【完結】異世界転生って!? …まじですか? ~幼なじみは、異世界転生者。今日も妄想暴走中!~

林奈

文字の大きさ
13 / 20

第11話 ギュッターベルグ

しおりを挟む
 ~魔王復活の二年前~


 御前会議にて、今後の方針が決まった。
 
 皇太子を筆頭とした対策チームは極秘での立ち上げとなり、人数もひどく限られたものとなった。
 ダニーは宰相補佐として、ギュッターベルグにおける魔王復活に関する調査及び、それによる被害の予測と被る損害、住民の避難場所の確保と物資の確保など、現地でのありとあらゆる作業を一任されることとなり、現地と王宮を往復する忙しい日々を送っていたのだが…。今回の現地入りには、いよいよ皇太子殿下も同行することとなり、ダニーがその案内役を務めることになってしまった。割り当てられた部下は少なく、皆、暇も無く現地を走り回っている。避難経路の割り当てなど、現地の知識が大きく求められるものに対して、ギュッターベルグの住民代表として数名にも動いてもらう許可が下り、やっと今回の案内役を引き受けることを決めたばかりであった。
 
 テーブルに描かれた地図の上に置かれた無数の駒とメモ。
 ここは、ダニーが現地で本格的に調査に当たることが決まって、王宮より貸し下げられた、昔の領主が使っていたという城と言っても差し支えないほどの立派な建物の一室である。
 王宮の直轄地のため、文官が派遣され治められているが、その際に文官が寝泊まりする施設としても利用されているため、管理人も使用人もいて、手入れも行き届いていた。そして、もともと執務室として使われていた部屋を、ダニーもそのまま利用する形になった。
 
 その部屋の机には、ギュッターベルグ地方の地図が大きく描かれている。山々に囲まれた地域であることは一目瞭然だ。やや南に位置する場所にこの城があり、そこから南寄りに少し偏った形で集落が点在する。
 この城より北の方。隣国との国境は山並みに沿っていて、この国境寄りに赤いインクで大きく「×」の印が付けられている。そして、ここに無人の修道院があり、既に調査済みである。
 
「現状の報告を。」
 
 机の向かい側で、腕を組む皇太子殿下が声をかけると、現在この地を担当している文官と、昨日皇太子殿下と共に王都からやってきた、第三騎士団の団長と魔術室研究室のジョン・ノア室長が揃ってダニーの顔を見た。
 ダニーは手元にある書類に目をやる。
 
「ではまずは、魔物による被害状況から。」
 
 殿下も手元にある調査報告書の写しに目を落とす。
 
「そちらの数字を見ていただければ分かるように、魔物の量も増えておりますが、最近では中級の魔物も発見されるようになってきております。状況は確実に悪化していると言えるでしょう。その下は、それら魔物による農作物や建物への被害をまとめたものです。」
 
 皆が静かに資料に目を通している。紙の擦れる音が聞こえる。
 
「各集落では、それらから身を守るため自警団が組織され、所によっては傭兵団なども結成されてきているため、損害額の上昇は抑えられておりますが、それら組織にかかる費用が各集落の財政を圧迫していることは、間違いありません。」
 
 それについては、御前会議でも既に報告済みであり、今回の皇太子殿下来訪に随行する形で、王宮からも第三騎士団が派兵されることとなった。
 
「つきましては、第三騎士団には、この建物周辺の警備の他に、各自警団との連携の確認、そして修道院近辺の調査へのご協力をお願いしたいと思っております。」
 
 そう上奏すれば、皇太子殿下は騎士団長に目をやり頷いただけだったが、「御意に。」と団長は首是した。
 
「他には。」
 
 皇太子殿下がそう声をかけたとき、ゴゴゴという地響きと共に揺れを感じた。
 皆、それぞれに怪訝そうな表情になる。
 大した揺れでは無いが、この地ではこういった地震が増えてきている。それほどかからない内に、揺れは止まった。
 
「このような地震も増えてきております。いつ大きな被害をもたらすことになるかわかりませんので、避難場所等の周知だけは徹底的にお願いいたします。各集落においての避難場所、及び物資等については次のページに。」
 
 紙の擦れる音が大きくなる。
 
「各集落への通達は完了し、順次対応中です。」
「そちらへの応援は。」
「できれば。」
「何名必要ですか。」
「各集落からの派遣要員もおありますので、窓口として4,5名。」
「わかりました。」
 
 話が着々と進む。
 早朝から始めた会議だったが、窓から入る光の短さが、もう太陽はずいぶんと上の方に上がってしまったことを告げている。
 
「では、よきに。」
 
 皇太子がそう告げると、文官と騎士団長は頭を下げて部屋を出ていった。
 
「では、ダニー・ヒル宰相補佐殿、案内を頼む。」
 
 これからあの修道院に皇太子殿下を案内する。皇太子付きの護衛二人と、残っている魔術研究室室長のノアを見る。
 
「畏まりました。」と、ダニーは頭を下げた。
 
 
 ――――――――


「これは…。」
 
 修道院跡地に足を踏み入れると、ジョン・ノア室長がぼそりと呟いた。 
 建物の中には、動物等に荒らされたような形跡はあるものの、すっきりと片づいていた。「何もない。」と言った方が、より正しい表現かもしれない。
 
 入り口から真正面に女神リリアの像が見えるが、聖堂らしい会衆席や朗読台といったものは見あたらない。リリア像が無ければ、聖堂かどうかさえ疑ってしまいそうなほど簡素なただの空間だった。
 音のない、それでもどことなく安心感のある不思議な空間。ダニーを先頭に進む。
 
 足を踏み入れると、その足音だけが妙に響く。
 ステンドグラスから降り注ぐ光が、足下を照らす。
 
「何か感じるか?」
 
 皇太子殿下が静かにノア室長に聞くが、彼は小さく首を振っただけだった。
 
 女神像の前まで来る。
 こちらを見下ろす女神リリアの像。
 白いその瞳。
 
 右脇に扉があるのが見える。作りはよくある修道院のそれと同じだ。
 
「こちらへ。」と言って、ダニーがその扉を開ける。
 その扉をくぐると小さな談話室があり、その窓から、小さな中庭を囲むようにして配置されている食堂や修道女の部屋がいくつか見えた。
 細い回廊を進む。何部屋か通り過ぎたところで、ダニーは足を止め、後ろから来る皇太子殿下を待つ。修道女用の部屋が並んでいる。その内の一つの部屋に、皇太子殿下を案内する。
 
「こちらが、その部屋になります。」
 
 ドアを開けると、そこには簡素な机とベッド、そして小さなワードローブだけが備えられていた。 
 皇太子殿下が中に入る。
 大人二人が入ると少し窮屈にさえ感じるその部屋を、ゆっくりと見回している。机に目を止め、引き出しを開ける。中には筆記用具が入っているが、インクが固まってしまっている。羽ペンの羽毛部分は、その名残だけを残してほぼ無いと言って良い。引き出しの中はそれだけで、後は何も見あたらない。それは、ダニーが既に確認済みだった。
 
 ダニーは皇太子殿下の後を追って中に入ると、ワードローブの扉を開けた。この部屋に残されているもので手がかりになるものは、その中にあった。そこに残された不思議な衣装。男物のような、襟のあるシャツ。ーー元は白かったと思われるが、経年劣化でうっすらと黄色がかってしまっている。簡素な紺色のジャケット。そのポケットには、赤いチェック柄のリボンが入っている。そして、生地を折り重ねながら一周しているグレーのチェック柄のスカート。それは、この世界では考えられないほど短い。平民の女性でも、ここまで短いスカートははかないだろう。
 
 それが何を意味しているのか。
 これは一体、何なのか。
 
 いつも、どこかに帰りたがっていた聖女。
「ここは、現実?」で始まる日記。
 
 その答えを知る人は、もう二百年も前に生きた人だ。既にここにいないのは明らかだった。その痕跡を探して探して、やっと見つけたのがこの部屋だった。
 生徒手帳と書かれた聖女の日記の表紙に描かれた紋章と、同じ紋章がジャケットの胸元に刺繍されているのに気がついたのは偶然ではなかった。ダニーは全てを暗記するほど日記を端から端まで読み込んだし、変わった形のその紋章も目に焼き付けた。それでも聖女に繋がる手がかりは、これしか見つけられなかったけれど。
 
 帰れなかったのだろうか。
 
 二百年前に、この世界を救ってくれた聖女。

 間もなく訪れるであろう災厄を前に、再びその訪れを乞い願うのは我が儘であろうか。もう一度、私たちを救ってくれはしないだろうかと。
 
 皇太子殿下がノア室長に何か呟いたが、室長はしばらく考えた後、また小さく首を振っただけだった。
 
 殿下は部屋の奥まで行き、窓から小さな中庭を望む。日当たりの良い部屋。空を見上げる瞳が揺れた気がした。
 
 ダニーはふと、揺れるストロベリーブロンドの髪を思い出す。 
「魔王が復活します。」と静かに告げた血の気の失った唇を。
 空色の瞳に見つめられ、静かに呼ばれた自分のフルネーム。
 心臓を鷲掴みにされたような息苦しさの中、逃げるように飛び出した部屋。
 
 シュナイダー男爵家に手紙を送ったが、返事はまだ来ない。
 彼女が何者なのか、ダニーはまだ認められないでいる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...