましの声を、背中で聞いて去る。
 毎朝駆け上るようにしていた階段を、手すりに掴まってそろそろと降りる。なんだかひどく年取ったような、取り残されたような孤独感を感じていた。
 片眼の設計士なんて、誰が雇うだろう。

 常に片眼が見えないから、日常生活にも色々とストレスがかかる。映画もテレビも見られるけれど、本は意識しないと内容が入ってこない。由香里はよくやってくれているが、気付くと由香里の目を避けて、部屋の隅でじっとすることが増えてくる。動こうとすればするほど、見えない目のストレスが重くかかってくる。
 塞ぎ込むことが増え、外出が億劫になってくる。悩んだ末に、退職届を出すことにした。しばらくは傷病保険があるし、幾らか貯金もある。
 由香里は何も言わず、出て行く様子もない。有り難う。いてくれるだけで心が安らぐ。今は君を抱くことも出来ない。


1857・秋 江戸
 …流石あ彫鉄兄弟だ。今度の秋口の版じゃ、大橋を斜めに走らせた俄雨の景色を書いたが、雨の一本一本に奥行きがある。雨雲や川面のぼかしも上手いが、隅田川対岸の御船蔵が、雨にけぶってぼんやり浮かび上がるとこなんざ、小鉄の真骨頂だ。
 安政二年の正月から初めて、もうすぐ足かけ三年になる。数えちゃいないが、そろそろ百景揃う頃じゃねえか。締めの積もりで、王子稲荷のえのきを描いた。大晦日に集まる狐火の図だ。
 俺あこれまで、写真に描くことを信条としてきた。妖怪や幽霊なんざ、馬鹿馬鹿しくって描く気にならなかった。それがどうした訳か、今度だけは榎の下に、たむろする妖しい狐を描いた。見たわけでもねえのに。
 下絵じゃあ寂しい夜の榎だけだった。が、ふと思い立って大勢の狐を描いて見たのだ。初めて画稿を見た時の、魚栄の反応は面白かった。
 「はあああ…」
 「何でい。おかしいか」
 「いえ、おかしかねえですが…先生でもこんなの描くんだねえ。こいつあまるで」
 北斎だ、と言いかけて、口を噤んだ。俺があの爺が嫌いなのを思い出したらしい。口には出さなかったが、俺もそう思っていた。あの爺は妖怪だの化け物だの、ありもしないものを平気で描く。しかも上手い。花鳥風月かちょうふうげつ何を描かせても、神業のように上手い。
 俺が北斎を嫌うのは、その腕の良さに余計な嘘っぱちまで付けるからで、これみよがしな感じが鼻について仕方ないのだ。だからこそ俺は、本当にあるものを、見たとおりに描いてきた。それが今度に限って、見えもしない狐様なんか描いている。
 絵てなあ何でもありだ。鯰だろうが麒麟きりんだろうが龍だろうが、頼まれれば描く。所詮錦絵なんざ何枚も摺って、いずれかすれて消えていく。人様が喜んでくれりゃそれでいい。
 「先生。これが最後なんて、言わねえでしょうね」
 魚栄が見透かしたように言う。
 「何でエ。そろそろ百景届いたろ」
 「まだちっとばかし足んねえや。もう一踏ん張り」
 「いずれ百景が二百景になり、千景になりと来るんじゃねえかい」
 「あはは、そうなりてえもんだ」
 確かにな。まだやり足らねえ気もする。
 もう少しやってやるか。
 ふわ、と青い果実のような匂いがして、玄関が開く音。お使いからお辰が帰ってきた。ただいまも言わず、仕事場の前の廊下を、振り返りもせず奥に消える。
 「おや。お辰ちゃん虫の居所が悪そうですな」
 この数日、急に娘らしくなったと思ったら、俺には眼も合わせてくれない。あの甘酸っぱいような匂いも、強く感じる。いつもの明るさもなく塞ぎ込んでいるようで、お安とこそこそ話し込んでいる。
 地物好みの魚栄が、何か言ってくると思ったが、画稿を見たきり何も言わない。
 案外気が利く男なのかも知れない。

 夕餉ゆうげに赤飯が出て、漸く察しが付いた。食事の間、俯いて恥ずかしそうにしている。目を合わせないようにしているのがわかるが、時折上目遣いにこちらを盗み見る様子が、変に生々しく可愛らしくて、抱きしめたくなる。もう無邪気な子供ではない、と思うと、堪らなく寂しい、と同時に、男としてのいかがわしい気持ちもわき上がってきて、どぎまぎする。娘とは言えお辰養女女なのだから、別段いかがわしくもないはずだが、どうにも気詰まりで、座が息苦しい。平気な顔で飯を食うのに難儀した。
 その空気を察したのか、女の部分が疼いたらしい。夜半になってお安が体をすり寄せてくる。四十半ばの、女盛りの熟れたからだに、俺の男も応じる。俺も六十を過ぎたが、まだ枯れていない。
 少したるんだ柔らかいお安のからだに、埋もれるように没入する。お辰に気付かれまいと、必死に声を出すのを堪えているのが、却ってこちらの気をそそる。もともと淫蕩なところのある女だが、久し振りと言うこともあり、お互いいつになく激しく求めていた。
 頭の隅で、お辰は気付いているのかと思う。急に頭の中で、お辰の子供と女の間みたいなからだが、やけに生々しく浮かび上がる。まるで見たことがあるようだ。華奢な撫で肩と、慎ましい乳房と、丸くて硬い尻。
 お安の芳醇な女のからだを味わいながら、どこかで少女のからだを恋しがっている。後ろめたい気持ちが、更に快楽への欲求を高めた。その中で、もう一人の俺が、全く違うことを考えていて、笑いそうになった。
 今度は馬の尻を描こう。


1891・秋 パリ
 クリシー大通りの、壁という壁に、僕のポスターが並んで飾られた。所々歯抜けに見えるのは、不心得者が剥がして持って行った跡らしい。僕としては悪い気はしない。
 『ムーラン・ルージュ』へ続く道は、人の波で一杯だ。店先にある大きな張りぼての象が、ひどく窮屈そうに見える。この分じゃ、ジドレルが取っておいた僕の指定席も、客で埋まっていることだろう。今日はよその店で呑もうか。きびすを返した。
 「そりゃあないぜ、ロートレック先生」
 ジドレルだ。おや、今日はタキシードを着ていない。だいいち、支配人が店の外にいるなんておかしいな。
 「今夜の『ムーラン・ルージュ』は、先生のためにあるんだぜ。行ってやれよ。みんな待ってるから」
 「ジドレル、君は…そうか、『ムーラン・ルージュ』の経営から、手を引いたんだな」
 「そういうこと。しかし、大した評判だね、ええ、先生?『ロートレックは街角に芸術を持ち込んだ』って、新聞に書いてあったぜ」
 「『あんな下品なもの、見るに堪えない』とも書いてあったろ」
 「それこそこっちの思うつぼだ。どうだね、先生?一夜にして名士になった気分は」
 「『先生』はやめてくれよ。それにみんな君のお陰じゃないか。どうして店を手放したりしたんだ?」
 「俺にはまだやりたいことがあるのよ。だが先生のお陰で、俺の男も上がったぜ」
 「どういうことだい?」
 「シャルル・ジドレルは『ムーラン・ルージュ』の大成功に満足することなく、新たな一歩を踏み出した、てな!売り上げが落ちたところで人手に渡すのが、癪だったからな」
 こいつはやっぱり一流のはったり屋だ。そういう所が、僕は大好きだった。
 「もう先生には会うこともないだろうよ」
 「モンマルトルを離れるのか?何処へ行くんだい、ジドレル?」
 「そいつあ言わぬが花だ。あばよ、先生」
 ジドレルは何歩か後ろに下がると、いきなり大声を張り上げた。
 「おおい、モンマルトルの諸君!ここに新たなポスターの天才がいるぞ!アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック先生だ!」
 周囲が一斉に僕を見た。皆が手を開いてわらわらと集まってくる。ジドレルはその波に呑まれて、姿が見えなくなった。
 何十という、握手を求める手に揉まれながら、僕は目の端で、馬車に飛び乗るジドレルの後ろ姿を見た。

 僕は人混みに押されるように、『ムーラン・ルージュ』に入った。僕が入るなり、楽隊が音楽を奏で、店を上げて歓迎してくれた。割れんばかりの拍手の中、ポスターの絵よりだいぶ太ったルイーズが、僕に熱烈にキスをしてきた。新支配人のオレ兄弟を始め、代わる代わる握手やサインを求められた。結局その晩は一滴も呑めなかった。

 やっとアトリエに帰り着いた。人いきれでへとへとだ。帰る間際に貰ったアブサントの壜を片手に、僕はソファへ座り込む。
 クリシー大通りの賑わいも、ここからは遠く聞こえる。雲が切れて、二十日月が顔を出す。ぼんやり明かりが差して、散らかった床が、月の光に照らされる。
 その上に、男の姿が浮かび上がる。麦藁帽子に、耳には包帯、鋭い目をした男。…
 ヴィンセントの幽霊。
 怖くはなかった。ヴィンセントは黙って僕を見ている。僕はヴィンセントが何を言いたいか、知っていた。
 『なあ、トゥールーズ。僕の絵は上手いか?』
 月がまた群雲に隠れた。すっ、とヴィンセントの幽霊が消えていく。違うんだよ、ヴィンセント。君の絵は上手いか下手かじゃない。君の絵は芸術なんだ。
 僕は窓から、雲に見え隠れする月を見な
がら、ボードレールの詩を暗誦する。
 『至上の神の通力つうりきみことけて、
 詩人が 倦怠したこの世に現れる時、
 母親は おどろあきれ 冒涜の言葉をはな
 憐みを垂れ給ふ神に向かって、
   わななこぶしを握りしめ、
|「ああ、こんな愚弄のたね
  育てるくらゐなら、
いっそ蝮蛇まむしかたまり
  どうして産まなかったのだ。
わたしの腹が 贖罪あがなひのこの子をはらんだ
束の間の歓楽の夜は 呪われろ。」』
 聞こえるかい、ヴィンセント。これが詩だ。これが芸術なんだ。
 詩の行間に、音楽の音の隙間に、
 色と線の境に、芸術はある。
 つまり、芸術とは、空間なのだ。
 ヴィンセント、君は空間を捉えた。
 夜の闇の中に、うごめく蒼を捉えた。 
 でもそれは、目に見えない空間だった。
 だから、絵にした時、矛盾が起きた。
 君はそれを許せなかった。
 ヴィンセント。君は芸術に殺されたのだ。
 「あらゆる女の間から
   神がわたしを選び出し
 気の毒なわたしの亭主の
   嫌悪けんをまとに 仕上げたが、
 このひねこびた怪物を、
   まさか艶書と同様に
 火の中に
   投げ込む訳にも行かないから、

 神の悪意を示してゐる
   この呪はれた楽器の上に、
 わたしを壓倒おしたをしてしまふ
   神の憎悪ぞうをを跳ね反らせ、
 思ふ存分
   あさましいこの木を捩じ曲げ、
 毒のある新芽が
   生えないやうに為てやる。」
 父さん、貴方のろくでなしの息子は、芸術家と呼ばれていますよ。
 ヴィンセント、見てくれ。僕のポスターは大評判だよ。ヴィンセント、もう一度君と、芸術について語り合いたい。
 ヴィンセント。君に会いたいよ。



2016・春 東京
 改札機に切符を入れようとして、少し手間取る。まったく、こんな簡単なことでも距離感がつかめない。後ろの人に押され気味に改札を出る。
 左眼が見えなくなってから、東京駅に来るのは初めてだ。前は都心に出るたびに、遠回りをしてまでここに来た。
 東京駅丸の内南口ドーム。戦前の名建築家、辰野金吾の設計した丸の内駅舎を復原したものだ。美しい曲線のアーチ、白い漆喰の壁、精緻なレリーフが、改札を出てすぐのホールで待ち構えている。
 昼間とは言え、ただでさえ人通りの多い丸の内である。周囲に気を配りながら、もう一度ドームを見上げる。計算された幾何学の粋。差し込む陽光。絢爛たる装飾。
 …いや、それは何も変わっていない。ただ私の目が、一つになっただけだ。それなのに、あの吸い込まれるような、浮き立つような、迫ってくるような臨場感が、決定的に欠けてしまっていた。
 少し動いてみる。両眼視差が出来なくても、動けば運動視差が生じるはずだ。私の動きにつれて、それぞれのレリーフが、生命を持って見えるはずだ。
 まるで映画を見るようだった。立体空間にある構築の美は、二次元に集約されて、その奥行きを失っていた。ただ視点の変化だけが認識できるだけだ。
 中国人の観光客が大声で話しながら、棒立ちになっている私の肩にぶつかっていった。むっとしたが、こんなところで立ち竦んでいる私も悪いと思い直して、表に出た。階段を危うく踏み外しそうになり、少しふらついた。
 外はよく晴れている。前に来たときはまだ再開発の途中で、あちこちに柵がかかっていたが、今はだいぶ開けている。ビルが見える。信号が見える。横断歩道が見える。あの道の先には皇居がある。さっきの中国人の団体が相変わらず大声で話しながら写真を撮っている。どれもが立体感を失い、移動とともに変化する図形に見える。
 人にぶつからないよう注意しながら、私は歩き出す。誰ひとり、私が片眼であることに気付かない。いい大人が、こんな時刻に、何をふらふら歩いているんだと、思われている気がした。左眼が見えなくなってから、変に自意識過剰というか、腰が引けている。こんな雑踏にまみれるのも、考えてみれば久し振りか。
 無理してここまで来たのは、もう一つ目的があった。丸の内駅舎で、かなり打ちのめされた私は、それでも歩を進めた。

 そこは、東京駅周辺の再開発に伴い、明治時代の歴史的建造物を再現し、美術館として活用した建物だった。入り口の階段を上り、日当たりのいい通路を通って、チケット売り場に向かう。『二十世紀のグラフィック・アート』という特別展をやっていたが、絵画には特に興味はない。
 展示してある絵画もそこそこに、私は展示室と階段でつながる踊り場へ向かう。そこは天井の一部が耐熱ガラスになっていて、復原された建築物の、内部構造が見えるようになっていた。明治時代の建築物の内部は、構造力学的な美に満ちていた。
 私が、最後まで佐古田様別邸の担当を外れたくなかったのは、この建築の再現を、自分の手でやってみたいと思っていたからだ。私なりに手を加え、現代の建築に見合うよう工夫したつもりだ。だが、設計時に思い描いた、立体構造の機能美は、それが実際に建築されたときには、私には見えなくなっていた。
 ここには、柱があり梁があり、桁があり筋違いがあって、数学的に支え合う立体図形の連続があった。いま、私の頭上に見えるのは、図面通りに組み合った部材の集合体に過ぎなかった。
 踊り場を抜けて、次の展示場へ向かう。階段を上る足が重い。早くここを出たい。体を引きずるように、私は順路を進んだ。
 視界の端で、何かが動いた。
 顔を向ける。それは十九世紀末に書かれたポスターだった。途端に、匂いが、音が、照明が私の前に広がった。
 茹でたオマール海老の匂い。揚げたポテトの匂い。馬糞混じりの土の匂い。嬌声。脂粉。煙草。アブサント。
 目の前を通り抜けたのは、くねくねと踊る骨なしヴァランタンの影。その向こう、大きく足を上げて踊る、ラ・グーリュの白い尻。ルイーズ、君はポスターの中の方が綺麗だ。そして、取り囲む観客。緑色に反射する床。煌めくシャンデリア。
 ここはムーラン・ルージュだ。
 振り向くと、そこにあるポスターたちが、一斉に動き始めた。
 すぐ横を、北方急行が、猛スピードで通り抜けていく。
 星条旗を纏ったアンクル・サムが、私に向かって『I WANT YOU』と指を突き出している。
 ロシア労働者の女性が『本を!』と叫び、言葉が方々に広がっていく。
 そうか。平面グラフィックか。
 視線を感じて振り向く。そこには、赤いコートを着たジャンヌが、試し刷りを持って笑っている。
 『ねえ、アンリ。今度は私を描いて下さらない?』
 あの時印刷所で言った台詞を、また繰り返すジャンヌ。素敵だよ。ジャンヌ。お辰。由香里。蕾のままの娼婦。
 ジャンヌの後ろで、印刷機に屈み込んでいた男が顔を上げた。ああ、小鉄…コテル爺。
 『やっと、来たかい。待ってたよ』
 コテル爺は私に、にっ、と笑いかけて、軽く片目をつぶって見せた。

                終わり





参考文献
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 
 マチアス・アーノルト著 PARCO出版
もっと知りたいロートレック 生涯と作品
  杉山菜穂子著 東京美術
トゥールーズ・ロートレック 自作を語る画文集 世紀末のモンマルトルにて 
 八坂書房
ゴッホとロートレック 
 嘉門安雄著 朝日選書
ロートレック 世紀末の闇を照らす 
クレール・フレーシュ&ジョセ・フレーシュ著
 創元社
ロートレックの謎を解く 
 高津直昭著 新潮選書
ロートレック 
 アンドレ・フェルミジェ著 美術公論社
赤い風車 ムーラン・ルージュ 
 ピエール・ラ・ミュール著 美術公論社
トゥールーズ・ロートレック
  マチアス・アーノルト著  タッシェン
ロートレック全版画展図録 1990
 読売新聞社
ロートレック展図録1996|1997
 谷口事務所
トゥールーズ=ロートレック展図録 
 三菱一号館美術館コレクション
ロートレック(BSSギャラリー 世界の巨匠)
 ダグラス・クーパー著 美術出版社
スーラとシェレ 画家、サーカス、ポスター 
 セゴレーヌ・ルメン著 三元社
グラフィック・デザインの歴史 
 アラン・ヴァイユ著 創元社
Posters of Paris 
Toulouse-Lautrec&His Contemporaries
catalogue Milwaukee Art Museum 
Graphic Arts  SCALA
浮世絵八華〈8〉広重
 狩野広幸著 平凡社
浮世絵版画の十九世紀 風景の時間、歴史の空間
 菅原真弓著 ブリュッケ
広重と浮世絵風景画
 大久保純一著 東京大学出版会
もっと知りたい歌川広重 生涯と作品
 内藤正人著 東京美術
象徴形式としての遠近法
 E・パノフスキー著 ちくま学芸文庫
絵画空間の哲学|思想史の中の遠近法
 佐藤康邦著 三元社
日本絵画の見方
 榊原悟著 角川選書
山水思想|負の想像力
 松岡正剛著 ちくま学芸文庫
江戸の遠近法・浮絵の視覚
 岸文和著 勁草書房
江戸浮世絵を読む
 小林忠著 ちくま新書
維新前夜の江戸庶民
 南和男著 教育社歴史新書
広重の第三の眼
 星川晋也氏論文
地震の社会史 安政大地震と民衆
 北原糸子著 講談社学術文庫
画狂人 北斎の世界
 洋泉社
広重 太陽浮世絵シリーズ
 平凡社
今、浮世絵が面白い!1 葛飾北斎
      ″    3 歌川広重 
 学研
大北斎展1993図録
 朝日新聞社
広重ビビッド図録 2016
 TBS
自然をうつす 東の山水画・西の風景画・水彩画
 青木茂著 岩波書店
能と視覚|何をどう見るか
 福田淳・佐藤宏道著 共立出版
版画|進化する技法と表現
 文遊社
東京時代MAP 大江戸編
 新創社
三菱一号館 誕生と復元の記録
 新建築社
完全保存版!東京駅
 別冊宝島編集部編 宝島社

Inspired by
美術の物語
 エルンスト・H・ゴンブリッチ 河出書房新社

なお、文中のボードレールの詩は
ボオドレール『悪の華』(鈴木信太郎訳・
岩波文庫)より抜粋させて頂きました。


文中の図版リスト(登場順)
葛飾北斎『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏
 山下白雨

歌川広重『東海道五十三次』庄野 白雨

喜多川歌麿 歌満くら『手籠めの図』

葛飾北斎『北斎漫画 初編』より

ヴィンセント・ファン・ゴッホ『梅の花』

狩野興以『月下猿猴図』

歌川広重『名所江戸百景』水道橋駿河台
 浅草金龍山

葛飾北斎『富嶽三十六景』尾州不二見原

歌川広重『名所江戸百景』四ッ谷内藤新宿

アルブレヒト・デューラー「測定法教則」より『裸婦を描く素描家』

歌川広重『名所江戸百景』大はしあたけの夕立
王子装束ゑの木 大晦日の狐火

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック『ムーラン・ルージュのラ・グーリュ』

ヴィンセント・ファン・ゴッホ『星月夜』

A・M・カッサンドル『北方急行』

ジェームズ・モンゴメリー・フラグ
『I WANT YOU FOR U.S.ARMY』

アレクサンドル・ロトチェンコ『あらゆる知についての書籍』

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック
『レ・スタンプ・オリジナル』

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