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第一部 幸せな日々、そして旅立ち
第八章 第九話
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草原を数匹の獣が群れを組んで走っていた。
違った種類の大型の獣ばかり。それは野生の獣であるとすれば非常に珍しい集団だった。
だが、彼らが野生の獣の可能性は限りなく低かった。
彼らは1匹の例外なく、何かの荷物を持っていた。それぞれ、身体にくくりつけたり、口にくわえたりと方法は様々だったが。
先頭を行く獣はしなやかな黒い体躯の美しい獣。その獣に向けて、後ろに続く集団から声が飛ぶ。
「シンファ、もう少し行くと小さな林と泉がある。そこで少し休憩をしよう。後続の奴らが遅れている」
その言葉を受けて、先頭の黒い獣・シンファは頷いた。
「ああ、そうしよう。少しハイペースで走りすぎたな。やっとストレスから解消されて、たがが飛んだ」
苦笑混じりそう漏らし、走るスピードを少しずつ緩めていく。前方に見え始めた林に目標を定めて。
彼らは、草原の部族会に参加していたライガ族の面々だった。長かった部族会も終わり、自分達の集落を目指している最中。
族長会議でストレスをためたシンファが帰り道やたらと爆走し、行きよりも大分速いペースで進むことが出来たため、このまま順調に進めば明日中には集落に帰り付けるはずだ。
泉はそこそこ大きく、林の木々が陰を作ってくれるので休憩するには丁度よかった。この場所でそれなりにまとまった休憩をとることを決め、シンファは泉に殺到する仲間達に声をかけた。
「よし。1時間程休憩にしよう。後続が追いついてきたら食事にする。少し休んだら当番の者は食事の準備を始めてくれ」
「シンファ、狩りはどうする?まだ少しは残っているが」
「このペースで進めば明日中には帰れる。まあ、わざわざ狩りに出る必要は無いだろう」
「わかった。じゃあ、みんなにも伝えておく。後続の連中への連絡は任せていいのか?」
「ああ。私が笛を吹いておく」
「よし、そっちは任せた。じゃあ、休ませてもらうかな。シンファも、しっかり身体を休めておけ」
普段から族長の補佐をしている男の言葉にシンファは素直に頷く。
男はシンファの頭をぽんぽんと軽く叩くと、他のメンバーの方へ歩いていった。
シンファはそれを見送り、獣身を解くために手ごろな木陰へ入る。
獣の姿から人の姿へその身を変え、素早く衣類を身にまとうと軽く頭を振って髪をかきあげた。
そして荷物の中から木製の小さな笛を取り出すと、独特なリズムで息を吹き込んだ。
音は出ない。いや、音は出ているのだが、ほとんどの種族には聞き取ることが出来ない。
だが、獣人族の耳はこの音を聞き取ることが出来た。
その為、草原の部族は部族ごとに笛の鳴らし方を変え、部族間の連絡に使っている。
シンファは合図の笛を2度ならし、これで伝わっただろうと唇を離した。後は身体を休めながら後続の到着を待つだけだ。
手頃な木に背を預け、草の上へ腰を下ろす。
一息つきながら空を見上げると、珍しい色の鳥が上空を旋回しているのが見えた。
目が覚めるような青い色の鳥だ。この草原では初めて見る種類の鳥だった。
外から迷い込んだか、飼い主の意向で何か手紙を運んでいるのか。
何となく気になってじっと見上げていると、旋回していた鳥は何かを見つけたのかゆっくりと下へ向かって下降し始めた。
他にやることもないので、鳥の行き先を見守っていると、どうやら鳥の目指す先は自分の様だと気づく。
そっと手を差し出すと、鳥は上手にシンファの右手にとまった。
その足には文が結びつけられており、鳥はそれを外せとばかりにしきりに足を動かしている。
「ん?私への文なのか?」
小首を傾げ、結ばれた文へと手を伸ばす。だが、片手だとなかなか上手く外すことが出来ず、
「片手だと難しいな。すまんが私の膝へ移ってもらえるか?」
丁寧に鳥へ話しかける。すると鳥もシンファの言葉を理解したようで、快く彼女の膝へ居場所を移してくれた。
「すまん、助かる。お前は賢い子だな」
そう話しかけながら、鳥の頭を指先でそっと撫で、再びその足に結ばれた文へと手を伸ばす。
鳥の足を傷つけないようそっと外した文の皺を丁寧にのばしながら開いて目を落とす。そこに、見慣れた文字を見つけて、シンファは軽く目を見開いた。
雷砂の書いた文字だ。ということは、これは雷砂からの手紙なのだろう。
今まで雷砂から手紙をもらったことなど無かったが、さてあの養い子はどんな手紙を書いてよこしたのだろうか。
微笑みながら読み始めたシンファの顔が、読み進める内にだんだん真剣なものとなる。
それは、別れの手紙だった。
故あって旅に出るとの旅立ちを知らせる手紙。
シンファはその手紙を丁寧に折り畳み懐へしまうと、まじめな顔をして何か考え込み始めた。
しばらくしてゆっくり立ち上がると、その足で叔父の片腕だった男の元へ歩み寄り、彼を人の輪からそっと連れ出した。
「急いで戻る用事が出来た。後を任せてもいいだろうか?」
「用事か。ジルヴァンと雷砂、どっちだ?」
シンファの事を知りぬいたその問いに、思わず苦笑を漏らす。
シンファが顔色を変えて無茶を通そうとする事情など、叔父の体調の急変か雷砂に関する事くらいしかないと、彼には良くわかっているのだ。
「雷砂だ」
短く答えると、彼はやっぱりなと言うように頷いて、
「雷砂か。血は繋がっていなくともお前の子だ。仕方ない、行ってやれ」
そう言って無骨な顔を微笑ませた。
「すまんな。恩に着る」
「みんなには俺から説明しておく。早く、行ってやれ」
男の短いが心のこもった言葉に、シンファは頷き踵を返した。
途中の木陰でその身を素早く獣身に変え、もの凄い勢いで走り出す。雷砂のいる、サライの村へ向かって。
間に合うかどうかはわからない。だが、どうしても雷砂の顔を見てきちんと送り出してやりたかった。
休まず走れば明日の朝には着くはず。きっと間に合う。間に合わせるーシンファはまっすぐ前だけを見て、最大限の速度で走り続けた。
違った種類の大型の獣ばかり。それは野生の獣であるとすれば非常に珍しい集団だった。
だが、彼らが野生の獣の可能性は限りなく低かった。
彼らは1匹の例外なく、何かの荷物を持っていた。それぞれ、身体にくくりつけたり、口にくわえたりと方法は様々だったが。
先頭を行く獣はしなやかな黒い体躯の美しい獣。その獣に向けて、後ろに続く集団から声が飛ぶ。
「シンファ、もう少し行くと小さな林と泉がある。そこで少し休憩をしよう。後続の奴らが遅れている」
その言葉を受けて、先頭の黒い獣・シンファは頷いた。
「ああ、そうしよう。少しハイペースで走りすぎたな。やっとストレスから解消されて、たがが飛んだ」
苦笑混じりそう漏らし、走るスピードを少しずつ緩めていく。前方に見え始めた林に目標を定めて。
彼らは、草原の部族会に参加していたライガ族の面々だった。長かった部族会も終わり、自分達の集落を目指している最中。
族長会議でストレスをためたシンファが帰り道やたらと爆走し、行きよりも大分速いペースで進むことが出来たため、このまま順調に進めば明日中には集落に帰り付けるはずだ。
泉はそこそこ大きく、林の木々が陰を作ってくれるので休憩するには丁度よかった。この場所でそれなりにまとまった休憩をとることを決め、シンファは泉に殺到する仲間達に声をかけた。
「よし。1時間程休憩にしよう。後続が追いついてきたら食事にする。少し休んだら当番の者は食事の準備を始めてくれ」
「シンファ、狩りはどうする?まだ少しは残っているが」
「このペースで進めば明日中には帰れる。まあ、わざわざ狩りに出る必要は無いだろう」
「わかった。じゃあ、みんなにも伝えておく。後続の連中への連絡は任せていいのか?」
「ああ。私が笛を吹いておく」
「よし、そっちは任せた。じゃあ、休ませてもらうかな。シンファも、しっかり身体を休めておけ」
普段から族長の補佐をしている男の言葉にシンファは素直に頷く。
男はシンファの頭をぽんぽんと軽く叩くと、他のメンバーの方へ歩いていった。
シンファはそれを見送り、獣身を解くために手ごろな木陰へ入る。
獣の姿から人の姿へその身を変え、素早く衣類を身にまとうと軽く頭を振って髪をかきあげた。
そして荷物の中から木製の小さな笛を取り出すと、独特なリズムで息を吹き込んだ。
音は出ない。いや、音は出ているのだが、ほとんどの種族には聞き取ることが出来ない。
だが、獣人族の耳はこの音を聞き取ることが出来た。
その為、草原の部族は部族ごとに笛の鳴らし方を変え、部族間の連絡に使っている。
シンファは合図の笛を2度ならし、これで伝わっただろうと唇を離した。後は身体を休めながら後続の到着を待つだけだ。
手頃な木に背を預け、草の上へ腰を下ろす。
一息つきながら空を見上げると、珍しい色の鳥が上空を旋回しているのが見えた。
目が覚めるような青い色の鳥だ。この草原では初めて見る種類の鳥だった。
外から迷い込んだか、飼い主の意向で何か手紙を運んでいるのか。
何となく気になってじっと見上げていると、旋回していた鳥は何かを見つけたのかゆっくりと下へ向かって下降し始めた。
他にやることもないので、鳥の行き先を見守っていると、どうやら鳥の目指す先は自分の様だと気づく。
そっと手を差し出すと、鳥は上手にシンファの右手にとまった。
その足には文が結びつけられており、鳥はそれを外せとばかりにしきりに足を動かしている。
「ん?私への文なのか?」
小首を傾げ、結ばれた文へと手を伸ばす。だが、片手だとなかなか上手く外すことが出来ず、
「片手だと難しいな。すまんが私の膝へ移ってもらえるか?」
丁寧に鳥へ話しかける。すると鳥もシンファの言葉を理解したようで、快く彼女の膝へ居場所を移してくれた。
「すまん、助かる。お前は賢い子だな」
そう話しかけながら、鳥の頭を指先でそっと撫で、再びその足に結ばれた文へと手を伸ばす。
鳥の足を傷つけないようそっと外した文の皺を丁寧にのばしながら開いて目を落とす。そこに、見慣れた文字を見つけて、シンファは軽く目を見開いた。
雷砂の書いた文字だ。ということは、これは雷砂からの手紙なのだろう。
今まで雷砂から手紙をもらったことなど無かったが、さてあの養い子はどんな手紙を書いてよこしたのだろうか。
微笑みながら読み始めたシンファの顔が、読み進める内にだんだん真剣なものとなる。
それは、別れの手紙だった。
故あって旅に出るとの旅立ちを知らせる手紙。
シンファはその手紙を丁寧に折り畳み懐へしまうと、まじめな顔をして何か考え込み始めた。
しばらくしてゆっくり立ち上がると、その足で叔父の片腕だった男の元へ歩み寄り、彼を人の輪からそっと連れ出した。
「急いで戻る用事が出来た。後を任せてもいいだろうか?」
「用事か。ジルヴァンと雷砂、どっちだ?」
シンファの事を知りぬいたその問いに、思わず苦笑を漏らす。
シンファが顔色を変えて無茶を通そうとする事情など、叔父の体調の急変か雷砂に関する事くらいしかないと、彼には良くわかっているのだ。
「雷砂だ」
短く答えると、彼はやっぱりなと言うように頷いて、
「雷砂か。血は繋がっていなくともお前の子だ。仕方ない、行ってやれ」
そう言って無骨な顔を微笑ませた。
「すまんな。恩に着る」
「みんなには俺から説明しておく。早く、行ってやれ」
男の短いが心のこもった言葉に、シンファは頷き踵を返した。
途中の木陰でその身を素早く獣身に変え、もの凄い勢いで走り出す。雷砂のいる、サライの村へ向かって。
間に合うかどうかはわからない。だが、どうしても雷砂の顔を見てきちんと送り出してやりたかった。
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