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第2話 美女と涼介
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「ねぇ、どの料理がおすすめ?」
耳元で響いた少しハスキーな、女性にしては低めの落ち着いた声。
驚いて振り向けば、そこにはさっきから同級生達の視線を独り占めしている美女が涼介にぴったりとくっつくように立っていた。
遠目で見て思っていたより身長が高く、目線は涼介とほぼ同じ。
きっとヒールのある靴を履いているのだろうから、実際はぎりぎり涼介が勝っているのだろうけれど。
彼女は涼介の斜め後ろに寄り添うようにして、彼の肩越しに料理を覗き込んでいたらしい。
そんな状態で涼介が振り向いたものだから、結果、今にもキスをしそうな距離感で見詰め合う事になってしまった。
あまりの事にフリーズしてしまった涼介の顔を、恥ずかしそうなそぶりも見せずにじぃっと見つめた彼女がくすりと笑う。
決してバカにしたような笑い方ではなかったけれど、それでも自分の女慣れしてない情けない部分を見透かされたような気がして、涼介の顔に一気に血が集まった。
きっと、トマトみたいに真っ赤な顔をしているに違いない。
彼女の視線から逃れたい一心で、一歩だけ足を前に進め、僅かではあるが距離をとる。
が、それを許さないとばかりに彼女もまた前に出て、再び涼介にくっついてしまう。
背中と左腕の辺りに、自分のものではない体温と信じられないくらい柔らかな感触を感じる。
(……俺のこと、からかってんのかな?)
前を料理のテーブル、後ろを美女に挟まれて、もうどうしたらいいのか分からず、それでも彼女を無視しきれるわけもなく、涼介はちらりと自分の斜め後ろにある、信じられないくらい綺麗な顔を横目でうかがった。
それに気付いた美女がにこりと笑う。
そして、
「で?どの料理が君のおすすめなの?」
と最初の質問を繰り返してきた。
もしかしてこの質問にちゃんと答えれば、今のご褒美のような拷問のような時間は終わるのだろうか?
そこに一縷の希望を繋いだ涼介は、極力己の体に触れている柔らかな何かのことは考えないようにして、
「俺のおすすめは、これと、これと、これと……」
言いながら、丁寧に1つずつ指差して彼女の質問に答えた。
それを一々、ふむふむ、と頷きながら彼女は熱心に眺め、涼介が答え終えるとやっとその体を離してくれた。
彼女は涼介がすすめた通りに料理を取り分けると、特に何を言うでもなく涼介に背を向けて、同窓生達が集まる方へと歩き出す。
涼介は、用事がすんだら興味はないとばかりの彼女の態度に苛立つどころかむしろほっとしてその背中を見送った。
(……そりゃ、そうだな。あんな美人が、俺なんかに興味持つわけないだろ? 興味持たれたって、どうせ緊張して困るだけだろうし)
そんなことを思いながら、いくら見ていても飽きない、素晴らしいスタイルの後姿をぼーっと見るとはなしに見ていると、不意に彼女がこちらを振り向いた。
その瞳に、自分の姿を追っている涼介の姿を映して、彼女はいたずらが成功した子供のように、嬉しそうな顔をする。
そして、
「おすすめの料理、教えてくれてありがと。また、後でね。涼介」
まるで旧知の間柄のように彼の名前を呼び捨てにすると、1度見たら忘れられないような、綺麗な綺麗な笑顔で微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、涼介は思い出した。
今よりずっと若く幼かった頃。
今日と同じその笑顔を、はじめて見た日のことを。
耳元で響いた少しハスキーな、女性にしては低めの落ち着いた声。
驚いて振り向けば、そこにはさっきから同級生達の視線を独り占めしている美女が涼介にぴったりとくっつくように立っていた。
遠目で見て思っていたより身長が高く、目線は涼介とほぼ同じ。
きっとヒールのある靴を履いているのだろうから、実際はぎりぎり涼介が勝っているのだろうけれど。
彼女は涼介の斜め後ろに寄り添うようにして、彼の肩越しに料理を覗き込んでいたらしい。
そんな状態で涼介が振り向いたものだから、結果、今にもキスをしそうな距離感で見詰め合う事になってしまった。
あまりの事にフリーズしてしまった涼介の顔を、恥ずかしそうなそぶりも見せずにじぃっと見つめた彼女がくすりと笑う。
決してバカにしたような笑い方ではなかったけれど、それでも自分の女慣れしてない情けない部分を見透かされたような気がして、涼介の顔に一気に血が集まった。
きっと、トマトみたいに真っ赤な顔をしているに違いない。
彼女の視線から逃れたい一心で、一歩だけ足を前に進め、僅かではあるが距離をとる。
が、それを許さないとばかりに彼女もまた前に出て、再び涼介にくっついてしまう。
背中と左腕の辺りに、自分のものではない体温と信じられないくらい柔らかな感触を感じる。
(……俺のこと、からかってんのかな?)
前を料理のテーブル、後ろを美女に挟まれて、もうどうしたらいいのか分からず、それでも彼女を無視しきれるわけもなく、涼介はちらりと自分の斜め後ろにある、信じられないくらい綺麗な顔を横目でうかがった。
それに気付いた美女がにこりと笑う。
そして、
「で?どの料理が君のおすすめなの?」
と最初の質問を繰り返してきた。
もしかしてこの質問にちゃんと答えれば、今のご褒美のような拷問のような時間は終わるのだろうか?
そこに一縷の希望を繋いだ涼介は、極力己の体に触れている柔らかな何かのことは考えないようにして、
「俺のおすすめは、これと、これと、これと……」
言いながら、丁寧に1つずつ指差して彼女の質問に答えた。
それを一々、ふむふむ、と頷きながら彼女は熱心に眺め、涼介が答え終えるとやっとその体を離してくれた。
彼女は涼介がすすめた通りに料理を取り分けると、特に何を言うでもなく涼介に背を向けて、同窓生達が集まる方へと歩き出す。
涼介は、用事がすんだら興味はないとばかりの彼女の態度に苛立つどころかむしろほっとしてその背中を見送った。
(……そりゃ、そうだな。あんな美人が、俺なんかに興味持つわけないだろ? 興味持たれたって、どうせ緊張して困るだけだろうし)
そんなことを思いながら、いくら見ていても飽きない、素晴らしいスタイルの後姿をぼーっと見るとはなしに見ていると、不意に彼女がこちらを振り向いた。
その瞳に、自分の姿を追っている涼介の姿を映して、彼女はいたずらが成功した子供のように、嬉しそうな顔をする。
そして、
「おすすめの料理、教えてくれてありがと。また、後でね。涼介」
まるで旧知の間柄のように彼の名前を呼び捨てにすると、1度見たら忘れられないような、綺麗な綺麗な笑顔で微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、涼介は思い出した。
今よりずっと若く幼かった頃。
今日と同じその笑顔を、はじめて見た日のことを。
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