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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~
小さな娼婦編 第四十三話
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「はい、確かに確認しました。雷砂、よく頑張りましたね。お疲れさまでした」
そう言ってにっこり微笑んでくれたのはミヤビだ。
あの後、それなりに時間をかけて蜘蛛の解体を終えて、冒険者ギルドまで戻ってきたのは、出発した翌日の夕方になってからの事だった。
ギルドの入り口をくぐって中に入った雷砂を見つけたミヤビは、本当に心底ほっとしたような顔をした。
もしかしたら、夜もよく眠れなかったのかもしれない。
その目の下にはうっすらとくまが見えた。
それからしばらくギルド内は騒然とした。
アトリはギルド長であるマーサを呼びに走り、誰かが呼んだ医療班が駆けつけ、ヴェネッサとエメルをかっさらっていった。
雷砂はミヤビに、依頼達成の証拠としての討伐部位の確認をお願いし、その結果がさっきのセリフだ。
問題なしと言われてほっと息をつく。
実際問題、当の蜘蛛は生きていて、雷砂の後ろにぺたりとくっついているのだから、確認してもらっている間もちょっと冷や冷やした。
本人は、雷砂の髪を触ったり、抱きついたり、いたってのんきな様子だが。
アリオスやヴェネッサ達と相談した結果、クゥの事はギルドに明かさない事にした。
人型に擬態する魔物事態が希少だし、いくらクゥは危険な魔物ではないと伝えても、信じて貰えるか微妙なところ。
下手に疑われたり、希少な価値から狙われる恐れを考えるなら、最初から黙っていた方がいい。
4人はそう考え、決断した。
幸い、クゥの擬態は完璧だし、彼女の姿を見て魔物と思うものなどほぼいないといっていいだろう。
クゥは取りあえず、討伐の帰り道で保護した子供、ということで押し通すことにした。
そんなこんなで諸々の報告をすませ、今はミヤビと報酬の受け渡しに関する相談中だ。
マーサは一通りの報告を受けた後、事後処理のために自分の執務室へ帰って行き、アトリは隣の窓口で他の冒険者の応対をしている。
「報酬は、額が額なので明日の朝までに用意する形でも?」
「うん。それでいいよ」
「では明日、依頼の達成報酬と併せて素材の買い取りの対価も支払いますね。それとも、どこか別の場所で売りたいようなら」
「ここで買い取って貰えればありがたいんだけど。頼める?」
「わかりました。明日までに査定は終わらせておきますね。それから、クゥちゃんの事ですが、明日いっぱいはギルドで身柄を預かります」
「身柄を、預かる?」
「といっても、別に何をするわけでもないんですが、念のため、というか。クゥちゃん自身は記憶喪失という事ですが、身内の方が探しているかもしれませんし、一応似顔絵等を作成して近隣に配布する予定です。その準備の為に、クゥちゃんにはギルド内に居てもらう必要があるんです」
「なるほど。わかった。一応、クゥのことはオレが引き取る予定だけど、そこは問題ない?」
「はい。身内が名乗り出ない限りは問題ないはずです。雷砂はA級冒険者ですし、そう言う意味で身元は確かですからね。ただ、これから1年の間は定期的に所在を冒険者ギルドに教えてもらう必要は出てくるかもしれないですけど」
「まあ、そこは何とかするよ。確か、どこの冒険者ギルドでもいいんだよな?」
「ええ。ギルド同士は通信のアイテムで常時連絡を取り合うことが可能ですから」
「そうか。わかった。色々ありがとな、ミヤビ。じゃ、明日また」
そう言って、クゥをつれて踵を返すと、
「わ、ちょっと待って、雷砂。クゥちゃんは置いてってください」
ミヤビの慌てた様な声が追いかけてきた。
そうだったと苦笑を漏らし、雷砂はクゥの頭に手を置いてその顔をのぞき込んだ。
「クゥ。クゥは今日、ここでお泊まりだ」
「雷砂は?」
「オレは、えーと」
クゥがきょとんと首を傾げるので、雷砂はミヤビに目で問いかける。
付き添いは可能なのかどうか。
「えっと、付き添いできますよ?どうします?」
その返事に、雷砂はしばし考え込む。
流石にクゥを一人でここに置いていくのは不安だし、ちょっと可哀想だ。
本当ならセイラの待つ宿に帰ってゆっくり休みたかったが、今回ばかりは仕方がない。
「そうだな。じゃあ、オレが」
「付き添いはアタシがするよ。子守はこのアリ姉に任せて、ライ坊は今日は宿でゆっくり休みな。流石のあんたも疲れてるだろ?」
「や、でも」
「宿のねぇさんも、きっとあんたのことを心配してるよ」
セイラとは、昨夜、依頼に行くと伝えに帰ったきりだ。
アリオスの言うように、きっと心配しながら雷砂の帰りを待っていることだろう。
そう思うといてもたってもいられなくなった。
雷砂は申し訳なさそうにアリオスを見上げ、
「ありがとう、アリオス。頼める?」
「もちろん。任せな」
それから、クゥの頭を撫でて、
「クゥ、今日はアリオスが一緒に居てくれる。明日になったら迎えに来るから、いい子にしてるんだぞ?」
「雷砂、いないの?」
言い聞かせるようにそう言うと、クゥは不安そうな顔で雷砂を見上げた。
そんなクゥをアリオスがひょいと抱き上げる。
「いい子にしてたら、すぐに会えるさ。な、雷砂」
と雷砂にウィンク。
雷砂は微笑み、それに追従する。
「ああ。クゥがいい子なら、すぐにまた会えるよ」
「ほんと?」
「ああ」
「じゃあ、クゥ、いい子にしてる」
「お日様がまた上ったらちゃんと迎えにくる。それまでアリ姉の言うことをよく聞いて大人しくしてるんだぞ?暴れたりしたら、もう会えなくなっちゃうかもしれないからな?」
「ん。大人しくしてる。だから雷砂、早くクゥを迎えに来てね?」
「ああ。また明日な、クゥ。アリオス、クゥを頼むな」
「任せとけって。よーし、クゥ。今日はアリ姉と一緒に寝ような~?」
クゥを上手にあやしながら、アリオスはギルド職員に案内されて奥へ入っていった。
雷砂はそれを見送り、改めてミヤビに向き直ると、
「じゃあ、悪いけど頼むな?ミヤビ。アリオスがいるから平気だとは思うけど」
「はい。今日は私もアトリも泊まり込みの予定ですから、どーんと任せちゃって下さい。雷砂もゆっくり休んで下さいね?」
「うん。ありがとう。じゃあ、今度こそ、また明日な?」
そう言って暇乞いをし、雷砂はギルドを出て行った。
それを見送り、ふうっと一息ついていると、隣の窓口からアトリの慌てたような声。
「ミヤビ、雷砂にアレ、伝えた?」
「アレ??」
「ほら、昼間にミカが兄貴を引きずってすごい勢いで来たじゃない」
「あ~……で、それがなにか?」
ミヤビはきょとんと聞き返す。
その返答にアトリはがっくりと肩を落とした。
「覚えてない、かぁ。じゃ、当然雷砂にも伝わってないわよねぇ」
「何か伝言とかありましたっけ?正直、昼間は雷砂が心配でちょっと上の空だったので……」
てへっと笑って正直に答える。
「ま、そうだよねぇ。伝えられなかったなら仕方ないかぁ。昼間ミカが来た時さぁ、雷砂が戻ったら会いたいって言ってたって必ず伝えて欲しいって、伝言押しつけられたじゃん。それはもうすごい剣幕で。ミヤビもガックンガックン揺さぶられてたのに、まさか覚えてないとは……」
「ゆ、揺さぶられたのは流石に覚えてますよぅ。ただ、話の方はぜんぜん頭に入ってなかっただけで。そっかぁ。伝言、伝え損ねちゃいましたねぇ。どうしましょう?」
「ま、いいんじゃない。明日で。雷砂も疲れてるだろうし。追いかけてまで伝えるほどの事でもないと思うしさ」
「そう、ですね。今日は、ゆっくり休ませてあげたいですもんねぇ」
しみじみとそう言って、ミヤビはさっき雷砂が出て行った方へと何気なく目を向けた。
雷砂がなんて事ない顔で帰ってきたから忘れてしまいそうだが、今日、雷砂は大変な依頼をこなしてきたのだ。
A級の冒険者でもこなせるか分からない難度の依頼を。
それを考えれば、今晩くらいは何事にも煩わされることなく、のんびり過ごす権利はあるはずだ。
もし、この事でミカが怒ったら、そのときは潔く自分が怒られよう……そんなことを考えながら一人頷き、ミヤビは柔らかい微笑みを浮かべる。
(おやすみなさい、雷砂。ゆっくり、良い夢を)
心の中で、黄金色の髪の小さな冒険者にそっと話しかけながら。
そう言ってにっこり微笑んでくれたのはミヤビだ。
あの後、それなりに時間をかけて蜘蛛の解体を終えて、冒険者ギルドまで戻ってきたのは、出発した翌日の夕方になってからの事だった。
ギルドの入り口をくぐって中に入った雷砂を見つけたミヤビは、本当に心底ほっとしたような顔をした。
もしかしたら、夜もよく眠れなかったのかもしれない。
その目の下にはうっすらとくまが見えた。
それからしばらくギルド内は騒然とした。
アトリはギルド長であるマーサを呼びに走り、誰かが呼んだ医療班が駆けつけ、ヴェネッサとエメルをかっさらっていった。
雷砂はミヤビに、依頼達成の証拠としての討伐部位の確認をお願いし、その結果がさっきのセリフだ。
問題なしと言われてほっと息をつく。
実際問題、当の蜘蛛は生きていて、雷砂の後ろにぺたりとくっついているのだから、確認してもらっている間もちょっと冷や冷やした。
本人は、雷砂の髪を触ったり、抱きついたり、いたってのんきな様子だが。
アリオスやヴェネッサ達と相談した結果、クゥの事はギルドに明かさない事にした。
人型に擬態する魔物事態が希少だし、いくらクゥは危険な魔物ではないと伝えても、信じて貰えるか微妙なところ。
下手に疑われたり、希少な価値から狙われる恐れを考えるなら、最初から黙っていた方がいい。
4人はそう考え、決断した。
幸い、クゥの擬態は完璧だし、彼女の姿を見て魔物と思うものなどほぼいないといっていいだろう。
クゥは取りあえず、討伐の帰り道で保護した子供、ということで押し通すことにした。
そんなこんなで諸々の報告をすませ、今はミヤビと報酬の受け渡しに関する相談中だ。
マーサは一通りの報告を受けた後、事後処理のために自分の執務室へ帰って行き、アトリは隣の窓口で他の冒険者の応対をしている。
「報酬は、額が額なので明日の朝までに用意する形でも?」
「うん。それでいいよ」
「では明日、依頼の達成報酬と併せて素材の買い取りの対価も支払いますね。それとも、どこか別の場所で売りたいようなら」
「ここで買い取って貰えればありがたいんだけど。頼める?」
「わかりました。明日までに査定は終わらせておきますね。それから、クゥちゃんの事ですが、明日いっぱいはギルドで身柄を預かります」
「身柄を、預かる?」
「といっても、別に何をするわけでもないんですが、念のため、というか。クゥちゃん自身は記憶喪失という事ですが、身内の方が探しているかもしれませんし、一応似顔絵等を作成して近隣に配布する予定です。その準備の為に、クゥちゃんにはギルド内に居てもらう必要があるんです」
「なるほど。わかった。一応、クゥのことはオレが引き取る予定だけど、そこは問題ない?」
「はい。身内が名乗り出ない限りは問題ないはずです。雷砂はA級冒険者ですし、そう言う意味で身元は確かですからね。ただ、これから1年の間は定期的に所在を冒険者ギルドに教えてもらう必要は出てくるかもしれないですけど」
「まあ、そこは何とかするよ。確か、どこの冒険者ギルドでもいいんだよな?」
「ええ。ギルド同士は通信のアイテムで常時連絡を取り合うことが可能ですから」
「そうか。わかった。色々ありがとな、ミヤビ。じゃ、明日また」
そう言って、クゥをつれて踵を返すと、
「わ、ちょっと待って、雷砂。クゥちゃんは置いてってください」
ミヤビの慌てた様な声が追いかけてきた。
そうだったと苦笑を漏らし、雷砂はクゥの頭に手を置いてその顔をのぞき込んだ。
「クゥ。クゥは今日、ここでお泊まりだ」
「雷砂は?」
「オレは、えーと」
クゥがきょとんと首を傾げるので、雷砂はミヤビに目で問いかける。
付き添いは可能なのかどうか。
「えっと、付き添いできますよ?どうします?」
その返事に、雷砂はしばし考え込む。
流石にクゥを一人でここに置いていくのは不安だし、ちょっと可哀想だ。
本当ならセイラの待つ宿に帰ってゆっくり休みたかったが、今回ばかりは仕方がない。
「そうだな。じゃあ、オレが」
「付き添いはアタシがするよ。子守はこのアリ姉に任せて、ライ坊は今日は宿でゆっくり休みな。流石のあんたも疲れてるだろ?」
「や、でも」
「宿のねぇさんも、きっとあんたのことを心配してるよ」
セイラとは、昨夜、依頼に行くと伝えに帰ったきりだ。
アリオスの言うように、きっと心配しながら雷砂の帰りを待っていることだろう。
そう思うといてもたってもいられなくなった。
雷砂は申し訳なさそうにアリオスを見上げ、
「ありがとう、アリオス。頼める?」
「もちろん。任せな」
それから、クゥの頭を撫でて、
「クゥ、今日はアリオスが一緒に居てくれる。明日になったら迎えに来るから、いい子にしてるんだぞ?」
「雷砂、いないの?」
言い聞かせるようにそう言うと、クゥは不安そうな顔で雷砂を見上げた。
そんなクゥをアリオスがひょいと抱き上げる。
「いい子にしてたら、すぐに会えるさ。な、雷砂」
と雷砂にウィンク。
雷砂は微笑み、それに追従する。
「ああ。クゥがいい子なら、すぐにまた会えるよ」
「ほんと?」
「ああ」
「じゃあ、クゥ、いい子にしてる」
「お日様がまた上ったらちゃんと迎えにくる。それまでアリ姉の言うことをよく聞いて大人しくしてるんだぞ?暴れたりしたら、もう会えなくなっちゃうかもしれないからな?」
「ん。大人しくしてる。だから雷砂、早くクゥを迎えに来てね?」
「ああ。また明日な、クゥ。アリオス、クゥを頼むな」
「任せとけって。よーし、クゥ。今日はアリ姉と一緒に寝ような~?」
クゥを上手にあやしながら、アリオスはギルド職員に案内されて奥へ入っていった。
雷砂はそれを見送り、改めてミヤビに向き直ると、
「じゃあ、悪いけど頼むな?ミヤビ。アリオスがいるから平気だとは思うけど」
「はい。今日は私もアトリも泊まり込みの予定ですから、どーんと任せちゃって下さい。雷砂もゆっくり休んで下さいね?」
「うん。ありがとう。じゃあ、今度こそ、また明日な?」
そう言って暇乞いをし、雷砂はギルドを出て行った。
それを見送り、ふうっと一息ついていると、隣の窓口からアトリの慌てたような声。
「ミヤビ、雷砂にアレ、伝えた?」
「アレ??」
「ほら、昼間にミカが兄貴を引きずってすごい勢いで来たじゃない」
「あ~……で、それがなにか?」
ミヤビはきょとんと聞き返す。
その返答にアトリはがっくりと肩を落とした。
「覚えてない、かぁ。じゃ、当然雷砂にも伝わってないわよねぇ」
「何か伝言とかありましたっけ?正直、昼間は雷砂が心配でちょっと上の空だったので……」
てへっと笑って正直に答える。
「ま、そうだよねぇ。伝えられなかったなら仕方ないかぁ。昼間ミカが来た時さぁ、雷砂が戻ったら会いたいって言ってたって必ず伝えて欲しいって、伝言押しつけられたじゃん。それはもうすごい剣幕で。ミヤビもガックンガックン揺さぶられてたのに、まさか覚えてないとは……」
「ゆ、揺さぶられたのは流石に覚えてますよぅ。ただ、話の方はぜんぜん頭に入ってなかっただけで。そっかぁ。伝言、伝え損ねちゃいましたねぇ。どうしましょう?」
「ま、いいんじゃない。明日で。雷砂も疲れてるだろうし。追いかけてまで伝えるほどの事でもないと思うしさ」
「そう、ですね。今日は、ゆっくり休ませてあげたいですもんねぇ」
しみじみとそう言って、ミヤビはさっき雷砂が出て行った方へと何気なく目を向けた。
雷砂がなんて事ない顔で帰ってきたから忘れてしまいそうだが、今日、雷砂は大変な依頼をこなしてきたのだ。
A級の冒険者でもこなせるか分からない難度の依頼を。
それを考えれば、今晩くらいは何事にも煩わされることなく、のんびり過ごす権利はあるはずだ。
もし、この事でミカが怒ったら、そのときは潔く自分が怒られよう……そんなことを考えながら一人頷き、ミヤビは柔らかい微笑みを浮かべる。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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