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第二部 旅のはじまり~星占いの少女編~
星占いの少女編 第三話
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占いの後も、リインと二人、街の中の散策は続けた。
だが、雷砂よりもむしろリインの方が占いを気にしていて、とにかくことあるごとに思い出してはぷんぷん怒っていた。
手をつなぎ歩きながら、そんなリインを見上げ、雷砂は穏やかに微笑む。
誰かが自分の為に怒ってくれている、それだけでも嬉しいことなのに、相手が大切な人であれば尚更嬉しかった。
「もう、雷砂も笑ってないで、もっと怒ったらいいのに!」
リインの言葉に、今日何度目になるか分からない苦笑を漏らす。
「怒るも何も、あれはただの占いだろ?結果がどうであれ、怒る必要なんてないよ。でも、ありがとう、リイン」
そして、同じく何度目になるか分からない答えを返した。
「大丈夫だよ。オレはあの占いの結果なんて気にしてないから」
「別に、私だって気にしてなんかいない」
「そっか。なら、もう占いの事は忘れて、もっと楽しもう。な?」
唇を尖らせるリインに、そう話しかけながら歩く。
道端の、小物売りの露店や、食べ物の屋台を物珍しそうに眺めながら。
「雷砂?」
「ん?」
「私も、あんな占いなんて信じない。私は、雷砂と一緒にいられて、すごく幸せ、だから。不幸になんて、なったりしない」
「……うん。ありがと、リイン」
リインが真剣な眼差しで雷砂を見つめる。静かで熱い想いを込めて。
雷砂もその瞳を見返して微笑んだ。そしてつなぎあった手に、そっと力を入れる。
二人は肩を並べて仲良くゆっくりと、街の中を歩いていく。
そしてその日はそのまま夕方まで楽しんで、二人仲良く宿へと戻ったのだった。
夜。月明かりの中、雷砂はそっとセイラの腕の中から抜け出して、一人宿の屋根に登って空を見上げていた。
空はよく晴れていて、こぼれ落ちてきそうな美しい星空に、雷砂はそっとため息をもらす。
(あの子には、こんな風に見えるのかな。オレの、星ってやつが)
そんなことを思いながら思い出すのは昼間の占い師のこと。
確かに占いの結果は耳に痛い事だった。
だが、どこか傷ついた様な光を宿した瞳の少女を責める気には、どうしてもなれなかった。
リインの様に、怒りを覚えると言うわけでもなく、かといって特別な好意を感じたわけでもない。
ただ、何となく彼女の事が気にかかった。それがなぜなのか、自分でもよく分からなかったが。
「オレが大切に思う人ほど、より強い不幸がふりかかる、か」
膝を抱えて空を見上げながら、ぽつりと呟く。
雷砂は決して、少女の占いの結果に怒りを抱いてはいなかった。
だが、その占いの結果は雷砂の心に重くのしかかり、その表情に暗い陰を落とした。
昼間、占いを気にしていないとリインに言ったのはただの強がり。本当は不安で仕方がない。
少女の唇があの占いの結果を口にしたとき、内心ずっと不安に思っていたことを言い当てられた気がして、衝撃を受けた。
旅立たねば、と思う。
少女の占いが、現実になってしまう前に。守りきれず大切な人達に不幸が降りかかる、その前に。
(旅の準備を始めよう。少しずつ。いつでも旅立てるように)
雷砂は拳を握り、抱えた膝に額を押し当て、目を閉じる。
ふと気がつけば、闇が夜空を覆っていた。
もう見えない星を探して、雷砂の瞳が夜空をさまよう。
その横顔は、まるで迷子になった小さな子供のようにも見えた。
宵闇の中。
夜露を避けるように、街の片隅で小さくなって夜をあかす薄墨の髪の少女の足下に、小さなネズミがちょろちょろと這い出てきた。
少女はちょっとだけ目を見張り、自分の足下をうろうろと行き来するネズミの可愛さにほんの少し口元を緩め、パンの切れ端を一欠片、地面へ落としてやる。
ネズミはやっとありついた食料に飛びついて、その場で食事を始めた。
両手で小さなパンの欠片をしっかり掴み、一生懸命に食べる様子は、何とも言えずに可愛かった。
(わたしのこと、怖くないのかな?)
そんな風に思い、触ってみようかとそろそろと指先を伸ばした瞬間、くるりとネズミが振り向き、禍々しいほどの赤い瞳でまっすぐに少女を見上げてきた。
思わず息を飲んだ少女に、ネズミは告げる。
『無事、雷砂の心に楔を打ち込んだようだな。まずは重畳。次なる一手は俺が打つ。お前はのんびり見物でもしているといい。必要になったら、また連絡をする』
ネズミは流暢に語り終えると、その小さな体はびくりと硬直し、そして二度と動かなくなった。
少女は哀しげな瞳で、動かなくなった小さな体をそっと手の平に乗せると、ネズミが食べかけのまま取り落としたパンの欠片と共に、小さな布にくるんで傍らへ置いた。
明日、明るくなったら、どこか花の咲いている場所へ、埋めてあげたいと思ったのだ。いつか、自分が死んだときも、きっとそうして貰えたら嬉しいと思うから。
そして、膝を抱えて小さくなったまま、今日の昼間まみえた美しい黄金色の髪の少女の事を想う。
次なる一手を打つとあの男は言った。
なにか、ひどいことをするつもりなのだろうか。雷砂という、あの優しい人に。
そのことが、ひどく気にかかった。
小さく吐息を漏らし、空を見上げる。闇に染め上げられて、星一つ見えない広々とした空間を。
今この時、別の場所で雷砂も同じように夜空を見上げているという事を、知らないままに。
だが、雷砂よりもむしろリインの方が占いを気にしていて、とにかくことあるごとに思い出してはぷんぷん怒っていた。
手をつなぎ歩きながら、そんなリインを見上げ、雷砂は穏やかに微笑む。
誰かが自分の為に怒ってくれている、それだけでも嬉しいことなのに、相手が大切な人であれば尚更嬉しかった。
「もう、雷砂も笑ってないで、もっと怒ったらいいのに!」
リインの言葉に、今日何度目になるか分からない苦笑を漏らす。
「怒るも何も、あれはただの占いだろ?結果がどうであれ、怒る必要なんてないよ。でも、ありがとう、リイン」
そして、同じく何度目になるか分からない答えを返した。
「大丈夫だよ。オレはあの占いの結果なんて気にしてないから」
「別に、私だって気にしてなんかいない」
「そっか。なら、もう占いの事は忘れて、もっと楽しもう。な?」
唇を尖らせるリインに、そう話しかけながら歩く。
道端の、小物売りの露店や、食べ物の屋台を物珍しそうに眺めながら。
「雷砂?」
「ん?」
「私も、あんな占いなんて信じない。私は、雷砂と一緒にいられて、すごく幸せ、だから。不幸になんて、なったりしない」
「……うん。ありがと、リイン」
リインが真剣な眼差しで雷砂を見つめる。静かで熱い想いを込めて。
雷砂もその瞳を見返して微笑んだ。そしてつなぎあった手に、そっと力を入れる。
二人は肩を並べて仲良くゆっくりと、街の中を歩いていく。
そしてその日はそのまま夕方まで楽しんで、二人仲良く宿へと戻ったのだった。
夜。月明かりの中、雷砂はそっとセイラの腕の中から抜け出して、一人宿の屋根に登って空を見上げていた。
空はよく晴れていて、こぼれ落ちてきそうな美しい星空に、雷砂はそっとため息をもらす。
(あの子には、こんな風に見えるのかな。オレの、星ってやつが)
そんなことを思いながら思い出すのは昼間の占い師のこと。
確かに占いの結果は耳に痛い事だった。
だが、どこか傷ついた様な光を宿した瞳の少女を責める気には、どうしてもなれなかった。
リインの様に、怒りを覚えると言うわけでもなく、かといって特別な好意を感じたわけでもない。
ただ、何となく彼女の事が気にかかった。それがなぜなのか、自分でもよく分からなかったが。
「オレが大切に思う人ほど、より強い不幸がふりかかる、か」
膝を抱えて空を見上げながら、ぽつりと呟く。
雷砂は決して、少女の占いの結果に怒りを抱いてはいなかった。
だが、その占いの結果は雷砂の心に重くのしかかり、その表情に暗い陰を落とした。
昼間、占いを気にしていないとリインに言ったのはただの強がり。本当は不安で仕方がない。
少女の唇があの占いの結果を口にしたとき、内心ずっと不安に思っていたことを言い当てられた気がして、衝撃を受けた。
旅立たねば、と思う。
少女の占いが、現実になってしまう前に。守りきれず大切な人達に不幸が降りかかる、その前に。
(旅の準備を始めよう。少しずつ。いつでも旅立てるように)
雷砂は拳を握り、抱えた膝に額を押し当て、目を閉じる。
ふと気がつけば、闇が夜空を覆っていた。
もう見えない星を探して、雷砂の瞳が夜空をさまよう。
その横顔は、まるで迷子になった小さな子供のようにも見えた。
宵闇の中。
夜露を避けるように、街の片隅で小さくなって夜をあかす薄墨の髪の少女の足下に、小さなネズミがちょろちょろと這い出てきた。
少女はちょっとだけ目を見張り、自分の足下をうろうろと行き来するネズミの可愛さにほんの少し口元を緩め、パンの切れ端を一欠片、地面へ落としてやる。
ネズミはやっとありついた食料に飛びついて、その場で食事を始めた。
両手で小さなパンの欠片をしっかり掴み、一生懸命に食べる様子は、何とも言えずに可愛かった。
(わたしのこと、怖くないのかな?)
そんな風に思い、触ってみようかとそろそろと指先を伸ばした瞬間、くるりとネズミが振り向き、禍々しいほどの赤い瞳でまっすぐに少女を見上げてきた。
思わず息を飲んだ少女に、ネズミは告げる。
『無事、雷砂の心に楔を打ち込んだようだな。まずは重畳。次なる一手は俺が打つ。お前はのんびり見物でもしているといい。必要になったら、また連絡をする』
ネズミは流暢に語り終えると、その小さな体はびくりと硬直し、そして二度と動かなくなった。
少女は哀しげな瞳で、動かなくなった小さな体をそっと手の平に乗せると、ネズミが食べかけのまま取り落としたパンの欠片と共に、小さな布にくるんで傍らへ置いた。
明日、明るくなったら、どこか花の咲いている場所へ、埋めてあげたいと思ったのだ。いつか、自分が死んだときも、きっとそうして貰えたら嬉しいと思うから。
そして、膝を抱えて小さくなったまま、今日の昼間まみえた美しい黄金色の髪の少女の事を想う。
次なる一手を打つとあの男は言った。
なにか、ひどいことをするつもりなのだろうか。雷砂という、あの優しい人に。
そのことが、ひどく気にかかった。
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