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第二部 旅のはじまり~星占いの少女編~
星占いの少女編 第五話
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翌日になって、雷砂は前日の夜に考えたことを行動に移す。
が、思っていたような結果にはならなかった。
薄墨の髪の少女は街中を探して歩いても見つけだすことは出来ず、一座の面々は小さな不幸に見舞われ続けた。
ある者は、ごろつきに絡まれて目元の大きな痣を作り、ある者は飼い主の手を離れた犬に足をかまれた。
他にも、大切にため込んでいたへそくりを財布ごと落とした者や、盗みのぬれぎぬを着せられて警邏隊へ連行された者もいた。
まあ、連行された者はすぐに誤解が解けて解放されたらしいのだが。
他にも上げればきりがない程度に、毎日少しずつ色々な事がおこっていた。
座員達はみんな、なんだかここのところ付いてないとお互い笑いあう。
ただ雷砂だけが日に日に思い詰めた顔をするようになった。
セイラは、もちろんリインも、ことあるごとに雷砂のせいじゃないと言葉を尽くした。
雷砂はその都度、わかってる、気にしてないと笑う。
明らかに、気に病んでいるとわかる表情の暗さを必死に押し隠しながら。
そうして、雷砂はどんどん一人になっていく。
セイラ達を、大切だと思うものを守りたいと思うが故に。
そんな雷砂の気持ちは痛いほど、セイラにも伝わっていた。
だが、分かってはいても自分にだけは心を打ち明けてもっと甘えて欲しいのにと思ってしまう自分もいて、セイラは無理矢理聞き出すべきか、もう少し静観するべきか二つの考えの間で揺れた。
きっと、いつもだったらもっと強気に雷砂の内面に切り込んでいけたかもしれない。
雷砂も、いつもならもう少し素直に弱音を吐いていたはずだ。
だが、今の状況に妙に当てはまってしまった占いの言葉と、別れが遠くない事実がセイラと雷砂の調子をわずかに狂わせていた。
結局、雷砂がセイラの元へ内心を吐き出しにくることもなく、時間だけが無駄に過ぎていった。
そして、時間とともに、徐々に興行の予定が埋まり、セイラやリイン、他の座員達もそれなりに忙しく動き始める。
今回は、雷砂は不参加と言うことで話は決まっており、結果別々に過ごす時間が増えてきた。
セイラが宿にいるときは雷砂が外出していたり、逆に雷砂が宿にいるときはセイラが興行の為宿を留守にしていたりと言うように。
夜もそうだ。
同じ部屋に眠っているのに、酒の席での興行でセイラの帰りが遅いことが多くなって、セイラ帰る頃には雷砂は眠りの中にあり、セイラが目を覚ます頃には雷砂はもう宿を出て活動を始めている事が多かった。
そうやって、お互いの寝顔だけを見つめる日々が続いた。
そんなある日。
その日も一座は興行の為に、昼から宿を空けていた。
そんな中、イルサーダはたまたま用事があって興行の途中で宿へと戻ってきた。
そしてふと、そう言えば雷砂はどうしているかと思い、セイラと雷砂の部屋へと足を向ける。
少し前に、セイラから一通りの話は聞いていた。
妙な占い師の話や、一座の者に起きていること、それを雷砂が妙に気にしていることを。
雷砂が旅立ちを早めようとしていると、セイラは心配しているようだったが、別にそれでもいいと、イルサーダは思っていた。
雷砂が正常な判断で、そのことを決めたのなら、だが。
雷砂と話をしようしようと思いつつ、ついつい忙しくて先延ばしにしてしまった。
だが、ちょうどいい機会なので、雷砂が部屋に居るようなら少し話をしようと思ったのだ。
二人の部屋の前にたどり着いて、まずはノックをしてみる。
内側から返事は聞こえなかった。だが、中に人の気配はある。
返事をしない方が悪いんですよ~、と内心言い訳しながらイルサーダが、ドアを押し開くと、ベッドの上に膝を抱えて座る雷砂の姿が見えた。
その姿を、表情を、瞳の光をみてイルサーダは思う。
これはダメだ、と。
こんな状態の雷砂を、今、旅立たせるわけには行かない、と。
それくらい、今の雷砂は不安定で危うげに見えた。
「雷砂?どうしたんですか?ぼんやりして」
驚かせないように、そっと声をかける。
その声に反応した雷砂が、何とも頼りない表情でイルサーダの顔をのろのろと見上げた。
「ああ、イルサーダか」
普段の雷砂からは考えられないような、覇気の欠片もない声でイルサーダの名を呟くように呼び、
「ちょうど良かった。イルサーダに、話したいことがあったんだ」
そんな言葉をこぼした。
「話、ですか?なんの話でしょうね。今すぐ旅に出たいという話以外なら、聞いてあげない事もないですよ?」
雷砂の話の内容の検討は付いていたので、機先を制して釘を指す。
雷砂は出鼻をくじかれて、困ったような顔でイルサーダを見上げた。
「占いの話は聞いています。一座の中で起こっている事も。でも、あなたが逃げ出そうとする事を、許可する訳にはいきませんね」
少々厳しく、あえて逃げるという表現を選んだ。
雷砂は痛いところをつかれたように顔をゆがませ、イルサーダからほんの少し目線を下へと外した。
「でも、オレのせいかもしれないんだよ」
「違う、と言い切るつもりはありません。でも、あなたが悪いわけでもないでしょう?もし、今起こっていることが誰かの仕業なら、悪いのはその誰かだけのはずです。雷砂は、悪くない。そうじゃないですか?」
逃げるという表現を否定しなかった雷砂に、イルサーダは思っている事を素直に伝えた。
その言葉に、雷砂は力なく首を振る。
「わかってる。でも、怖いんだよ。オレを狙ってくれるならいい。だけど……」
雷砂の苦悩は分かる気がした。
だが、それでも、雷砂に逃げることを許すつもりは無かった。
イルサーダは、そっと手を伸ばし、雷砂の頭を優しく撫でる。
そうして撫でながら、ゆっくりと語りかけた。
「ねえ、雷砂。自分だけの力でなにもかも守ろうとしても、それはとても難しい。もっと周りを頼りなさい。もう少し心を開いて周囲を見てご覧なさい。あなたに頼られたいと思っている人が、見えてくるはずですよ」
「でも、守りたいんだ。傷ついて欲しくない……」
「いいですか。守りたいのはあなただけではないんですよ。傷ついて、欲しくないと思っているのも。私はあなたに強くあれと求めましたし、強くなるための道筋も教えました。でも、誰にも頼るなと言ったつもりはありません。むしろ、あなたはもっと、周りを頼るべきです。あなたを愛する者は、きっとあなたから頼りにされたいと思っていますよ?もちろん、この私もね」
言いながら、イルサーダは雷砂の体をベッドの上にコロンを転がすと、布団でその体を包み込む。
そして、びっくりした顔で見上げてくる色違いの瞳を愛おしそうに見つめ、その頬を撫でた。
「とにかく、旅に出る許可はまだ出せません。あなたが意地を張っている内は特にね?とりあえず、今は寝ておきなさい。つかれた顔をしてますよ?今は休んで、少し元気になったら周囲を見回してご覧なさい。あなたに頼って欲しくて仕方ない人が、きっと見えてきますから」
「イルサーダ、でも……」
「だめです。反論は聞きません。さ、目を閉じて」
イルサーダは手を伸ばし、有無を言わせずに雷砂の目を手のひらで覆ってしまう。
そうしてしまえば、すぐに雷砂の体は弛緩して。
それほどの時間を待たずに、小さな寝息が聞こえてきた。
イルサーダはほっと息を付いて雷砂の目元から手を離すと、まだまだ幼さの残るその寝顔をじぃっと見つめながら、
「さてさて、どうしましょうかねぇ。うちの子達にちょっかいをかけてる奴を何とかしたいのは山々ですが、やっている事が小さすぎて、私がしゃしゃりでると逆に被害を大きくしてしまいそうなんですよねぇ……」
そんな物騒な事をぼそりと呟き、困ったものです、とため息をつく。
イルサーダの、龍神族としての力は強大で、細かい調整は難しい。
小さな嫌がらせのような悪意を迎え撃つには、少々大きすぎる力なのだった。
それに、龍神族の村を出るときに、誓わされた制約もある。
人の姿でいる以上、人の身に余る力をむやみにふるうべからず。
一度は破ってしまった約束だが、アレは必要だったのだからセーフなはず。
そうしなければ、たくさんの人間が無惨に命を落とし、守護聖龍の愛し子の命も危うい場面だったのだから。
だから、きっと、村の長老連も許してくれるでしょうと半ば己に言い聞かせつつ、頭を捻る。
どうやって、人の身の範疇の力で雷砂を手助けしようかと。
だがそれは、龍神族の中でも一際不器用なイルサーダにとって、無理難題に等しいことでもあった。
が、思っていたような結果にはならなかった。
薄墨の髪の少女は街中を探して歩いても見つけだすことは出来ず、一座の面々は小さな不幸に見舞われ続けた。
ある者は、ごろつきに絡まれて目元の大きな痣を作り、ある者は飼い主の手を離れた犬に足をかまれた。
他にも、大切にため込んでいたへそくりを財布ごと落とした者や、盗みのぬれぎぬを着せられて警邏隊へ連行された者もいた。
まあ、連行された者はすぐに誤解が解けて解放されたらしいのだが。
他にも上げればきりがない程度に、毎日少しずつ色々な事がおこっていた。
座員達はみんな、なんだかここのところ付いてないとお互い笑いあう。
ただ雷砂だけが日に日に思い詰めた顔をするようになった。
セイラは、もちろんリインも、ことあるごとに雷砂のせいじゃないと言葉を尽くした。
雷砂はその都度、わかってる、気にしてないと笑う。
明らかに、気に病んでいるとわかる表情の暗さを必死に押し隠しながら。
そうして、雷砂はどんどん一人になっていく。
セイラ達を、大切だと思うものを守りたいと思うが故に。
そんな雷砂の気持ちは痛いほど、セイラにも伝わっていた。
だが、分かってはいても自分にだけは心を打ち明けてもっと甘えて欲しいのにと思ってしまう自分もいて、セイラは無理矢理聞き出すべきか、もう少し静観するべきか二つの考えの間で揺れた。
きっと、いつもだったらもっと強気に雷砂の内面に切り込んでいけたかもしれない。
雷砂も、いつもならもう少し素直に弱音を吐いていたはずだ。
だが、今の状況に妙に当てはまってしまった占いの言葉と、別れが遠くない事実がセイラと雷砂の調子をわずかに狂わせていた。
結局、雷砂がセイラの元へ内心を吐き出しにくることもなく、時間だけが無駄に過ぎていった。
そして、時間とともに、徐々に興行の予定が埋まり、セイラやリイン、他の座員達もそれなりに忙しく動き始める。
今回は、雷砂は不参加と言うことで話は決まっており、結果別々に過ごす時間が増えてきた。
セイラが宿にいるときは雷砂が外出していたり、逆に雷砂が宿にいるときはセイラが興行の為宿を留守にしていたりと言うように。
夜もそうだ。
同じ部屋に眠っているのに、酒の席での興行でセイラの帰りが遅いことが多くなって、セイラ帰る頃には雷砂は眠りの中にあり、セイラが目を覚ます頃には雷砂はもう宿を出て活動を始めている事が多かった。
そうやって、お互いの寝顔だけを見つめる日々が続いた。
そんなある日。
その日も一座は興行の為に、昼から宿を空けていた。
そんな中、イルサーダはたまたま用事があって興行の途中で宿へと戻ってきた。
そしてふと、そう言えば雷砂はどうしているかと思い、セイラと雷砂の部屋へと足を向ける。
少し前に、セイラから一通りの話は聞いていた。
妙な占い師の話や、一座の者に起きていること、それを雷砂が妙に気にしていることを。
雷砂が旅立ちを早めようとしていると、セイラは心配しているようだったが、別にそれでもいいと、イルサーダは思っていた。
雷砂が正常な判断で、そのことを決めたのなら、だが。
雷砂と話をしようしようと思いつつ、ついつい忙しくて先延ばしにしてしまった。
だが、ちょうどいい機会なので、雷砂が部屋に居るようなら少し話をしようと思ったのだ。
二人の部屋の前にたどり着いて、まずはノックをしてみる。
内側から返事は聞こえなかった。だが、中に人の気配はある。
返事をしない方が悪いんですよ~、と内心言い訳しながらイルサーダが、ドアを押し開くと、ベッドの上に膝を抱えて座る雷砂の姿が見えた。
その姿を、表情を、瞳の光をみてイルサーダは思う。
これはダメだ、と。
こんな状態の雷砂を、今、旅立たせるわけには行かない、と。
それくらい、今の雷砂は不安定で危うげに見えた。
「雷砂?どうしたんですか?ぼんやりして」
驚かせないように、そっと声をかける。
その声に反応した雷砂が、何とも頼りない表情でイルサーダの顔をのろのろと見上げた。
「ああ、イルサーダか」
普段の雷砂からは考えられないような、覇気の欠片もない声でイルサーダの名を呟くように呼び、
「ちょうど良かった。イルサーダに、話したいことがあったんだ」
そんな言葉をこぼした。
「話、ですか?なんの話でしょうね。今すぐ旅に出たいという話以外なら、聞いてあげない事もないですよ?」
雷砂の話の内容の検討は付いていたので、機先を制して釘を指す。
雷砂は出鼻をくじかれて、困ったような顔でイルサーダを見上げた。
「占いの話は聞いています。一座の中で起こっている事も。でも、あなたが逃げ出そうとする事を、許可する訳にはいきませんね」
少々厳しく、あえて逃げるという表現を選んだ。
雷砂は痛いところをつかれたように顔をゆがませ、イルサーダからほんの少し目線を下へと外した。
「でも、オレのせいかもしれないんだよ」
「違う、と言い切るつもりはありません。でも、あなたが悪いわけでもないでしょう?もし、今起こっていることが誰かの仕業なら、悪いのはその誰かだけのはずです。雷砂は、悪くない。そうじゃないですか?」
逃げるという表現を否定しなかった雷砂に、イルサーダは思っている事を素直に伝えた。
その言葉に、雷砂は力なく首を振る。
「わかってる。でも、怖いんだよ。オレを狙ってくれるならいい。だけど……」
雷砂の苦悩は分かる気がした。
だが、それでも、雷砂に逃げることを許すつもりは無かった。
イルサーダは、そっと手を伸ばし、雷砂の頭を優しく撫でる。
そうして撫でながら、ゆっくりと語りかけた。
「ねえ、雷砂。自分だけの力でなにもかも守ろうとしても、それはとても難しい。もっと周りを頼りなさい。もう少し心を開いて周囲を見てご覧なさい。あなたに頼られたいと思っている人が、見えてくるはずですよ」
「でも、守りたいんだ。傷ついて欲しくない……」
「いいですか。守りたいのはあなただけではないんですよ。傷ついて、欲しくないと思っているのも。私はあなたに強くあれと求めましたし、強くなるための道筋も教えました。でも、誰にも頼るなと言ったつもりはありません。むしろ、あなたはもっと、周りを頼るべきです。あなたを愛する者は、きっとあなたから頼りにされたいと思っていますよ?もちろん、この私もね」
言いながら、イルサーダは雷砂の体をベッドの上にコロンを転がすと、布団でその体を包み込む。
そして、びっくりした顔で見上げてくる色違いの瞳を愛おしそうに見つめ、その頬を撫でた。
「とにかく、旅に出る許可はまだ出せません。あなたが意地を張っている内は特にね?とりあえず、今は寝ておきなさい。つかれた顔をしてますよ?今は休んで、少し元気になったら周囲を見回してご覧なさい。あなたに頼って欲しくて仕方ない人が、きっと見えてきますから」
「イルサーダ、でも……」
「だめです。反論は聞きません。さ、目を閉じて」
イルサーダは手を伸ばし、有無を言わせずに雷砂の目を手のひらで覆ってしまう。
そうしてしまえば、すぐに雷砂の体は弛緩して。
それほどの時間を待たずに、小さな寝息が聞こえてきた。
イルサーダはほっと息を付いて雷砂の目元から手を離すと、まだまだ幼さの残るその寝顔をじぃっと見つめながら、
「さてさて、どうしましょうかねぇ。うちの子達にちょっかいをかけてる奴を何とかしたいのは山々ですが、やっている事が小さすぎて、私がしゃしゃりでると逆に被害を大きくしてしまいそうなんですよねぇ……」
そんな物騒な事をぼそりと呟き、困ったものです、とため息をつく。
イルサーダの、龍神族としての力は強大で、細かい調整は難しい。
小さな嫌がらせのような悪意を迎え撃つには、少々大きすぎる力なのだった。
それに、龍神族の村を出るときに、誓わされた制約もある。
人の姿でいる以上、人の身に余る力をむやみにふるうべからず。
一度は破ってしまった約束だが、アレは必要だったのだからセーフなはず。
そうしなければ、たくさんの人間が無惨に命を落とし、守護聖龍の愛し子の命も危うい場面だったのだから。
だから、きっと、村の長老連も許してくれるでしょうと半ば己に言い聞かせつつ、頭を捻る。
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