子爵家三男だけど王位継承権持ってます

極楽とんぼ

文字の大きさ
13 / 17

現実的な下心

しおりを挟む
「ジェイって王宮勤めの文官とかその子息達とどの程度顔を合わせてるんだ?」
商業ギルドでの依頼《バイト》へ最初に行ってから数日後の休息日に、私は探索者ギルドへ向かいながらジェイに尋ねた。

ここ数日、商業ギルドでの書類作業手伝いを続けて徐々に信用度を積み立てつつクルト・リブールと少し親しくなってきた。その際の情報交換で彼は領地は持たない法衣貴族である文官の子供だと云う事が判明。

実家にいる時に貴族図鑑は渡されて、一応メジャーな貴族の詳細は暗記する様に言われていたのだが、将来の事を考えて領地持ちや大臣職を実質世襲する高位貴族を優先したのでリブール子爵家は名前程度しか覚えていなかったのだ。

リブール子爵家はそれ程大きくは無いのだがそれなりに王都の伝手もあるらしく、色々と興味深いことも教えてもらった。
ジェイが将来何をしたいかにもよるが、王都で働くつもりならば知り合っておいて損はない相手だろう。

まあ、死んだ事になっている元王子様が王都で暮らすのが『灯台下暗し』になるか、『王家を舐めすぎ』になるかは微妙なところなのだが。

「ほぼ離宮に引き籠もっていたから、側近候補として紹介された相手以外とは会っていないかな。
母上もお茶会とかは最小限の個人的な友人としかしてなかったし、そちらも子供を俺に紹介しようとはしなかったからね」
ジェイが答えた。

父上の母親だった側妃はそれなりに社交界に出ていたし公務もこなしていたが、どうやら我々の父親達の内戦未満な王位継承権争いの余波は現国王の側妃の行動にまで及んでいたらしい。

と云うか、そこまで側妃を警戒するならキープしなければ良かったのに。
確かに王国法の規定として決まった年数の間国王に王子が生まれなければ側妃を迎える決まりがあるが、結局側妃から王子が生まれる前に正妃が二人も王子を産んだのだ。
側妃を実家に返すなり本人の求む再婚先なりを見繕って王宮から出すなりすれば、教育をされずに放置されて下手をすれば王家を恨んだ王子の誕生を避けられたのに。

「お前の親父さん、そこまで徹底して息子の教育を放棄するならそもそも何だって産ませたんだ?
3人目の王子なんて特に必要なかっただろうに」
万が一王家が途絶えるようなやばい何かが起きた場合は、血だけならキャルバーグ子爵家にちゃんと王位継承権があり、魔力もある息子が2人も生まれていたのだ。

虐待もどきな放棄をするなら産ませた意味が分からない。

ジェイが溜め息を吐きながら道を走ってきた馬車を避けた。
「なんかねぇ、母上が言うには俺が王子だって分かった途端に正妃様が自分の息子達が殺される!って大騒ぎをする様になったんだって。
年下だからって安心は出来ない、きっと兄を嵌めて王位を簒奪しようとするって」

兄王子達を嵌めたからと言って正規に王位を継承した場合は簒奪と言うのかは知らんが・・・なんかその言い方だと、父上と現国王との争いって正妃が何か引っ掻き回して敢えて波が立つ様にした結果なのかな?

元々父親は側妃腹だから王位継承権は弟王子の方が高かった筈だけど、有能さ次第では変わるかも知れない程度の違いだったと聞いた。自分が王妃になれないかもと焦った正妃(と外戚の地位が欲しかったケスバート公爵家)が父上側が内戦もどきな行動を取るように嵌めた可能性はあるのかも?

普通に有能さの比較で決めるのだったら側妃腹の王子でも王位につけたが、内戦モドキな簒奪ムーブに近い行動を取られると血の正当性が重視されやすくなる。

まあ、正妃の実家が嫌われすぎててマジで内戦一歩手前まで行ってしまったって話だけど。
先代国王が内戦一歩手前まで国内の緊張状態を放置せざるを得なかった理由の一つが誰が裏で糸を引いているのか調べが中々付かなかったからだと父上は言っていたが、もしかして正妃の実家ケスバート公爵家が糸を引いていたせいで分かりにくかったとか?

真相はそれこそ国王や先代国王しか知らないかもだが・・・もしかしたら、ジェイが生まれた際に過剰反応した正妃を見て、国王も何か思うところがあったのかも。
だがそれだとしても、もう少ししっかりジェイを守って育てろよとは思うけど。

マジで教育だってキャルバーグ子爵家うちより網羅してなかったし、暗殺されそうになるしでちょっと父親としては落第点だぞ。

「ふうん。
・・・まあ、それはさておき。
殆ど誰とも顔を合わせて無いなら、リブール子爵家のクルトと会うか?
家が代々継いでる役職は長男に行くし文官試験に合格しても次男で枠が一杯だから、本人は商業ギルドで働くか大きな商家への婿入りを狙っているらしいぜ。
商業ギルドとか商家入りを狙っているならあいつの知識は教えて貰っても悪く無いと思う」

貴族の子供は男女問わずに王宮で働く際の優先権が与えられている。
だが、流石に無能を王宮で無制限に抱える訳にはいかない。なので各家で二人まで、優秀な順に受け入れると言う暗黙の了解があり、無能すぎる人間を押し込んで王宮に迷惑を掛けた家は枠を永続的に没収される事になる。
だから子供達が有能さレベルを満たしていなかったら贔屓にしている商家の人間を一代限りで入れる事すらあるとの話だ。

三男となると露骨に兄達が無能か武官入りを希望していない限り文官の道は無いので、クルトは民間側の伝手を広げるのに熱心なのだ。

兄達も自分たちの競争相手にならない様に熱心に協力しているらしいし。

流石にジェイが文官として王宮で働くのは危険すぎるだろう。そうなると探索者になるとか辺境伯とかの騎士団に入るとか言うので無い限り、クルトの様なルートが一番現実的かも知れないと思ったのだ。

「う~ん、僕としては探索者の方が夢がありそうだと思っているんだよね。
でもまあ、向いてなかったら商業ギルドもありかもだから、会って親しくしておくのは良いかも?」
ジェイが軽く頷きながら言った。

う~ん、流石ドロドロな王宮育ち。
さらっと下心満載な友人関係を肯定された。

それはさておき。
王子様は探索者の方が夢があって憧れを感じるのかぁ。
俺としては前世の記憶もあって、戦闘も含むフリーターな探索者はよっぽど適性がない限り堅実性に欠けると思う。
だから魔道具師とか錬金術師とか商業ギルドでの出来る職員なんかの方が良い気がするのだが・・・まあ、考えてみたら商業ギルド職員もそれなりに伝手がないと将来性はあまり無いかな?

取り敢えず。
クルトもそれなりに現実的なタイプだし、ジェイと気が合うかもな。
今日は折角ジェイと一緒だから王都の外の依頼を受けようと言う話になっているが、クルトを見かけたら紹介だけでもしておこう。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...