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第一部 幸せな日々、そして旅立ち
第六章 第五話
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「……おさまったか?」
「ああ、うん。すまなかった。もう大丈夫だ」
やっと笑いを収めたアジェスは、苦虫を噛み潰したような顔をしている仲間に向かって軽く謝罪し、それから改めて目の前の小さなお客さんを見た。
「君も、いきなりすまなかった。ジェドの様子があまりに可愛いすぎて、どうにも止まらなかった。突っ張ってるくせに、時々妙に素直で可愛いやつなんだ、こいつは。えーと、確か、ちょっと変わった名前だったな、君は」
「うん。オレは……」
「ちょっと待て。思い出す。セイラから散々聞かされたからな」
自己紹介しようとする雷砂を制止して、彼はしばし黙考する。
考える事数十秒、やっと思いついたのか、ぽんと手をたたき、
「ライタ、だったか」
と自信ありげに雷砂を見た。
「惜しい。オレは雷砂。呼びにくかったらライで構わないよ。よろしくな、アジェス」
にこっと笑って、背の高い青年を見上げた。
「雷砂か。少し変わってるがいい名だな。こちらこそ、よろしく頼む」
アジェスも笑って答えた。
「ジェドから聞いたが、剣舞いに興味があるうそうだな?」
「うん。剣舞いというか、剣術の型に興味がある。アジェスがやっていたのって、剣技の応用でしょ?」
「ん?まあ、確かに。舞いというよりは型に近いかな。楽曲に乗せて動くから舞いに見えるだけで。良くわかるな」
「オレも剣を使うからね。といっても完全に自己流に近いけど」
「自己流、か。ちょっと動いてみないか?」
そう言って、ジェドは持っていた二本の曲刀の片方を雷砂に差し出した。
物おじせずにそれを受け取って軽く振るう。
「ふうん。見た目より重くないんだな。刃はつぶしてあるんだね」
「重くないとはいっても、君の体格からすれば結構な重さだとは思うがな。練習用の刀の刃は怪我をしない様につぶしてあるんだ。本番用はもっと装飾過多で刃もつぶしてない」
「へえ、そうなんだ。曲刀を握るのは初めてだから、ちょっとやりにくいけど、ま、いいや。どんな風に動けばいいの?」
「好きなように、と言いたいが、それは少し難しいだろうから、どうだろう。私と手合せしてみないか?」
「手合せ、か」
呟き、その案を吟味するように少し考える。
だが、それにあまり時間はかからなかった。
少し手加減すればいいかと、アジェスが聞いたら憤慨しそうなことを考えながら頷く。
「いいよ。やってみよう。そっちからどうぞ」
「よし。じゃあ、遠慮なく……」
立ち合いは唐突に始まった。
予告も無くいきなり動き出したアジェスに、ジェドは慌てて舞台の端による。
「あぶねぇよ、アジェス」
「はは。すまん」
そんな抗議の言葉を笑って流して、アジェスは振り上げた剣を雷砂に向かって遠慮なく振り下ろした。
もちろん、対処できないようであれば寸止めをするつもりで。
だが、向かってきた曲刀を雷砂は危なげなく捌いて、その動きのまま流れる様にジェドの足元を狙ってきた。
その鋭い動きに、ジェドは内心目を見開く。
しかし、そんな内心は少しも窺わせずに、最小限の動きで攻撃を避けると、再び攻撃を仕掛ける。
今度は、最初の手より本気を出してみたが、これも軽々とはじかれた。
アジェスの口元に、楽しそうな笑みが浮かぶ。
「すごいな、君は」
「あなたもね、アジェス」
雷砂も笑う。
だが、そうして言葉を交わす間も攻撃の手は緩めない。
胸の辺りを凪ぐように仕掛けてきた攻撃を腰を落としてかわし、そのついでに足払いを仕掛けるが、危なげなく後ろにステップして交わす青年。
手加減をしているとはいえ、それなりのスピードで仕掛ける攻撃を危なげなく交わす青年に、雷砂は素直な賞賛の想いを覚えた。
雷砂の笑みが深まり、自然と手数が増え、動きが速くなる。
(すごいな。まだ全力じゃないのか)
アジェスは内心冷や汗をかきながら、雷砂の攻撃をかわしていた。
まだ幼い少女の動きは、時間がたつとともに鋭さを増していく。
普通であれば、不釣り合いな大きさの獲物に振り回され、そろそろ疲れを見せてもいい頃だが、そんな気配はまるでなかった。
「あと三合打ち合って、最後は派手に終わらせよう」
弾む息を気取られない様に気をつけながら提案すると、
「いいよ。そうしよう」
雷砂も同意する。
2人は息を合わせて、一合、二合と打ち合い、最後の一打。
アジェスは大きく上段に振りかぶって、思い切り雷砂の頭に向かって振り下ろした。
手加減は無しだ。
雷砂であればよけられる事を、もうわかっていたから。
雷砂は冷静に最後の一打を見極めていた。
一歩下がって攻撃を避け、振り下ろされた刀の背に足をかけて鍔元までバランスよく駆け上がると、そのまま刀を蹴って高く飛び上がる。
あっけにとられて見守る大人たちの目の前で、空中でくるりと一回転。
そしてアジェスの後ろに見事な着地を決めた。
シーンと静まり返る人々。しかし、それも一瞬の事だ。すぐに沈黙は拍手と歓声にかわった。
さすがに弾んだ息を整え、アジェスに曲刀を返す。
彼はまじまじと雷砂を見て、
「本当にすごいな。とてもあんな風に動ける様には見えないのに」
感心したように、少しだけ不思議そうにそう言った。
「あなたもすごかったよ、アジェス。強いんだね。オレの養い親もかなりのものだけど、あなたも負けてない」
雷砂も心からの賞賛を伝え、微笑んだ。
と、その瞬間、結構な力で背中を叩かれ、目を白黒させる。
見上げると、いつの間に駆け寄ってきたのか、ジェドが傍らにいて、いたく感動したように雷砂の小さな背中をバシバシと叩いていた。
「すっげぇなぁ、雷砂。こんなちっこい体してんのにアジェスと対等にやりあうなんて」
「対等?まさか」
ジェドの言葉にアジェスが返す。
「なんだよ、アジェス。雷砂が子供だから手加減したとかいいてぇのかよ」
それを聞いて、ジェドはむっとしたように黒髪の刀剣師に詰め寄った。
アジェスは、彼の誤解に苦笑する。
「まさか。そうじゃない。手加減されたのは私の方だよ。雷砂はまだ本気じゃなかった」
「うぇっ!?まじかよ……って、そうか。雷砂はあの黒いバケモンを一人で倒したんだから、アジェスより強いのも当然か」
「その通り。雷砂、今ので何割くらいの力なんだ?」
「おう、そうだな!何割くらいでやってたんだ?」
揃って問われ、雷砂は困ったように笑う。
まさか、半分も力を出してないとは言いにくい。
どう答えたものかと考えていると、横合いからすごい勢いで柔らかな圧迫感に包まれた。
「セイラ?」
見なくてもわかる。この心地いい香りは彼女のものだ。
頭をしっかり抱え込まれて固定されている為、目線だけで彼女の顔を見上げる。が、彼女の顔が見える訳もなく、
「セイラ、どうしたの?」
柔らかく問いかける。
少し離れた所で、ジェドが羨ましそうにこっちを見ていた。
不可抗力なんだけどなーそんな風に思いながら、雷砂は何とかセイラの顔を窺おうと少しづつ向きをかえてみる。
見事なまでに谷間に埋もれた頭は、幸いそれ程の苦労はなく動いて、何とかセイラの方へ向きを変えられた。
彼女のくびれた腰に腕を回し、きゅっと抱き返す。
まだ顔は柔らかな二つの塊に挟まれたままだが、それでも顔を上げると今度はセイラの顔が見えた。
目と目が合うと、彼女は柔らかく微笑んでくれた。
「すごくかっこよかったわ、雷砂。舞台上の、誰よりも」
感動しちゃった、と誇らしそうに告げられて、何となく照れくさくなった雷砂は再びセイラの胸に顔をうずめた。
背後から、ジェドの呻くような声が聞こえてくるが気にせずに、しばらくセイラのしたい様に抱きしめられたままでいた。
それが、何とも心地よかったから。
「ああ、うん。すまなかった。もう大丈夫だ」
やっと笑いを収めたアジェスは、苦虫を噛み潰したような顔をしている仲間に向かって軽く謝罪し、それから改めて目の前の小さなお客さんを見た。
「君も、いきなりすまなかった。ジェドの様子があまりに可愛いすぎて、どうにも止まらなかった。突っ張ってるくせに、時々妙に素直で可愛いやつなんだ、こいつは。えーと、確か、ちょっと変わった名前だったな、君は」
「うん。オレは……」
「ちょっと待て。思い出す。セイラから散々聞かされたからな」
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考える事数十秒、やっと思いついたのか、ぽんと手をたたき、
「ライタ、だったか」
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「惜しい。オレは雷砂。呼びにくかったらライで構わないよ。よろしくな、アジェス」
にこっと笑って、背の高い青年を見上げた。
「雷砂か。少し変わってるがいい名だな。こちらこそ、よろしく頼む」
アジェスも笑って答えた。
「ジェドから聞いたが、剣舞いに興味があるうそうだな?」
「うん。剣舞いというか、剣術の型に興味がある。アジェスがやっていたのって、剣技の応用でしょ?」
「ん?まあ、確かに。舞いというよりは型に近いかな。楽曲に乗せて動くから舞いに見えるだけで。良くわかるな」
「オレも剣を使うからね。といっても完全に自己流に近いけど」
「自己流、か。ちょっと動いてみないか?」
そう言って、ジェドは持っていた二本の曲刀の片方を雷砂に差し出した。
物おじせずにそれを受け取って軽く振るう。
「ふうん。見た目より重くないんだな。刃はつぶしてあるんだね」
「重くないとはいっても、君の体格からすれば結構な重さだとは思うがな。練習用の刀の刃は怪我をしない様につぶしてあるんだ。本番用はもっと装飾過多で刃もつぶしてない」
「へえ、そうなんだ。曲刀を握るのは初めてだから、ちょっとやりにくいけど、ま、いいや。どんな風に動けばいいの?」
「好きなように、と言いたいが、それは少し難しいだろうから、どうだろう。私と手合せしてみないか?」
「手合せ、か」
呟き、その案を吟味するように少し考える。
だが、それにあまり時間はかからなかった。
少し手加減すればいいかと、アジェスが聞いたら憤慨しそうなことを考えながら頷く。
「いいよ。やってみよう。そっちからどうぞ」
「よし。じゃあ、遠慮なく……」
立ち合いは唐突に始まった。
予告も無くいきなり動き出したアジェスに、ジェドは慌てて舞台の端による。
「あぶねぇよ、アジェス」
「はは。すまん」
そんな抗議の言葉を笑って流して、アジェスは振り上げた剣を雷砂に向かって遠慮なく振り下ろした。
もちろん、対処できないようであれば寸止めをするつもりで。
だが、向かってきた曲刀を雷砂は危なげなく捌いて、その動きのまま流れる様にジェドの足元を狙ってきた。
その鋭い動きに、ジェドは内心目を見開く。
しかし、そんな内心は少しも窺わせずに、最小限の動きで攻撃を避けると、再び攻撃を仕掛ける。
今度は、最初の手より本気を出してみたが、これも軽々とはじかれた。
アジェスの口元に、楽しそうな笑みが浮かぶ。
「すごいな、君は」
「あなたもね、アジェス」
雷砂も笑う。
だが、そうして言葉を交わす間も攻撃の手は緩めない。
胸の辺りを凪ぐように仕掛けてきた攻撃を腰を落としてかわし、そのついでに足払いを仕掛けるが、危なげなく後ろにステップして交わす青年。
手加減をしているとはいえ、それなりのスピードで仕掛ける攻撃を危なげなく交わす青年に、雷砂は素直な賞賛の想いを覚えた。
雷砂の笑みが深まり、自然と手数が増え、動きが速くなる。
(すごいな。まだ全力じゃないのか)
アジェスは内心冷や汗をかきながら、雷砂の攻撃をかわしていた。
まだ幼い少女の動きは、時間がたつとともに鋭さを増していく。
普通であれば、不釣り合いな大きさの獲物に振り回され、そろそろ疲れを見せてもいい頃だが、そんな気配はまるでなかった。
「あと三合打ち合って、最後は派手に終わらせよう」
弾む息を気取られない様に気をつけながら提案すると、
「いいよ。そうしよう」
雷砂も同意する。
2人は息を合わせて、一合、二合と打ち合い、最後の一打。
アジェスは大きく上段に振りかぶって、思い切り雷砂の頭に向かって振り下ろした。
手加減は無しだ。
雷砂であればよけられる事を、もうわかっていたから。
雷砂は冷静に最後の一打を見極めていた。
一歩下がって攻撃を避け、振り下ろされた刀の背に足をかけて鍔元までバランスよく駆け上がると、そのまま刀を蹴って高く飛び上がる。
あっけにとられて見守る大人たちの目の前で、空中でくるりと一回転。
そしてアジェスの後ろに見事な着地を決めた。
シーンと静まり返る人々。しかし、それも一瞬の事だ。すぐに沈黙は拍手と歓声にかわった。
さすがに弾んだ息を整え、アジェスに曲刀を返す。
彼はまじまじと雷砂を見て、
「本当にすごいな。とてもあんな風に動ける様には見えないのに」
感心したように、少しだけ不思議そうにそう言った。
「あなたもすごかったよ、アジェス。強いんだね。オレの養い親もかなりのものだけど、あなたも負けてない」
雷砂も心からの賞賛を伝え、微笑んだ。
と、その瞬間、結構な力で背中を叩かれ、目を白黒させる。
見上げると、いつの間に駆け寄ってきたのか、ジェドが傍らにいて、いたく感動したように雷砂の小さな背中をバシバシと叩いていた。
「すっげぇなぁ、雷砂。こんなちっこい体してんのにアジェスと対等にやりあうなんて」
「対等?まさか」
ジェドの言葉にアジェスが返す。
「なんだよ、アジェス。雷砂が子供だから手加減したとかいいてぇのかよ」
それを聞いて、ジェドはむっとしたように黒髪の刀剣師に詰め寄った。
アジェスは、彼の誤解に苦笑する。
「まさか。そうじゃない。手加減されたのは私の方だよ。雷砂はまだ本気じゃなかった」
「うぇっ!?まじかよ……って、そうか。雷砂はあの黒いバケモンを一人で倒したんだから、アジェスより強いのも当然か」
「その通り。雷砂、今ので何割くらいの力なんだ?」
「おう、そうだな!何割くらいでやってたんだ?」
揃って問われ、雷砂は困ったように笑う。
まさか、半分も力を出してないとは言いにくい。
どう答えたものかと考えていると、横合いからすごい勢いで柔らかな圧迫感に包まれた。
「セイラ?」
見なくてもわかる。この心地いい香りは彼女のものだ。
頭をしっかり抱え込まれて固定されている為、目線だけで彼女の顔を見上げる。が、彼女の顔が見える訳もなく、
「セイラ、どうしたの?」
柔らかく問いかける。
少し離れた所で、ジェドが羨ましそうにこっちを見ていた。
不可抗力なんだけどなーそんな風に思いながら、雷砂は何とかセイラの顔を窺おうと少しづつ向きをかえてみる。
見事なまでに谷間に埋もれた頭は、幸いそれ程の苦労はなく動いて、何とかセイラの方へ向きを変えられた。
彼女のくびれた腰に腕を回し、きゅっと抱き返す。
まだ顔は柔らかな二つの塊に挟まれたままだが、それでも顔を上げると今度はセイラの顔が見えた。
目と目が合うと、彼女は柔らかく微笑んでくれた。
「すごくかっこよかったわ、雷砂。舞台上の、誰よりも」
感動しちゃった、と誇らしそうに告げられて、何となく照れくさくなった雷砂は再びセイラの胸に顔をうずめた。
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