龍は暁に啼く

高嶺 蒼

文字の大きさ
137 / 248
第二部 旅のはじまり~水魔の村編~

水魔の村編 第三十四話

しおりを挟む
 「やだなぁ、雷砂。もしかして、怒ってる?」


 そんな軽いセリフと共に、1人の青年の姿が現れた。黒い霧の渦巻く虚空から。
 雷砂は、彼を睨みながら、油断なく剣を構えた。


 「友人を攻撃されたんだ。怒るに決まってる」


 その言葉に青年は首を傾げた。心底不思議そうに。


 「や、だってその水魔の子供とはまだ会ったばかりでしょ?それに水魔の子供にひっついてるそいつ、確か雷砂を殺そうとしたよね?それでどうして友達って話になるのか、良く分からないよ。っていうか、おれとの方が、つきあい長くない?」

 「友達になるのに時間なんて関係ない。アスランもイーリアも、オレの友達だ。傷つける奴を、許すつもりはない」

 「え~、ずっるいなぁ。じゃあさ、おれとも友達になってよ」

 「無理だ。お前とは価値観が違いすぎる。・・・・・・っていうか、前に会ったときと微妙に性格が違わないか?なんていうか、ちょっと砕けすぎてるような」

 「あれ?分かっちゃう?まあ、雷砂が相手だし、見破られるのも仕方ないか」


 彼はへらっと笑い、雷砂はすうっと目を細めた。


 「・・・・・・お前、何者だ?」


 青年は笑う。瞳に少し、真面目な輝きを宿したまま。


 「おれは写し身だよ。あの人の作った。もちろん能力はあの人に及ばないし、性格も少し違うかもね。おれの他に後2人いるけど、あいつ等と話しててもやっぱりちょっと違うなぁって思うし」


 やけに簡単に裏をあかしてくれるな、と思いながら、まだ隠し玉があるのかと疑いながら、


 「本人は、出てこないのか?」


 探るように問いかける。
 男は再びへらりと笑った。緊張感の欠片もない表情で。


 「出てきたいけど来れないってのが正しいかもね。雷砂に手酷く振られた傷の療養中って所だよ」


 その言葉に内心ほっと息をついた。
 目の前の男が言うところのあの人ー本体とも言うべき存在に与えた傷が決して浅くなかった事に安堵したのだ。

 あの攻撃は、あの時の雷砂にとって、まさに精一杯のものであった。
 その攻撃が相手に通じ、相手にそれなりのダメージを与えられたなら、これから先、本人が回復してちょっかいを出してきても何とか戦えるに違いない。
 何しろ、奴が怪我の療養をしている間に、雷砂はまだまだ強くなる予定なのだから。


 「なるほどな。じゃあ、お前を倒せば一件落着ってところか?それとも後2人、倒さなきゃダメなのか?」


 更に探るように尋ねると、青年は素直に首を振った。


 「ここにいるのはおれだけだよ。他の兄弟は、別の所にいる」


 その素直すぎる反応に、疑うべきかとしばし考える。
 だがすぐに、無駄なことを考えるのはやめた。
 倒すべき相手が目の前の青年1人だろうと、もし他に2人いようと、やるべき事は変わらない。
 なら、考えるだけ無駄なことだと思ったのだ。


 「色々情報を教えてくれて助かった。じゃあ、そろそろ始めるか」


 雷砂は剣の切っ先を、青年へと定めた。
 彼は困ったように雷砂を見つめ、ほんのり苦笑して、


 「ねえ、本当に戦うの?出来れば雷砂と戦いたくないんだけどなぁ」

 「戦う以外にこの場を納めるいい方法があるなら、オレの方が教えて貰いたいところだな」


 雷砂の敵意を削ぐようなそんな言葉に、雷砂は呆れたように問う。
 なんといっても目の前の青年は明確な敵なのだ。
 彼の作った罠に雷砂はまんまと引き込まれ、周囲の者をこうして危険にさらしている。

 彼を許すわけにはいかなかった。
 許せば相手はきっと同じ事を繰り返し、また罪もない人々を巻き込むことになるだろう。
 それだけは、どうあっても許容出来そうになかった。


 「そうだなぁ。雷砂がおれと一緒に来るなら、他の奴らは見逃すよ?水魔の子供だけは殺したかったけど、それも諦める。ねぇ、雷砂。あの人はきっと、雷砂を大切にするよ」


 その言葉に、雷砂はきゅっと唇をかみしめた。
 自分に執着する存在が、周囲を巻き込み、雷砂を狙っている。
 雷砂が自由を望めば望むほど、周囲の人々を巻き込んでしまう事は、きっと避けられない。
 自分が相手の手に落ちてしまえば、きっと今のような事は起きなくなるのだろう。
 問題を引き寄せている雷砂さえ、居なくなれば。

 だが、雷砂は首を縦に振ることはしなかった。
 強いまなざしで目の前の青年を見つめ、無言のまま、鋭く切りかかる。
 青年はそれを予想していたのか、己の魔力で作り出した黒い刀身の剣を使って危なげなく雷砂の攻撃をさばいた。


 「やっぱり、ダメか」

 「たぶん、お前は嘘を言ってない。だが、あの男はお前が思うより強欲だ。オレが心を残せば、その対象を殺す。オレの心を全部手に入れるために。そんな気がする。あいつがオレの外見だけで満足してくれるなら、捕らわれてやっても良い気がするけど、きっとそうはならない。だから、オレは戦うよ。巻き込んでしまう人達には申し訳ないと思う。どんなに非難されても仕方がない。けど、それでも守りたいものがあるから」

 「そっか。じゃあ、仕方ないね。戦って、雷砂をぼろぼろにして、君に関わるものすべてを滅ぼしてでも、君をあの人の元へ連れて行く。それが、おれの存在意義だから」


 そう言った瞬間、青年の目から感情が消えた。
 彼の左手がひらめき、そこから魔力の刃が飛び出す。
 雷砂は地面に転がりそれを避け、そのまま流れるように青年に迫った。


 「・・・・・・やっぱり、雷砂を直接狙うのは分が悪いな」


 雷砂の攻撃を剣で受けながら、ぽつりとつぶやく。
 雷砂の頭がそのつぶやきを処理しきる前に、再び青年の左手から魔力の刃が複数飛んだ。
 その刃の向かう先は雷砂ではなく、アスランとイーリア。
 2人は、セイラ達のいる方へ向かっているところだった。
 こちらに背を向け、自分たちに迫る攻撃には気づいていない。

 雷砂は反射的に地面を蹴っていた。
 2人と、そこへ向かう魔力の刃の間に無理矢理身体を割り込ませ、剣を振るう。
 が、さばききれなかった刃が雷砂の肩口を切り裂き、鮮血が吹き出した。

 雷砂はかすかに顔をしかめ、少し離れてしまった青年をみた。だが、その瞬間雷砂が顔色を失った。
 彼はその左手に、再び魔力を纏わせていた。
 その瞳が狙う先にいるのはセイラだ。

 雷砂のまなざしに宿る恐怖に気づいた青年がニイッと笑う。
 そして左手を振り下ろした。
 さっきよりも数段早いスピードで、魔力の刃が飛ぶ。

 雷砂は奥歯を噛みしめた。
 自分の足では間に合いそうにないーそう悟った瞬間、雷砂は右手に握りしめた唯一の武器を手放した。
 剣を握る腕を振りかぶり、思い切り振りぬいて叫ぶ。


 「ロウ、護れ!!」


 剣は空中で、見慣れた巨狼の姿になった。
 その牙が、複数の魔力の刃をかみ砕く。
 だが、その牙からも逃れた数本の刃がセイラに向かって飛び続けていた。
 もう、雷砂もロウも間に合わない。


 「セイラぁぁー!!!」


 逃げてくれと、一縷の望みをかけて叫ぶ。
 自分に向かう凶悪な暴力に、セイラが目を見開くのが見えた気がした。
 実際には遠すぎて見えない。ただ、そう思っただけだ。
 やめてくれー雷砂は心の中で願う。自分から、彼女を奪わないでくれ、と。

 刃が迫る。
 間に合わないのは分かっていた。それでも雷砂は必死に駆けた。
 しかし、雷砂の見ているその前で、無常にも刃はセイラの命を刈り取ろうとしていた。

 だが、その命が刈り取られようとするその瞬間、その前に何かが立ちふさがり、セイラの姿を隠した。
 刃は本来の標的とは違う存在へと突き刺さり、その右腕を切り飛ばし、その背に、足に、浅くはない傷を負わせ、その存在意義を追えた。
 傷を負わせた刃は宙に溶け、傷口から血が噴き出す。
 倒れる寸前、彼は雷砂の方を見ていた。セイラを守ったのは、ジルゼだった。
 彼は雷砂にむかって微かに微笑み、そして力なく地に伏した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日ごろに発売となります。 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...