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第二部 旅のはじまり~水魔の村編~
水魔の村編 第三十四話
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「やだなぁ、雷砂。もしかして、怒ってる?」
そんな軽いセリフと共に、1人の青年の姿が現れた。黒い霧の渦巻く虚空から。
雷砂は、彼を睨みながら、油断なく剣を構えた。
「友人を攻撃されたんだ。怒るに決まってる」
その言葉に青年は首を傾げた。心底不思議そうに。
「や、だってその水魔の子供とはまだ会ったばかりでしょ?それに水魔の子供にひっついてるそいつ、確か雷砂を殺そうとしたよね?それでどうして友達って話になるのか、良く分からないよ。っていうか、おれとの方が、つきあい長くない?」
「友達になるのに時間なんて関係ない。アスランもイーリアも、オレの友達だ。傷つける奴を、許すつもりはない」
「え~、ずっるいなぁ。じゃあさ、おれとも友達になってよ」
「無理だ。お前とは価値観が違いすぎる。・・・・・・っていうか、前に会ったときと微妙に性格が違わないか?なんていうか、ちょっと砕けすぎてるような」
「あれ?分かっちゃう?まあ、雷砂が相手だし、見破られるのも仕方ないか」
彼はへらっと笑い、雷砂はすうっと目を細めた。
「・・・・・・お前、何者だ?」
青年は笑う。瞳に少し、真面目な輝きを宿したまま。
「おれは写し身だよ。あの人の作った。もちろん能力はあの人に及ばないし、性格も少し違うかもね。おれの他に後2人いるけど、あいつ等と話しててもやっぱりちょっと違うなぁって思うし」
やけに簡単に裏をあかしてくれるな、と思いながら、まだ隠し玉があるのかと疑いながら、
「本人は、出てこないのか?」
探るように問いかける。
男は再びへらりと笑った。緊張感の欠片もない表情で。
「出てきたいけど来れないってのが正しいかもね。雷砂に手酷く振られた傷の療養中って所だよ」
その言葉に内心ほっと息をついた。
目の前の男が言うところのあの人ー本体とも言うべき存在に与えた傷が決して浅くなかった事に安堵したのだ。
あの攻撃は、あの時の雷砂にとって、まさに精一杯のものであった。
その攻撃が相手に通じ、相手にそれなりのダメージを与えられたなら、これから先、本人が回復してちょっかいを出してきても何とか戦えるに違いない。
何しろ、奴が怪我の療養をしている間に、雷砂はまだまだ強くなる予定なのだから。
「なるほどな。じゃあ、お前を倒せば一件落着ってところか?それとも後2人、倒さなきゃダメなのか?」
更に探るように尋ねると、青年は素直に首を振った。
「ここにいるのはおれだけだよ。他の兄弟は、別の所にいる」
その素直すぎる反応に、疑うべきかとしばし考える。
だがすぐに、無駄なことを考えるのはやめた。
倒すべき相手が目の前の青年1人だろうと、もし他に2人いようと、やるべき事は変わらない。
なら、考えるだけ無駄なことだと思ったのだ。
「色々情報を教えてくれて助かった。じゃあ、そろそろ始めるか」
雷砂は剣の切っ先を、青年へと定めた。
彼は困ったように雷砂を見つめ、ほんのり苦笑して、
「ねえ、本当に戦うの?出来れば雷砂と戦いたくないんだけどなぁ」
「戦う以外にこの場を納めるいい方法があるなら、オレの方が教えて貰いたいところだな」
雷砂の敵意を削ぐようなそんな言葉に、雷砂は呆れたように問う。
なんといっても目の前の青年は明確な敵なのだ。
彼の作った罠に雷砂はまんまと引き込まれ、周囲の者をこうして危険にさらしている。
彼を許すわけにはいかなかった。
許せば相手はきっと同じ事を繰り返し、また罪もない人々を巻き込むことになるだろう。
それだけは、どうあっても許容出来そうになかった。
「そうだなぁ。雷砂がおれと一緒に来るなら、他の奴らは見逃すよ?水魔の子供だけは殺したかったけど、それも諦める。ねぇ、雷砂。あの人はきっと、雷砂を大切にするよ」
その言葉に、雷砂はきゅっと唇をかみしめた。
自分に執着する存在が、周囲を巻き込み、雷砂を狙っている。
雷砂が自由を望めば望むほど、周囲の人々を巻き込んでしまう事は、きっと避けられない。
自分が相手の手に落ちてしまえば、きっと今のような事は起きなくなるのだろう。
問題を引き寄せている雷砂さえ、居なくなれば。
だが、雷砂は首を縦に振ることはしなかった。
強いまなざしで目の前の青年を見つめ、無言のまま、鋭く切りかかる。
青年はそれを予想していたのか、己の魔力で作り出した黒い刀身の剣を使って危なげなく雷砂の攻撃をさばいた。
「やっぱり、ダメか」
「たぶん、お前は嘘を言ってない。だが、あの男はお前が思うより強欲だ。オレが心を残せば、その対象を殺す。オレの心を全部手に入れるために。そんな気がする。あいつがオレの外見だけで満足してくれるなら、捕らわれてやっても良い気がするけど、きっとそうはならない。だから、オレは戦うよ。巻き込んでしまう人達には申し訳ないと思う。どんなに非難されても仕方がない。けど、それでも守りたいものがあるから」
「そっか。じゃあ、仕方ないね。戦って、雷砂をぼろぼろにして、君に関わるものすべてを滅ぼしてでも、君をあの人の元へ連れて行く。それが、おれの存在意義だから」
そう言った瞬間、青年の目から感情が消えた。
彼の左手がひらめき、そこから魔力の刃が飛び出す。
雷砂は地面に転がりそれを避け、そのまま流れるように青年に迫った。
「・・・・・・やっぱり、雷砂を直接狙うのは分が悪いな」
雷砂の攻撃を剣で受けながら、ぽつりとつぶやく。
雷砂の頭がそのつぶやきを処理しきる前に、再び青年の左手から魔力の刃が複数飛んだ。
その刃の向かう先は雷砂ではなく、アスランとイーリア。
2人は、セイラ達のいる方へ向かっているところだった。
こちらに背を向け、自分たちに迫る攻撃には気づいていない。
雷砂は反射的に地面を蹴っていた。
2人と、そこへ向かう魔力の刃の間に無理矢理身体を割り込ませ、剣を振るう。
が、さばききれなかった刃が雷砂の肩口を切り裂き、鮮血が吹き出した。
雷砂はかすかに顔をしかめ、少し離れてしまった青年をみた。だが、その瞬間雷砂が顔色を失った。
彼はその左手に、再び魔力を纏わせていた。
その瞳が狙う先にいるのはセイラだ。
雷砂のまなざしに宿る恐怖に気づいた青年がニイッと笑う。
そして左手を振り下ろした。
さっきよりも数段早いスピードで、魔力の刃が飛ぶ。
雷砂は奥歯を噛みしめた。
自分の足では間に合いそうにないーそう悟った瞬間、雷砂は右手に握りしめた唯一の武器を手放した。
剣を握る腕を振りかぶり、思い切り振りぬいて叫ぶ。
「ロウ、護れ!!」
剣は空中で、見慣れた巨狼の姿になった。
その牙が、複数の魔力の刃をかみ砕く。
だが、その牙からも逃れた数本の刃がセイラに向かって飛び続けていた。
もう、雷砂もロウも間に合わない。
「セイラぁぁー!!!」
逃げてくれと、一縷の望みをかけて叫ぶ。
自分に向かう凶悪な暴力に、セイラが目を見開くのが見えた気がした。
実際には遠すぎて見えない。ただ、そう思っただけだ。
やめてくれー雷砂は心の中で願う。自分から、彼女を奪わないでくれ、と。
刃が迫る。
間に合わないのは分かっていた。それでも雷砂は必死に駆けた。
しかし、雷砂の見ているその前で、無常にも刃はセイラの命を刈り取ろうとしていた。
だが、その命が刈り取られようとするその瞬間、その前に何かが立ちふさがり、セイラの姿を隠した。
刃は本来の標的とは違う存在へと突き刺さり、その右腕を切り飛ばし、その背に、足に、浅くはない傷を負わせ、その存在意義を追えた。
傷を負わせた刃は宙に溶け、傷口から血が噴き出す。
倒れる寸前、彼は雷砂の方を見ていた。セイラを守ったのは、ジルゼだった。
彼は雷砂にむかって微かに微笑み、そして力なく地に伏した。
そんな軽いセリフと共に、1人の青年の姿が現れた。黒い霧の渦巻く虚空から。
雷砂は、彼を睨みながら、油断なく剣を構えた。
「友人を攻撃されたんだ。怒るに決まってる」
その言葉に青年は首を傾げた。心底不思議そうに。
「や、だってその水魔の子供とはまだ会ったばかりでしょ?それに水魔の子供にひっついてるそいつ、確か雷砂を殺そうとしたよね?それでどうして友達って話になるのか、良く分からないよ。っていうか、おれとの方が、つきあい長くない?」
「友達になるのに時間なんて関係ない。アスランもイーリアも、オレの友達だ。傷つける奴を、許すつもりはない」
「え~、ずっるいなぁ。じゃあさ、おれとも友達になってよ」
「無理だ。お前とは価値観が違いすぎる。・・・・・・っていうか、前に会ったときと微妙に性格が違わないか?なんていうか、ちょっと砕けすぎてるような」
「あれ?分かっちゃう?まあ、雷砂が相手だし、見破られるのも仕方ないか」
彼はへらっと笑い、雷砂はすうっと目を細めた。
「・・・・・・お前、何者だ?」
青年は笑う。瞳に少し、真面目な輝きを宿したまま。
「おれは写し身だよ。あの人の作った。もちろん能力はあの人に及ばないし、性格も少し違うかもね。おれの他に後2人いるけど、あいつ等と話しててもやっぱりちょっと違うなぁって思うし」
やけに簡単に裏をあかしてくれるな、と思いながら、まだ隠し玉があるのかと疑いながら、
「本人は、出てこないのか?」
探るように問いかける。
男は再びへらりと笑った。緊張感の欠片もない表情で。
「出てきたいけど来れないってのが正しいかもね。雷砂に手酷く振られた傷の療養中って所だよ」
その言葉に内心ほっと息をついた。
目の前の男が言うところのあの人ー本体とも言うべき存在に与えた傷が決して浅くなかった事に安堵したのだ。
あの攻撃は、あの時の雷砂にとって、まさに精一杯のものであった。
その攻撃が相手に通じ、相手にそれなりのダメージを与えられたなら、これから先、本人が回復してちょっかいを出してきても何とか戦えるに違いない。
何しろ、奴が怪我の療養をしている間に、雷砂はまだまだ強くなる予定なのだから。
「なるほどな。じゃあ、お前を倒せば一件落着ってところか?それとも後2人、倒さなきゃダメなのか?」
更に探るように尋ねると、青年は素直に首を振った。
「ここにいるのはおれだけだよ。他の兄弟は、別の所にいる」
その素直すぎる反応に、疑うべきかとしばし考える。
だがすぐに、無駄なことを考えるのはやめた。
倒すべき相手が目の前の青年1人だろうと、もし他に2人いようと、やるべき事は変わらない。
なら、考えるだけ無駄なことだと思ったのだ。
「色々情報を教えてくれて助かった。じゃあ、そろそろ始めるか」
雷砂は剣の切っ先を、青年へと定めた。
彼は困ったように雷砂を見つめ、ほんのり苦笑して、
「ねえ、本当に戦うの?出来れば雷砂と戦いたくないんだけどなぁ」
「戦う以外にこの場を納めるいい方法があるなら、オレの方が教えて貰いたいところだな」
雷砂の敵意を削ぐようなそんな言葉に、雷砂は呆れたように問う。
なんといっても目の前の青年は明確な敵なのだ。
彼の作った罠に雷砂はまんまと引き込まれ、周囲の者をこうして危険にさらしている。
彼を許すわけにはいかなかった。
許せば相手はきっと同じ事を繰り返し、また罪もない人々を巻き込むことになるだろう。
それだけは、どうあっても許容出来そうになかった。
「そうだなぁ。雷砂がおれと一緒に来るなら、他の奴らは見逃すよ?水魔の子供だけは殺したかったけど、それも諦める。ねぇ、雷砂。あの人はきっと、雷砂を大切にするよ」
その言葉に、雷砂はきゅっと唇をかみしめた。
自分に執着する存在が、周囲を巻き込み、雷砂を狙っている。
雷砂が自由を望めば望むほど、周囲の人々を巻き込んでしまう事は、きっと避けられない。
自分が相手の手に落ちてしまえば、きっと今のような事は起きなくなるのだろう。
問題を引き寄せている雷砂さえ、居なくなれば。
だが、雷砂は首を縦に振ることはしなかった。
強いまなざしで目の前の青年を見つめ、無言のまま、鋭く切りかかる。
青年はそれを予想していたのか、己の魔力で作り出した黒い刀身の剣を使って危なげなく雷砂の攻撃をさばいた。
「やっぱり、ダメか」
「たぶん、お前は嘘を言ってない。だが、あの男はお前が思うより強欲だ。オレが心を残せば、その対象を殺す。オレの心を全部手に入れるために。そんな気がする。あいつがオレの外見だけで満足してくれるなら、捕らわれてやっても良い気がするけど、きっとそうはならない。だから、オレは戦うよ。巻き込んでしまう人達には申し訳ないと思う。どんなに非難されても仕方がない。けど、それでも守りたいものがあるから」
「そっか。じゃあ、仕方ないね。戦って、雷砂をぼろぼろにして、君に関わるものすべてを滅ぼしてでも、君をあの人の元へ連れて行く。それが、おれの存在意義だから」
そう言った瞬間、青年の目から感情が消えた。
彼の左手がひらめき、そこから魔力の刃が飛び出す。
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「・・・・・・やっぱり、雷砂を直接狙うのは分が悪いな」
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その刃の向かう先は雷砂ではなく、アスランとイーリア。
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雷砂は反射的に地面を蹴っていた。
2人と、そこへ向かう魔力の刃の間に無理矢理身体を割り込ませ、剣を振るう。
が、さばききれなかった刃が雷砂の肩口を切り裂き、鮮血が吹き出した。
雷砂はかすかに顔をしかめ、少し離れてしまった青年をみた。だが、その瞬間雷砂が顔色を失った。
彼はその左手に、再び魔力を纏わせていた。
その瞳が狙う先にいるのはセイラだ。
雷砂のまなざしに宿る恐怖に気づいた青年がニイッと笑う。
そして左手を振り下ろした。
さっきよりも数段早いスピードで、魔力の刃が飛ぶ。
雷砂は奥歯を噛みしめた。
自分の足では間に合いそうにないーそう悟った瞬間、雷砂は右手に握りしめた唯一の武器を手放した。
剣を握る腕を振りかぶり、思い切り振りぬいて叫ぶ。
「ロウ、護れ!!」
剣は空中で、見慣れた巨狼の姿になった。
その牙が、複数の魔力の刃をかみ砕く。
だが、その牙からも逃れた数本の刃がセイラに向かって飛び続けていた。
もう、雷砂もロウも間に合わない。
「セイラぁぁー!!!」
逃げてくれと、一縷の望みをかけて叫ぶ。
自分に向かう凶悪な暴力に、セイラが目を見開くのが見えた気がした。
実際には遠すぎて見えない。ただ、そう思っただけだ。
やめてくれー雷砂は心の中で願う。自分から、彼女を奪わないでくれ、と。
刃が迫る。
間に合わないのは分かっていた。それでも雷砂は必死に駆けた。
しかし、雷砂の見ているその前で、無常にも刃はセイラの命を刈り取ろうとしていた。
だが、その命が刈り取られようとするその瞬間、その前に何かが立ちふさがり、セイラの姿を隠した。
刃は本来の標的とは違う存在へと突き刺さり、その右腕を切り飛ばし、その背に、足に、浅くはない傷を負わせ、その存在意義を追えた。
傷を負わせた刃は宙に溶け、傷口から血が噴き出す。
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