109 / 248
第二部 旅のはじまり~水魔の村編~
水魔の村編 第六話
しおりを挟む
朝になっても霧は晴れなかった。
雷砂はイルサーダに呼ばれ、昨日助けた男達との話し合いの席に同席させられていた。
後で話を聞かせてくれればそれで良いとイルサーダには言ったのだが、二度手間になるから面倒くさいと無理矢理連れてこられた。
目の前の男達はお互いをちらちら見るだけで中々話し出そうとしない。
お互いの様子を伺っているのだ。
どうやら一番最初に口を開いて後で責任を押しつけられるのが嫌なのだろう。
(これ、いつまで続くのかな)
なんだか面倒になってきて思わずため息が漏れる。
それにびくりと反応した若者の1人が、覚悟を決めた様に口を開いた。
「さっ、昨夜は、その、助けてもらってすまなかった」
「いや。助けられる者を見捨てるのは性に合わなかっただけだから、気にしないで」
そんな風に、自分が勝手にやったことだから気にするなと言う雷砂の言葉に、その青年は力なく首を振る。
「君が居なかったら、俺達は死んでいたと思う。心から礼を言わせてくれ。昨日は、そのう、血にまみれた君が恐ろしくてきちんと礼も言えずに申し訳なかったと思ってる」
そう言いながら、青年はまじまじと雷砂を見つめた。
日の光の元で見る雷砂の幼さと愛らしい美しさを。
「その、失礼な質問だが、君は本当に昨日助けてくれた人と同一人物なのか?」
「そうだよ。なに?今のオレはそんなに弱そうに見える?」
「正直に言わせてもらえるのなら、そうだと答える他ない。昨日の君は鬼神のようだったが、今の君は普通の子供の様に見えるよ。俺達大人がきちんと守ってあげなくてはいけないような」
「そう、見えるかもな。でも、昨日のオレも今日のオレも同じ人物だよ。こう見えて、結構強いんだ」
「そうなんだろうな。ただ信じがたいだけだ。俺の頭が固いんだろうな、きっと」
そう言って、青年は気弱に微笑んだ。
それから両脇の男達の確認をとるように彼らを交互に見て、それからすっと頭を下げた。
「昨日も助けてもらった上に、更に助けを求めるのは申し訳ないと思う。だが、俺達には他に頼れる当てがないんだ。どうか、俺達の村を、助けてくれないだろうか?」
「いいよ」
一息に吐き出すように告げられた依頼を、雷砂はさらりと受諾した。
決死の覚悟の申し出が余りに簡単に受け入れられ、男達は困惑したように雷砂とイルサーダを見る。
雷砂はちらりとイルサーダを見上げ、
「もともと、あんた達が助けを求めたら受けようと決めていたんだ」
そう答えて微笑む。
「ええ。困ったときはお互い様、ですよ」
イルサーダも、霧が晴れたら知らんふりして彼らを放り出そうと考えていたことなどおくびにも出さずに、にこにこ笑って見せた。
「では、ここからは大人の話ですので・・・・・・」
そう言って、今度はイルサーダがちらりと雷砂に目配せをする。
大方依頼に対しての報酬に関する話でもしたいのだろう。
雷砂は軽く肩をすくめ苦笑いをし、
「わかったよ。じゃあ、もう子供は退散する」
そう言い置いて、あっさりと天幕を後にした。
雷砂はイルサーダに呼ばれ、昨日助けた男達との話し合いの席に同席させられていた。
後で話を聞かせてくれればそれで良いとイルサーダには言ったのだが、二度手間になるから面倒くさいと無理矢理連れてこられた。
目の前の男達はお互いをちらちら見るだけで中々話し出そうとしない。
お互いの様子を伺っているのだ。
どうやら一番最初に口を開いて後で責任を押しつけられるのが嫌なのだろう。
(これ、いつまで続くのかな)
なんだか面倒になってきて思わずため息が漏れる。
それにびくりと反応した若者の1人が、覚悟を決めた様に口を開いた。
「さっ、昨夜は、その、助けてもらってすまなかった」
「いや。助けられる者を見捨てるのは性に合わなかっただけだから、気にしないで」
そんな風に、自分が勝手にやったことだから気にするなと言う雷砂の言葉に、その青年は力なく首を振る。
「君が居なかったら、俺達は死んでいたと思う。心から礼を言わせてくれ。昨日は、そのう、血にまみれた君が恐ろしくてきちんと礼も言えずに申し訳なかったと思ってる」
そう言いながら、青年はまじまじと雷砂を見つめた。
日の光の元で見る雷砂の幼さと愛らしい美しさを。
「その、失礼な質問だが、君は本当に昨日助けてくれた人と同一人物なのか?」
「そうだよ。なに?今のオレはそんなに弱そうに見える?」
「正直に言わせてもらえるのなら、そうだと答える他ない。昨日の君は鬼神のようだったが、今の君は普通の子供の様に見えるよ。俺達大人がきちんと守ってあげなくてはいけないような」
「そう、見えるかもな。でも、昨日のオレも今日のオレも同じ人物だよ。こう見えて、結構強いんだ」
「そうなんだろうな。ただ信じがたいだけだ。俺の頭が固いんだろうな、きっと」
そう言って、青年は気弱に微笑んだ。
それから両脇の男達の確認をとるように彼らを交互に見て、それからすっと頭を下げた。
「昨日も助けてもらった上に、更に助けを求めるのは申し訳ないと思う。だが、俺達には他に頼れる当てがないんだ。どうか、俺達の村を、助けてくれないだろうか?」
「いいよ」
一息に吐き出すように告げられた依頼を、雷砂はさらりと受諾した。
決死の覚悟の申し出が余りに簡単に受け入れられ、男達は困惑したように雷砂とイルサーダを見る。
雷砂はちらりとイルサーダを見上げ、
「もともと、あんた達が助けを求めたら受けようと決めていたんだ」
そう答えて微笑む。
「ええ。困ったときはお互い様、ですよ」
イルサーダも、霧が晴れたら知らんふりして彼らを放り出そうと考えていたことなどおくびにも出さずに、にこにこ笑って見せた。
「では、ここからは大人の話ですので・・・・・・」
そう言って、今度はイルサーダがちらりと雷砂に目配せをする。
大方依頼に対しての報酬に関する話でもしたいのだろう。
雷砂は軽く肩をすくめ苦笑いをし、
「わかったよ。じゃあ、もう子供は退散する」
そう言い置いて、あっさりと天幕を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる