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始まり
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「父上は何故公爵では無いのですか?」
それなりに賢く、それなりに剣術も伸びてきた『僕』は、それなりに父に可愛がられていた。
3男と言うスペアですら無い存在だった事から厳しく育てる必要も無いと言うのも気軽に可愛がれた理由だったのだろう。
なので父が珍しく書斎の安楽椅子で酒を飲んでいる時に、家庭教師に社会科の授業で習った際に感じた疑問を『僕』はそのまま父に尋ねたのだ。
キャルバーグ子爵家の入婿である父はキャルバーグ子爵ではあるが、実は前国王の第一王子であり、場合によっては王になってもおかしくは無かった存在なのだとその日の授業で教わったのだ。
授業では『へぇぇぇ!』で終わったのだが、後から別の日の授業で『王の子は公爵となって王家を支えることが多い』とも聞いていたのを思い出したので、何故父が公爵でも、侯爵でも、伯爵ですら無く子爵なのか、疑問に思ったのだ。
だが。
普段ならまだしも、鬱々と深酒をしていた元第一王子へ投げかける質問では無かった。
無言で思いっきり殴り飛ばされた『僕』は本棚に激突し、頭を打って5日ほど寝込んだ。
その間に何故か違う世界で生きた『俺』の生涯を早送りで追体験し、目覚めた時には『僕』と『俺』が融合して『私』になっていた。
そして目覚めた『私』は、父は勉学や剣術に頑張りすぎて側室の息子ながらも正妃の子である第二王子を脅かしかねないと見做され、歴史はあるものの貧しいキャルバーグ子爵家に婿入りさせられたのだと蒼ざめた家庭教師に教えられた。
第一王子として、王になるか王を支える公爵としてそれなりに権力を振るえるものとして育ち、努力してきた父が・・・頑張りすぎたせいでほぼ全てを失う事になったとは皮肉な話だった。
『俺』の歴史やラノベの知識を得た『私』からすると、4歳しか違わぬ正妃の息子を脅かしかねない存在は国を割ると危険視されても不思議はない。
それに思い至れ無かった父も、父に王位継承権1位の弟を脅かす危険に関して助言しなかった側近も、無邪気で愚かだったのだ。
「問題は、私にも王位継承権がある事なんだよなぁ」
父に聞くべきでない諸々を教えてくれた家庭教師が去った後、私は枕に身を預けながら呟いた。
下手に頑張って抜きん出た成績を見せたら父の二の舞いだ。
それどころか、大して注目が集まっていない子爵家令息の自分だったらサクッと暗殺される危険もある。
無能すぎたら将来の展望が閉ざされてしまうが、有能すぎたら危険視される。
中々難しい綱渡りが求められそうだ。
「まあ、それでも折角の異世界転生なんだ。
このスタートからどんなゴールに辿り着けるか、よく考えて計画を練らないとね」
それなりに賢く、それなりに剣術も伸びてきた『僕』は、それなりに父に可愛がられていた。
3男と言うスペアですら無い存在だった事から厳しく育てる必要も無いと言うのも気軽に可愛がれた理由だったのだろう。
なので父が珍しく書斎の安楽椅子で酒を飲んでいる時に、家庭教師に社会科の授業で習った際に感じた疑問を『僕』はそのまま父に尋ねたのだ。
キャルバーグ子爵家の入婿である父はキャルバーグ子爵ではあるが、実は前国王の第一王子であり、場合によっては王になってもおかしくは無かった存在なのだとその日の授業で教わったのだ。
授業では『へぇぇぇ!』で終わったのだが、後から別の日の授業で『王の子は公爵となって王家を支えることが多い』とも聞いていたのを思い出したので、何故父が公爵でも、侯爵でも、伯爵ですら無く子爵なのか、疑問に思ったのだ。
だが。
普段ならまだしも、鬱々と深酒をしていた元第一王子へ投げかける質問では無かった。
無言で思いっきり殴り飛ばされた『僕』は本棚に激突し、頭を打って5日ほど寝込んだ。
その間に何故か違う世界で生きた『俺』の生涯を早送りで追体験し、目覚めた時には『僕』と『俺』が融合して『私』になっていた。
そして目覚めた『私』は、父は勉学や剣術に頑張りすぎて側室の息子ながらも正妃の子である第二王子を脅かしかねないと見做され、歴史はあるものの貧しいキャルバーグ子爵家に婿入りさせられたのだと蒼ざめた家庭教師に教えられた。
第一王子として、王になるか王を支える公爵としてそれなりに権力を振るえるものとして育ち、努力してきた父が・・・頑張りすぎたせいでほぼ全てを失う事になったとは皮肉な話だった。
『俺』の歴史やラノベの知識を得た『私』からすると、4歳しか違わぬ正妃の息子を脅かしかねない存在は国を割ると危険視されても不思議はない。
それに思い至れ無かった父も、父に王位継承権1位の弟を脅かす危険に関して助言しなかった側近も、無邪気で愚かだったのだ。
「問題は、私にも王位継承権がある事なんだよなぁ」
父に聞くべきでない諸々を教えてくれた家庭教師が去った後、私は枕に身を預けながら呟いた。
下手に頑張って抜きん出た成績を見せたら父の二の舞いだ。
それどころか、大して注目が集まっていない子爵家令息の自分だったらサクッと暗殺される危険もある。
無能すぎたら将来の展望が閉ざされてしまうが、有能すぎたら危険視される。
中々難しい綱渡りが求められそうだ。
「まあ、それでも折角の異世界転生なんだ。
このスタートからどんなゴールに辿り着けるか、よく考えて計画を練らないとね」
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