最強の建築家 ~ゲーム世界を探訪したかっただけなのに、トラウマを掘り起こしてくるから本気を……出したくない!~

まじつし

文字の大きさ
30 / 33
第0章 神話に残る能力で

魔王

しおりを挟む
 ルグトニア聖王国の議場は紛糾していた。
 王国を支える地方自治組織たる小国を治めている貴族たちは、普段自分の領内では見せることのできない怒りや不安を、隠そうとすらしなかった。

 そして何より、本来これをいさめるべき立場の聖王が不在だった。

「聖王猊下は、まだ『狩り』から戻られぬのか……」

 時が経ち白髪となったオタラ侯爵が、がさついた声で言う。
 十数人いる貴族の中で最も年齢を重ねているように見えるが、それは彼が人間であるからだ。

「お年を召しましたな、オタラ侯爵。『猊下には猊下のお考えがある』。私どもが狼狽したとき、あなたはいつもそうやってお諫めになったではありませんか」
「しかし、このままではルグトニア聖王国の存続が……!」

 オタラの隣に座り、いさめるベリス子爵はエルフ族である。

「お世継ぎは、こちらにおいでになられないのですか? 早めに顔見せをしておいても、問題ないと思いますが」
「……私に倅はおらん」
「ああ、これは失礼」

 嫌味たらしくつぶやく。彼はオタラが長年子宝に恵まれなかったことを知っていた。
 ベリスの一族に伝わる「子を授かる秘薬」なるものを贈ったこともあるくらいだ。

「……ベリス卿。貴殿がどうしてそう落ち着いていられるのか、ぜひその訳を知りたいところですな」
「やめておきましょう、オタラ侯爵」

 背の低い、けれど恰幅のいい若い男が、オタラの横でつぶやいた。

「……ふふ。御父上は喧嘩っ早くて直情的な男だったが……」

 それは、ずっとベリスと因縁の争いを続けていたイワノフの息子である。寿命の短いドワーフ族は、世代交代も多い。ベリスとは特に、先代のイワノフ卿の、さらに父の代から、犬猿の仲といえる。

「あまり、御父上に似ないほうがいいですよ、イワノフ卿」

 イワノフはじっとベリスを見て、「ご忠告どうも」と、ドワーフ族とは到底思えない紳士な挨拶をして、オタラに顔を向けた。

「……オタラ侯爵、あなたの領で『残滓』は見つかりましたか」
「いいや、ようやく存在の手がかりを得た程度だ。そちらこそ、御父上の代に作っていたはずの『炎舞<エンブ>』の改良は」

 イワノフは頭を横に振る。

「やはり、機構の解明と複製まではできても、それを超えるようなことは……」
「……神は、どうしてこうも我々に試練を与えるのか」

 オタラが天を仰ぐ。
 んんっ、と小さく咳払いをして、ベリスが割って入る。

「我が領内で発見された、切れ味の落ちない玉鋼の剣は――」
「すでに量産体制に入った、でしょう。父上から耳がもげるほど聞かされています。エルフ族の感覚は我々と異なりすぎる」

 イワノフの白い眼とため息が、ベリスの自慢を粉砕する。

「相手は帝国と称する謎の集団……これまで深い森や洞窟に入らねば見つからなかった魔獣を呼び寄せ、意のままに操るという。加えて、最近では空を飛ぶ城まで手に入れたと……もはや、相手はお伽噺の『魔王』です」

 イワノフが、呆れた顔でベリスを見た。

「魔王相手に剣がどこまで通用するとお考えですか」
「……確かに、そうですね。うん、そうだ、そうだ」

 ベリスが張り付いた笑みを浮かべる。

「さすが『量より質』のイワノフ家。さぞその炎舞とやらは実戦で役立っておられるのでしょうなあ」
「私どもは健全な外交体制を築いておりますので。ベリス卿のように実戦経験があるわけではなく、お恥ずかしい限りです」
「やめぬか! ……はァ」

 オタラの声には、もう往時の張りはない。
 自身の領地継承問題だけでも頭が痛いのに、聖王国自体の存続も危ぶまれる事態になるとは。

「聖王猊下……!」

 このような時に、どこで何をやっておられるのですか……。

 テーブルに肘を付き、首を垂れる。

 この3人は……正確には、ベリスとイワノフは、貴族たちの集まりの中でも特別に相性の悪い組み合わせであったことは間違いない。
 しかし、オタラに余裕がなくなっている通り、ほかの古参貴族たちもみな、自国領内の諸問題と同時に、聖王国の体制維持にかかる問題を背負い、ぴりついていた。
 すべてをひっくり返せるような、新しい『神の残滓』が必要だ。
 帝国に対抗できる、圧倒的な戦力が。

 帝国の脅威が顕在化した3年ほど前から、聖王の名の元に、領内をくまなく探しつくしている。
 もはや、これ以上の『神の残滓』を自国領内から見つけ出すのは不可能だろう。

 だからこそ本来の今日の議題は、「危険地帯での『神の残滓』捜索をすべきか否か」であった。

「しかし、聖王猊下は、こんな時に神頼みですかぁ。こりゃ、ルグトニアもおしまいですな」

 どこかから、怒りの混じった声が聞こえた。
 その瞬間、議場がしんと静まり返る。

「……誰ですか、今そのようなことを仰ったのは」

 オタラはよろよろと立ち上がり、議場を見回した。
 多くのものが、視線をそらしている。

「聖王猊下のご不在は、確かに不安です……しかし、神事もまた猊下のご公務……ましてや、国家の終焉など……口を慎みなさい」

 そう言いながら、オタラもまた、まったく同じ不安を抱えていた。
 もしここが自宅で、ここにいるのが自分の家族なら、「その気持ちは痛いほど分かるぞ」と同調していたかもしれない。

 誰もオタラと目を合わせないし、誰も発言者を密告しようとしない。声で、どこから聞こえたと言うことくらいは容易なはずだったのに、である。
 貴族同士の揚げ足取りは日常茶飯事だ。ましてや国が終わるとまで言ったなら、冗談であっても領地取り潰しのつるし上げは免れない。
 そして、取り潰された領地は、ここにいるほかの者たちで一時的に分割支配できることになる。
 密告しないメリットがないのだ。

 それができないということは、「俺もそう思う」と暗に告げているようなものである。

 オタラは、深く息を吐いた。
 こうなったら、『アレ』を言うしかない。それでこの愚か者たちが結束するなら……自分に楔を打って、聖王国を守れるなら……。

「……私には、世継ぎがおりません。後に猊下にお伝えするつもりではおりましたが、今回の帝国の危機が決着したら、領地を聖王国に引き渡し、代わりに一時の恩給を頂戴して、侯爵の称号も返上するつもりでおります」

 議場に、緊張が走る。
 オタラ侯爵領は、神の残滓こそ出ないものの、肥沃な大地で穀物生産量も豊富な、『ルグトニアの食物庫』とも呼ばれる地域である。
 それが王国領になる……つまり、一時的に王国に領地を返納して貴族に再分配させる気だというのだ。

「今日の議題は、魔物が多く出るような危険地帯に派兵して未発掘の『神の残滓』を捜索するべきか、であったはずです。私は――」

 もう一度、オタラは議場をぐるりと一瞥した。

「侯爵オタラの名において、ご提案します。『神の残滓』を探すべきです。現状の兵力では、魔王と化しつつある『皇帝』に、対抗する手段はありません」

 イワノフも、ベリスも、うつむいて聞いている。

「本来であれば、私が率先して兵を率いたいところですが、見ての通り、この議場に続く長階段を上がるのにも一苦労の老いぼれ……私は、足手まといに他なりません。ですから、ここにいる皆様方、その配下の兵力にお願いを申し上げたいのです。もちろん、拙領の兵もお貸しいたします」

 テーブルに手をつき、腹に力をこめた。

「常時は、小競り合いも結構。領地や『神の残滓』の自慢合戦、聖王猊下のお目を汚さねば、大いに結構。ですが、今は協力すべき時です。ルグトニア聖王国のために。皆様の、ご自身の領地を守るために。大切な、家族や領民を守るために」

 奥にいた貴族が、ゆっくりと手を挙げる。

「……猊下の聖断も必要かと」

 危険地帯とされているエリアは、聖王によって立入禁止の指定がされている。つまり、破れば『勅令違反』であり、これは重罪だ。

「……私が全責任を負いましょう。拷問でも、処刑でも、すべての罪と罰を私が負う。必要なら、ここに契約書を持ってきてもらっても構いません」

 老人のあまりの深い覚悟に、議場は再びざわついた。
 これまでルグトニア聖王国の発展に大いに寄与してきたはずのオタラ侯爵を、聖王がそう簡単に処刑するはずがない。
 もちろん、オタラ自身が処刑されたいと望むわけもないだろう。彼は領民から愛され、諸貴族からの信頼も厚い。死ぬときは国葬が、ルグトニア王都と彼の領地で、2回開かれるだろうと噂されているほどだ。

 だが、その命すら賭すという。

「魔王を打ち砕き、再びルグトニア聖王国に栄光を――!」

 オタラの一言で、分裂しかけていたルグトニア聖王国貴族たちの意志が、1つの方向性をもってまとまりはじめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...