龍は暁に啼く

高嶺 蒼

文字の大きさ
54 / 248
第一部 幸せな日々、そして旅立ち

第六章 第五話

しおりを挟む
 「……おさまったか?」

 「ああ、うん。すまなかった。もう大丈夫だ」


 やっと笑いを収めたアジェスは、苦虫を噛み潰したような顔をしている仲間に向かって軽く謝罪し、それから改めて目の前の小さなお客さんを見た。


 「君も、いきなりすまなかった。ジェドの様子があまりに可愛いすぎて、どうにも止まらなかった。突っ張ってるくせに、時々妙に素直で可愛いやつなんだ、こいつは。えーと、確か、ちょっと変わった名前だったな、君は」

 「うん。オレは……」

 「ちょっと待て。思い出す。セイラから散々聞かされたからな」


 自己紹介しようとする雷砂を制止して、彼はしばし黙考する。
 考える事数十秒、やっと思いついたのか、ぽんと手をたたき、

 「ライタ、だったか」

 と自信ありげに雷砂を見た。

 「惜しい。オレは雷砂。呼びにくかったらライで構わないよ。よろしくな、アジェス」

 にこっと笑って、背の高い青年を見上げた。

 「雷砂か。少し変わってるがいい名だな。こちらこそ、よろしく頼む」

 アジェスも笑って答えた。


 「ジェドから聞いたが、剣舞いに興味があるうそうだな?」

 「うん。剣舞いというか、剣術の型に興味がある。アジェスがやっていたのって、剣技の応用でしょ?」

 「ん?まあ、確かに。舞いというよりは型に近いかな。楽曲に乗せて動くから舞いに見えるだけで。良くわかるな」

 「オレも剣を使うからね。といっても完全に自己流に近いけど」

 「自己流、か。ちょっと動いてみないか?」


 そう言って、ジェドは持っていた二本の曲刀の片方を雷砂に差し出した。
 物おじせずにそれを受け取って軽く振るう。


 「ふうん。見た目より重くないんだな。刃はつぶしてあるんだね」

 「重くないとはいっても、君の体格からすれば結構な重さだとは思うがな。練習用の刀の刃は怪我をしない様につぶしてあるんだ。本番用はもっと装飾過多で刃もつぶしてない」

 「へえ、そうなんだ。曲刀を握るのは初めてだから、ちょっとやりにくいけど、ま、いいや。どんな風に動けばいいの?」

 「好きなように、と言いたいが、それは少し難しいだろうから、どうだろう。私と手合せしてみないか?」

 「手合せ、か」


 呟き、その案を吟味するように少し考える。
 だが、それにあまり時間はかからなかった。
 少し手加減すればいいかと、アジェスが聞いたら憤慨しそうなことを考えながら頷く。


 「いいよ。やってみよう。そっちからどうぞ」

 「よし。じゃあ、遠慮なく……」


 立ち合いは唐突に始まった。
 予告も無くいきなり動き出したアジェスに、ジェドは慌てて舞台の端による。


 「あぶねぇよ、アジェス」

 「はは。すまん」


 そんな抗議の言葉を笑って流して、アジェスは振り上げた剣を雷砂に向かって遠慮なく振り下ろした。
 もちろん、対処できないようであれば寸止めをするつもりで。

 だが、向かってきた曲刀を雷砂は危なげなく捌いて、その動きのまま流れる様にジェドの足元を狙ってきた。
 その鋭い動きに、ジェドは内心目を見開く。
 しかし、そんな内心は少しも窺わせずに、最小限の動きで攻撃を避けると、再び攻撃を仕掛ける。
 今度は、最初の手より本気を出してみたが、これも軽々とはじかれた。
 アジェスの口元に、楽しそうな笑みが浮かぶ。


 「すごいな、君は」

 「あなたもね、アジェス」


 雷砂も笑う。
 だが、そうして言葉を交わす間も攻撃の手は緩めない。
 胸の辺りを凪ぐように仕掛けてきた攻撃を腰を落としてかわし、そのついでに足払いを仕掛けるが、危なげなく後ろにステップして交わす青年。
 手加減をしているとはいえ、それなりのスピードで仕掛ける攻撃を危なげなく交わす青年に、雷砂は素直な賞賛の想いを覚えた。
 雷砂の笑みが深まり、自然と手数が増え、動きが速くなる。

 (すごいな。まだ全力じゃないのか)

 アジェスは内心冷や汗をかきながら、雷砂の攻撃をかわしていた。
 まだ幼い少女の動きは、時間がたつとともに鋭さを増していく。
 普通であれば、不釣り合いな大きさの獲物に振り回され、そろそろ疲れを見せてもいい頃だが、そんな気配はまるでなかった。

 「あと三合打ち合って、最後は派手に終わらせよう」

 弾む息を気取られない様に気をつけながら提案すると、

 「いいよ。そうしよう」

 雷砂も同意する。
 2人は息を合わせて、一合、二合と打ち合い、最後の一打。
 アジェスは大きく上段に振りかぶって、思い切り雷砂の頭に向かって振り下ろした。
 手加減は無しだ。
 雷砂であればよけられる事を、もうわかっていたから。

 雷砂は冷静に最後の一打を見極めていた。
 一歩下がって攻撃を避け、振り下ろされた刀の背に足をかけて鍔元までバランスよく駆け上がると、そのまま刀を蹴って高く飛び上がる。
 あっけにとられて見守る大人たちの目の前で、空中でくるりと一回転。
 そしてアジェスの後ろに見事な着地を決めた。

 シーンと静まり返る人々。しかし、それも一瞬の事だ。すぐに沈黙は拍手と歓声にかわった。
 さすがに弾んだ息を整え、アジェスに曲刀を返す。
 彼はまじまじと雷砂を見て、

 「本当にすごいな。とてもあんな風に動ける様には見えないのに」

 感心したように、少しだけ不思議そうにそう言った。

 「あなたもすごかったよ、アジェス。強いんだね。オレの養い親もかなりのものだけど、あなたも負けてない」

 雷砂も心からの賞賛を伝え、微笑んだ。
 と、その瞬間、結構な力で背中を叩かれ、目を白黒させる。
 見上げると、いつの間に駆け寄ってきたのか、ジェドが傍らにいて、いたく感動したように雷砂の小さな背中をバシバシと叩いていた。


 「すっげぇなぁ、雷砂。こんなちっこい体してんのにアジェスと対等にやりあうなんて」

 「対等?まさか」


 ジェドの言葉にアジェスが返す。

「なんだよ、アジェス。雷砂が子供だから手加減したとかいいてぇのかよ」

 それを聞いて、ジェドはむっとしたように黒髪の刀剣師に詰め寄った。
 アジェスは、彼の誤解に苦笑する。


 「まさか。そうじゃない。手加減されたのは私の方だよ。雷砂はまだ本気じゃなかった」

 「うぇっ!?まじかよ……って、そうか。雷砂はあの黒いバケモンを一人で倒したんだから、アジェスより強いのも当然か」

 「その通り。雷砂、今ので何割くらいの力なんだ?」

 「おう、そうだな!何割くらいでやってたんだ?」


 揃って問われ、雷砂は困ったように笑う。
 まさか、半分も力を出してないとは言いにくい。
 どう答えたものかと考えていると、横合いからすごい勢いで柔らかな圧迫感に包まれた。

 「セイラ?」

 見なくてもわかる。この心地いい香りは彼女のものだ。
 頭をしっかり抱え込まれて固定されている為、目線だけで彼女の顔を見上げる。が、彼女の顔が見える訳もなく、

 「セイラ、どうしたの?」

 柔らかく問いかける。
 少し離れた所で、ジェドが羨ましそうにこっちを見ていた。
 不可抗力なんだけどなーそんな風に思いながら、雷砂は何とかセイラの顔を窺おうと少しづつ向きをかえてみる。
 見事なまでに谷間に埋もれた頭は、幸いそれ程の苦労はなく動いて、何とかセイラの方へ向きを変えられた。

 彼女のくびれた腰に腕を回し、きゅっと抱き返す。
 まだ顔は柔らかな二つの塊に挟まれたままだが、それでも顔を上げると今度はセイラの顔が見えた。
 目と目が合うと、彼女は柔らかく微笑んでくれた。

 「すごくかっこよかったわ、雷砂。舞台上の、誰よりも」

 感動しちゃった、と誇らしそうに告げられて、何となく照れくさくなった雷砂は再びセイラの胸に顔をうずめた。
 背後から、ジェドの呻くような声が聞こえてくるが気にせずに、しばらくセイラのしたい様に抱きしめられたままでいた。
 それが、何とも心地よかったから。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日ごろに発売となります。 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...