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確実にこなさないといけないプレーを確実にこなせるチームが強いとイチローは言った。

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『今日は、いつもより頑張る。』なんて、SNSで適当なことを呟いてしまったばっかりに、今夜の配信は何でも良いからとにかく何かを頑張らなくてはいけなくなった。

 普段、手を抜いているわけではないが、黙々と裏方の仕事をしていれば良いという状況ではなくなってしまったことだけはわかっている。かといって、大した建築もできないし、面白いことも話せない。

 勉強する場所はもう既に無い机の上。そのパソコン画面の前で、理人は両腕で頭を抱えるようにして椅子の背もたれに寄りかかり、その状態のまましばらく固まっていた。トレードマークのブルーグレーのパーカーを着た理人のキャラ『カイリ』も、目の前のモニターの中、いつもなら真っ先に下りていく地下への階段の前で、迷子のように立ち止まっている。


(頑張るって、何を?)


 クラスメイトの三田晶子と、癒しのフォロワー「ミコ」が同一人物かどうか探るためとはいえ、本当に余計なことを呟いたものだと、理人は数時間前の自分を恨めしく思う。


(頑張るって、どうやって?)


 何をしたら良いのか考えている内に、あっという間に時間だけが過ぎていく。別モニターに映し出している今まさに配信されている動画に目を向ければ、Jは誰かが新しく作った教会のような建物の中で、何かネタをしているようだった。
 後から続々と入って来たメンバー達は、それぞれがJに企画を出しているらしい。その中からJが選んだものを生配信していくのだが、それに合った舞台を作ったり、役者を揃えたり、台詞を考えたりということは、企画を出した本人が主導で行っている。監督の下にプロデューサーみたいな人間が何人もいるような感じだろうか。理人はその中で走り回る、黒子みたいな存在だ。
 いつも通り、理人が何もしなくても話は着々と進んでいく。


(まあ、別に良いか。)


 盛り上がっているそこに入る勇気は、理人には全くない。「頑張る」とは言ったが、「何を」とは言っていないのだ。理人はそう開き直って、結局いつも通り下り慣れたその階段を下りた。

 下りた先、たいまつが燃えるだけの暗いはずの空間が、いつもより明るいことに理人は気が付いた。理人が掘った地下通路を、広くしていっている者がいたのだ。最近加わったばかりの「SHOUJOA」とかいう名前の参加者で、黒を基調としたこちらも地味な人間スキンだ。


(しゅうじょあ?しゅうじょぁ?しょうじょえい?)


 どう読んだら良いのかわからないそれに戸惑いながら、ペコっとお辞儀のようなエモートをすれば、同じようにペコペコと返してくれた。


(なんか、良いやつだな。)


 ただそれだけで良いやつ認定してしまう、ゲームの中の世界はそんなものだ。現実では自分で壁を作らなければならず妙に不安だけれど、ゲームでは二次元という壁が自分を守ってくれている。そんな安心感から、他者との距離は現実とは比べ物にならないくらい近い。


(ここを広くするのか?)


 そこは理人が資材を集めるために、真ん中のこの空間から出発する道のように、ただただ一直線に掘り進めただけの場所だ。それが通路のようになって何本も並んでいる、そんな殺風景な場所。完全に裏方の場所だった。
 彼女?彼?は、そんな通路の壁を取り払い、一つの空間にしていっているようだ。何を作ろうとしているのかわからないが、まあ良いかと理人もそれを手伝うことにした。
 一部の壁を取り払えば、SHOUJOAはまたヘコヘコと挨拶をした。理人のやったことは間違っていなかったらしい。ただ黙々と空間を作っていく作業。理人はいつものようにそんな単純作業に没頭した。

 恐ろしいことに、その日の配信はそれだけで終わってしまった。最後、できあがった空間を見回しながら、理人は自分が掘った通路の長さを恨めしく思っていた。かなりの広さの空間ができあがったが、それでも通路の名残はまだそこかしこにある。
 SHOUJOAは天井の高さも欲しかったらしく、理人が壁を壊すことに夢中になり始めると、今度は天井を壊しはじめ、最終的にその空間はずいぶんと広々としたものになった。だが、広い空間がそこにあるだけで、まだ何も出来上がってはいない。

 これをどうするのか?―――そんな疑問も残ったが、それでも自分がやってきたことが少しでも何かの役に立つならそれで良い。
 いつも一人静かにやっていた作業が、二人になったことでとても捗った気がして理人は妙に満足した気分で、その日の配信を終えた。



 広くなった空間のスクリーンショットを、SNSにのせる。地味ではあるが、頑張ったことに違いはない。そして、理人が布団に潜り込むまでの間に、夜中であるにも関わらずそこそこの数の『いいね!』がもらえた。そこにはミコの名前もあった。

『今日は、いつもより頑張る。』なんて、適当なことを呟いてしまったばっかりに、心待ちにしながら配信を見ていた人もいたのだろうか。―――そんな風に少し申し訳ない気持ちのまま、理人はその疲れた目を閉じた。







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