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貴族の生存戦略
しおりを挟む相談したいことがあると兄達に連絡を取り、夕食後に小さめな談話室を確保して兄達と集まった。
寮にはグループで勉強したり何か相談したりする為に幾つかの大きさが違う談話室があり、小さく家具が古い部屋だったらそれ程苦労せずに確保出来るとカルぺウス兄上に聞いて居たので、早速それを利用する事にしたのだ。
「初日はどうだった、デリクバルド?」
夕食に出たデザートの焼き菓子を持ってきたアキウス兄上が聞いてきた。
・・・一人分にしては多い様だが、どうやって余分なお代わりを入手したのだろうか?
後で是非とも聞いておかねば。
「どうも同年度にいるケスバート公爵家次男から敵視されている様な気がするのですが、同年度にいる高位貴族の子息達を押し退けてトップの成績をとっても大丈夫なのでしょうか?
下手に授業に出席して公爵子息を負かしたら目の敵にされて面倒な事になるかもと心配になったので、『戦闘一般』以外はスキップ試験を受けようかと考えているのですが、どう思いますか?」
私が貴族になる可能性はかなり低いので無理に人脈を培おうとする必要はない気がするし、下手に頑張って公爵家に睨まれるのは弊害が大きいだろう。
どうするのが家と自分にとって最適なのか、確認しておきたい。
兄上達が顔を見合わせて眉を顰めた。
「ケスバート公爵家は寄子配下の者が第三王子の暗殺への関与したとして国王に監督責任を問われて叱責され、幾つかの特権を取り上げられたところだからなぁ。
だからこそ馬鹿をしないだろうと思っていたが、反対にデリクバルドを叩く事で権威はまだまだあると示そうとしているのかな?」
アキウス兄上が溜め息を吐きながら言った。
「ケスバート公爵家が第三王子を殺したからこそ、残る王子二人に何かがあったら兄上のどちらかが王位を継ぐなんて事になりかねないのに、そんな馬鹿な事を親が許しますかね?」
次男自身はまだ子供だし、王妃の実家と言う貴族としては突出した権力を持つ家で育った事で肥大した権利意識を持って居ても不思議は無いが、親が侍従経由でそれなりに息子の行動を監視して不味い事をしていたら口を出す可能性が高いと思っていたのだが。
「王妃の我儘に協力して、第一、第二王子達への脅威と言う面で考えると排除する必要もない側室腹の第三王子を暗殺する様な公爵家は、実は想定以上に傲慢で馬鹿かもと言う不安はあるね。
今年はスキップ試験を受けて、戦闘一般でそれとなくその次男とか他の高位貴族の令息達の情報を集める方が無難かも知れない」
アキウス兄上が言った。
「兄上たちはどうしているんです?」
アキウス兄上は肩を竦めた。
「第二王子はどちらかと言うと脳筋系で座学よりも体を使う戦闘系の方が好きで、座学で負けても気にしないし戦闘は負けたらより頑張って切磋琢磨しようって言うタイプなんだ。
王子が笑って認めているのに他の高位貴族の子達が子爵家令息がトップを取るなんて生意気だとか言い出す訳にもいかないだろう?
お陰で私は気楽にやりたい様にやらせてもらっているよ」
羨ましい。
少年マンガ主人公的な第二王子なら、王子同士の内紛とかも起きなさそうでありがたいが。
「カルぺウス兄上は?」
「幸いにも私の学年は有力な高位貴族の子は居なくてね。
数少ない伯爵家も王位継承権持ちにイチャモン付けるようなところは居ないから、こちらも気楽にやっているんだ」
ちょっと申し訳なさそうにカルぺウス兄上が教えてくれた。
「え、なんでですか??」
「王妃が妊娠したと言うニュースが流れた時に、王家に関わりたいと思うような有力貴族は目の色を変えて子作りに励み、子が出来なかった家も早い段階で有能そうな分家の子を養子に迎え入れたんだ。
要は側近もしくは王子妃狙いだね。
後から追いかけての子作りだから兄上の学年の後半と、我々の間の年に大体生まれている。
その後の体力回復の必要性とかのお陰で私の年に生まれた子は高位貴族では殆ど居なかったんだ。
第二王子の誕生にタイミングを合わさなかった様な家は、うっかり王家に目をつけられて側近や王子妃を命じられたくないと数年ほど子作りを控えたし。
だから私の学年は弱小伯爵家と子爵・男爵家の人間しか居ないんだよ。
タイミングの調整に失敗したらしきフェリガン侯爵家は娘を隣国へ留学させているね。
多分あちらで婚姻相手を見つけるのではと言われている」
なるほど。
王家に近づきたい連中は第二王子の年かその翌年に産んでおり、そのベビーラッシュに参加しなかったような連中は用心してもっと間隔を開けたのか。
「そんな風に無理に王家の子作りに合わせようとしたりすると、高位貴族の子作りがおちおち出来なくなってしまいませんか?」
女性が子供を産める年齢なんてそれなりに限られているのだ。
王妃が妊娠するのを待っていて出産適齢期を逃しては目も当てられないだろうに。
「父上の代までは100年近く王家の王位継承が平和だったから高位貴族もそれ程子作りのタイミングに関して神経質になって居なかったんだ。お陰で家での政治関係に関する教育が甘かったせいか、父上と同時期に学院に子供が居た貴族家が軒並み前回の政争に巻き込まれたからね。
油断していて痛い目にあったから神経質になっているんだよ」
アキウス兄上が言った。
なるほど。
確かに学院で同級生だったり一年上の先輩として世話になっていたりしたら、それなりに肩を持って友好的な立場になる事が多いだろう。
父上は有能だったのだ。
そして学生時代の4年の差は大きい。もう直ぐ成人になるしっかりした側室腹の王子と、まだまだ子供で婚約者の実家である公爵家の傀儡にされているんだと言われる若い王子とが有能さを争っていると見られたら、学院内の空気が兄王子優位になっても不思議は無い。
「あれ?
でも、考えてみたら私の学年は本来だったら第三王子が居ましたよね?
高位貴族は公爵家の子が一人しか居ないのは不自然では?」
王子の暗殺なんて想定外なのだから、本来ならば私の学年には第三王子がいたのだ。
第二王子と同じ状況になっても良かった筈。
「側室腹だから側近や婚約者にどうかと言われてはたまらないと基本的に避けたんだよ。
だから対抗馬扱いで敢えて頑張ったケスバート公爵家とその分家しか高位貴族の子は居ないだろう?」
カルぺウス兄上が言った。
「考えてみたら、側室腹の第三王子なんかよりも王妃の実家であるケスバート公爵家の方が重要だと家で教わって育ったから、デリクバルドの事を更に下に見下しているんじゃないかな?」
アキウス兄上が指摘した。
うわぁ。
そうか、第三王子が王位争いに参加しそうだったらそれを叩きのめす為の教育をしてきたから、王位継承権の順位を無視して私の事を敵視し、かつ見下しているのか。
「・・・面倒そうですねぇ」
脳筋タイプが多そうな『戦闘一般』以外での人脈作りは諦めた方が良いかな?
貴族というのは想像以上に色々と気をつけなきゃいけなくて、面倒な存在なんだなぁ。
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