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第二話(2)

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「ああ、すまない。脅かす積もりはなかったんだ」

 二人が声のした方向に振り向くと一人の男が立っていた。

「こんな、遺跡の片隅でこそこそしていたから、気になってね。もしかしなくてもお邪魔だったな?」

 そう言って近づいて来る男。
 いくら観光客向けに整備されている遺跡と言っても泥などで多少は汚れてしまうような環境。
 なのに目の前の男は明らかに高級そうなスーツに革の靴に身を包みんだ格好をしている。
 少なくともアーサーには遺跡には場違いな男に写っていた。

「失礼ですが、貴方は?」

 クレアが男を誰何する。

「ハハハ、大丈夫だ。少なくとも人拐いとかじゃないよ。私は政府の人間さ」

 男は笑いながら、両手を上げてみせる。

「政府!?凄い!」
「政府の方が遺跡で何をしてるんですか?あと、私たちに何か用ですか?」

 テレビのドラマなどでしか、政府を名乗るのを見たことしかないのでアーサーは少し興奮するがクレアは切れ長の眼をさらに鋭くして男に質問する。

「そんなに警戒しないでもらえるかな?確かに恋人との会瀬を邪魔したのは悪いと思ってはいるんだが」
「私たちは別に恋人というわけでは無いです!」

 男の一言にアーサーの心臓は一瞬ドクンと鼓動し、クレアは即座に否定する。
 そんなに直ぐに否定しなくてもと思ったが、確かにクレアとは転校して来てから話したのは初めてだし、そもそも何故、自分はそんな事を考えているんだとアーサーは首を降って思考を頭から追い出す。

「そうかね?いや、すまないね。そうそう、私がここにいる理由だったね。まぁ、あれだよ。ちょっとした遺跡調査だよ」
「調査、ですか?」
「そうだ。ああ、詳しいことは聞かないでくれないかい?国家機密なんだ」

 政府の男は片目を閉じておどけて言う。

「おっと、そうだった!君たち、史跡見学に来た学校の生徒さんたちだろ?」
「そうですが?」
「なら、早く駐車場に行った方が良い。さっき、君たちと同じ制服を来た子たちが駐車場に向かっていたからね」
「えっ!?」

 アーサーが腕時計に眼を落とすと時計の針は事前に決められた集合時間を5分ほど、オーバーしていた。
 話し込んでいる内にいつの間にかに時間が経っていたのだ。

「まずい!クレア、行こう!」

 アーサーは咄嗟にクレアの腕を掴むと走り出す。

「教えてくれてありがとうございます、ミスター!」

 男から少し離れて礼を言ってなかった事に気付いてアーサーは一旦止まり、男に礼を言う。

「何、大したことはないさ。また、会おう」

 男はにこやかに微笑む。
 そして、二人が十分に離れて行ったのを確認すると二人と別れた後の男の表情は笑顔という仮面を取り払いまるで感情の無い機械のようなり、ストーンヘンジへと踵を返す。
  











「アーサー、それは私にとってどうしても必要な物なの」
「・・・そうみたいだね」
「少しの間だけで良いの、レイスコープを私に貸して」

 帰りのバスから、学校に着いてから、果てには自宅に帰る道のり(確か、クレアはアーサーとは反対の方向のはずだったが)までずっとスコープを貸すようにクレアに説得され続けていた。

「う~ん。それは・・・ちょっと」
「ハァ。少しくらい、良いじゃない!貸せない理由は何なの?」

 クレアの問いにアーサーはばつが悪そうに手に持ったレイスコープを眺める。
 ストーンヘンジでは別にクレアに貸しても構わないという気持ちになっていたはずだった。
 しかし何処からか聞こえて来た、いや、聞こえたように思った声の忠告が何故だか心に残り、クレアに貸し出すことに躊躇していた。

「そうだ!こう言うのはどうかな?僕がこれを持ってクレアの手伝いをするんだ!」
「えっ?貴方が私の手伝いを?」
「そうだよ。そうしようよ!」

 アーサーの提案に難しそうな表情を浮かべて少し考え込むクレアだったが、程無くして諦めた様子でわかったわと提案を受け入れる。

「良かった!よろしく、相棒バディ
「よろしくお願いするわ。助手アシスタントさん」

 二人は契約成立とばかりに握手を交わす。

「ところでさ、クレアの目的って何なの?」

 そこでアーサーはそもそもの疑問を投げ付ける。

「そうね。私の目的は全人類の発展させる事のできる物を発明することよ」
「ハハハ。全人類って、また大きく出たな」

 不敵な笑みを浮かべて宣言するクレアにアーサーはジョークだと思って苦笑する。

「あら、私は本気よ。莫大なエネルギーの流れであるレイラインを利用すれば全人類の発展は約束されたも同じなのよ。要はレイラインエネルギーを利用出来る装置を発明するのよ!」
「そんな装置を発明できるの?」
「できるわ!装置に必要な理論はあるの!」

 力強く断言するクレアにアーサーはまだ懐疑的な視線を送る。
 
「私のお祖父様、ニコラ・テスラが理論を残して くれたの。それに実際 、お祖父様はその理論を基にレイラインの力を利用出来るタワーを開発したの。でも、装置を起動する前に戦争の影響で政府に取り壊されてしまったけど」
「ニコラ・テスラ?何処かで聞いたような名前だね?」
「あら、聞き覚えがあるの?私のお祖父様はエジソンよりも、優れた発明家よ!」

 余程、祖父を尊敬しているのかクレアは誇らしげに胸を張る。
 一方でアーサーは名前は知っていても、そのニコラ・テスラが何を発明した人かは知らなかったので曖昧に頷いた。

「クレアは凄いんだね。同い年なのに目標を持っていて、自分のおじいさんの事をしっかりと知ってるんだから」
「目標を持つことは誰にでも出来ることよ。貴方の曾お祖父様も偉大な発明家。本も色々と書いてあるから、これから知っていけば良いのよ」

 その後も話ながら歩いて行く。
 そして、アーサーの家が近づいてくると僅かに煤臭い匂いが鼻について来た。
  二人は顔を向けると目の前の家の奥から黒い煙が上がっていた。

「!?」

 アーサーは、その煙を見た途端、顔を青くして走り出した。

「アーサー!」

 アーサーの突然の行動にクレアは驚いたが、直ぐに後を追った。
 しかし二人の距離は開き、クレアはアーサーを見失いかけた。

「アーサー、待って!どうしたの!?」

 そして、ある家の角を曲がるとアーサーは立ち止まり呆然と立ち尽くした。

「・・・アーサー」
「そんな・・・嘘だ。父さん!嘘だ!」

 ゴウゴウと燃え盛る火が天を突く様に燃え広がった自分の家の前でアーサーは喉が枯れ果てるのではないかというまで叫んだ。

 








 
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