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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~
小さな娼婦編 第四十八話
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クゥとセイラの対面が無事に済み、ほっと一息ついた後、二人を部屋に残して雷砂はアリオスを探しに出た。
昨夜、クゥの面倒を引き受けてくれた礼を、一言伝えようと思ったのだ。
それに、今回は色々と世話になったから、その件に関してもきちんと何かお礼をしないとと考えていた。
ただ、なにをすればアリオスが喜ぶか分からないので、まずはそれを聞き出す必要はありそうだが。
アリオスを探してギルドの一般フロアに行くと、受付業務が一段落して暇そうにしていたアトリが、アリオスの居場所を教えてくれた。
どうやら、クゥと同様に昨晩は冒険者ギルドに留め置かれた二人の冒険者、ヴェネッサとエメルのいる部屋に顔を出しに行っているらしい。
アトリが案内してくれるというので、素直にその後ろについて行く。
アトリが手を伸ばしてきたので素直に手を握ると、ふさふさの尻尾が嬉しそうに揺れた。
三人がいるはずの部屋の前に立ち、いざ入ろうとした時、中から驚愕した叫び声が響いてきた。
「な、なんですって!?」
そんなヴェネッサの声になにがあったんだろうと小首を傾げながら、アトリに促されるまま、扉の隙間から中をのぞき込んでみる。
狭い隙間から見える空間に見えるのは三人。
アリオスはニヤニヤ笑い、エメルは気の毒そうにヴェネッサを見上げ、ヴェネッサは青ざめた顔でアリオスを見ていた。
「ほ、本当ですの?まさか、そんな……」
ヴェネッサは両手で口元を覆い、震える声で再度問う。
「ああ、本当さ。確かめれば分かることで、嘘をついてもしかたないだろ?」
ニヤニヤ笑いをおさめて、アリオスが神妙に答える。
が、唇の端がピクピクしているところを見ると、どうやら笑うのを我慢しているらしい。
「ああっ!!そんなっ……今度こそ運命だと思いましたのに」
あんまりですわ、と崩れ落ちるヴェネッサ。
どうやら泣いているらしいのを見て、流石にやりすぎだと眉を寄せる。
アリオスはからかっているだけのつもりなのだろうが、泣かせるのは良くない。
そんな事を思いながら中をうかがっていると、
「運命……なるほどねぇ。ここまでひっぱってから伝えるとは、アリオスさんも人が悪いわ……」
アトリが苦笑混じりにつぶやくのが聞こえた。
何のこと?と首を傾げると、
「うちのギルドの人間のほとんどが知ってる事だけど、ヴェネッサって極度の美少年好きでね……」
ここまで言えば分かるでしょ?とアトリが雷砂を見つめる。
が、どうやら雷砂はまるでピンと来てないらしい。
「んん?」
腕を組んで首を傾げる様子は可愛らしいが、鈍いにも程がある。
アトリは半眼で雷砂をじっと見た。
「だからね?美少年だと思って惚れた相手が美少女だって落ちを、今はじめて知っちゃったのよ、多分」
「ああ、なるほど」
めんどくさくなってぶっちゃけたアトリの言葉に、雷砂は軽く頷く。
「それは、悲劇だな」
と気の毒そうに扉の向こうのヴェネッサを見た。
そんな雷砂の鈍すぎる反応に、こりゃダメだとアトリは生温かい眼差しを注いだ。
その視線を向けられる意味は分からないものの、何となく居心地が悪くなった雷砂は、ヴェネッサを気の毒だという思いに任せて部屋の中に踏み込んだ。
こりゃ、面白くなったぞというアリオスの視線に迎えられ、しくしくと泣いているヴェネッサの元へと真っ直ぐに向かう。それが最悪の選択肢だと気付かないまま。
彼女の傍らに膝を付き、慰めるようにその頭をそっと撫でる。
ヴェネッサが涙に濡れた顔を上げると、雷砂は眼差しに同情を込めて彼女の瞳をのぞき込んだ。
潤んだ瞳が雷砂を認め、縋るように見つめる。
「雷砂、嘘ですわよね?」
「ん?なにが??」
「アリオスが言うんですのよ」
「うん、なんて?」
「雷砂は女だなんて。雷砂はこんなに凛々しい美少年ぶりなのに、女なんてこと……」
無いですわよね?と言外に問うヴェネッサ。
だが、真実は無情だった。
「ああ、よく間違えられるんだよな」
「顔立ちが綺麗ですものね。女の子に間違えられるのも無理は無いですわ」
「や、そうじゃなくて、男に」
「へ??」
「だから、よく男に間違えられるんだよ」
「お、おとこに間違えられる?と、いうことは……?」
「オレは女、だよ。一応」
その答えがヴェネッサにとってどれだけ残酷な事実かを知らない雷砂は、悪気なくさらりと答える。
「はうっ……」
結果、あまりのショックに意識が遠のき、倒れかけたヴェネッサを慌てて抱き留めた。
「ヴェネッサ!?大丈夫??」
声をかけながら頬を軽くぺちぺちと叩けば、ヴェネッサがうっすらと目を開ける。
彼女はすぐ間近に雷砂の顔を認めてかすかに頬を染めた後、そっと自分の手の平を雷砂の胸に押し当てた。
ぺったんこと言うしかない、雷砂の胸部に。
「ない、ですわね?」
「ん?そうだね」
「ということは、やはりあなたは男……?」
「いや、だから、女だって。おっぱいがないのは、ただの個性」
「信じられませんわ!!」
ヴェネッサはくわっと目を見開き、なにを考えたのかその場に雷砂を押し倒した。
「えーと、ヴェネッサ?」
「信じられません。この目でしかと、確かめるまでは」
言いながら、ヴェネッサは頬をリンゴのように紅く染めて、雷砂の服をめくり上げる。
「ちょ、ま……こら、アリオス。そこで笑ってみてないで止めてよ!?」
「いやぁ。アタシも気になるなぁ。ライ坊がほんとに女の子かどうか」
慌てたような声を上げる雷砂に、ニヤニヤ笑いながらアリオスが返す。
「オレが女かどうかなんて、アリオスはとっくに知ってるだろ!?ちょ、ヴェネッサ、あんまり触らないで……んっ」
むき出しにされた胸を手の平でなで回されて、雷砂は押し殺したような声を漏らす。
その様子を、いつの間にか近くまで来ていたアトリが頬を染めて見つめ、エメルはゴクリと唾を飲み込んだ。
アリオスは、ヴェネッサの肩越しに雷砂の胸をまじまじと見つめ、
「お?ちょっとだけ膨らんできたのか?でも、アタシがお前の年頃にはもうちょい膨らんでたけどなぁ?」
自分の胸をふにふにと触りながら首を傾げる。
そんなアリオスを潤んだ瞳で軽くにらみ、
「普通の人より発育のいいアリオスと一緒にしないでよ!!オレは人よりちょっと遅いだけ……っんう。ちょ、ちょっと、ヴェネッサ!?」
アリオスに文句を言っていると、雷砂の胸を一心不乱に確認していたヴェネッサがいつの間にか次の段階に進んでいた。
彼女の指先がもてあそぶのは、雷砂の胸からつんと飛び出した敏感な部分。
その部分を興味深そうに指でつまんだり、さすったり。
触られている雷砂はたまったものではない。
甘い声をなんとか押し殺し、ヴェネッサの肩を掴んで押しやろうとするも、手加減しているせいで中々思うようにいかず、焦るばかり。
「ここはちょっと女の子っぽい気がしますけど、判断しかねますわ。殿方の胸をしっかり見た事なんてありませんし。となると……」
「んんっ……」
きゅっと雷砂の可愛らしい蕾を摘んで、ヴェネッサは雷砂の顔を熱に浮かされたような眼差しで見つめ、
「あちらを確かめるしか、ありませんわね」
言いながら、つうっと指先を下の方へと移動させた。
胸の集中攻撃から解放され、惚けたような顔をした雷砂は少し油断していた。
これ以上の事は流石にされないだろう、と。
しかし、暴走したヴェネッサは止まるところを知らなかった。
ズボンの縁に手をかけられてはっとした雷砂が制止の手を伸ばすより早く、雷砂の腕を誰かが後ろから拘束した。
「ちょっと!!なにするんだよ、アリオス!!」
背中に押し当てられた爆乳から相手がアリオスだと推測し、雷砂が叫ぶ。
「いやぁ。やっぱり疑問の答えはきっちり見ておかないと、な?」
背後から聞こえたのは笑いを堪えるような声だ。
絶対に面白がってるなと思いつつも、相手を怪我させないように気遣うせいで、やはりうまくふりほどけない。
そうこうしている内に、抵抗むなしく下着ごとズボンはずり下げられ、雷砂はせめてもの抵抗とばかりにぎゅっと足を閉じた。
「ない、ですわね」
「なにが!?」
「なにがって、ナニですわ」
「うう~。だから、あるわけ無いだろ?オレは女なんだから」
だから早く解放してくれと訴える。
自分から服を脱いでみせるのなら大して恥ずかしくないのに、無理やりこうやって服を剥ぎ取られて観察されるのは、何とも恥ずかしくてたまらなかった。
恥じらうように頬を染める雷砂を、ヴェネッサは半眼で見つめた。
「足を閉じてたら分かりませんわ」
「はぁ!?」
「だって、挟んでるかもしれないでしょう?」
挟むってナニをだよ!?と内心悲鳴を上げつつ、雷砂は助けを求めて周囲を見回した。
アトリは興味津々に雷砂の裸身を見つめて顔を赤らめている。
雷砂の救いを求める視線になど、気づきもしない。
エメルは、耳をふさいでしゃがみこんでいた。
ごめんにゃ、アタシは悪くないにゃ、と繰り返しながら。
残念ながらこっちも役に立ちそうもない。
こうなれば意地でも開くものかと、頑なに足を閉ざしていると、業を煮やしたヴェネッサが、
「もう、これじゃあ埒があきませんわ!!アリオス、やっておしまいなさい、ですわ」
そんなとんでもないことを言い出した。
「ったく、世話が焼けるねぇ。でも、ま、面白そうだからいいか」
そんな声に続いて、雷砂の耳にぬちゅりと濡れた何かが差し込まれた。
「ふぅっ!?んぁんっ」
それがアリオスの舌だと気が付いたときにはもう、全身から力が抜けてしまっていた。
その隙を、逃すヴェネッサではない。
「今、ですわっっ!!!」
無駄な気合いを入れ、力の抜けた雷砂の両足を押し開く。
そしてヴェネッサは、そこに桃源郷を見た。
そこには無駄で無粋なシンボルの陰すらなく、清らかな泉の奥からとろりと透明な蜜が溢れこぼれる。
そして、それを目の当たりにしたヴェネッサの鼻からも、とろ~っと何かがこぼれ落ちた。
透明ではなく、真っ赤な液体が。
桃源郷越しに見える、恥ずかしそうにこちらをにらむ雷砂の表情が、何ともたまらなかった。
頭に血が上りすぎ、くらくらしたヴェネッサがぱたりと床に倒れる。
雷砂を解放したアリオスは、鼻血にまみれた彼女の顔を見て腹を抱えて笑い、雷砂は赤い顔のままむっつりと、無理矢理はぎ取られた服を身につけた。
倒れたまま、ヴェネッサがぼんやりと雷砂を見上げる。
雷砂は目の縁を赤くして、それからぷいっと顔を背けると、
「言えば普通に見せたのに……ヴェネッサのバカ……」
そう言い置いて部屋を出ていってしまった。
ヴェネッサその後ろ姿を見送りながら、
「お、女の子でも、良いかもしれません……やっぱり、運命かもしれませんわ……」
熱に浮かされたようにそんなことを呟いたそうな。
そんな彼女を見て、アリオスは呼吸困難になりそうなほど笑い、エメルは心底呆れたような顔をし、それから諦めたように盛大なため息をついた。
アトリは、ヴェネッサと大差ないほど顔を真っ赤にし、
「やばい。開いちゃいけない扉を開いちゃったかも……」
と独り言のように呟き、顔を両手で覆ったという。
当の雷砂はといえば、とぼとぼとセイラとクゥのいる部屋へ戻り、セイラの膝をクゥから取り戻して抱きついたまま、しばらく落ち込んでいた。
事情を聞いたセイラが烈火の如く怒り、ヴェネッサを筆頭として現場にいた面々は平身低頭して謝って何とか許して貰えたが、その後しばらくの間、雷砂がヴェネッサの半径数メートル圏内に近づく事はなく、自ら近づこうとしては逃げられ、しょんぼりするヴェネッサの姿がよく見かけられた。
そんな中、エメルはちゃっかり雷砂と仲良くなり、後々文を交わす友人関係を築くようになるのだが、それはもう少し後の話である。
昨夜、クゥの面倒を引き受けてくれた礼を、一言伝えようと思ったのだ。
それに、今回は色々と世話になったから、その件に関してもきちんと何かお礼をしないとと考えていた。
ただ、なにをすればアリオスが喜ぶか分からないので、まずはそれを聞き出す必要はありそうだが。
アリオスを探してギルドの一般フロアに行くと、受付業務が一段落して暇そうにしていたアトリが、アリオスの居場所を教えてくれた。
どうやら、クゥと同様に昨晩は冒険者ギルドに留め置かれた二人の冒険者、ヴェネッサとエメルのいる部屋に顔を出しに行っているらしい。
アトリが案内してくれるというので、素直にその後ろについて行く。
アトリが手を伸ばしてきたので素直に手を握ると、ふさふさの尻尾が嬉しそうに揺れた。
三人がいるはずの部屋の前に立ち、いざ入ろうとした時、中から驚愕した叫び声が響いてきた。
「な、なんですって!?」
そんなヴェネッサの声になにがあったんだろうと小首を傾げながら、アトリに促されるまま、扉の隙間から中をのぞき込んでみる。
狭い隙間から見える空間に見えるのは三人。
アリオスはニヤニヤ笑い、エメルは気の毒そうにヴェネッサを見上げ、ヴェネッサは青ざめた顔でアリオスを見ていた。
「ほ、本当ですの?まさか、そんな……」
ヴェネッサは両手で口元を覆い、震える声で再度問う。
「ああ、本当さ。確かめれば分かることで、嘘をついてもしかたないだろ?」
ニヤニヤ笑いをおさめて、アリオスが神妙に答える。
が、唇の端がピクピクしているところを見ると、どうやら笑うのを我慢しているらしい。
「ああっ!!そんなっ……今度こそ運命だと思いましたのに」
あんまりですわ、と崩れ落ちるヴェネッサ。
どうやら泣いているらしいのを見て、流石にやりすぎだと眉を寄せる。
アリオスはからかっているだけのつもりなのだろうが、泣かせるのは良くない。
そんな事を思いながら中をうかがっていると、
「運命……なるほどねぇ。ここまでひっぱってから伝えるとは、アリオスさんも人が悪いわ……」
アトリが苦笑混じりにつぶやくのが聞こえた。
何のこと?と首を傾げると、
「うちのギルドの人間のほとんどが知ってる事だけど、ヴェネッサって極度の美少年好きでね……」
ここまで言えば分かるでしょ?とアトリが雷砂を見つめる。
が、どうやら雷砂はまるでピンと来てないらしい。
「んん?」
腕を組んで首を傾げる様子は可愛らしいが、鈍いにも程がある。
アトリは半眼で雷砂をじっと見た。
「だからね?美少年だと思って惚れた相手が美少女だって落ちを、今はじめて知っちゃったのよ、多分」
「ああ、なるほど」
めんどくさくなってぶっちゃけたアトリの言葉に、雷砂は軽く頷く。
「それは、悲劇だな」
と気の毒そうに扉の向こうのヴェネッサを見た。
そんな雷砂の鈍すぎる反応に、こりゃダメだとアトリは生温かい眼差しを注いだ。
その視線を向けられる意味は分からないものの、何となく居心地が悪くなった雷砂は、ヴェネッサを気の毒だという思いに任せて部屋の中に踏み込んだ。
こりゃ、面白くなったぞというアリオスの視線に迎えられ、しくしくと泣いているヴェネッサの元へと真っ直ぐに向かう。それが最悪の選択肢だと気付かないまま。
彼女の傍らに膝を付き、慰めるようにその頭をそっと撫でる。
ヴェネッサが涙に濡れた顔を上げると、雷砂は眼差しに同情を込めて彼女の瞳をのぞき込んだ。
潤んだ瞳が雷砂を認め、縋るように見つめる。
「雷砂、嘘ですわよね?」
「ん?なにが??」
「アリオスが言うんですのよ」
「うん、なんて?」
「雷砂は女だなんて。雷砂はこんなに凛々しい美少年ぶりなのに、女なんてこと……」
無いですわよね?と言外に問うヴェネッサ。
だが、真実は無情だった。
「ああ、よく間違えられるんだよな」
「顔立ちが綺麗ですものね。女の子に間違えられるのも無理は無いですわ」
「や、そうじゃなくて、男に」
「へ??」
「だから、よく男に間違えられるんだよ」
「お、おとこに間違えられる?と、いうことは……?」
「オレは女、だよ。一応」
その答えがヴェネッサにとってどれだけ残酷な事実かを知らない雷砂は、悪気なくさらりと答える。
「はうっ……」
結果、あまりのショックに意識が遠のき、倒れかけたヴェネッサを慌てて抱き留めた。
「ヴェネッサ!?大丈夫??」
声をかけながら頬を軽くぺちぺちと叩けば、ヴェネッサがうっすらと目を開ける。
彼女はすぐ間近に雷砂の顔を認めてかすかに頬を染めた後、そっと自分の手の平を雷砂の胸に押し当てた。
ぺったんこと言うしかない、雷砂の胸部に。
「ない、ですわね?」
「ん?そうだね」
「ということは、やはりあなたは男……?」
「いや、だから、女だって。おっぱいがないのは、ただの個性」
「信じられませんわ!!」
ヴェネッサはくわっと目を見開き、なにを考えたのかその場に雷砂を押し倒した。
「えーと、ヴェネッサ?」
「信じられません。この目でしかと、確かめるまでは」
言いながら、ヴェネッサは頬をリンゴのように紅く染めて、雷砂の服をめくり上げる。
「ちょ、ま……こら、アリオス。そこで笑ってみてないで止めてよ!?」
「いやぁ。アタシも気になるなぁ。ライ坊がほんとに女の子かどうか」
慌てたような声を上げる雷砂に、ニヤニヤ笑いながらアリオスが返す。
「オレが女かどうかなんて、アリオスはとっくに知ってるだろ!?ちょ、ヴェネッサ、あんまり触らないで……んっ」
むき出しにされた胸を手の平でなで回されて、雷砂は押し殺したような声を漏らす。
その様子を、いつの間にか近くまで来ていたアトリが頬を染めて見つめ、エメルはゴクリと唾を飲み込んだ。
アリオスは、ヴェネッサの肩越しに雷砂の胸をまじまじと見つめ、
「お?ちょっとだけ膨らんできたのか?でも、アタシがお前の年頃にはもうちょい膨らんでたけどなぁ?」
自分の胸をふにふにと触りながら首を傾げる。
そんなアリオスを潤んだ瞳で軽くにらみ、
「普通の人より発育のいいアリオスと一緒にしないでよ!!オレは人よりちょっと遅いだけ……っんう。ちょ、ちょっと、ヴェネッサ!?」
アリオスに文句を言っていると、雷砂の胸を一心不乱に確認していたヴェネッサがいつの間にか次の段階に進んでいた。
彼女の指先がもてあそぶのは、雷砂の胸からつんと飛び出した敏感な部分。
その部分を興味深そうに指でつまんだり、さすったり。
触られている雷砂はたまったものではない。
甘い声をなんとか押し殺し、ヴェネッサの肩を掴んで押しやろうとするも、手加減しているせいで中々思うようにいかず、焦るばかり。
「ここはちょっと女の子っぽい気がしますけど、判断しかねますわ。殿方の胸をしっかり見た事なんてありませんし。となると……」
「んんっ……」
きゅっと雷砂の可愛らしい蕾を摘んで、ヴェネッサは雷砂の顔を熱に浮かされたような眼差しで見つめ、
「あちらを確かめるしか、ありませんわね」
言いながら、つうっと指先を下の方へと移動させた。
胸の集中攻撃から解放され、惚けたような顔をした雷砂は少し油断していた。
これ以上の事は流石にされないだろう、と。
しかし、暴走したヴェネッサは止まるところを知らなかった。
ズボンの縁に手をかけられてはっとした雷砂が制止の手を伸ばすより早く、雷砂の腕を誰かが後ろから拘束した。
「ちょっと!!なにするんだよ、アリオス!!」
背中に押し当てられた爆乳から相手がアリオスだと推測し、雷砂が叫ぶ。
「いやぁ。やっぱり疑問の答えはきっちり見ておかないと、な?」
背後から聞こえたのは笑いを堪えるような声だ。
絶対に面白がってるなと思いつつも、相手を怪我させないように気遣うせいで、やはりうまくふりほどけない。
そうこうしている内に、抵抗むなしく下着ごとズボンはずり下げられ、雷砂はせめてもの抵抗とばかりにぎゅっと足を閉じた。
「ない、ですわね」
「なにが!?」
「なにがって、ナニですわ」
「うう~。だから、あるわけ無いだろ?オレは女なんだから」
だから早く解放してくれと訴える。
自分から服を脱いでみせるのなら大して恥ずかしくないのに、無理やりこうやって服を剥ぎ取られて観察されるのは、何とも恥ずかしくてたまらなかった。
恥じらうように頬を染める雷砂を、ヴェネッサは半眼で見つめた。
「足を閉じてたら分かりませんわ」
「はぁ!?」
「だって、挟んでるかもしれないでしょう?」
挟むってナニをだよ!?と内心悲鳴を上げつつ、雷砂は助けを求めて周囲を見回した。
アトリは興味津々に雷砂の裸身を見つめて顔を赤らめている。
雷砂の救いを求める視線になど、気づきもしない。
エメルは、耳をふさいでしゃがみこんでいた。
ごめんにゃ、アタシは悪くないにゃ、と繰り返しながら。
残念ながらこっちも役に立ちそうもない。
こうなれば意地でも開くものかと、頑なに足を閉ざしていると、業を煮やしたヴェネッサが、
「もう、これじゃあ埒があきませんわ!!アリオス、やっておしまいなさい、ですわ」
そんなとんでもないことを言い出した。
「ったく、世話が焼けるねぇ。でも、ま、面白そうだからいいか」
そんな声に続いて、雷砂の耳にぬちゅりと濡れた何かが差し込まれた。
「ふぅっ!?んぁんっ」
それがアリオスの舌だと気が付いたときにはもう、全身から力が抜けてしまっていた。
その隙を、逃すヴェネッサではない。
「今、ですわっっ!!!」
無駄な気合いを入れ、力の抜けた雷砂の両足を押し開く。
そしてヴェネッサは、そこに桃源郷を見た。
そこには無駄で無粋なシンボルの陰すらなく、清らかな泉の奥からとろりと透明な蜜が溢れこぼれる。
そして、それを目の当たりにしたヴェネッサの鼻からも、とろ~っと何かがこぼれ落ちた。
透明ではなく、真っ赤な液体が。
桃源郷越しに見える、恥ずかしそうにこちらをにらむ雷砂の表情が、何ともたまらなかった。
頭に血が上りすぎ、くらくらしたヴェネッサがぱたりと床に倒れる。
雷砂を解放したアリオスは、鼻血にまみれた彼女の顔を見て腹を抱えて笑い、雷砂は赤い顔のままむっつりと、無理矢理はぎ取られた服を身につけた。
倒れたまま、ヴェネッサがぼんやりと雷砂を見上げる。
雷砂は目の縁を赤くして、それからぷいっと顔を背けると、
「言えば普通に見せたのに……ヴェネッサのバカ……」
そう言い置いて部屋を出ていってしまった。
ヴェネッサその後ろ姿を見送りながら、
「お、女の子でも、良いかもしれません……やっぱり、運命かもしれませんわ……」
熱に浮かされたようにそんなことを呟いたそうな。
そんな彼女を見て、アリオスは呼吸困難になりそうなほど笑い、エメルは心底呆れたような顔をし、それから諦めたように盛大なため息をついた。
アトリは、ヴェネッサと大差ないほど顔を真っ赤にし、
「やばい。開いちゃいけない扉を開いちゃったかも……」
と独り言のように呟き、顔を両手で覆ったという。
当の雷砂はといえば、とぼとぼとセイラとクゥのいる部屋へ戻り、セイラの膝をクゥから取り戻して抱きついたまま、しばらく落ち込んでいた。
事情を聞いたセイラが烈火の如く怒り、ヴェネッサを筆頭として現場にいた面々は平身低頭して謝って何とか許して貰えたが、その後しばらくの間、雷砂がヴェネッサの半径数メートル圏内に近づく事はなく、自ら近づこうとしては逃げられ、しょんぼりするヴェネッサの姿がよく見かけられた。
そんな中、エメルはちゃっかり雷砂と仲良くなり、後々文を交わす友人関係を築くようになるのだが、それはもう少し後の話である。
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だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
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