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4巻
4-1
1 いざ、出発
「ここまで育てば大丈夫かな」
私はハーブ園を見渡して、よしよしと頷く。
冒険者パーティ「吹き抜ける風」の面々から、「ロウス皇国のメーティル地方で入手した紅白餅の調査をするので、ぜひリンに同行をお願いしたい」と言われたのが一週間前のこと。
実はその前にも、ロウス皇国のリオール皇子からメーティル地方にぜひ来てくれと言われていたし、ここリヒトシュルツ王国のストル王子からも、視察して欲しいと頼まれていた。話によれば、イタチョーなる人物がそこで小料理屋を開き、オンセンやら紅白餅やらを提供しているのだとか。その人、私と同じ日本から来たんじゃない?
それが本当だとしたら興味があるし、だから行くこと自体は引き受けたのだが、ハーブが無事に根付くまでは農園を離れるわけにはいかないため、皆に待ってもらったのである。
今日は出発の日だが、とうとうハーブががっちり根付いたようだ。それは、根元が植えた時の倍くらいの太さになっているかどうかでわかる。
私のハーブは根元がかなり太くなっているから、もう大丈夫だろう。これが根付かなかったら出発を延ばすところだったよ。ほんとに。
「リンさん~みなさん来られましたよ~」
ほっと胸をなでおろしていると、ヴェゼルが呼びに来た。
竜人の彼は、「吹き抜ける風」のメンバーであるマナカの養子だ。マナカは別の仕事があるため、出発の日まで預かって欲しいと頼まれたのである。
私は集合場所である家の玄関へと向かった。
今回の小旅行(?)は、総勢十一名の大所帯。
玄関にいたのは、「吹き抜ける風」メンバー――剣闘士ラティス、聖剣士スレイ、レンジャーのアリス、賢者シオン、召喚士マナカ――と、パーティ「はみ出し者たち」に所属するエルフの弓使いミネア。それに、この世界では謎の物体とされる紅白餅を入手した竜騎士のラグナ少年、勇者フェイルクラウト、さらにはヴェゼル少年と私、私を母と慕うグリーこと魔王グリースロウ。
「吹き抜ける風」のスレイはラグナ少年と従兄弟とのことで、パーティともども同行することになった。また、ミネアは父親がかつて紅白餅の研究をして爆発事故を起こしたため、その事故の原因究明のためについてくることに。
この世界のお餅は、爆発するらしい。意味不明だけど。スキルや魔力が変に作用したのかも? なんて考えたりもしたが、たかがお餅で死者が出るほどの爆発が起こるなんて、信じられない。
フェイルクラウトが同行するのは、ストル王子から派遣されたからというのもあるが、危険物(?)である紅白餅で何か起こった場合に対処できるようにという意味もあるそうだ。
「人数多いなあ。転移門ってこんなに一気に通れるものなの?」
私の疑問に答えてくれたのはフェイルクラウトだ。
「問題ない。転移門は荷物がなければ一度に二十人まで通れる。今回は十一人だからな。荷物も持っていけるだろう」
どうやら転移門には重量制限があるようだ。その制限内で門に入る大きさであるなら、かなり大きな荷物でも持ち込めるらしい。便利だなあ。とはいえ、今回はせいぜい一泊程度の予定なので、荷物もほとんどないのだが。
転移門は、ストル王子の協力により、今回は王宮内にあるものを使用できることになった。
急ぐこともないので、私たちはのんびり話をしながら王宮へと向かう。
「通常なら、王宮の転移門を使用できるのは王族、もしくは王族が許可を出した高位貴族だけだからな」
王子も使用許可を出す理由をこじつけるのに苦労していた、とフェイルクラウトが苦笑しながら教えてくれた。
それでも自分が依頼したことでもあるし、私が農園を長いこと留守にするのを好まないのも知っているから、一番近い転移門を用意してくれたのだとか。
ちなみに表向きの理由は、ロウス皇国の皇子からの招待を受け、勇者フェイルクラウトを使者として派遣する、ということになっているようだ。私たちは、庶民目線の意見を出すために同行する、国民代表なのだとか。まあ妥当だね!
転移門は王宮の敷地内ではあるが、お城からはやや離れた位置にあった。
何となく高い塔を想像していたのだが、普通の平屋の一戸建てだ。しかも、ぼろっちい気がする。元は白かったはずの壁は汚れてくすんだ灰色になり、屋根はトタンのようなもので、しかも一部剥がれている。風に揺られてバタバタとうるさい。ドアや窓枠の茶色い塗装も所々剥げていた。
「……本当にここ?」
思わず疑いの目でフェイルクラウトを見てしまったのも、仕方がないことだ。
だって、王宮施設の中でも最重要に位置するはずの転移門だよ? しかも見張りの兵士もいないし。意味わからんわ。
「そんな目で見ないでくれるか」
困ったようにため息をつくフェイルクラウト。
周りを見れば、私以外のみんなも疑うような目を彼に向けていた。まあ、そりゃそうだよね。
でも――と、もう一度私はぼろ小屋に目をやる。
何となく違和感があるんだよねえ。なんかこう、見ていると気持ち悪いというか。
「母上、これは幻覚ですよ」
「幻覚?」
「はい、かなり高度な幻覚魔法を三重にかけてあります」
少年姿のグリーが肩をすくめていう。
チート級の能力を持つ私もダマすなんて、ずいぶんと高度な魔法だなあ。
「さすがに魔王はダマせないか。その通り、これは幻覚魔法だ。国でもトップクラスの魔法使いが二十人がかりで、五年の歳月をかけて結んだ幻覚魔法なんだがな」
「所詮人間のすることだ。魔王たる我を欺けるはずがない」
愚かだな、と氷よりも冷たい視線で射抜き、フェイルクラウトを金縛りにしてしまうグリー。うん、やめてあげて。勇者の顔色真っ青よ?
ともあれ、良かった。とりあえず自分がダマされていて。これで幻覚魔法が全く効いていなかったら、化け物扱いは必至だからね。さすがの私も魔王と同列に扱われたらへこむよねえ。
「と、とにかく」
ごほん、と空咳をすると、フェイルクラウトは懐から赤い小さなビー玉のようなものがついたネックレスを出し、皆に渡す。
「それを首からかけていれば、転移門を通れる。グリー殿も持っておいてくれ。これは通行許可証も兼ねているので、幻覚魔法が効かなくても所持しておく必要があるのだ」
「……わかった」
渋々、といった様子でグリーが頷く。彼は装飾品の類はあまり好まないのだ。少年姿のグリーってすごく可愛いし、本当は色々飾ってみたいんだけどね。
ともあれ、こうして私たちは大したトラブルもなく無事転移門を通過して、ロウス皇国へと入国。リオール皇子の寄こした迎えの多人数用飛龍に乗って、農園を出発して半日と少しで目的のメーティル地方へと足を踏み入れたのだった。
◆ ◆ ◆
「らっしゃい」
『小料理屋さくら』と書かれた薄桃色の暖簾をくぐると、懐かしい日本語が聞こえてきた。つい、きょろきょろとなんちゃって和風の店内を見回してしまう。
ここは最近正式にオープンしたのだという、リオール皇子自慢の小料理屋。
メーティル地方最大の都市である港町コニッシュに到着して、真っ先にここへ来たのは、もちろんそれが皇子の指示だからである。この店で、リオールと合流するらしい。
店内はこぢんまりとしていて、落ち着いた雰囲気だ。ちらほらと客の姿が見える。どうやら遅めのランチを楽しんでいるらしい。
「えっと、リオールの紹介で来たんだけど」
一人だけいた、給仕らしきお兄さんに声をかけてみる。
するとお兄さんは「承っております」と頷き、奥の席へ案内してくれた。
「どうぞこちらへ」
二十歳くらいの赤毛のお兄さんは、美形というわけではないが優しく親しみやすい顔立ちで、爽やかな笑顔に好感が持てる。
「なんだか独特の雰囲気ね」
「本当ね~不思議なものがたくさんあるわ~」
アリスの言葉にマナカも頷き、そこかしこに飾ってある折り紙で作られた花々や、竹で編まれたバスケットなどをしげしげと見つめている。
よく見ると、この折り紙は和紙でできている。どうやって和紙を作ったのかな?
案内された席は小上がりのようになっていて、座布団が置かれていた。席は掘りごたつ形式で、座ると足を下に伸ばせる。
勇者もグリーも例外なく皆が店内を物珍しげに見渡している中、私はつい一点を凝視してしまった。
「リン、どうしたの?」
アリスに肩を叩かれるまで、自分でも驚くくらいそれに集中していた。
いや、でも日本人ならきっと私の気持ちをわかってくれるのではないかと思う。
私の視線の先にあったのは、「梅」。いわゆる梅干しである。
気がつけば異世界にいた私。ご飯のお供として最高である梅干しを、もう何年も食べていない。お米が大好きな私はもちろん、なめ茸も鮭も海苔も昆布も大好物だが、やはり梅干しは欠かせない。
もう四年も、今挙げたご飯のお供に会えていない。ついでにカレーも食べたい。牛丼も。
ああ、日本で食べたものが本当に恋しい。おでんもいいし、鍋料理はどれも最高だ。夏は冷やし中華かそうめんか。ウナギのかば焼きもいいなあ。
「リン? リーン。帰っておいでー」
ゆさゆさとアリスに揺さぶられるが、日本の食べ物への思いが止まらない私は、シュパッと手を挙げて給仕を呼ぶと、何が作れるのか確認していく。
うん、本当はリオールが来てからとか思ってたけど、無理。だって目の前に渇望していた日本の料理があるんだよ? 食べたいよね? これ以上お預けとかあり得ない。拷問か!
というわけで給仕に色々尋ねてみると、さらに驚くべきことが発覚した。
「……お好み焼き? え、ほんとに?」
「はい。イタチョーが、あの……」
と、カウンターのところに置いてある梅干しの瓶を指さす。
「ピクルスに並々ならぬ興味を持った方がいれば、必ずこのメニューをご案内するように、と言っておりまして」
それがお好み焼き、カレー、牛丼らしい。……日本人であれば食いつかずにはいられない選択肢である。どれも逃せない。
というわけで、全部注文することにしたのだった。
◆ ◆ ◆
リオールが到着しても黙々と料理を食べ続けていた私。
「くっ……何で食べているだけなのに、こんなに鬼気迫る感じなんだ? 全然声をかける隙がないじゃないか」
なんだかぶつぶつ呟いているリオールは華麗にスルー。今の私はそれどころではないのですよ。
結論として、ここのイタチョーはたいそう腕がいいということがわかった。どの料理も美味しく、懐かしい味わいなのだ。
リオールは私が食べ終わったのを見るや、イタチョーを呼び出してくれる。
見れば、私以外は皆すでに食べ終わっていて、全員の視線を独り占めしていた。なんか待たせて悪かったなと思っていると、アリスたちから妖しい視線が。
「無表情で食べるリンも素敵……」
「可愛いですね~お持ち帰りしたいですねえ~」
「ククク、萌え、か」
「シオン、怖いからやめろ。だが確かにいい」
「ああ、グッジョブ、リン」
順にアリス、マナカ、シオン、スレイ、ラティスである。
いっぺん地の底に埋めてみたら、彼らのこの変な病も治るかも、なんてチラっと考えた私は悪くない。断じて悪くないですとも。
初めてこの症状を目の当たりにしたリオールとヴェゼルがドン引きしているから、その辺にしておこうよ。
ともあれ、ぺんぺんぺん、と頬を叩き、皆を正気(?)に戻すことに成功した私は、改めてイタチョーに自己紹介をした。
「初めまして、私はリン。日本人ですよ」
どう考えても同郷の人間であろうイタチョーに思い切って言ってみると、イタチョーは目を見張った。
「は、ははははははは」
そこまで爆笑することはないんじゃないかな、とちょっぴり傷つく。
が、そんな私の心境などお構いなしに笑い続けるイタチョー。
「日本人、日本人だって! 小さいのに、なかなかいい味出してんな嬢ちゃん。改めて、俺は桜川寅之助。寅と呼んでくれや」
短く刈った黒髪に黒い瞳。黒いもさもさの髭。体格がよく、手はがっちりしている。
「俺は料理人だ。よろしくな」
「あ、うん。私は……リン。よろしく」
日本にいた頃の本名を言おうかと少し迷ったが、結局、改めて今の名前を伝えるだけにした。
この姿になって四年。パソコンでゲームを始めた頃から数えると十年が経っているのだ。すでに日本人としての名前はその用途を失って久しい。もう「リン」という名前になじみまくっているため、今さら他の名前を呼ばれても違和感が凄まじいのだ。
いきなり噴き出したかと思うと、豪快に笑い始めた料理人の寅さん。歳の頃は五十前後といったところか。陽気な人なのかと思いきや、その瞳には翳りが見える。
「ああ。改めてよろしくな、リン」
こうして私は、寅之助ことイタチョーと出会ったのだった。
2 イタチョーの苦悩
イタチョーは笑いながらも、私が元日本人だということにひどく衝撃を受けているようだった。
というか、私の言葉に同行者たちも目を見開いて驚いている。
さすがに日本と聞いてすぐに異世界の国だとは思わないだろうけど、そもそもどこの国から来たのかすら、皆には言ったことがないもんね。それをいきなり出会ったばかりの人物に暴露したんだから驚くよねえ。
ともあれ、同郷の人間だということがわかって安堵の表情を浮かべたイタチョー。
当然というか、彼も日本人だった。しかも元の住所は私が暮らしていた場所と近かった。ぶっちゃけ自転車で行けるくらいの距離である。
いまだ混乱中だけど、それでもイタチョーには色々話したいことがあるようだ。
そもそも、梅干しをカウンターに置いているのも、梅干しに食いついた人間に日本の料理を提供するのも、日本人を探すためだという。海外でも和食は広がっているから、梅干しさえ知っているなら同じ地球から来た可能性が高いと踏んだのだとか。
だが、ここにきて地球人――しかも日本人に出会ったのは私が初めてらしい。異世界から来た人間、というのは案外いないようだ。まあ、そりゃそうか。そんなにごろごろいたら驚くわな。
そんなことを話しているうちに店は徐々に混み始め、イタチョーは調理に忙しくなって、話をするどころではなくなってきた。
まあ、話も聞きたいけど、とにかく今は久しぶりの日本の食事をゆっくり楽しみたい。
リオールに、まだ食べるのかと呆れるような目で見られたが、もちろんだよ?
そんな私の希望もあって、話をしたがるイタチョーをなだめ、夜に宿の一室で改めて場を持つことになった。
そして夜になり、イタチョーの話を聞いたのだが……私は彼に同情を禁じえなかった。
イタチョーの話によると、こうだ。
◆ ◆ ◆
イタチョーこと桜川寅之助、五十二歳。
彼は老舗だが潰れかけの旅館の板長を務めていた。
その日も食材を買いつけ、時間がないからと段ボール箱を三箱持って、よたよたと厨房の裏口へ向かっていた。
そしていったん段ボールを下ろし、汗を拭って一休憩。裏口を開けるとまた段ボールを三つ持ち上げ、よたよたと裏口から入る。
で、中に入ったらなぜか見知った厨房ではなく、この町からほど近いリセリッタという村の入り口の辺りに立っていた。近くには農作業中の村人の姿がある。
イタチョーは激しく動揺した。何が起こったのか、全く見当がつかない。
彼はゲームなどしたこともなく、特別、本を読むタイプでもなかった。だというのに突然異世界に放り出されて、混乱しないわけがない。
しかも、両手で食材の入った段ボールを抱えたままなのだ。そりゃあ何の冗談かとも思う。
明らかに外国人顔の、地球では染めないとあり得ないほどカラフルな髪や目の色の人々。彼らが近づいてきて、警戒心剥き出しで色々尋ねてくるのに、混乱しているイタチョーは全く答えることができなかった。
そのとき彼らの話している言葉は、イタチョーの耳には日本語に聞こえていたのだが、それももちろん気づいていなかった。あとで思い返してみて、わかったのだ。
戸惑っていたイタチョーは、両腕が限界に達したのもあり、段ボールを取り落してしまった。
中身が地面に散らばり、大事な食材を落としたことで焦った彼は、とにかく野菜を拾うことに必死になっていた。
その姿を見て、村人たちは大いに困惑した。
そもそも村人たちがイタチョーを警戒していたのは、彼が大きな箱を三つも抱えていたからだ。
この頃、村の周辺には盗賊が出没していたため、イタチョーは盗品を箱に入れて持ち去ろうとしているのではないかと疑われたのである。
けれど、イタチョーが持っていた箱の中身は、どう見ても食材だった。
ついに村人たちは、ガタイはいいが人のよさそうな彼が必死で野菜を拾っている姿を見て、散らばった食材を拾うのを手伝い始めた。
食材をすべて箱に納めた頃には、村人たちとも何となく笑顔で話し始めたイタチョー。
「ありがとうございます。ところでここはどこなんだろう?」
さて、早く下処理をしてしまわなくては、とイタチョーが辺りを見回して困ったように呟く。
下処理をするにも、ここは見慣れた厨房ではないし、帰り方もさっぱりわからない。
周りには昔見た油絵に描かれていた、外国の片田舎の小さな村、といった風景が広がっている。
彼は真夏の日本にいたはずなのに、ここでは涼しいというより肌寒さを感じる風が吹き渡っていた。食材が暑さで傷む心配がないのだけは救いであるが。
「ここはリセリッタ村じゃよ」
いつの間にかイタチョーの前に立っていたのは、立派な白い髭を蓄えた白髪のご老人。
「ワシはこの村の村長をしておる。グリオニールというのじゃが、お前さんは異国から来なすったのかね? 名前は何と言う?」
「はあ、ぐ、グリ……? 俺は老舗旅館『扇屋』で板長をしている桜川寅之助というのですが」
「さく……とら……?」
それぞれに名前がよく発音できなかった。イタチョーは横文字の名前になじみがなく、グリオニール村長も日本の名前は全く聞いたこともなかったのだ。
「う、ううむ、困ったのう。ワシのことは村長でいいがのう。ところでその『イタチョー』とは何じゃ?」
かろうじて村長が聞き取れて発音できた言葉の意味を聞いてみる。
「ああ、ええと、俺は料理人でして、その仕事上の呼び名というか、役職名というか」
料理人と聞いて、辺りがざわめく。
「静かにせんか、皆。では、そなたのことはイタチョーと呼ばせてもらってもよいかのう」
「え、ええ、まあそれは構いませんが」
呼び名とかどうでもいいから、とにかく帰りたい。それを告げると、村長は重々しく頷いて事情を聞こう、とイタチョーを自宅に招いた。
イタチョーが自分の身に起こったことを包み隠さず……というより、特別話せることもありはしないのだが、とにかくすべて正直に話すと、村長は大きく息を吐いてこう言った。
「うむ、ようわかった。だが、そなたを帰す方法はワシにはわからん」
「わからんですか」
「そうじゃ。そなたのように異界から迷い込んでくる者はたまにおるでな。そういった者らは『来訪者』と呼ばれ、古い文献などにも記載があるし、伝承でも残っておる。だが、『来訪者』が元の世界に戻ったという話はとんと聞かんのう」
「……それは帰れないってことですか」
そんな馬鹿な、とイタチョーの顔から血の気が引く。
五十二歳にもなって、外国にすらほとんど行ったこともないのに、段ボール三つ分の食材だけを持って、見たことも聞いたこともない異世界に突然放り出されてしまったのである。しかも、帰り方はわからないときた。もう、絶望するしかない。
「いやいや、早とちりをするでないぞ。ワシは知らんが、明後日には知っておるやもしれぬお方がこの村に来ることになっておる。そもそも、伝承や文献では最後はどうなったかわかっておらぬ『来訪者』も多いのだ。民間には伝わっておらんでも、あのお方ならご存じかもしれん」
「ほ、本当に?」
藁にも縋る思いのイタチョー。
日本には老いた母親と兄夫婦、それに妻は早くに亡くなってしまったが、彼女によく似た、春先に大学を無事卒業して就職したばかりの愛娘が一人いるのだ。
こんな親類縁者の一人もいない土地で、一生を終えることなどできるはずがない。たとえ時間はかかっても、日本に帰らねばならないのである。
そんなわけで、イタチョーはとりあえずそのお方とやらが村に訪れるのを待つことにした。
ちなみに彼が持っていた食材は、この村に一人だけいる氷魔法の使い手に魔法ですべて凍らせてもらったため、傷む心配はなくなった。
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