131 / 248
第二部 旅のはじまり~水魔の村編~
水魔の村編 第二十八話
しおりを挟む
ジルゼから色々と情報を仕入れ、アスランがまだ慣れないながらも力の制御が出きるようになるのを待って、雷砂はアスランとイーリア、ジルゼを連れて拠点を出た。
リインは付いて来たがったが、何とか説得して置いてきた。
流石の雷砂も、セイラとリイン、守るべき相手を2人抱えての戦闘は厳しいと思ったからだ。
イルサーダに加え、ジェドとアジェスもリインの護衛として残ってもらう。
もし次に人質として狙われるとしたら彼女だろうと思ったから。
ジェドは付いてきたそうだったが、やはり遠慮して貰った。
リインやセイラよりも力があるし、そこそこ戦えるだろうが、やはり雷砂から見るとジェドも守るべき対象になのだ。それくらいの、力の差がある。
それに、これから行く場所には妙な力を持つ存在がいるはずだ。
その相手には、ジェドの攻撃など効かない可能性が高い。無用な危険を冒させる訳にはいかなかった。
ジルゼは、肩を落とし悄然として3人の前を歩いていた。
もう抵抗する気力は無い。
もともと、自分から望んで村長に手を貸していたわけでもないのだ。様々なしがらみから、仕方なく従っていただけ。
それでも最初の頃はそれ程抵抗も無かった。疑問を感じ始めたのは、アスランの母親を無理矢理拉致した頃から。
ジルゼは直接手を下さなかったが、ドアの向こうから聞こえてくる悲痛な悲鳴が今でも耳の奥に残っていた。
あんな事、してはいけなかったのだ。
だが、ジルゼに村長を止める事は出来ず、ずるずると従ってきてしまった。
この事は、いずれ村中に知れ渡るだろう。
巫女と守り神を殺した村長の悪行、そしてそれに黙って協力した者達の存在と共に。
そしてその協力者の中にはジルゼも含まれる。
そうなれば、村の中でのジルゼの立場は地に落ちるだろう。
大した立場など元々ありはしなかったが、それでも村人達から蔑みの目で見られることを思うと、心は際限なく落ち込んでいった。
そんなことを考えている内に、気が付けば村長の屋敷の扉の前に来ていた。
ジルゼは重い手を持ち上げて、しっかりとした立て付けの扉の取っ手を掴んでそっと引く。恐らく鍵がかかっているだろうと思いながら。
だが、予想に反して扉は軽い反動と共に大きく開かれた。鍵がかかってなかったのだ。
どうするのかと、雷砂を振り返ると、
「よし、入ってみよう」
そういって、スタスタと室内に入って行ってしまった。
アスランとイーリアも顔を見合わせ小さく頷くと、雷砂に続いて屋敷の中へと入っていく。
ジルゼは1人取り残され、どうしようかと考えたものの、今更彼らに逆らっても仕方ないと小さく首を振り、ゆっくりと扉をくぐって中へと入った。
ジルゼの背後で、扉の閉まる音が静かに響いた。
屋敷の中は、長い間掃除していないような、ゴミか何かを放置しているようなすえた匂いが充満していた。
ジルゼは顔をしかめ、思わず鼻と口を片手で覆った。
アスランとイーリアも同じように鼻と口を押さえ、不快そうな顔をしている。
だが、雷砂は違った。難しい顔をして、周囲の匂いを嗅いでいた。
こんな嫌な匂いを嗅いで、気持ち悪くならないのだろうか?ーそんなことを思いながら雷砂の横顔を見ていると、不意に雷砂がジルゼの方を振り向いた。
「この家に住んでいたのは、村長だけか?」
「いや、村長の息子がいるはずだよ。僕より3歳、年上の」
雷砂の問いに、ジルゼより先にアスランが答える。
確かめるように雷砂がジルゼを見たので、ジルゼも頷きを返した。
そう、この屋敷には村長の一人息子も住んでいるはずだ。
もう、ずいぶん長いこと顔を見ていないが、元気だろうか。彼は身体が弱く、いつも病気ばかりしていた。
最後に会ったのはいつだったか。
確か、村長がおかしくなり始める少し前。霧が村を覆う、しばらく前の事だった。
「その息子に、最後に会ったのはいつだ?そいつの姿を見たのは?」
「彼は身体が弱くて滅多に外に出なかったから。僕が会ったのはもう1年以上前だと思う」
言いながら、アスランがちらりとジルゼを見た。自分から雷砂に話した方がいいと、促すように。
ジルゼは小さく頷き、雷砂を見た。
「私は、1ヶ月以上前に。霧が村を覆った頃より前に会ったのが、最後です」
「ジルゼは村長の息子の世話役だったんだろう?なぜそんなに長く会ってないんだ」
「村長に、不要だと断られたんですよ。息子に世話役はもう必要ないと。代わりに色々便利に使われるようになりましたけど」
自嘲するように、ジルゼは笑った。
村長の息子の世話役という職を追われ、ジルゼは村長の便利屋となったのだ。
「そうか、1ヶ月以上前か・・・・・・」
1人つぶやき、雷砂は歩を進めていく。行くべき場所はもう分かっているとでも言うように。
だんだんと、匂いがきつくなっていく。目にも染みるほどの匂いだ。
不意に、雷砂が足を止めた。
「ここから先は来なくてもいい。オレの予想通りなら・・・・・・この匂いからすると確実だとは思うけど、見て気持ちのいいものじゃないと思うから」
アスランとイーリアは顔を見合わせ足を止めた。2人はここに残るようだ。
雷砂の目が、ジルゼを見る。お前はどうする、と問いかけるように。
ゴクリとつばを飲み込んで、ジルゼは足を踏み出した。
何となく、行かなければいけないような気がした。ただ、なんとなく。
雷砂はゆっくりと歩く。ジルゼを先導するように。
そして、ある扉の前で足を止めた。
そこは、ジルゼがいつも通っていた部屋だった。
その部屋には病弱な少年がいて、彼はいつもジルゼの訪問を心待ちにしていた。
優しい、少年だった。
本当はもっと同年代の相手とも遊びたかったはずだ。
だが、自分を心配する父の事を思って我慢していた。
優しすぎるくらいに優しい彼が、ジルゼはとても好きだったのだ。村長にもう会いに来るなと突っぱねられた時、くってかかるくらいには。
だが、結局は納得し、ジルゼは彼に会いに来る事を止めた。
それは間違いだったのだろうかージルゼは変わり果ててしまった部屋の中を、その主を見つめながら思う。
あの時、村長になんと言われようとも彼に会いに来ていたら何かは変わっていたのだろうか、と。
部屋の主は、ジルゼが大好きだった少年は、いつものようにベッドの中にひっそり眠っていた。
以前とは似ても似つかぬ姿で。永遠に目覚めぬまま。
亡くなってから、もう随分たつのだろう。彼の身体はすっかり白骨と化していた。
亡くなったまま、ずっと放置されていたに違いない。彼の身を包む布団は変色し、ひどい匂いを放っている。
「アジオン様、随分長いこと、ご無沙汰をしておりました」
ジルゼはベッドに歩み寄り、彼のすっかり細くなってしまった手を取った。
白い小さな骨が、手のすき間から床へ落ちていく。
ジルゼはそれを拾い集め、手の中に大切に握り込む。
(ジルゼ、久しぶりだね。また、村の出来事を話してくれるかい?)
そんな少年の優しげな声が聞こえた気がした。
だが、それは幻聴だ。もう2度と、彼の声を聞くことは出来ない。
ジルゼの頬を涙が伝った。次から次へと、止まることなく。
世話役を解かれてから、村長の言うなりに色々な事をした。人の道に外れたことも。
正直、悪いことをするのは気持ちの良いことではなかった。
だが、無理矢理に手伝わされたのだと自分に言い聞かせ、今の今まで本当に後悔してはいなかった。
仕方がなかったのだと、自分を信じ込ませてきた。
だが今、ジルゼは後悔していた。
もう2度と息子に会いに来るなと言った村長の言葉の奥にある想いを、その言葉を言わせた出来事を、なぜ推測する事が出来なかったのか。
なぜ、自分を追い返そうとする村長を振り切って彼に会いに来なかったのだろう。
そうすれば、もしかしたら彼の最後の瞬間に側に居てあげることが出来たのかもしれないのに。
ジルゼの肩に、小さな手が乗った。
「優しい、子だったんですよ。私は、彼が大好きでした」
振り返らず、独り言の様に小さく呟く。
「うん」
「こんな風に、朽ちさせていいはずがない。どうして、こんな」
「後で、一緒に埋葬してやろう。だけど、その前にやる事がある」
その言葉に、ジルゼは濡れた顔を上げて雷砂を見た。
彼を弔うこと以外に、何をすることがあるというのか。
「そいつはきっと、父親が好きだったんだろう?」
「・・・・・・ええ」
村長は厳格で、決して優しいとは言い難い父親だった。
だが、彼は父親を慕っていた。愛していたのだ。
「なら、その父親にこれ以上の悪事を働かせちゃダメだろ。ジルゼ、彼の代わりにお前が一緒に来て止める手伝いをしてくれ」
ジルゼは泣き濡れた顔を、再びベッドの上の少年へと向けた。
雷砂の言う通りだ。
優しい彼は、死してなお、道を踏み外した父親の悪行に心を痛めているに違いない。
「そう、ですね。もう、こんな事は終わりにしないと」
自分に言い聞かせるようにそう言って、ジルゼはゆっくりと立ち上がった。
最後にじっと、ベッドの上の物言わぬ躯を見つめ、静かに背を向ける。
そして、雷砂を見つめた。
「行きましょう。村長は、恐らく裏山の狩猟小屋に居るはずです。私が、案内します」
「ああ、頼む。ありがとう、ジルゼ」
ジルゼの決意と言葉に、雷砂は頷き礼を言う。
ジルゼは小さく首を振り、部屋を出ていく雷砂の背を追った。
部屋を出ていくその瞬間、
(ありがとう、ジルゼ)
そんな少年の声が聞こえたのは、やはり幻聴だったのだろうか。
懐かしい優しげな響きの声に、ジルゼは泣き笑いの様な顔をし、雷砂の歩調に遅れぬよう、その背中をただ追いかけた。
リインは付いて来たがったが、何とか説得して置いてきた。
流石の雷砂も、セイラとリイン、守るべき相手を2人抱えての戦闘は厳しいと思ったからだ。
イルサーダに加え、ジェドとアジェスもリインの護衛として残ってもらう。
もし次に人質として狙われるとしたら彼女だろうと思ったから。
ジェドは付いてきたそうだったが、やはり遠慮して貰った。
リインやセイラよりも力があるし、そこそこ戦えるだろうが、やはり雷砂から見るとジェドも守るべき対象になのだ。それくらいの、力の差がある。
それに、これから行く場所には妙な力を持つ存在がいるはずだ。
その相手には、ジェドの攻撃など効かない可能性が高い。無用な危険を冒させる訳にはいかなかった。
ジルゼは、肩を落とし悄然として3人の前を歩いていた。
もう抵抗する気力は無い。
もともと、自分から望んで村長に手を貸していたわけでもないのだ。様々なしがらみから、仕方なく従っていただけ。
それでも最初の頃はそれ程抵抗も無かった。疑問を感じ始めたのは、アスランの母親を無理矢理拉致した頃から。
ジルゼは直接手を下さなかったが、ドアの向こうから聞こえてくる悲痛な悲鳴が今でも耳の奥に残っていた。
あんな事、してはいけなかったのだ。
だが、ジルゼに村長を止める事は出来ず、ずるずると従ってきてしまった。
この事は、いずれ村中に知れ渡るだろう。
巫女と守り神を殺した村長の悪行、そしてそれに黙って協力した者達の存在と共に。
そしてその協力者の中にはジルゼも含まれる。
そうなれば、村の中でのジルゼの立場は地に落ちるだろう。
大した立場など元々ありはしなかったが、それでも村人達から蔑みの目で見られることを思うと、心は際限なく落ち込んでいった。
そんなことを考えている内に、気が付けば村長の屋敷の扉の前に来ていた。
ジルゼは重い手を持ち上げて、しっかりとした立て付けの扉の取っ手を掴んでそっと引く。恐らく鍵がかかっているだろうと思いながら。
だが、予想に反して扉は軽い反動と共に大きく開かれた。鍵がかかってなかったのだ。
どうするのかと、雷砂を振り返ると、
「よし、入ってみよう」
そういって、スタスタと室内に入って行ってしまった。
アスランとイーリアも顔を見合わせ小さく頷くと、雷砂に続いて屋敷の中へと入っていく。
ジルゼは1人取り残され、どうしようかと考えたものの、今更彼らに逆らっても仕方ないと小さく首を振り、ゆっくりと扉をくぐって中へと入った。
ジルゼの背後で、扉の閉まる音が静かに響いた。
屋敷の中は、長い間掃除していないような、ゴミか何かを放置しているようなすえた匂いが充満していた。
ジルゼは顔をしかめ、思わず鼻と口を片手で覆った。
アスランとイーリアも同じように鼻と口を押さえ、不快そうな顔をしている。
だが、雷砂は違った。難しい顔をして、周囲の匂いを嗅いでいた。
こんな嫌な匂いを嗅いで、気持ち悪くならないのだろうか?ーそんなことを思いながら雷砂の横顔を見ていると、不意に雷砂がジルゼの方を振り向いた。
「この家に住んでいたのは、村長だけか?」
「いや、村長の息子がいるはずだよ。僕より3歳、年上の」
雷砂の問いに、ジルゼより先にアスランが答える。
確かめるように雷砂がジルゼを見たので、ジルゼも頷きを返した。
そう、この屋敷には村長の一人息子も住んでいるはずだ。
もう、ずいぶん長いこと顔を見ていないが、元気だろうか。彼は身体が弱く、いつも病気ばかりしていた。
最後に会ったのはいつだったか。
確か、村長がおかしくなり始める少し前。霧が村を覆う、しばらく前の事だった。
「その息子に、最後に会ったのはいつだ?そいつの姿を見たのは?」
「彼は身体が弱くて滅多に外に出なかったから。僕が会ったのはもう1年以上前だと思う」
言いながら、アスランがちらりとジルゼを見た。自分から雷砂に話した方がいいと、促すように。
ジルゼは小さく頷き、雷砂を見た。
「私は、1ヶ月以上前に。霧が村を覆った頃より前に会ったのが、最後です」
「ジルゼは村長の息子の世話役だったんだろう?なぜそんなに長く会ってないんだ」
「村長に、不要だと断られたんですよ。息子に世話役はもう必要ないと。代わりに色々便利に使われるようになりましたけど」
自嘲するように、ジルゼは笑った。
村長の息子の世話役という職を追われ、ジルゼは村長の便利屋となったのだ。
「そうか、1ヶ月以上前か・・・・・・」
1人つぶやき、雷砂は歩を進めていく。行くべき場所はもう分かっているとでも言うように。
だんだんと、匂いがきつくなっていく。目にも染みるほどの匂いだ。
不意に、雷砂が足を止めた。
「ここから先は来なくてもいい。オレの予想通りなら・・・・・・この匂いからすると確実だとは思うけど、見て気持ちのいいものじゃないと思うから」
アスランとイーリアは顔を見合わせ足を止めた。2人はここに残るようだ。
雷砂の目が、ジルゼを見る。お前はどうする、と問いかけるように。
ゴクリとつばを飲み込んで、ジルゼは足を踏み出した。
何となく、行かなければいけないような気がした。ただ、なんとなく。
雷砂はゆっくりと歩く。ジルゼを先導するように。
そして、ある扉の前で足を止めた。
そこは、ジルゼがいつも通っていた部屋だった。
その部屋には病弱な少年がいて、彼はいつもジルゼの訪問を心待ちにしていた。
優しい、少年だった。
本当はもっと同年代の相手とも遊びたかったはずだ。
だが、自分を心配する父の事を思って我慢していた。
優しすぎるくらいに優しい彼が、ジルゼはとても好きだったのだ。村長にもう会いに来るなと突っぱねられた時、くってかかるくらいには。
だが、結局は納得し、ジルゼは彼に会いに来る事を止めた。
それは間違いだったのだろうかージルゼは変わり果ててしまった部屋の中を、その主を見つめながら思う。
あの時、村長になんと言われようとも彼に会いに来ていたら何かは変わっていたのだろうか、と。
部屋の主は、ジルゼが大好きだった少年は、いつものようにベッドの中にひっそり眠っていた。
以前とは似ても似つかぬ姿で。永遠に目覚めぬまま。
亡くなってから、もう随分たつのだろう。彼の身体はすっかり白骨と化していた。
亡くなったまま、ずっと放置されていたに違いない。彼の身を包む布団は変色し、ひどい匂いを放っている。
「アジオン様、随分長いこと、ご無沙汰をしておりました」
ジルゼはベッドに歩み寄り、彼のすっかり細くなってしまった手を取った。
白い小さな骨が、手のすき間から床へ落ちていく。
ジルゼはそれを拾い集め、手の中に大切に握り込む。
(ジルゼ、久しぶりだね。また、村の出来事を話してくれるかい?)
そんな少年の優しげな声が聞こえた気がした。
だが、それは幻聴だ。もう2度と、彼の声を聞くことは出来ない。
ジルゼの頬を涙が伝った。次から次へと、止まることなく。
世話役を解かれてから、村長の言うなりに色々な事をした。人の道に外れたことも。
正直、悪いことをするのは気持ちの良いことではなかった。
だが、無理矢理に手伝わされたのだと自分に言い聞かせ、今の今まで本当に後悔してはいなかった。
仕方がなかったのだと、自分を信じ込ませてきた。
だが今、ジルゼは後悔していた。
もう2度と息子に会いに来るなと言った村長の言葉の奥にある想いを、その言葉を言わせた出来事を、なぜ推測する事が出来なかったのか。
なぜ、自分を追い返そうとする村長を振り切って彼に会いに来なかったのだろう。
そうすれば、もしかしたら彼の最後の瞬間に側に居てあげることが出来たのかもしれないのに。
ジルゼの肩に、小さな手が乗った。
「優しい、子だったんですよ。私は、彼が大好きでした」
振り返らず、独り言の様に小さく呟く。
「うん」
「こんな風に、朽ちさせていいはずがない。どうして、こんな」
「後で、一緒に埋葬してやろう。だけど、その前にやる事がある」
その言葉に、ジルゼは濡れた顔を上げて雷砂を見た。
彼を弔うこと以外に、何をすることがあるというのか。
「そいつはきっと、父親が好きだったんだろう?」
「・・・・・・ええ」
村長は厳格で、決して優しいとは言い難い父親だった。
だが、彼は父親を慕っていた。愛していたのだ。
「なら、その父親にこれ以上の悪事を働かせちゃダメだろ。ジルゼ、彼の代わりにお前が一緒に来て止める手伝いをしてくれ」
ジルゼは泣き濡れた顔を、再びベッドの上の少年へと向けた。
雷砂の言う通りだ。
優しい彼は、死してなお、道を踏み外した父親の悪行に心を痛めているに違いない。
「そう、ですね。もう、こんな事は終わりにしないと」
自分に言い聞かせるようにそう言って、ジルゼはゆっくりと立ち上がった。
最後にじっと、ベッドの上の物言わぬ躯を見つめ、静かに背を向ける。
そして、雷砂を見つめた。
「行きましょう。村長は、恐らく裏山の狩猟小屋に居るはずです。私が、案内します」
「ああ、頼む。ありがとう、ジルゼ」
ジルゼの決意と言葉に、雷砂は頷き礼を言う。
ジルゼは小さく首を振り、部屋を出ていく雷砂の背を追った。
部屋を出ていくその瞬間、
(ありがとう、ジルゼ)
そんな少年の声が聞こえたのは、やはり幻聴だったのだろうか。
懐かしい優しげな響きの声に、ジルゼは泣き笑いの様な顔をし、雷砂の歩調に遅れぬよう、その背中をただ追いかけた。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日ごろに発売となります。
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる