龍は暁に啼く

高嶺 蒼

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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~

小さな娼婦編 第三十一話

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 冒険者ギルドの地下に設置された闘技場は、普段からは想像できないほどの熱気にあふれていた。
 兎に角観客が多いのだ。

 普段のこの場所は、冒険者達の訓練の場であり、時には今回のように昇級の試験などにも使われることはあった。
 だが、ほとんどの場合は観客を招き入れることなどなく、少人数でひっそりと行われる。

 今回は何もかもが異例づくしだった。
 観客を入れての公開試験など、この街にギルドが出来て以来の事だし、昨日冒険者になったばかりのルーキーがAランク認定の試験を受けるなんて事も前代未聞だ。
 更に、そのルーキーの相手をする試験官は、化け物揃いと噂のS級冒険者だという。

 人々は、無謀な挑戦をするルーキーと、滅多に拝むことの出来ないS級冒険者の顔を見るために、続々とこの闘技場へつめかけて来た。

 これはギルド長のマーサが急遽打ち出した宣伝の効果だった。
 彼女はギルドの職員を使い、街の要所要所で噂を流したのだ。冒険者ギルドの地下闘技場で面白い見物がある、と。
 その作戦は見事に当たり、地下闘技場は物見高い人達で溢れている。

 彼女は、そんな観客達全員に雷砂の強さの証明をしてもらうつもりだった。
 S級冒険者に奮闘したルーキーがA級冒険者としての実力を持ち合わせているのだということの証明を。

 もちろん、観客達の中には、冒険者ギルドの石頭な職員達や、街のお偉方の顔もある。
 彼らにもしっかりと雷砂の戦いぶりを見てもらい、誰にも文句を言わせずに、雷砂をA級冒険者へ押し上げるーそれがマーサの目論見だった。

 後は兎に角派手に戦ってもらい、勝てないまでもその奮闘ぶりを見せて貰うだけである。
 マーサは落ち着いた様子で、木剣を選んでいる雷砂にそっと近寄った。


 「さあ、場は整えましたよ、雷砂。自信のほどはどうかしら、雷砂」

 「そうだなぁ。最近は手合わせしてないから何とも言えないけど、まあ、何とかなるだろ」


 戦うのが楽しみで仕方ないとばかりに口元をほころばせ、雷砂は少し離れた場所で己と同じように木剣を物色しているアリオスを見つめた。
 その視線に気づいたのだろう。
 アリオスもまた、楽しそうな笑みを返してきた。
 楽しそうと素直に言うには、少々獰猛すぎる笑みであったが。


 「ららら、雷砂。お願いですから、けっ、怪我だけはしないで下さいね?」

 「大丈夫だよ、ミヤビ。アリオスもオレも、殺し合いをする訳じゃないんだから」


 だから安心して?ーにっこり笑って雷砂はミヤビの肩をぽんと叩く。
 だが、昨日から今日まで雷砂に驚かされっぱなしの彼女は、その笑顔に安心するどころか更に不安になってきたらしい。
 青い顔をして隣に立つアトリの肩にすがる。


 「な、なんだか、緊張しすぎて気分が悪くなってきました・・・・・・」

 「アンタが緊張してどうすんのよ、ミヤビ。大丈夫だって。雷砂はいつだってあたし達の考えの斜め上をいく事ばっかりしてきたけど、怪我だけはしなかったじゃない。今回も、まぁ、何とかなるわよ」

 「そうっ、そうですよね!!きっと大丈夫ですよねっ!?」

 「・・・・・・たぶん」 

 「たぶん、て。たぶんってなんですかぁー!!!お願いですから断言して下さいよぅ。不安で胃が壊れちゃいそうなんですからぁぁ!!」


 ミヤビが叫び、がっくんがっくんとアトリの肩を揺さぶる。
 雷砂は苦笑混じりにそれを見つめ、それから呼吸を整えてアリオスの方を見た。
 彼女の方も準備は出来ているようだ。
 木剣を片手に、まっすぐこちらを見ている。口元に、笑みを張り付けたまま。
 そろそろ、試合開始の時間だった。


 「さ、そろそろ始めるわよ?ミヤビもアトリも、遊ぶのは後にしなさいな」


 ぱんっとマーサが手を叩き、じゃれ合うミヤビとアトリを引き剥がす。
 そして闘技場の中に進み出ると、雷砂とアリオスの顔を交互に見つめた。


 「では、そろそろAランク昇級試験を始めます。ルールは簡単よ。致命的となる攻撃は禁止。お互い節度を守った戦いをお願いね。今回は観客もいるから、観客への被害が出るような攻撃もやめてちょうだい。一応それなりの冒険者を配置してはいるけど、危ないと判断した時点で試験は中止とします。いいかしら?」

 「おう」

 「わかった」


 アリオスと雷砂がそれぞれ頷き、マーサはそれを確認した後、観客達のいる1段下の場所へと戻っていく。
 その途中、雷砂の横を通り過ぎるときに、彼女は一瞬足を止めた。


 「試験は勝ち負けでは決めないつもりよ。だから、くれぐれも無理はしないでちょうだいね?」


 小さな声で雷砂の耳元へそんな言葉を届けると、そのままゆっくりと戦いの場から観覧の場へと降りていった。
 そして、安全圏へ退き、周囲を見回してから、大きな声で試合の開始を宣言したのだった。

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