子爵家三男だけど王位継承権持ってます

極楽とんぼ

文字の大きさ
17 / 17
番外編

旅立ち

しおりを挟む
寮にあった私の部屋は既にもう私物の撤収の準備が終わり、元々あった家具しか残っていない。
防具や予備を含めた武器、およびコツコツと買い集めた魔道具作成の道具は色々と教えて貰った老魔道具師から卒業祝いと餞別として貰ったマジックバッグに入っている。
着替えやシーツ・毛布と少量の保存食は自分で何とか作り上げたマジックバッグに入れてある。
卒業間際にギリギリ何とか自力で成功させた袋だが、師匠に貰った物に比べると格段に小さく、重量軽減機能も弱い。それでもないよりはよっぽどマシだし、これでも魔道具師の少ない地方ならばそれなりな値段で売れなくはない。

「お前がもう学院を卒業して独り立ちとはなぁ……。
年月が流れるのは早いねぇ。
最近は歳を感じる様になってきたし、そろそろ俺も領地をアキウスに任せて引退しようかなぁ」
勉強机の前の椅子に座った父上が感慨深げに空になった部屋を見回しながら言った。

「何を言っているんですか。
父上は単に母上と旅行にでも遊びに出たいだけでしょう。
兄上たちがキャルバーグ子爵領の未開発地域へやっと手をつけ始めたところなのに、領地の仕事まで押し付けたら手が回らなくて全部ポシャってしまいますよ」
長兄《アキウス》が卒業した時点で開拓に向けて本格的に人や資材を集め始め、次兄《カルペウス》が卒業したところで魔力を大々的に使った開拓作業を始めたところなのだ。
一応それなりに順調な出だしだと手紙には書いてあるが、先は長い。

父上が引退できるのはそれこそ孫が生まれてからだろう。

「デリクこそ、兄たちを手助けしてあげないんだって?
薄情だな」
父上が揶揄い半分に聞き返す。

「下手に私が参加して開拓した土地を二分にしたら男爵一人の代わりに貧乏準男爵二人になるか、男爵一人と搾取されたと恨みを抱く魔力持ち一人になりますよ。
あまり領地開拓にも貴族家の当主になる事にも然程興味はありませんからね。
取り敢えずは辺境の方に行って素材集めをしながら魔道具作りの腕を上げて、自分の店でも持とうと思っています」

マジックバッグを作った時の達成感は、大きかった。
魔術だって十分ファンタジーなのだが、ある意味あれのほとんどは現代日本の重機や武器などで再現できる効果が多い。

その点、マジックバッグは文字通り魔法《マジック》としか言いようが無いのだ。
袋の中に大量に物が入り、重さも減るなんて、本当に不思議すぎる。
それを自分で作れるのは、面白いし……本当にファンタジーな世界の一員になった様な達成感があった。
ガンガン試行錯誤を重ねて、より大きく、より高機能なマジックバッグを作れる様に腕を磨きたいし、より良い素材を入手する為に辺境で魔物を倒す腕も上げたい。

自分の店を持つのは……ついでだ。
流石に王族だと言うのに、マジックバッグやその他の不思議ファンタジーな魔道具の研究と作成に生涯を費やしたいと馬鹿正直に言うのはちょっと躊躇われる。

「まあ、お前の人生はお前のものだ。
国がやばい事にでもならない限り、自由に生きていってくれ。
……その前に、ちょっと面白いモノを見せてやろう。ついてこい」
父上が立ち上がって扉に向かった。

◆◆◆◆


父上に着いて行ったら、学院図書館の裏に来た。
裏口らしき扉に父上が手を翳すと、魔力認証で鍵が解錠する音が聞こえた。

おやぁ?
「父上って図書委員か何かだったんですか?」
卒業したら登録解除すべきだと思うが。
と言うか、図書委員だとしても図書館へ入る裏口の鍵を開けられるなんて、良いのだろうか?

「いや、ここは一部の王族だけが登録を許される特別な扉だ」
何やら不穏なことを父上が言った。

「えぇ?
それはもう直ぐ実質平民になる子爵家の三男が知る必要の無い知識だと思うんですが」
危険で不要な知識だと思うんだけど!

「いいから、着いて来い」
そう言うと、父上は扉の中に入って行った。

裏口だと思った扉の内側は下へ降りる階段になっており、それを降りると何やら地下道の様な通路に出た。

石で固めてある様な床だが、灯《ライト》を強めてよく見たら土魔術で固めた岩の様だ。
いや、岩盤を土魔術でくり抜いたのか?
それなりに綺麗で、剣も振るえるだけの広さがあるのだが……これってもしかして過去の王族が秘密裏に作った抜け道なのだろうか?

学院から街へ遊びに行くための抜け道?
いや。
気のせいで無ければ、王宮に方へ向かっている気がするのだが。

そんな事を考えながら10分近く歩いたら、今度は上がる階段に出てきた。

これってもしかして、過去に王族が通学に使った通路?
その方が頭に浮かぶ他の可能性よりは無難だが、それでも王宮へ入る直通ルートなんぞ知りたくなかった。

そんな事を考えながら階段を上がったら、父上がそこにあった扉にノックをしてから魔力を通した。
こちらも魔力認証か。
まあ、王宮に入る裏口のようなモノなのだ。
人間のチェックが入らないなら登録認証は必須だろう。

「入れ」
部屋の中から声が聞こえる。

「久しぶりだな、フェルナン。
随分と老けたね」
父上が部屋の中にいた人物に声を掛けた。

フェルナン?!
恐る恐る父上の後に続いて部屋に入ったら、先ほど卒業式で遠くから眺めた国王の顔があった。
マジか~。

慌てて跪いて頭を下げる。

「公式の場では無いのだ、叔父と甥の間で堅苦しくやらんで良いから頭を上げよ。
卒業おめでとう、デリクバルド」
国王陛下が言った。

「有難うございます。
これからも国のために力を尽くして参ります」
まあ、経済を回す一員としてだけどね。

「座れ。
デリクバルドはこの後辺境伯領の方に行くそうだな?」
ソファを示しながら国王陛下が言った。

振り返ったら、既に父上はすわっていた。
国王陛下が居るところで勝手に座るのって不敬なんじゃ無いの??
それとも兄弟だとOK?
政争して負けた兄としてはダメな気がするのだが、壁際に立っている護衛っぽい人は何も言わなかった。

良いんかねぇ?
まあ、意外と父上と国王陛下って仲が悪く無いみたいだけど。

「はい。
辺境で魔物を倒して素材を集め、魔道具作りの腕を上げていきたいと思っています」
やっぱ王都だと素材の入手が大変すぎるんだよね。
と言うか、なんでも手に入るが、どれも高い。

高いから、失敗したら経済的に行き詰まってしまうので失敗するかもしれない新しい技術へ手を出せない。
腕を上げたかったら、素材の原産地に行って自分で獲って来てガンガン失敗しながら作り続ける方が効率的だ。
ほぼ失敗しない範囲でチミチミと腕を磨いていくなんて、退屈だし時間もかかりすぎる。

「学院で学年トップの魔力がありながら、騎士でも魔術師でもなく魔道具師を目指すか!
面白い!」
国王が笑いながら言った。

「婿入りも爵位を継ぐ予定もない、気楽な身ですので。
自力でどこまで自分が選んだ道を極められるか、挑戦したいと思っております」
マジで三男に生まれて良かったと思っている。
次男でもここまで気楽に実家を捨てられなかっただろう。

「ふむ。
まあ、王族でも一人ぐらい気楽に生きる人間が居ても良かろう。
国の危機があった際には民の為に尽くしてくれると期待しておるぞ?」
国王陛下が言った。

「この体に流れる血は代々の王国の民に育まれたもの。
何かの際には命を賭けてでも最善を尽くしましょう」
まあ、辺境にいたら国家の危機ってレベルじゃなくてもスタンピードや戦争で戦う羽目になる可能性は高そうだが、それはしょうがない。

一応は王族なのだ。
力を持つ者として、弱者を守る為に戦う気はある。

「うむ。
ついでに、そこの扉と出口の扉の魔力認証へ登録しておけ。
王宮が内通者によって占領されたなどと言った事態が万が一にでも起きた場合に、王宮を裏切り者から奪回して貰う可能性に備えた裏口だ。
信じておるぞ」

うわぁ……。
重い信頼だな。

なんかこう、卒業式よりも何よりも、大人になった実感が湧いた。
「その様な事態が起きぬ事を祈っておりますが、もしもの時には馳せ参じます」

ま、そんな緊急事態は起きずに俺が魔物に倒されて死ぬ可能性の方が遥かに高いが。


「王宮には王族の魔力で動く、国を守る為の大規模な魔法陣が幾つか隠されている。
だから戦時中などに内通者によって王都が落とされる前に王宮が占領された様な場合に備えて、外にいる王族が王宮の中央部へ直接入れる様に秘密通路があるんだ」
国王陛下との非公式な拝謁の後、陛下がいた部屋の扉に魔力登録して学院の図書館へ戻りながら父上がこの秘密通路について説明してくれた。

「いやでも、これがあったら内乱起こして国王陛下を暗殺し放題なのでは?」
不満を持つ第二王子とかが居たら危険だろうに。

「国家と国王の命を秤にかけて、国王が信頼できると信じた王族にだけ教えて魔力登録させているんだ。
まあ、我々なんかはフェルナンを暗殺して王座を簒奪しようとしても今更貴族が付いてこないからな。
国への想いと簒奪の危険を鑑みて、大丈夫だと判断したんだろう。
第二王子・第三王子なんかであの通路のことを教わらなかった王族はそれなりに居たらしい」
父上が言った。

なるほどねぇ。
第一王子が『不幸な事故』で亡くなり、それを聞いた国王陛下が『ショックで』寝込んでそのまま死んだなんて話にして第二王子が王座に着く危険性はあるが、我々が王座に着くのはそれこそ亡国の危機でも無ければまずあり得ない。

だから、暗殺を危険視する必要性が大分と下がるんだろう。
まあ、最後は国王陛下の人を見る目に掛かってるんだろうけど。

一国の王に命を賭けて信頼されるってそれなりに身が引き締まる思いだ。
とは言え、その信頼に応じなきゃいけない事態なんてまず起きないとは思うけどね。

学院を卒業し、今日から一人の大人として生きる事になる。
中々重い大人への第一歩だったな!


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...